第二話 「命の重さ」
ふう、なんとか昨日に続き、第二話を書くことが出来ました(嬉しい)。
予想よりも多くの方に見ていただけて、すごく嬉しいです。
それでは、どうぞ!
※今回は軽いグロ注意です。
意識が段々と浮かび上がってくる。まるで、水の中に沈んだ体が、浮力によって少しずつ水面へと近づいていく感覚に似ている。抵抗する必要はなく、ただ流れに身を任せればいいのだと。なぜだか感覚的に分かっていた。
水面へと近づいていくにつれ、徐々に意識がはっきりとしてくるのを確認してから目を開けた。最初は視界がぼやけていたが、少しずつピントが合うよう周りにある世界の輪郭がはっきりとした存在として認識できるようになった。
周りを見渡して最初に感じたのは、世界が暗いということ。頭上を見上げれば、木々の隙間から辺りを照らしている大きな満月。記憶にあるよりも少し大きなそれは、闇夜に包まれた世界を認識できる程度には明るさを維持してくれていた。
周りにあるのは、でこぼことした地面とそれを覆い隠そうとするように伸びる草木、そして頭上で天を覆い隠すかのように四方に伸びる鬱蒼とした木々。……どうやらここは山の中らしい。
もう少しマシな所に転生させてくれても良かったのではないか。思わず文句も出ようというものだ。断片的にではあるが、先の出来事や前世での人生について記憶があるということが不幸中の幸いだった。そのおかげで、今の唐突な状況においても焦らずにいられるのだから。……まあ、色々分からなずぎて、感情が追いつかないともいえたが。
まず、こういうときはどうすれば良いのだったか。……右も左もわからぬ我が身だ。まずは自身の状態を確認するところから始めよう。そう思い立ち、自身の持ち物から確認を始めたのだった。
調べた結果分かったのは、持ち物が小さなポケットに入っていた銀色の金属で出来た薄い円状の欠片が三枚に革の鞘が付いたナイフが一つ。それから、折りたたまれた紙が一枚。……それだけだった。
(銀色の欠片は何か分からないし、ナイフは刃が黒いだけで特に目ぼしい箇所はなしっと。……あとは紙か)
先の二つが期待はずれだったため、ため息を吐きながら折りたたまれた紙を広げた。
するとどうだろうか。何も書かれていなかったどこにでもありそうな紙が、突然青く発光したかと思うと、連々と青く僅かに光る文字が浮かび上がったのだ。しかも全く知らない言語で書かれているのに、なぜだか頭の中に意味が響くことによって理解も出来ている。
想定外の事態だったが、まるで待ち望んでいたプレゼントをもらった子どものように、視線が紙に釘付けになった。内心戸惑いもあったが、本能が今は集中しろと告げている。
紙に書かれていたであろう内容は以下の通り。
やあやあ転生者君、先程ぶり。君がこれを読んでいるということは、私はもうこの世にいないだろう。
なーんて。ふふ、まあ冗談はさておき、伝え忘れたことがあったのでメモを贈らせてもらいました。申し訳ありません。
まず一つ目。先に一つ贈り物をさせていただきましたが、それだけではこちらの受け取るお釣りが多すぎると上司から叱られまして。ですので、貴方に二つほど細やかながらプレゼントをお贈りしたいと思います。
ダラララララダン! おめでとうございます。なんと抽選の結果、「個有特性の強化」と「絡まる運命の赤い糸」が当たりました!
