19. 冒険者ギルド
「ここが冒険者ギルドです」
ギャラリーの囲まれたロココとサンドラを回収し、ローアンの案内で俺達は冒険者ギルドに着いた。
隣の区画といっても十字の大通りに面している建物で、ほとんど真っ直ぐだったのでさほど距離は無い。こちらの区画は余り露天も無く、酒場や鍛冶屋や修理屋のような店などが多かった。鍛冶屋は一口に鍛冶屋といっても武器や防具によって違いが出るらしく、店によって違う分野の武器や防具を専門としたものだという。
区画が変わり、構えられた店が変わったことでさっきいた区画とはまた違う空気を醸し出している。
「思ったより……」
「少ないっすね」
入ってまず最初の感想はロココと同じだ。
ギルドといえば冒険者達が依頼達成の祝いの席を設けたり、情報交換やらで賑わっているのが定番だと思っていた。
外から見ても周りの建物より一回り大きく中も広いが、広いせいもあって人の少なさが際立つ。受付らしき場所を除けば数人しかいない。
「いつもこんな感じなのか?」
「いえ、確かにラノトリスはかなりの兵が常駐しているのもあって近辺の討伐依頼は殆どありません。依頼を求めてここに来ることはあれど、留まる人は少ないですが……それにしても少し静かすぎますね。普段は依頼の貼ってあるボードを見たり、あちらで商隊の警護を終えた者がそこの席で飲んでいたりするのですが」
そう言ってローアンが目を向けたのは受付横にある複数の依頼書らしきものが貼り付けられた大きな板と、入り口から左に広がるスペースにテーブルと椅子達だ。酒場が併設されているようで、奥に見える酒場のカウンターでは暇そうにしている受付と同じ服の女性がいる。
ギルドにいる冒険者は依頼書の傍に三人、酒場に二人だけと随分少ない。
「うお、ラミア」
「初めて見たな……」
酒場のテーブル席に座っていた冒険者達がこちらに気付き、物珍しそうにロココを眺め始めた。
街でもそうだが、これから行く先々でこのような反応をされると思うと、少し不憫に思う。
わかってはいたことだが、未知の存在というのはいるだけで目を引くのだ。
「美人だな、俺いける」
「俺もいける」
……この国本当に亜人との交流無いのか?女性として見るのが早すぎじゃないか?
いや、思えばトマスも比較的短い時間でミリーと恋仲になっていたようだし……トリスっていう亜人とハーフの人を崇めているおかげか、民族性として違う姿に対する抵抗感のようなものが余り無いのかもしれない。
「カケル殿、こちらです」
「あ、ああ……ありがとう」
冒険者の声に困惑しながらも俺はローアンの促され、受付に近付いた。
「こんにちは。ラミアの方がいらっしゃるのは初めてですね。兵士さんも付き添いで……冒険者登録を希望でしょうか?」
「こんにちはっす」
近付くと、受付のお姉さんが挨拶をしてくれる。流石にロココには驚いているようだ。
ボードに貼り付けられた依頼書を見ていた三人も近付くうちにロココに気付くやいなや視線はボードからロココに移っていた。
「どうも。いえ、最近どんな依頼があるのか見せて頂こうと思いまして……随分少ないようですが、何が?」
「それが、ポートレで飼育されていたガザトカゲが脱走しまして……一応モンスターですし、討伐ならともかく捕獲となると早くしなければいけませんし、そうなると人数が必要なので今日いた方々にはほとんどそちらに行ってもらっています」
「それは大変ですね……」
ガザトカゲってさっき食べたやつか。こっちの世界はモンスターも食用で飼育したりするのか……いつか見てみたいな。
露天にあった肉であの大きさだから逃げ出したやつも相当大きいんだろうな。
「人が足りないようであれば、我々にも声を掛けてください」
「はい、その時はお願いします。依頼書は貼ってあるもので全部ですので、自由にご覧下さい」
「ありがとうございます」
依頼書のほうを見ると全て絵が書いてあり、その下に対象の名前と報酬だけ書いてあるという簡易的な形式だった。
絵と報酬の額で危険度を判断できるので、案外わかりやすい。
やはりというか元いた世界でも有名な怪物の名前もある。グリフォンやクラーケンの討伐にこちらでは希少扱いなのか捕獲にされているユニコーンの依頼。
名前と絵を見ても何かわからないやつも当然いる……このなめくじみたいな絵のトドンパレットってどんなんだろう。
何にせよ、こういうのがモンスターだという実感が予想以上に掴める。見に来てよかった。
「お姉さん。この火の化け物って何ですか?」
シオンが指差した一枚の依頼書に俺も目を向ける。
確かに聞きたくなる気持ちもわかる。絵も他と違って球体だけ書かれていて、名前も火の化け物と大分抽象的だ。報酬も他に比べれば低い。
こんな曖昧な依頼を受けるやついるのか?
