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宿屋を継承する為に  作者: ばとめんばー
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第四話 お風呂が気持ちいいのは説明なんて要らないよね?

 風呂に入れとデギンさんは言った。

 言われた通りにしましたよ。

 

 冒険者ギルド構内の案内板表示は、かなりしっかりしている。ピットに行ったときもそうだったけど、案内板に従えば目的地にちゃんと辿り着けるようになっているんだ。


 おかげで、今俺は「はふぅー」なんていって浴槽に体をひたしてたりする。


 マチソワって町は、自慢じゃないけどお風呂って習慣には、それなりに歴史があるんだぜ。

 街道から外れ、集落に毛が生えたみたいな貧しい村だった時代のマチソワ、だけどウチの宿屋「おいしいワイバーン」はもうそこにあって、しかもお風呂まで設置してあった。


 お風呂が気持ちいいのは説明なんて要らないよね?


 つまりウチを通してお風呂の良さを知った村の人たちが、自分の家にもお風呂をこしらえたくなって頑張って、それでお風呂はどんどん広まっていったんだ。

 温泉もないのに持ち風呂がたくさんの家にあるって点で、マチソワは国内では一番なんじゃないかな。水と沸かすための燃料がいくらでもある、ド田舎だからできるっていうのもあると思うけど。


 そんな頃のウチの一家はまだ冒険者の仕事も請け負っていて、何かの仕事でたまたまやってきた冒険者達に、冒険者同士の誼として、宿泊とお風呂を提供するっていうスタイルだったんだ。

 だいたい民宿ってかんじ。


 おばあちゃんに聞いたことがあるんだ、ガキンチョならではの疑問をね。

「ねえ、なんでウチにはお風呂があるの?」って。

「それはね、おばあちゃんが作ったからよ。」だとさ。

 生き字引は実在するんです、はい。



 今日は最初から仕事に解体を選ぶつもりだったから、着替えは普通に用意してあった。

 けど問題はなあ、ベトベトでゴブリン臭くてゾンビ臭くなったコレですよ、ウチで解体してたときの服の汚れとは汚れの桁が違う。洗濯したからって袖を通せる自信が全然ない。

 しかし、冒険者たるもの、着ている服がこんな風になることっていくらでもあるんだろうし、やっぱり洗濯して着るものなのかなあ。


 ウチの宿に泊まりに来た冒険者さん達の服、預かって洗濯して翌朝お渡ししてたりするけど、ここまで汚いのを洗った覚えってないんだよなあ。

 あとで誰かに聞いてみよう。



 ギルド受付は、まだちょっと混雑していた。今は急がなくてもいいんだから、中の様子を邪魔にならないように眺めてみることにした。

 やっぱり、受注する時の冒険者の顔は真剣だな。依頼の内容についていろいろと質問して、確認をしている。


 眺めていて、面白いことに気がついた。

 長い列の受付の方は、どんどん人が進んでいってるのに、逆に人の少ない列の方が受付で時間がかかっているんだ。よく見ると、列の短い方に並んでいる冒険者の方が、質が良くて重装備の人が多い気がする。…そういうことか。


 比較的難易度の高い、つまり危険の多い討伐依頼を請ける冒険者が、短い列の方に並んでいるんだ。


 バーバラお姉さんは、長くもなく短くもない列を担当していた。

 この列には、本当にいろんな冒険者が並んでいる。短い列の方で並んでいる冒険者に負けない位にいい装備の人もいれば、まるっきり普段着の人もいる。並んでる間手に持った財布をずっと睨みつけている人や、片手に依頼書を持っているのに落ち着きなくしきりに掲示板を気にしている人、立ったまま寝てるんじゃないかって風に微動だにしない人…、変な人多目か?


