11. 焼けた場所
――かくして、盗賊を追い払って村とのきっかけを作ろう作戦は成功した。
エヴィン村長を始め、村人達も急に姿を見せたラミア達に最初驚いていたが、湿地帯を封鎖していたラミアに対して意外と村人が友好的だった。
いくら盗賊を追い払ったからといって、あまりにもすんなり受け入れられた事を不思議に思ったが。
「ここんはトリス様生誕の地だよ? 種族の差なんて瑣末なことさ。それにどんな人達なのか気になってたからね」
聞けば、この地に生まれたトリス様がそもそも純粋な人間じゃないらしい。
首都のラノトリスでは伝わっていないが、トリス村ではエルフと人間のハーフとして生まれたと言い伝えられていて、言い伝えを知る大人達にとって亜人は違う村の人間くらいの認識らしい。
何でトマスとシオンがこれを知らないんだとは思ったが、この村はトリス教を拠り所にしてるわけでもなく、若い者は特にそれが顕著で興味の無い二人は教会には行かないという。
何か、妙なとこで世代の移り変わりを垣間見た気がした。
いずれにせよ、これならいずれミリーとトマスの関係も告げられる日が来るかもしれない。
「あと正直困ってなかったし………シオンなら遠ざけられても仕方ないかな、とも思ってたし……」
俺が話を聞いた村人は目を逸らしながら、最後にそう付け足した。
湿地帯に用があったのがシオンだけだったせいか村長以外の村人達は大して気にしていなかったのと、シオンに問題があると思われてたらしい。
……こっちの理由のほうが大きそうだ。
まさか問題児扱いされていたせいでラミアに対しての疑念が消えていたとは。
夜が明けてすぐにミリーとエヴィン村長はギルドで話し合うことになる。
盗賊の事を知った経緯、村の被害の確認などをした後にテエルテラ一族が村との交流を望んでいる事を進言した。予定通りどちらにも所属していない第三者として俺はその場に立ち会った。
困らされていた盗賊を追い払ったミリー達をエヴィン村長は受け入れ、ここにトリス村とテエルテラ一族は結ばれる。
今回の出来事は自分よりも先にラミアと接触して友好関係を密かに築いていたトマスあってのものだと説明し、トマスもトリス村とテエルテラ一族を繋いだ者として一躍ヒーローに。そしてこれから村長の下テエルテラ一族と村の交流を手助けする架け橋を任せられることになる。
これで違和感なくミリーとトマスは会えることになるだろう。元々トマスがテエルテラ一族と交流を持っていたから出来た事だ。報われてよかった。
交流するといってもトリス村にテエルテラ一族が住むとか、湿地帯まで村を広げる、みたいな変化はまだ起こらない。
互いに隣人として徐々に受け入れていく。それだけだ。
受け入れて、互いに歩み寄り続ければそういう未来もあるかもしれない。
俺達の役目を終了だ。第三者として話し合いに参加し、拗れた時にミリー達を援護する役割を担おうと思っていたが、その必要も無かった。
めでたしめでたしだ。少なくとも、この村の問題は。
「まじか……」
「……」
「ま、まさかここがシオンの家だったなんて……」
そして役目を終えた俺達は今、土と炭の塊の前にいる。
「ま、まぁ、元気出せよ……」
手足を地面に着いてわかりやすいくらいに落ち込んでいるシオンに俺はこんな言葉しか掛けられなかった。
流石に不憫だ。
ギルドに泊まり、帰ってきたら家が消し炭とは思わなかった。確かに被害の話になった時、家が一軒魔法で焼かれたって言ってたけどそれがまさかシオンの家だとは。
「私が守るべきだったわ、ごめん……」
「いや、ミリーは悪くない。盗賊の仕業なんだから」
テエルテラ一族は今村を案内されている。
シオンに誘われてミリーはシオンの家に出向くことになったが、まさか燃やされるところを見た家がシオンの家だとは夢にも思わなかっただろう。
