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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、久々のザイン

 ザインに飛んだレオは、『シュロの木』の扉を叩いた。

 店の中には老人が1人。彼の孫たちはいないようだ。助かった。


「ああ、あんたか。久しぶりだな。王都から戻ったのか?」


 カウンターの奥から出てきた魔工爺様は、レオを見て気さくに挨拶をする。

 それに応じるように軽く会釈だけして、レオも入り口から店の中に入った。


「あんたに用事があって一旦戻ってきただけだ」

「儂に? ふむ。よく分からんが、用事を聞く前にこれを見てくれ。あんたに頼まれてた探索・キャンプ用アイテムがだいぶ出来たんだ。置き場所が狭くて適わんから、出来た分だけ持って行ってくれ」


 そのまま店の奥に案内されて、小さな物置らしき部屋に入る。すると中には、レオが頼んでいたアイテムがぎっしりと詰まっていた。


「……結構な量になったな」

「見た目は特にな。だが転移ポーチの容量を食わないように、セットものにできるものはまとめてある。アイテム数的には思ったほどじゃないはずだ」

「ああ、このミニかまどと調理器具と食器諸々で食事セットの1アイテムになるのか。これは助かるな」

「他にもテントと寝袋とランタンのセットとか、スコップとツルハシと斧のセットとか色々組み合わせてある。転移ポーチは質量でなくアイテム数管理だからな。これなら容量を節約できるだろう」


 魔工爺様はどこか楽しげだ。やはり久しぶりのアイテム創作、それも孫と一緒にとなると、嬉しいのかもしれない。


「出来ている分は全て引き取っていく。代金はすぐに計算できるか?」

「あんたらにはかなりの出資金をもらっているんだ、そんなの気にせんでいいよ」

「そうはいかん。今後の依頼がしづらくなる。俺たちは良い物を対等に取引できればそれでいいんだ」

「あんたは律儀な男だなあ」


 結局レオは相応の対価をギルドカードで支払った。


「ところで、儂に用事というのは?」


 アイテムをポーチにしまい終えると、コーヒーを淹れてくれていた魔工爺様に椅子をすすめられ、レオは彼の向かいに座った。

 そして率直に話を切り出す。


「昔、あんたが盗まれたアイテム構成データや資料のことなんだが、その資料内容を覚えていないか」

「……いきなりだな。今さら何故?」


 レオの言葉に途端に魔工爺様の表情が曇った。

 当然いい思い出ではないのだろう。あまり話したくない様子が伝わってくる。

 しかしこちらにも退っ引きならない事情があるのだ。


「あんたの作った資料が余所で悪用されている可能性がある。その術式を解くのに大元のデータが知りたいんだ」

「余所で悪用……あんたはそれについて、どこまで知っている?」

「おそらくあんたが思うより結構深いところまで」


 レオがそう告げると、魔工爺様は一旦押し黙った。

 どうやら彼は盗まれた自身の資料がどこに回ったか、薄々知っているようだ。ならばと言葉を続ける。


「5年前に全て終わったと思っていただろうが、残念ながら奴らは再びあんたの術式を利用して悪事を働いている」

「……何となくそんな気はしていた。……また儂の資料を狙う泥棒が現れた時にな」


 明らかに特定の事柄を示唆するレオの科白に、魔工爺様は観念したように大きなため息を吐いた。


「……魔研が復活しているということか」

「そうだ」


 やはり彼は知っていた。

 だとするのなら、魔研で使われている術式の数々が魔工爺様の術式を流用したものなのは、もはや疑いようがない。


「資料を盗まれた直後に、儂の術式に酷似したものが他のアイテム付呪工房に持ち込まれたことを知った。その発注元が魔法生物研究所だった。……国の研究機関だ、憲兵に訴えたところで何の対処もしてもらえず、それどころか逆に脅しのようなことを言われたりもした。息子に跡目を譲って引退しろとも」

「……それでパーム工房を出てここに?」

「どうせあんたはもう知っているだろうが、資料を盗んで横流ししたのは儂の子どもたちだ。元々子ども2人とは経営についての意見が合わなかったし、親子といえどもこれ以上一緒にはいられなかったのだ。それに、娘の嫁ぎ先だったことでウチの騒動に巻き込んでしまったロジーの爺さんにも、合わせる顔がなかった」