「私達も気になってたんだ、ありゃなんだい?」
さっきまでボードを見ていた三人の冒険者グループの中の一人が聞いてくる。よく見れば女性だ。
冒険者の間でも珍しいらしい。
「ああ、それもポートレからの依頼なんですけど、よくわからないんですよ……ポートレからさらに南の山で見かけたというんですが、詳細がわからないのでとりあえず聞いた情報を書き上げたという感じで……情報求む!って状態なんです」
「そんな曖昧ならやっぱりやめとこうかね。今日はリトルゲーターの討伐にでもしとこう。あんたらいくよ」
「うっす」
「はーい」
リーダーらしきお姉さんがボードから依頼書を一枚とってその後を追うように残りの二人も一緒に扉のほうに歩いていく。
そりゃこんな曖昧な依頼よりも情報がはっきりしている依頼をとるよな。
「あなた方はどうされますか? 冒険者登録すれば今からでも受けられますが?」
「ロココ殿もできるのですか?」
サンドラが受付のお姉さんに聞き返すと、お姉さんは頷いた。
「だそうですが?」
「せっかくですけど、私は遠慮しとくっす。ラミアでも出来るって聞けただけで嬉しかったすよ」
「確かにロココ殿には帰る場所もありますし、登録しても依頼を受けそうにありませんね」
ギルドはどうやら来る者拒まずって感じらしい。
隣に耳かくして街に来てたハーフエルフもいるし、もしかしたら他に隠れて冒険者やってる亜人がいるかもしれないな。
「カケル様、魔法を覚えたいんじゃなかったでしたっけ?」
その隣のハーフエルフシオンに言われて目的を思い出す。
そうだ、俺がここに来る理由は依頼のチェックと魔法やスキルを取得できるかの確認だ。
「ああ、そうそう。ここで魔法とかスキルって覚えられるんですかね?」
「はい、できますよ」
おお!ついに!ようやく俺も足手まといから一歩前進だ。
この肩にあるよくわかんないのよりも冒険者が使う確実なもの。自衛手段を持ってるだけでも大分違うはずだ。
「じゃあお願いします。どんなものがあるんですかね」
「それでは、この魔道具で魔力のチェックをどうぞ。魔力に応じて私達が書物を選んでまいります」
そう言ってお姉さんが出したのは金色の台座に乗った水晶だ。
察するにこれを基準におすすめのスキルや魔法の載った本を選んできてくれるのだろう。つまり、強い魔力を持つ人には強力なものを、弱い魔力にはそれに応じた弱いものをだ。
以前、俺はシオンに雑魚モンスターに魔力が劣ると言われている。触らなくてもお姉さんが弱いものを持ってくる姿が目に浮かぶようである。
「じゃあお願いします」
「はい、ではこちらに手を」
それでも何も使えないよりはましだ。皆を補助できるようなもの、自衛できる手段、どちらかがあればそれだけでも違うはず。
受付の女性の誘導通り、俺は魔道具の水晶に触れた。
「すぐにわかりますからそのままお願いします………。………あれ? ……まさか……え!?」
触って少しすると、受付の女性は驚愕を表情に出す。
最初は何に驚いているのかわからなかったが、触れている水晶の奥底に、少し輝く光が俺にも見えた。
「すごい……! すごいです……! こんな魔力見たことありません!」
驚嘆を隠せない女性の声に、奥にいる他の職員らしき人達と酒場に座っていた冒険者達、そしてシオン達も合わせてこのギルドのいる人々の視線が俺の触れる魔道具に集まった。
才能が開花するとき、又は発見される時というのは突然だ。元いた世界にいてはわからない才能が眠ってることもある。
ついに俺にもその時が訪れた。それだけの事だ。
俺の魔力を雑魚モンスターに劣ると言っていたシオンは恐らく俺の奥底に眠む真の魔力を感じ取れなかったんだろう。
考えてみれば俺はこの世界にとっては異世界の人間。何に目覚めてもおかしくは無いのである……!
「低い……! 低すぎます! こんなに魔力が低い方は初めてです! こんなちっちゃい光初めて見ました!」
どうやらおかしかったようである。
そうだよね、急に凄い魔力があるだなんて不自然だものね。
だが、低いと断言してもなお女性のテンションは下がらない。
「この魔力の低さはもはや才能ですよ! 冒険者だなんてとんでもない! 魔法薬の被験者になることをオススメします! これだけ魔力が低いなら魔力抵抗なんて無いも同然! どんな些細で微量な効力の魔法薬でも効果を発揮します! 魔法薬を研究する魔術師の方々に引っ張りだこですよ!」
テンションが俺と反比例するかのようにお姉さんのテンションが上がっている。
何だろう……ある意味才能があった事には違いないのだろうか。
今まで無縁の言葉だから初めてわかったが、才能ってのは求めたものや興味があるものの才能があった時に嬉しいんだな。
証拠に今全然嬉しくない。褒めちぎっているはずのお姉さんの言葉もテンション高くけなしているようにしか聞こえない
「お名前は!?」
「渡辺翔です……」
「ギルドからの紹介状を書きますから少しお待ちください!」
「え? あ、ちょっと……」
俺が静止する前にお姉さんは奥に行ってしまった。
横から覗いていたロココが俺の肩を叩く。その表情には哀れみがはっきりと表れていた。
「元気出すっす……」
「す、すごいですねカケル様……低いのは知ってましたが……」
俺の魔力をそこらの雑魚モンスターと変わらないと言ってのけたシオンですら驚いている。
まさかここまで低いとは、と顔が語ってる、ちょっと引いてるもんこいつ。
「め、珍しいですね……こんな方がいらしゃるとは……しかし、あの受付の方の言う通り被験者としてこの上無いのは事実のようです」
「その通りです。我々のように魔力が平均より高くては一定の効果を持つ魔法薬しか受け付けることはできません。貴重な才能です」
ローアンとサンドラの励ましが今は逆に心にくる。
何にせよ、俺が魔術師となり冒険者としてバリバリ活躍する未来が無いということだけは確定したようだ。
「お待たせしました!」
そして俺は弱い魔法やスキルの本すら渡される事無く、ギルドの紹介状をお姉さんから手渡された。
目に浮かぶような光景すら、俺には贅沢な想像だったようである。




