新たな世界
アステル・シュヴァリエは目を覚ました。
薄っすらと開けた目には大樹に生い茂る緑の葉っぱ達とその隙間から僅かに溢れる日の光が見えた。
背中や手足からは、芝生の柔らかい少しチクチクした感触が伝わってくる。
アステルは本当に久しぶりにいつまでもこのまま寝転がっていたいという衝動に駆られたが、無意識の内に感じとった魔獣の気配に名残惜しくもすぐに立ち上がった。
魔獣がいるということはここは天国では無いのか。
ここは一体どこだ?あの忌々しい次元竜に飲み込まれたあとの記憶はないが、助かったのだろうか?
しかも次元竜と戦ったのはこんな森の中ではなかったはずだ。次元竜の腹の中?それだけは考えたくなかった。
今わかることは次元竜に飲み込まれたが、どうしてかまだ生きているということだけだ。
考え事をしているうちにだいぶ魔獣の反応が近づいて来ていた。まだ目視では見えないがこの気配はおそらく狼の類だろう。
アステルはスッと気配を消して木の裏に身を隠して魔獣を観察する。
ゆっくりと四足歩行するその魔獣はやはり狼だった。
緑色の毛が目立つその狼はかなり大型で高さは長身のアステルの肩ほどまである。
巨大な狼は、先ほどまでアステルが立っていたところで立ち止まると地面に鼻を近づけてクンクンと匂いを嗅いだ。
アステルはヒラリと姿を現わすと、剣を収納から取り出すと挑発するように剣を振りながら一歩一歩距離を縮めた。
予備動作もなく突然飛びかかってきた狼は空中でピタリと止まると、次の瞬間にはアステルの剣によって一刀両断された。
驚くとこにあれだけの戦闘の後だというのに体調は悪くない。もしかしたらかなり長い間眠っていたのだろうか。