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背中押されて救世主-虹の橋渡し-  作者: ダート
第一部 悪い巫女
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3. 板挟みの村

 シオンの興奮も収まった頃、シオンの言うところのギルドに着いた。村に建つ小屋より少し大きい意外に差異は無い。


「こんにちはー」


 シオンに続いて中に入ると、強面で髭を生やしたおっさんが俺たちを出迎えた。

 中は思ったより綺麗だ。カウンターのそばに掲示板、後は依頼の相談などをするためか、机と椅子が幾つか置かれている。

 ギルドなんて言うからもっと荒くれ者がひしめいているイメージだったが、小さな村だからか人もいない。俺が考えていたイメージとはかけ離れていた。


「シオンか、何の用だ?その隣のは?」

「今カケル様に村を案内してましてご挨拶にきました。カケル様、村長のエヴィンさんです」

「え」


 村長が運営してるのか。意外だ。

 いや、村人の依頼を管理するならむしろ適任なのか?

 少し驚いたが、村長ならとりあえずいい印象を植え付けなければいけない。


「初めまして、シオンの依頼により街から来た渡辺翔(わたなべかける)と申します」


 出来うる限りの敬語で頭を下げる。

 嘘は言って無い。俺の住んでたとこも街は街だ。

 村長のエヴィンは品定めするかのような目で俺を見た。


「エヴィンだ。ようこそトリス村へ。それで、目的はなんだい?」


 怪しまれている。当然だ。


「先程申し上げた通り、シオンの依頼の為です」

「向こうでどんな話されて丸め込まれたかは知らんがやめとけやめとけ。こいつは報酬になるような金額は持ってない」

「えへへ、無一文です」


 何に照れてんだこいつは。


「承知してます」

「……報酬無しでってことか?益々怪しいじゃねえか?」


 これ以上怪しまれないために言い訳を考える。

 曖昧かつ不自然じゃない言い訳を。


「私の本来の目的は湿地帯の調査です。最近ラミアの一族が移住してきたと聞き、依頼を受けた次第です。シオンは湿地帯に頻繁に行っているというので案内にも不足は無いかと思いまして」

「確かにあんなとこ近寄るのはシオンしかいねえな」

「ここで会うとは思いませんでしたが、村長さんにもお目通りしたいと思ってました。調査の間、こちらに滞在してもよろしいか許可を頂きたかったのです」

「そうなんですか?」


 何できょとん顔なんだこいつ。そりゃ許可要るだろ。

 慣れているのか、村長もシオンの言葉を無視している。ちょっと可哀想だが、話が進まないのでありがたい。


「……調査ってことは国の人かい?」

「いえ、滅相も無い。まだ個人的に調べてるだけでしてそんな立場にはいません。研究が認められれば自分で誰かを雇い調査することもできるのですが、自分の分野はどうにも認められにくいものでして困っています」


 我ながらよくもすらすらと嘘が出てくるものかと感心する。

 だが、俺が喋っているのは定番のシチュエーションだ。何かについて調べたい、これはどんな世界でも人間がいれば間違いなく抱く思いだ。好奇心が無ければ発展など有り得ない。

 そして、全てが嘘ではない。ラミアの事を調べたいというのは本音だ。

 異種族。何と甘美な響きか。ファンタジーを代表するワードでも俺の中では魔法と同じくらい魅力的である。


「貧乏学者さんってわけだ。なんだ、シオンが連れてきたからどんなやつかと思ったら結構まともじゃねえか」


 村長にまでこの言われよう……ちょっと気になってきた。


「シオンは村の人からもそんな事言われてましたね。何をしたんです?」


 俺が聞くと、村長は手招きを繰り返してこっちに来いというジェスチャーをする。

 シオンに聞かれたくない事でもあるのか、俺はジェスチャーの通りに近付いて耳を貸した。


「まぁ、ホラ吹きの上に他の奴等じゃやらねえことをするからな……薬草に関してが特に多い。最初の頃は自分の採ってきた薬草で実験しまくって家の中で吐くわ倒れるわ、奇声上げるわなんて日常茶飯事だ。お香だっていって採ってきた薬草燃やして自分の家を火事にしたり、御裾分けだの言って異臭のする薬を笑顔で配ったりとな……善意だろう。善意なんだろうよ。根は悪いやつじゃあねえ事はわかってる。だが、迷惑な善意ほどたちの悪いものはねえ」


 どうやらシオンの行動で困っているのは俺だけじゃないようだ。普段生活している村人に無自覚でテロ行為を行っているらしい。

 そんなやつが往来で身を悶えてたらそりゃ怯えるわ。

 当の本人は「カケル様と村長もう仲良しだー」なんて言いながらにこにこしているが。


「お前さんもあいつには気をつけろよ?あいつが何かする時は大体トラブルに巻き込まれる」

「忠告ありがとうございます」


 現在進行形です。


「さて、調査ねぇ」


 シオンの話題もそこそこに本題に入る。

 村長は腕組みをしながら天井を仰いだ。

 唸っているところを見ると何か考えているようだ。印象は悪くなさそうだったが、村長という立場からやはり村の損益を考えているのだろうか。

 待っていると、シオンは俺の服の裾をくいくいと引っ張る。見ると、考え事を邪魔しない配慮が一応あるのか、片手で内緒話をするようなジェスチャーを見せたので耳を近づけた。