こっちに来る途中、何か気まずそうにしていたのはこのせいか。
「元気って……どっから出ていたんでしょうか……」
「いつもは口からうざいくらい溢れてるのになあ」
うざいという言葉に反応したのか、訴えるようにシオンの顔がぐりんと俺のほうを向いた。
「慰めてくださいよおぉ!!」
「悪かった悪かった、つい」
「慰めて!労わって!そして優しくしてください!ここに可哀想な子がいるんですよ!」
「結構余裕だな……五秒も経たずに調子乗りやがって」
それでこそという気はするが。
「せめて優しさだけでも下さいいぃ!!」
「悪いな、品切れだ。俺のほうも余裕が無い」
入荷時期は未定です。俺だって泣きたいのだ。
正直シオンの家という拠点があることに安心していた。シオンから報酬を貰ってここをしばらく拠点として生活しよう計画が台無しだ。
問題を解決したはずなのに状況が悪化している……。
「私が言えたことじゃないけど、元気出して?……私が守るべきだったんだから私を責めてくれていいわ」
「ミリーは悪くありませんよぉ……」
「そうだ、今度私達の作る果実酒をご馳走するわ。家とは釣り合わないけど、せめてものお侘びとして受け取ってくれる?」
「本当ですか!?」
「ああ、口に合うかはわからないけど……」
「わーい!」
ミリーは俺の代わりにシオンに優しさを与えている。
あいつら仲良くなったなあ。
「無一文どころか全てを失った感あるな……」
村長に言われていた報酬も盗賊と湿地帯のどちらの問題も解決してしまったから貰えると思えない。トリス村とテエルテラ一族にとっていい結果にはなったと思うが、俺達には世知辛い。
現実から目を逸らすように何か無いか、燃え跡を探す。
土がかけられてるとこを見ると誰か消化しようとしたやつはいたみたいだな。かけ方は雑だが……。
「カケルもすごめんなさい……一応消火するよう言ったんだけど手遅れで……」
お前んとこのやつかよ。
ま、まぁ、様子を見る限り手遅れだったみたいだしな……仕方ない。
お、鍋とかは残ってる。盾になるかもしれん。探してみるもんだ。
「私もあるのは杖だけです……」
「あれ、杖なんて持ってたか?」
「パニュパルさんから今回の件のお礼だと貰いました。そこそこいい魔道具らしいですよ!」
俺そのお礼とやらを貰ってないんですけど……。
いや、礼が欲しくてやったわけじゃないからいいけどさ……。
振り向くと、シオンは自慢げにローブの下から手のひらほどの長さしかない太目の棒を取り出した。先に宝石のようなものが付いているからギリギリ杖っぽく見える。
「私と戦った魔術師が置いていったんだ。魔法を使うシオンに相応しいかと思って」
「へぇ……小さいな」
「ふふふ、見ててください」
シオンは得意気に杖を握る手に力を入れる。すると生きているかのように杖は伸び、地面からシオンの胸元くらいの大きさまでになった。
「おお!」
「魔力を込めると簡単に伸びるんですよ!いいでしょう!?カケル様の活躍によって手にする事の出来たこの杖はワタナベと名付けましょう!」
指示棒みてえ!こういうの便利だな。
名前は恥ずかしいからやめろ。
「杖使えるとかようやく巫女っぽいとこ見せたな」
「ようやく!?貰った杖でようやくなんですか!?」
本当の事言うなら巫女というより魔女って感じだが。
「何にせよ元気が出たようでよかった」
「カケル様……私を心配して……」
「元気が出たなら手伝ってくれ。俺は鍋を見つけたぞ」
「カケル様ぁ……」
「あんたってやつは……」
二人とも何か言いたいことがありそうだったが、何だかんだ手伝い始めた。
「カケル様!水筒が無事です!」
「いいぞ!でかした!」
家の惨状に落ち込み、俺を落胆した目で見ていたシオンは元気そうに自分の成果である水筒を掲げている。