 冒険者観察に少し飽きた俺は、掲示板の方に行ってみた。初仕事のこともあったし、ゴブリンの討伐依頼はどんな風なのか見てみたくなったんだ。常設依頼なのは知っていたけど、いくらもらえるのかとかは気にしたことがなかったからね。

 一体につき、1650モーンでした。安いなあ、解体一体の700モーンぽっちよりは高いけどさ。ウチの食堂で少しいい定食頼んだら、殆ど残らないなあ。

 ダンジョンの帰りにたまたま討伐したパーティーが、後始末をバーバラお姉さんに丸投げしたのもなんとなく分かるかな、Fランの言い草としては生意気なんだろうけど。


 でも、安いけど、今の俺が討伐できるのかっていうと別の問題なんだよな。

 

 ゾンビになったゴブリンは動きが鈍かったからなんとかなったんだ。生きて動き回るゴブリンに「ミンチ」を当てられる気なんて全然しない。

 「ボイル」なんて、もともとは容れ物に入ってる材料に使う魔法だ。

 ウチの仕事を手伝うために使ってきた魔法は、動かない対象をどうにかするのが目的の魔法ばかりなんだ。

 料理魔法は生活魔法の延長だっていうのを、たった一度のあの経験でもはっきりと実感するね。

 ゴブリンなんて、長めの棒で力一杯引っ叩けば素人でもやっつけられるってみんな言ってる。実際そうなんだろうとも思う。でも、長めの棒で力一杯引っ叩いたら、大概の生き物は死んじゃうよな?

 だから、きっとそういうことじゃないんだ。駄目だ、考えがうまくまとまらない。


 Fランク冒険者って「お試し期間」なんていわれるけど、外で自分はどう戦うのかを含めて、いろいろ考えなきゃいけないことを考えるためにあるんじゃないか、準備のためにあるんじゃないか、そんな風に思った。


 もういいか、そろそろ並ぼう。列の長い、でも流れのはやい列の後ろに付く。

 カウンターで受付のお姉さん…なのかな?もふもふでまん丸い顔に、体も丸っこくて性別がよく分からない人が受付けしている。うわぁ、見た目と違ってすごくテキパキしているなあ。

 あ、気の弱そうなお兄さん、気圧されたままあっという間に片付けられちゃった。

 次の人はええっ?違う列に行けって?指差してるよ。あれは列は短いけど依頼受注確認に時間のかかる列だ。


 声が聞こえた。

「急がば回れ。」

 命令口調だよ、迫力満点です。


 もたもたしてたら恥ずかしいことになりそうだ、気張らないとって思ってたら、もうすぐだよ!はやい、はやいって!

「おはようございます、Fランクのジュウゾウです。」同時にカードを提出。

「おはよう、依頼書は?」

「はいっ」

 依頼書を提出してから、ゴブリンの右耳と魔石を取り出す。…待ち構えているよ!

「ど、どうぞ。」

 依頼書と魔石を一瞥した性別不明の受付さんは、すっとお金をカウンター上のトレーにのせた。

「初仕事、お疲れ様でした。どうぞお確かめ下さい。」にこっとした!

「あ、ありがとうござ…」もうこっち見てなかった。


 そそくさと受け取った2100モーンを手に持ったまま、カウンターから離れた。

 さっき見かけた気弱そうなお兄さんと一緒だよ、ジュウゾウ情けねえ。


 用事は片付いた。片付けられちゃったっていった方がいいみたいな気もするけど、とにかく片付いた。さてと、これからどうしよう、そろそろウチの方も、客室の掃除と食堂の昼の仕込みにかかっている頃合いなんだけどな。


 冒険者になったら宿屋の手伝いはどうすればいいのか、何もいわれていないんだ。そんなときは、やるべきことは自分で見つけてやれっていうのが、ウチのモットーなわけで…。

 うーんさっきと同じで考えがまとまらないな、一旦外に出て気分を変えよう、そうしよう。


 冒険者ギルドの出口で、でっかい袋をかついだおばさんとすれちがった。荷物に隠れて顔は分からなかったけど、着ている服には見覚えがあった。多分、早朝に俺より先にギルドにいた猛者のおばさんだと思う。

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