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014 力は斧にあり 義はオイドゥオンにあり

(うさぎさん、何かあったの? ちっとも念話に出ないんだけど)



シモクレンが受信したその念話は<エイスオ>の小手鞠からのものだった。彼女は<大災害>時に<カルファーニャ>家に属した元【工房ハナノナ】の一員だ。


「マリちゃん!そっちは無事なん? にゃあちゃん? それが今大変なことになっとんのんよ」


シモクレンは、<常蛾>の影響で桜童子が昏睡していることや、たった今<常蛾>の発生源を叩き終え、これから後処理をしなければならないことなどを簡潔に伝えた。


(莫迦なの? この一大事に暢気にお昼寝? って訳知り顔のうさぎさんに言っといて)

「別にお昼寝してるわけやあらへんって」


(弁護しなくっていいわよ。寝てるのは本当なんだから。じゃあ伝えてもしょうがないけど報告だけはしとくわ。<オイドゥオン>家の人たちが四十八人規模の兵力を連れて北上中よ。先程<エイスオ>を通過したわ)


「それって―――。ねえマリちゃん、<カルファーニャ>家は止めなかったの?」


(止めたわよ。いえ、表向き止めたってことにしてる。依斧の巫女が言うのよ。『力は斧にあり。義はオイドゥオンにあり。己が義はわが斧のみが果たす』だってさ。うちは実害ないからねえ。ホントは姫様派とか、反<冒険者>の人とかはついていきたいところなんだろうけど、今回は静観。じゃあ伝えたわよ)


「待って、マリちゃん。お風呂のカビとりみたいな名前の敵っている?」

(知るわけないじゃないの。莫迦なの?)


「あざみがね、こっちのボスを倒したら最期に呟いたのを聞いたらしいんよ。『風呂カビが何とか』って。どう考えても有り得へんから、新しい敵の名前じゃないかって思ったんよ」

(聞いたこともないわ)


「でも、あるんやろ? <典災>のことを書いた本が」

小手鞠のため息が聞こえる。


(魔書フォスティスオルトロスのこと聞いたのね。おしゃべりうさぎさんから。いいわ、気が済むまで私を検索エンジン扱いすればいいわ)


「そ、そんなつもりはないんよ。マ、マリちゃんだったらわかるかもしれへんて」

(莫迦ね。冗談よ。調べたら教えるわ)

「ありがとな、マリちゃん」


(それよりも、ちゃんと覚悟しときなさいよね。<ナインテイル>は戦場と化すのだから。あ、そうだ、牛―――、いえ、なんでもないわ)



■◇■


時間も惜しいので、桜童子は三階に出ると破壊された壁面まで飛び上がり、それから身軽く飛び降りた。

「おい、おおい、置いてくな! 戦争の始まり、一緒に拝まなばい」


桜童子は、緑の木々の中を南に向けて走り出す。

不意に電撃攻撃が向かってくる。

危ういところで躱し四つん這いの体勢で索敵する。


「ひどい容姿じゃの。あやかしうさぎ」

塔の方から白牛に乗った幼童が現れた。桜童子の元従者<火雷天神>である。大方すれ違いになりそうだったから、乱暴に引き止めようとしたのだろう。


「<火雷天神>!? ドウシテここに」

「下僕が困っておるのだ。主人が見殺しにするわけにもいくまい」

「ソレはどうも」


桜童子が言うと幼童は愉しそうに笑った。

「佳い佳い。礼などいらぬ。ワシに忠節をつくせばよいのじゃ。さて、そこの鬼はなんじゃ。新しい従者か?」

追いついたシュテンドを指さして<火雷天神>は聞いた。角兜のせいでたしかに鬼っぽい。


「ちょっと待て、話が見えんばい。やっと追いついたち思うたら、誰ね。そもそもにしゃウサギ耳の使い魔じゃなかったとかい」


シュテンドは狼狽えて、桜童子に聞いた。


「オイラは<幻獣憑依>でこの身体に入ってるダケだ。中身は桜童子本人さ。そして、こちらのぷちまろが<火雷天神宮>の長、<火雷天神>殿だ。オイラの従者だ」

「誰がそこもとの従者だ。履き違えるでない」

幼童はもちもちなほっぺたをぷくりとふくらませて言った。


「ぷちまろの方はツッコまんとですかい。いやいやいや、まずこの子どもが<火雷天神>ってのがおかしかろうもん。あのボスはバリ強かヤツで、オレも何度殺されたことか知れ、あ!」