俺とシオンは途中から宝探しゲームを楽しむように燃え跡から使えそうなものを見つけていた。
無一文から家無しというジョブチェンジを経てテンションがおかしくなったのかもしれない。
「二人とも元気ねー……」
ミリーは残骸を横に片付けてくれている。
尻尾で器用に燃え残った木材を除けてくれている。
「無理矢理テンション上げないと現実に押しつぶされそうなんだ」
「そ、そう……」
「ミリー達は家どころか住んでる土地を追われてここに来たんだろ。それなら家を失った俺達の気持もわかるはずだ」
「あの……カケル様の家ではないのですが・・・…」
ミリー達がどうやってここに辿りついたかを考えれば家が無くなった事だけなのかもしれない。
けど、俺達にとっては辛いんだ。
経緯は違えど同じ家を失った者同士、少しくらいはわかってくれるはず――。
「いや、私達は元々定住する一族じゃないから家あるわよ。人間のテントみたいなやつ」
「なんだよ!じゃあ俺達の気持ちなんてわかるもんか!!」
「何なのよあんたは!?わかってほしいのかわからないでほしいのかどっちよ!?」
まさか元々居住を移動する種族だったとは……。あれか。遊牧民みたいなやつか。
呆れるミリーを他所に俺は残骸漁りに戻る。
「シオン地下室に何かしまってるとかないのか?」
「そんなかっこいいのありませんよー」
かっこいいのは同意だが、こっちの価値観でもかっこいいのか。
俺の見つけた鍋も悪くないが、実用性を考えればシオンの見つけた水筒がトップだ。水筒を越える何かを――。
「改めて、カケル。感謝させてくれ」
急に背中に真面目なトーンの声が届いた。口調も族長モードで畏まっている。
拗ねるのも忘れてミリーのほうを振り向く。
俺を驚かせようとしたのかとも思ったが、そんな様子は無い。振り向いた俺に真剣な眼差しを向けている。
「な、何だよ急に。それに俺は何もしてない。トマスやミリー達が手に入れた関係だ」
本心だ。俺は提案しただけで何もしていない。
ミリー達が人間を受け入れたのはトマスがミリー達を救ったおかげ。盗賊を追い払えたのはミリー達のおかげだ。
何だかんだ、俺は村とラミアの関係に関して特に何もやっていない。
それでも、ミリーは首を横に振った。
「お前がいなければ、こうなることも無かっただろう」
「いや、だから……」
「私達は一歩前に進めなかった」
俺の反論を遮るように、ミリーは喋り続ける。
「見えないものに縛られていた。確かにお前は我々を治療してくれたわけではない、盗賊を追い払ったわけでもない。それでもお前が来てくれたことで我々では踏み出せなかった最も難しい一歩を踏み出せたのだ。お前がいなければ我々テエルテラ一族とトリスの村が手をとることは無かっただろう……私はお前との出会いを心から感謝する」
ミリはー俺に向かって手を伸ばす。それが握手を求められているということはすぐにわかった。
――誰かにこんな風に感謝されるなんていつぶりだろうか
照れくささでシオンを見ると嬉しそうに笑顔を浮かべ、どうぞと言わんばかりに手を向けていた。
「いやー。はは、キャラじゃないな……」
照れ隠しにそんな事を口にしながら俺はミリーに歩み寄る。
そして差し出された手をとった。
「ありがとう、カケル」
「いや、こちらこそ……?」
瞬間、異変に気付く。
「あづ…! な、なんだ……!?」
急に肩が熱を帯びる。
魔法かと一瞬疑ったが、ミリーがそんな事をする理由が無い。それに目の前のミリーも何事かとうろたえている。
原因がわからず慌てて手を離すが、それでも肩の熱は引かなかった。
「か、カケル様……? カケル様!」
「ど、どうした! わ、私何もしてないわよ!?」
うろたえるシオンとミリーを他所にワイシャツを脱いで肩を見ると。
「な、なん……だこれ……!」
そこには、花弁のような刻印が浮かび上がっていた。




