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女騎士は男の娘  作者: 池田 真奈
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第3話 強くなりたい!

舞台に上がる僕を獲物を狩る獣のような雰囲気を漂わせながら見下ろしている一人の女騎士。

鬼百合の騎士マリアナ・オーガスタ。

でも白百合の騎士と言う正式に王国から与えられる称号とは違い、鬼百合の騎士と言う呼び名は大変な実務を任される副団長に贈られる名誉的な称号だと僕は後で知る事になる。

彼女を例えるならクールビューティって感じかな。

腰まで届くサラサラの金髪を風になびかせてスラッと背も高くて氷のような青い瞳が更に冷たい印象を感じさせる。

僕が今まで出会った事の無いような美女が僕に剣を向けていた。

そんな彼女が僕との戦いを前にして兜を被らないのは余裕の表れだと思う。


「さぁ、上がって来るがいい。 アリサが認めた君の実力を、この私が試してやろう!」


舞台の上に立つ彼女が身に纏う百合騎士団が正式採用しているミスリル製の白銀の鎧が光り輝いていた。

アリサさんと言うのはミオと戦った女騎士なんだと思う。

ちょっとした助言をしただけなのに僕を買い被り過ぎだよ。


「マオ、貴女の実力を見せて頂戴!」


「私が選んだ親友なのですから華麗なる勝利を期待していますわ」


ミオとアリエルが各々に勝手な事を口にしているけど…… 僕にはどう考えても無理だもん。

僕が得意とするのは相手を良く見る事だもん。

小さい頃から良く虐められていたせいか、状況判断だけは人一倍長けているだけなのに。

だから状況を把握出来たとしても、それを打開する力が僕には無い。


「では両者、前へ…… 勝負始め!」


普通ならミオさんみたいに開始そうそう突っ込んで相手のペースを乱してやりたい所だろうけど鬼百合の騎士なんて呼ばれる人には小手先の技なんて通用する訳が無い。

そんなのは既に読まれていてカウンターで待ち受けているに違いないと思う。


「ほぅ、先程の子とは違うのだな。 まぁ、闇雲に突っ込んで来ても返り討ちにしていただけだが面白い。 余程の自信があると見える」


それって全っ然、見えてないよ! ただ動けないだけだもん。

でも…… 僕はどうすればいい? 相手との実力差は歴然としている状況で勝つ見込みは皆無に等しい。

いくつかシュミレーションしてみたけど何をやっても通用しそうにない。

あんな強そうな女の人に僕の剣が届く訳が無いじゃないか!

待てよ…… 女の人なんだよね…… 鬼百合の騎士とか呼ばれてる強者なんだから、もしかしたら僕にも勝機があるかも。


「ええ、僕には貴女に勝てないまでも一矢報いる事は出来る自信がある。 でも貴女のような美しい女性に傷を負わせるなんて…… 考えただけでも恐れ多い事だから」


多分、女性として見られる事に慣れていないんじゃないかな。

普段から女性しかいない世界で暮らしているんだもん。


「なっ、何を馬鹿な事を! この私が美しいだと? 馬鹿も休み休み言え…… ううっ……」


やっぱり僕の予想通りみたい。

さっきまでの自信に満ち溢れた表情は消え失せて恥ずかしそうに顔を赤くさせていた。

僕に向けて違う違うと手を振っている。


「僕には貴女が白百合の騎士のように思えてしまうんです。 でも悲しいけど勝負は勝負…… 行きます!」


仕掛けるのは今しか無いと思う。

僕は剣を構えると走り出す。


「私が白百合とか…… そんな…… えっ、ええっ!」


ポカッとマリアナ副団長の頭を捉える僕の剣。

剣の平たい部分で軽く叩いただけだから怪我はさせてないと思う。


「一本! 勝者、カタリナ村のマオ!」


騎士らしからぬ卑怯な手だけど、お許し下さい…… 聖女ウルスラ様。

頭を叩かれたマリアナ副団長は何が起きたのか全く把握出来ていないみたいでペタリと床に座り込んで目を白黒させている。


「マリアナ副団長、お怪我はありませんか?」


心配になった僕は彼女に歩み寄ると声を掛ける。


「え、ええ…… 私ったら一体何を……」


普段感じた事が無かったらしい心の動揺を未だに隠せない様子でポーッとした表情で僕を見上げていた。


「良かった…… 貴女のような美しい方に怪我なんてさせたら僕は悔やんでも悔やみきれない所でしたから」


もしも顔にでも傷を負わせたりしたら取り返しが付かなかった筈だもん。

勝つために焦っていたとは言え、女性の頭を叩くなんて僕は騎士を目指す者として反省しなくちゃいけないと思う。

彼女に手を伸ばすと恥ずかしそうに僕の手を掴んでくれる。

そのまま引き上げて立たせようとしたんだけど非力な僕には先程のミオみたいに格好良くは出来ず、逆にバランスを崩してマリアナ副団長の胸に飛び込んじゃう始末。


「きゃっ! マ、マオ。 大丈夫か?」


今…… きゃっ! って声が聞こえた気がするんだけど…… マリアナ副団長は鬼百合の騎士って恐れられている筈なのに。


「マオが勝ったのは嬉しいんだけど…… このモヤモヤする気持ちは一体なんなのかしら?」


「そうですわね…… 何か素直に喜べないのはどうしてかしら?」


ミオとアリエルが不思議そうな表情を浮かべながら舞台に立つ僕を見上げていた。

こんな勝ち方じゃ納得出来る筈が無いよね。

ごめんね、二人共。


「まぁ、宜しいですわ! 次はこの私、アリエル・ヴァレンタインの出番ですの。 超絶なる実力を見せて差し上げても宜しくってよ」


次は自分の番だとばかりに舞台に上がろうとするアリエルだったけど何やら様子がおかしい。


「アリエル・ヴァレンタインの実力は戦わずとも歴然としている故、合格とする!」


多分…… 何かしらの圧力が上層部からかかっているんだと思う。

アリエルは公爵令嬢だもん。

怪我なんてさせたら、どうなるか分からないと判断したんじゃないかな。


「おーほっほっほ! 私の実力を良く理解しています事。 宜しくってよ!」


アリエルはご機嫌みたいだけど…… 僕の心は暗い海の底に沈んでいるかのようだった。

ミオと一緒に百合騎士団に入るためとは言え、騎士道精神に反した行いをしちゃったんだもん。

僕は強くなりたい!



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