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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、役に立ちたい

 魔法学校を出たレオは、そのままユウトを連れて王宮へ向かった。

 ネイがいないと毎日がお遣い状態だが、こればかりは仕方がない。今は情報を集めて回り、世界の状況を把握することが重要だ。


 正直なところ、弟が平穏無事なら他のことはどうでもいい兄だが、これはユウトの今後の生活にも大きく関わる。

 世界に生きる人々の未来のために戦う気は毛頭無く、ただ弟が幸せに生きられる世界のためにのみ尽力する、ぶれない兄だった。




「ユウト! いらっしゃい、よく来たね」


 ライネルの私室に入って部屋の主を待っていると、戻ってきた長兄は末弟を見るなり笑顔で抱きしめた。


「ライネル兄様、こんにちは」

「魔法学校の方はどうだい? マルセンは魔法に関する知識が豊富だから、いい勉強になるだろう」

「はい。教え方もとても分かりやすくて、だいぶ大きな魔法まで使えるようになりました」

「うん、いいことだ。ランクSSS冒険者としても頼りにしているよ」


 そう言いつつ頬を優しく撫でられて、ユウトはライネルの変わらぬ様子にほっとしたようだった。

 ライネルは元々ユウトが半魔であることを知っていたけれど、自分の正体を知ったばかりの本人としては、どこか引け目を感じてしまっていたのだろう。

 しかしそれが杞憂だと納得したようで、素直に微笑んだ。


 今回ユウトをここに連れて来たのはこのためだ。

 だからライネルがユウトを過剰に甘やかすのは、今日だけは大目に見よう。


「ルウドルト、今日の夕食もここで食べる。準備を頼む」

「了解しました」


 いつものように従っていたルウドルトにそう告げて、ライネルはユウトをソファに座らせ、自分も当然のようにその隣に陣取った。


「……おい。何当たり前のようにユウトを隣に置いてんだ」


 大目に見る、つもりだったのだが。やはり自分以外の人間がユウトにべたべたするのはイラッとくる。


「別にいいだろう、たまにしか会えないんだし。あ、何なら3人で並んで座るか? この間のベッドのリベンジで、私が真ん中で両手に弟やりたい」

「そのソファ、2人掛けだろうが」

「ぎゅうぎゅうに詰めれば大丈夫。ユウト小さいし」

「ユウトが潰れたらどうする」

「じゃあ、私の膝に乗せる」

「ふざけんな」


 ライネルはニヤニヤと楽しそうだ。レオがイライラしているのを分かってやっている。

 レオは小さく舌打ちをして、半ば無理矢理ユウトを自分の隣に取り戻した。そもそもここが弟の定位置なのだ。否やは言わせない。


 速攻でユウトを奪われたライネルは、やれやれと肩を竦めた。


「あーあ、アレオンはユウトに関しては心が狭いなあ。まあいいか、可愛い弟2人を正面で眺めながらの食事も、私にとっては嬉しいことだしね」

「可愛いとか言うな。きしょい」

「はは、照れるなよ」

「……この苦虫を噛み潰したような顔が照れてるように見えるのか」


 2人だけの時は滅多に軽口を叩かない長兄だが、ユウトがいると感情を表すレオが面白いのか、妙に絡んでくるのが面倒臭い。

 それに顰めっ面で適当に突っ込んで、レオは話を変えた。


「そういや昨晩、マルセンが大地の浄化をしてくれたそうだ。王都でしばらく降魔術式が使われることはなくなった」

「おお、そうか。やはり彼は頼りになるな。今度美味い酒でも送っておこう」

「……他の街はどうする。全ての街にマルセンを派遣するわけにもいかんだろう」

「そうだな……他の街に半魔がどのくらい居るのか、我々は把握していないからな。派遣するにもどこに送るべきか見当も付かん。それよりはまず、ジラックの闘技場を潰すのが先だと考えているが」

「だよな。俺もそう思う」


 ライネルの考えには、レオも同感だった。

 未だに魔研の奴らの目的は分からないが、今の活動の中心が闘技場だということは判明しているのだ。

 降魔術式を止めるなら、そこを叩いてしまうのが一番早い。


「そのためにはジラックと闘技場の情報が欲しいんだが……ネイたちから連絡は?」

「報告はちょくちょくあるんだが、どうも闘技場に侵入するのに難儀しているらしい。術式による監視センサーみたいなものがあって、侵入者は即座に感知されてしまうそうだ。人の目を誤魔化すことはできても、術式はそう簡単に誤魔化せないからな」

「監視センサーか……」


 確か魔研の施設にも付いていた。侵入者と、脱走者を感知するための術式を張り巡らせたセンサー。高度な術式の施された魔法道具だ。

 これももしかすると、魔工爺様のアイテム資料から作り出したものかもしれない。


「ジラックよりも、やはり一度ザインに戻って魔工翁に話を聞いてみるか。突破口が見つかるかもしれん」

「何か打開策に心当たりがあるのか? だったら頼む。できることは何でも試してみてくれ」

「ああ」


 転移魔石があれば大して時間は取られない。

 明日、ユウトを魔法学校に送り届けた後にでもザインに行ってこよう。


 その後ルウドルトが準備をしてくれた夕食を終えると、もっと弟たちを構いたい様子のライネルを残して、2人は地下を抜けて自宅へと戻った。






「術式の解き方?」

「陛下と兄さんが闘技場の結界とか術式とかに難儀してるんですけど、何か僕にもできることないかなと思って。術式を解いたり壊したりするような方法があったら知りたいんです」


 翌日、前夜の兄たちの会話に入ることもできなかったユウトは、密かにマルセンに相談した。

 別のアプローチで何か役に立つことはできないかと考えたのだ。


「魔法と違って術式は知識体系が全てだからなあ。使うだけなら暗記をすればどうにかなるが、解いたり壊したりとなると相当難しいぞ。少し間違えれば術式の誤作動を起こしたり、暴発を招いたりする」

「ええ……そうなんですか。じゃあ僕では無理かなあ……」


 ユウトは術式に関してはまるで素人だ。魔法は感覚で撃てるが、術式はヴァルドの召喚くらいしか使えない。いや、その召喚の術式だって一度も使ったことがない。おまけに詠唱すれば勝手に発動する術式だ。


「魔法は個人の魔力をこねくり回して発動するものだが、術式というものは世界のことわりを使用する。決まった文言や図形、数字、その配列を計算して組み上げるんだ。だからオリジナルの術式を作れる者ってのはすごい優秀な人間なんだよ。それを道具や装備に組み込める、魔工爺様なんかは天才の部類だ」


 ということは、ミワやタイチも相当な天才か。当然相応の努力があってこそだけれど、向き不向きもあるだろう。彼らはそれがはまったのだ。


「マルさんは術式を解くことはできるんですか?」

「元になる術式の資料があればどうにかな。魔工爺様でもそうだ」

「そっか……。資料がないと術式に精通した人でも難しいんですね」

「……あー、でも、ユウトが魔眼を持ってるならどうにかなるんだが……」

「魔眼?」


 マルセンの言葉に首を傾げる。


「悪魔系の魔族が持つ特殊能力だよ。結界や術式を読み解いて破壊することができる、ランクSS級の高度な能力だ」

「あ、絶対無理っぽい」

「だよな。ランク云々以前に、お前が悪魔系だとは思えないもんな……。ちょっとこのアイテムじっと見てみ? 術式見える?」

「……ただのアイテムにしか見えません」

「……うん、諦めようか」

「はい……」


 ……どうやら自分にその能力はないらしい。

 仕方がない、何か別の方法で役に立つことを考えよう。


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