「村長さん、体調悪いんですかねえ」

「……」


 無視しよう。

 シオンに呆れていると、結論を出したのかエヴィン村長はこちらに向けて歯を見せた。


「よし、滞在の許可もそうだが、俺からも少し報酬を出そう」

「ほ、本当ですか? それにしても何故?」


 まさかの提案だ。

 許可されるどころか報酬を別口で用意しようなんて予想もしていなかった。


「何もしてこないとはいえ何するかわからねえやつがいるってのは恐怖でな。この村には不安に思ってるやつもいる。それを調べてきてくれるってんなら村長の俺が礼をしないわけにはいくまい?」

「ありがとうございます!」


 願っても無い。シオンの報酬は実際当てにらないから確実な実入りがあるのは助かる。

 だが、一つ気になることがあった。


「しかし、シオンから財政難だと聞きましたが?」

「そうですよ、村長。お金あるんですか?」

「お前と一緒にするな無一文。ちょいと盗賊に目を付けられていてな、街に物売りにいくとこを狙われている。ここは街と繋がってはいるが、そこそこ離れてるから街の連中が気付くのは大分先になるだろう。今は皆に街へ売りに行くのはやめさせて備蓄と作物でやりくりしてる。しばらくは耐えられるんだが……」

「今度は村が襲われるかも、と」


 村長は険しい顔で頷く。

 村から街へ行く人間をカモにしていてそのカモが来なくなった、となれば盗賊が次にとる行動は予想つく。

 個々の腕っ節だけで比べるなら負けない人間はいるだろうが、女子供、戦えない老人などを守りながらとなると話は別だ。一気に制圧できる力が無ければ村のものを差し出すしか無い。

 今襲われていないのは、多分村の様子を調べられているからだろう。

 遅かれ早かれ人が来なくなれば街の人間に何かあったと気付かれるから長くここに居座る気も無いはず。襲われるのも時間の問題だ。

 湿地帯の調査に対して価値を感じているのは万が一の逃げ道としても考慮に入れているからかもしれない。

 ありがたいが、何故そんな状態で俺を受け入れるのだろうか?


「自分で言うのも何ですが、俺が盗賊の密偵だとまずいのでは?」

「そんな変な格好で来る間抜けいないだろ」


 俺の今の姿は白のワイシャツに灰色のスウェットだ。

 ……やっぱこの世界だと変なんだ。


「それにしても、よく無事でこれたな?」

「見ての通りお金になりそうなものはありませんし、村から出る人間はともかく入る人間は襲わないでしょう」

「そりゃそうだな」


 街から村に新しく人が来たとあれば、街に戻る時にカモにできるからな。


 調査の許可を貰ったはいいが、前門の盗賊に後門のラミアとは参ったな。

 前門は無理だ、盗賊団に勝てるような力は無いし、話が通じる人種だと思えない。有り金全部差し出しても街に行こうとすれば殺されるだろう。いずればれるとはいえわざわざ街に盗賊がいると知らせる事が出来る人間を通す理由が無い。


「それでは私達は許可も貰いましたし、この辺で。何かわかり次第お知らせします」

「おう、よろしくな」


 未知数のラミアを何とかできることを期待するしか無いか……。

 すでに八方塞がり気味な現状にため息をつきながら小屋を出ようとすると、何か思い出したかのように去り際のシオンに村長が声が掛けた。


「そうだ。シオン、金が無いからって村の備蓄に手出したら承知しねえからな。今は皆余裕ねえんだからな」

「そんなことしませんよ!」

「作物にも手出すなよ」

「……し、しませんよ?」


 二人は俺を挟んで顔を見合った。

 平静を装う表情の中に片や怒りを、片や怯えを抱いて。


「てめえ、まさか……」

「か、カケル様!私先に行ってますね!」

「お、おい!」


 お前が先に行ったら誰が俺を案内してくれるんだ……。

 ま、まぁ、すぐに追いかければ見えるだろう。俺はもう一個村長に聞きたいことがある。


「ったく、あいつは……!」

「そういえば、ラミアと盗賊団ってどっちが先に来たんですか?」

「ん?ああ、ラミアのが先に来たよ……つっても盗賊に追い回されてここに来たわけじゃないだろうよ。ラミアなんて狙っても金にならんからな」

「そうですか、ありがとうございます」


 異種族の人身売買説は無しか……定番だと思ったんだけどな。


「ん?」


 ギルドを出ると何か視線を感じる。

 また村人に見られてるだろうかと辺りを見渡すが、さっきのようにこちらを見ながら噂話をするような村人はいない。

 それどころか、さっきは偶然休憩時間だったのか、今は殆ど誰もいなかった。

 

「カケル様ー!」

「はいはい」


 唯一見つけたのは林の入り口で大きく手を振るシオンだけ。

 俺が出てくるのを待ってただろうし、あいつの視線だったのかもしれないな。

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