おお! もってますね~。さすが出来る男は違いますね~~~。……え? 景品の説明ですか? 残念ながらそれは別料金となっております。残高が足りませんので、死後のご来店をお待ちしておりますね♪
次に二つ目ですが……、ああ、文字数制限があるのでちゃっちゃといきますね。前世と今回の世界では、まるで常識も理もぜんぜん違うんですよ。なので、気をつけてくださいねという警告です。早い話が……。
ぬるいことやってると、おっ死にますよってことです。
お伝えすることは以上です。せいぜい悔いのない人生のあらんことを♪
はあーーーっと汗とともに長い溜息がこぼれ出る。色々とアレだ。正直意味が分からない。なにやら不穏なことも何度か言っていたし。
湧き上がる頭痛を抑えながら思考を巡らせる。
おそらく、わざとなのだろうな。具体的な詳細を話さなかったのは。どういう意図なのかは分からないが、果たして応援してくれてるのか妨害されてるのか。
改めて短い溜息が出た、その時。突然、女性の悲鳴が暗い闇に包まれた森に木霊した。
悲鳴が聞えた方向を見ると、遠くに動く影がかすかに見えた。動きからして追われているようだった。
短い逡巡の後、意を決して影を見た方へと走り出したのだった。
山の中なので道などなく、葉に隠された細い枝が頬を切り、草で覆われ見えない木の根にたまらず転びそうになる。四苦八苦しながら、這々の体でようやくしっかり視認できる位置まで追いつくことが出来た。今立っているのは、緩やかに盛り上がった小さな丘の上。坂道を降った先に、その光景はあった。
そこで目に飛び込んできたのは、大きな大樹を背にして、複数の狼に追い詰められている若い娘の姿だった。随分追い回されたのだろう。膝丈まであるスカートは大きく切り裂かれ、白い肌は切り傷などから出た血や土で汚れている。表情は目の前に迫った死に恐怖したように歪み、だがその眼は目の前の光景を凝視するように大きく見開かれている。
(まずいな。彼女にはもう逃げ場がない。狼に飛びかかられたその時が、彼女の最期になるだろう)
迷っている暇はない。足に力を込めて一気に駆け出す。木の根に足を取られるかもしれないが、そんな悠長なことはいっていられない。これは賭けだ。見つめる先で震える少女を助けられる確信もなければ、無事自身が生き残る戦略もない。装備はナイフが一振り。……絶望すぎて泣けてくる。
だが、可能性はある。確かにまだ、少女を救い自身も助かる可能性は、僅かだが残っていえるのだ。ならば、何を迷うことがある。前を見ろ。自身の未来から目を逸らすな。生きるということはいつだってそうだったじゃないか。
走っていく足音を聞きつけたのか、近くにいた方の狼がこちらに頭を向ける。
(やばい、気付かれた!)
足を止めナイフで迎撃しようと、腰に下げたそれの柄に手をかけたその時。奥の方にいた狼が、少女に向かって飛びかかり始めたのが暗いながら見えた。
それは一瞬の出来事だった。考えるより先に、少女を助けなければという思いが身体を動かしていた。鞘から黒光りするナイフを抜き放つと、力の限り少女を襲う狼に向かって投げつけた。ヒュンという風を切る音が森に響く。そして、緊張していたためか、妙にスローモーションようにゆっくりと動く世界の中、自身が放ったナイフは月の光を反射した軌跡を残しながら、飛びかかっている狼の眉間へと吸い込まれていく。グシャリという嫌な音がして、狼が額から血を飛び散らせながら崩れゆす様を確認したことで、緊張していた心に安堵が生まれた。
良かった。少なくとも一時ではあるが、迫りくる死が少女から遠ざかったのだ。
けれども、そんな安堵など長くは続かない。見つめる視界の暗さが増す。まるで何かに上空から差す月の光が遮られたように、自身に影が落ち暗くなる。
ぞわりと身体が震え、本能がガンガンと警鐘を鳴らした。震えが止まらない。原因を求めるように上に視線を迷わせた先に見えたのは、自身に迫りくる狼のぱっくり開いた大きな口の中だった。
(え……?)
