プロローグ
十親等以上離れてます。
プロローグ
その夜、俺は男になった。
…正確には、男にしてもらった、なんだけどな。
子供の頃からよくだっこはしてもらってたんだけれども、そういうのとは全然違った。
ありがとう、おばあちゃん。
俺はジュウゾウ、昨日晴れて十六歳になったので早速に冒険者登録をした、宿屋の息子だ。
ウチの一家には不文律がある。
この宿屋「おいしいワイバーン」は冒険者の為の宿屋だ。
だから冒険者っていうものを良く分かってなきゃならない。
こういっちゃなんだが、俺は自分ちが大好きだ。
子供の頃から、お客さんがウチの料理を食べて美味いって大騒ぎしていたり、
くたくたでぼろぼろで泊まりに来たお客さんが、元気になって朝に出立していく姿のカッコ良さが大好きだった。
悲しい場面にも遭遇はした。
今思えば、パーティーの仲間がダンジョンで死んでしまったんだろう。
そんなお客に、さりげなく、でも精一杯出来ることをしてやろうって頑張ってた両親達の仕事が本当にカッコ良かったんだ。
だから、俺は長男だからだけじゃなく、心からこの宿屋で働けるようになりたいと子供の頃から思ってた。
ウチの伝統については前々から知っていたさ。
継ぐんなら冒険者にならなきゃいけない、冒険者になったらお嫁さんを捕まえて帰って来なきゃ行けない。
両親もそういう夫婦だ。昔話に花が咲いたり血の雨が降ったり、ちょくちょくやってた。
爺ちゃんと婆ちゃんもそう、もう寿命で死んじゃったひい婆ちゃんとまだ生きてるひい爺ちゃんもそうだ。
そして、
おばあちゃんも元冒険者だった。
おばあちゃんはウチでは別格の存在だ。ウチだけじゃないか、この冒険者の町、マチソワでもそうなんだ。
なんせ宿屋を開いた初代の、その奥さんなんだ。
元凄腕冒険者のエルフなんだ。
今でもその…、凄い美人だ。
実は、この町で生まれ育った男衆の大半の少年時代の初恋の相手は、おばあちゃんなんだ。
で、俺はおばあちゃんに、初恋の人に昨日の夜、男にしてもらったわけなんだが…
その翌朝、おばあちゃんの部屋を出たら、ひい爺ちゃんと爺ちゃんと親父が待ち構えていたんだ。
そこで初めて、俺はひい爺ちゃんと爺ちゃんと親父と、兄弟になってしまったことを知った。
冒険者としての門出の、おばあちゃんからのご祝儀ってやつらしい。
ついでに何かを、冒険者としての能力に付与してくれているらしいんだ。
「ついでって何だよ!」
「若い孫が食べたかったって方が本音だから、ついで、なんだろうが。」と親父。
「おばあちゃんも一応エルフだからな、日頃は人間と比べると性欲はとんでもなく薄い。だからこそなんだが、エルフは自分がしたくなった時には遠慮はしないものだって俺はあん時、おばあちゃんに説明されたよ。」と爺ちゃん。
「まあそれでも実際にはあっさりしたもんだったわ。こってりはやっぱり嫁だわ。」と未だに淋しげなひい爺ちゃん。
うぜぇ!オヤジ三代のノロケに話題が移行しやがった、朝だぞ、素面でやるなよ!
俺の冒険者の門出はどうしたんだよ!
妹が朝食が出来たと声を掛けてくれたお陰で助かった。
けど、「ゆうべはおたのしみでしたね。」って誰だよ、子供に変な言葉吹き込んだのは!