 彼としては人様に迷惑を掛けたことが一番やりきれなかったようだ。パームとロジーは昔は良好な関係だったということなのだし、魔工爺様の心痛は察するに余りある。


「5年前の事件で魔研の施設が壊滅したと聞いた時、やっと過去のわだかまりから解放されたと思ったのだがな……」

「悲観することはない。5年遅れたが、ようやく今確実に奴らを潰す機会が訪れたということだ。今度こそ逃がさん」

「……もしやあんたが魔研を潰しに行くのか?」

「ああ。だからこそ術式を解く方法が知りたいんだ」


 レオの言葉に、彼はしばし逡巡した。


「……あいつらが使っているのは完全な儂のオリジナルとは違うからな……参考程度にしかならないが」

「解けないのなら、術式の死角や弱点でもいい」

「……ふむ、それくらいなら……魔研が使っている術式の概要は分かるか?」

「今分かっているのは建物への侵入者を感知する術式と、強力な魔物を一定のエリアに閉じ込める術式だ」

「それは、おそらく一定範囲内に魔物が入るとサイレンで知らせる術式と、魔物を捕まえる檻に掛けていた術式の派生だ。……魔物に家畜を襲われて困っていた牧場主の依頼で作ったものだな」


 人のために作った術式が、今は金儲けのために悪用されている。魔工爺様もやるせないだろう。


「術式の侵入者感知をすり抜けることは可能か?」

「あれは牧場の開けた場所を監視する術式だ。建物に遮蔽されてしまえば効果はない。配置されている魔道具の設置場所によるが、建物の凹凸の陰なんかは死角になるし、一度侵入してしまえば反応しないぞ」

「なるほど」


 それならネイたちに伝えればすぐにでもどうにかなりそうだ。


「魔物を閉じ込める術式の方はどうだ?」

「……新たな魔研がどこにあるか知らんが、閉じ込められた強力な魔物を解き放つつもりなのか?」

「いや、そういうわけではないが……」


 レオは少し言い淀む。

 正直、魔物を解放して闘技場の建物自体を破壊してもらう方が手っ取り早いと思っているのは確かだ。

 いっそこの話をしてもいいが、闘技場には彼の子どもたちが関わっていた。そこでまた息子と娘が魔研とズブズブの関係であることを伝えるのは、魔工爺様の罪悪感を煽ることになる。


 おまけに今後起こりうることを考えると、彼にはそれを伝えない方がいい気がした。


「魔物をそのままエリアに閉じ込めておくわけにもいかないだろう。討伐するためにも一旦術式をどうにかしないといけない」

「まあ、それもそうか……。しかしこっちは難しい。死角のようなものがないからな。一度エリアを作って組み上がってしまうと、がっちりと檻として固まってしまうんだ」

「防魔術式と封印術式も掛かっているんだよな?」

「そうだ。よく知っているな。エリアの内側からはどんな攻撃も魔法も漏れないようになっている。ただ檻として作ったものだから、儂の術式を流用していれば魔物の出し入れはできるはずだ」


 闘技場では当然魔物の入れ替えが起きる。だとすれば、その出し入れ機構は間違いなく生きている。


「檻は地中や壁に円柱型の魔道具を埋め込んで作る。しかし、出入りの場所の円柱だけは埋め込まれずに、着脱できるところにあるはずだ。それを起動するか解呪するか破壊すれば、檻の1カ所に口が開くだろう」

「起動か解呪か破壊……どれも難しいな。魔研の奴らが起動したところを狙ってそれを奪うか……」


 とりあえず、ネイたちに闘技場の中を探らせてから算段を立てるしかないか。レオは一旦考えるのを止めた。


「俺が今分かるのはそれだけだが、他にも盗まれた資料の中であいつらが使っていそうなものはあるか?」

「小さなものや薬品などを入れると結構あるな。どれと言われると難しいが。全部説明するわけにもいかんし、また問題がありそうなら訊きに来てくれ。……その、よろしく頼む」

「……ああ。任せろ」


 自身の心のつかえをレオに委ねるように、魔工爺様は深く頭を下げた。


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