何も心に浮かばなかった。目の前に迫った絶対的な死に、思考すら浮かべる余裕がなかった。もはや何をしても間に合わない。狼がもうその開いた口を閉じるだけで、白く光る残酷な牙が我が生命を刈り取るだろう。
最期の瞬間に頭を過ぎったのは、先ほど読んだグランディアからのメッセージだった。
「ぬるいことやってると、おっ死にますよ」
ふざけた言い方にあの時は頭が痛くなったが、今思えば彼女なりの、新たな人生を始める者に対してのメッセージだったのだろう。緩めすぎず、緊張させすぎずに、という彼女なりの心配りが、なぜか今になって分かったような気がした。
視界の中でゆっくりと、狼の牙が自身の首へと迫っている。この無駄なく迫ってくる鋭さは、容易に血管を噛みちぎって確実に殺すのだろう。
そんな死まであと少しと迫った状況で、心の中にふと異物を感じた。絶対的な終わりへと流されている中で、唯一抗おうともがく奥底の燻った炎。姿も認識できないほど小さかったそれは、今この瞬間に大きく燃え上がり、静かに冷え切った心を猛烈な勢いで焦がし始める。
それは一言でいえば、生への執着だった。死にたくない。もっと生きたいという魂の叫びだった。もう現実の世界ではあと数秒の命となってなお、諦めることなく揺らぐことなく燃え続ける命の灯火。
ウゴケ、うごけ、動け!!! 心が生きたいと叫び続ける。心を焦がす叫びに突き動かされるように、もうすぐそこに迫って来ている死を見つめながらも、決して目を逸らすことなく最後の可能性にすべてを賭ける。
(少しでもいい。急所さえ外れてくれれば、先へは繋がる!)
少しずつ、ゆっくりとだが確実に首が横にずれる。あと少し、あと少しなんだ!
だがなにぶん決断が遅すぎた。前世も含め戦闘経験などない素人同然で仕方ないこととはいえ、判断力の遅さが足枷となった緩慢な動きが仇となり、死がもう触れられるほど近くに迫っていた。
だが、諦めない。新たに掴んだ生を容易く離してなるものか!
そんな懸命に心の中で、絶叫にも近い思いを爆発させている様子を静かに眺める影が一つ。
「ははは、健気なものよのう。人間らしいその傲慢さ。余は嫌いではないぞ?」
心の中に見知らぬ妖艶な声が響く。
だが、そのことに疑問を持つ間もなく、現実で爆風が巻き起こったことで思考の中断を余儀なくされた。
強烈な風圧がその場にいた者達を襲う。狼に飛びかかられて不安定な体勢であった我が身もまた、暴力的な力で吹き飛ばされた。見えている世界が何度も反転する。幾度も地面に打ちつけられながら、吹き飛ばされた先にあった木の幹に身体を叩きつけられた。ドガンという嫌な音を響かせて、ようやく身体は自由を取り戻した。……もっとも、これほど激しくぶつけられて、すぐに動けるはずもなかったが。
揺れる視線を、なんとか状況を把握しようと動かした先に、その姿はあった。
明るく腰まで緩やかなウェーブを描きながら伸ばされた青い髪、恐ろしいほどに整った美しい顔、透き通るように白い肌に豪奢なドレスを身に纏って、その人は立っていた。月明かりに照らされて幻想的に佇む彼女は、もはやこの世の者ではないといわれた方が納得できると思った。
髪よりも深い青色のドレスを着た彼女は、まっすぐにこちらを見据えている。まるで場が先程まで殺意に溢れていたとは思えないほど優雅で、たとえこれから舞踏会に行くのだと言われても、疑うこともなく信じてしまうだろう。
彼女は静まり返った世界で、どこか観察するような視線を向けていたが、やがて何かに納得したように微笑むと、その艶やかな薄紅色の唇を開いた。
「余はそなたに呼び出された。その礼として命を貰い受けることとしよう」
魅惑されかけていた美女からの突然の殺害予告に、思わず絶句してしまったのだった。
いやあ、展開早いですね。……主に命の危機的な意味で。
果たして主人公は生き延びられるのか。娘さんを助けることが出来るのか。
謎の美女の正体とは!
次回、謎が謎呼ぶ第三話、ご期待下さい♪




