第一話 早起きは3モーンの得!
記念すべき冒険者初日は、朝飯食って冒険者ギルドに直行するところから始まった、っていうか追い出された。
ウチに泊まっている、れっきとした冒険者さん達とペーペード新人の冒険者が同じ時間に受付するなんざ大間違いだ!ってことらしい。
邪魔にならない時間にさっさとギルドで用事を済ませろってさ。
昨日登録を済ませた俺の冒険者ランクはF、どこに出しても通用する最下層だ。
このランクで登録している冒険者は、この町マチソワでは結構多い。
俺みたいなド新人冒険者だけじゃなくて、専業主婦のおばちゃん達が身分証明用に取得してたりするからだ。
問題なのは、そのおばちゃん達が必ずしも書類上だけのペーパー冒険者ではないっていうこと。これは主にギルドの規約のせいなんだけど、Fランク冒険者の場合は、年に4回の受注達成のノルマがあるんだ。
問題はもう一つある、それはFランク冒険者の達成ノルマとは別の縛り、
Fランク冒険者が受注出来る仕事はマチソワの町の中の仕事に限定されるってこと。
受注競争があるのですよ、奥さん!
常設依頼はそこそこあるけど、どれも一日単発で先着○名って具合なのだ。
実は、早起きは3モーンの得ってのは本当の事だ、専業主婦の皆さんはどうしても朝の家事を済ませてからギルドに来るから、日の出前後の時間にはまあ、ギルドには来られない。
いや、受注してから一旦うちに帰って家事を済ませ、それから仕事に掛かるっていう猛者もいるっちゃいるんだけど、まあ少数派だよね。
薄暗い街の中をちょっと歩いてギルドに到着。ウチの宿は冒険者ギルドからはそんなに離れてはいないからすぐだ。
隣接している酒場で宵っ張りを決め込んでた冒険者も、飲み疲れてか静かなもんだな。
さあ、ここからだ。
この扉をくぐれば俺は冒険者だ。
気合を入れて中に入るけど、中もしんとしている。いるのは受付のおねえさんと、あらら、猛者な奥さんも一人いるわ。
掲示板の張り紙を見る。うん、常設依頼は十分にあるな。これなら狙った仕事は受注できるだろう。
俺が狙っていたのは、魔物の解体だ。宿屋の息子で、小さい頃から手伝わされていたから、解体とか料理とかはお手の物なんだぜ。
それにたった一つの装備品、やっぱり使いたいし。
今の俺は冒険者装備なんて大層なものは全然持っていない。着ているのは汚れてもいい古びた普段着でしかないし、靴もそう。
唯一それらしいのは一本のナイフだけだ。これだって元々は包丁だったんだけど、宿で使い込んで砥ぎに砥いだ挙句、小さくなってナイフって呼べるようになったって代物だ。でも、元が良い包丁だったから今でも厚みはそれなりにあるし切れ味は結構なもんだ。…もらったのは去年のことなんだけどな。
厳しいよ、冒険者なら欲しいものは自分で手に入れろ、だってさ。
代々そういうことだからって言われると、文句も言えやしない。
早速ギルドの受付のお姉さんに声を掛けることにする。
バーバラさん、俺が子供の頃から宿の食堂に時々来ていたお客さんだ。
ギルドへの就職おめでとうパーティーをご家族とやった時にも利用してもらった。
年齢は俺の五個上くらいじゃないかな、多分。
剥がした依頼書とギルドカードを出しながらカウンター越しに話す。
「バーバラおね…、バーバラさん、解体の仕事をお願いします!…だよね?」
「ジュウゾウくん、おはようございます。」
「ああそうだ!お、おはようございます。」
「ギルドカードと依頼書を確認しますね、登録は昨日、ランクはF、お名前はジュウゾウさん、お間違えないでしょうか?」
「はいっ。」
「依頼の内容ですが、常設依頼の解体作業をご希望とのことですがFランクですと最高3体まで受注できます。ご希望は何体でしょうか?」
「サンタイデオネガイシマシュ。」
やべ、噛んだ。顔見知りのバーバラお姉さんが相手でも、カウンター越しで慣れない会話をしてるとなんか段々緊張してきたんだ。
頑張れ、俺。昨日男になったんだろ!
でも、見透かされてました、さすが受付嬢、なのかな?
「まだ朝早いし時間は充分、慌てなくていいのよ?」
「はい…。」
「もう少し遅い時間なら色々な種類の魔物から、どれを解体するのか選べたと思うのだけれども、今だと3体ともゴブリンをお願いすることになるわね、いいかしら?」
「え?…噛み兎とかウルフとかは?」
「そういうのはもう少し遅い時間じゃないとね、さっきも言ったけど。」
「……。」
「六つ足ボアの解体待ちがちょっと前まで一体あったんだけど、女の人が一人、ジュウゾウくんより早くにいたでしょ?旦那の仕度が済んでからバラすって言って、持って行っちゃったのよ。」
猛者がいたー!