「ほうほう、そこもとも無駄に命を散らす愚か者の仲間か」


シュテンドは桜童子を指差して言った。

「噂を聞いたことがあるぞ! 一人生き残ってボスの前までたどり着くと特殊な報酬が出ることがあっと。まさか、ウサギ耳。<願掛け>の生き残りなんか」

「マア、そういうことになるね」


「しんじられんったい。ウサギ耳のくせしてとんでもない化け物やったとかい。あすこを完全制覇したもんなぁ大きかギルドんじょうで、まさかあんたが功績(レコード)もちたあ思わんかったばい」


幼童は肩をすくめて言った。

「バカも休み休み言うが佳い。ヤマト最大の怨霊と呼ばれたこのワシが、かようなあやかしうさぎに敗れるはずもない。たまたま話し相手に選んでやっただけのこと」

「タダの話し相手だろうと、この危機に駆けつけてくれたなら、純粋に感謝の意を述べますよ」


「だからバカも休み休み言えと言っておろう。誰がそこもとのような下等生物に会いに来ようものか。そもそもワシの庭にやってきて挨拶も無しとは愚か者め。ホレ、ぶるぶるとかプラプラとかいう蒼い塊があろうが。あれを出せば礼儀知らずも水に流してやろうぞ」


「コノ身体でようやく来ているというのに、持って来られるわけがないでしょう。<蒼球(ブループラネット)>なんて。あるのはコノ欠片だけですよ」

胸に挟んだ守り袋を見せる。


「このたわけ。役立たず。外面筋肉娘のあやかしうさぎめが。それではあの濃厚な魔力を味わえぬではないか。味わえぬならば力になれ―――、お、おい、飛梅、どこへ行く」


幼童を乗せた白牛はくるりと振り返り、緑の中を駆け出した。


「オイラたちも行こう。時間が惜しい」



■◇■



<ナカス>は元より他都市に比べてプレイ人口が少ない。

<plant hwyaden>が統治宣言してからはさらに人口が激減した。<常蛾>の攻撃が起きてからは、またさらに多くの<大地人>が<ビッグブリッジ>を越え北へ逃れた。


そんな<ナカス>を現在任されているのが<預言の使い手>クオンだった。

彼は特殊な能力をもつが、その能力のために常に睡魔に襲われる。だから<ナカス権帥(ごんのそち)>という曖昧な閑職に留めおかれたのだろう。

<ナカス閉門>は彼の発案だった。


「サーバーメンテナンスにつき、しばらくログインできません。でいいんじゃない?」


幹部たちで即座に理解したのは<冒険者>だけであったが、まもなく「問題が解決するまで関係者以外の立ち入りを禁ずるという保守点検のこと」と<大地人>幹部に説明がなされた。

そして、それが元になって各地への通達文が作られた。


エフライム=ラオコーンは一介の傭兵であるので、そのような上の意図はまるで分からないが、<ナカス閉門>を好ましくは思わなかった。


<猫妖精族>急襲部隊たちの泥酔姿に辟易していた。

警備兵のうち眠りに就かなかった者は、<猫妖精族>急襲部隊に配属された。二日の間ほとんど寝ていないのは<冒険者>の化け物じみた体力のなせる技だが、酔っ払って地面で寝るのもまた<冒険者>の体力のなせる技だ。


ラオコーンの大切な人も、そうやって地面で眠っていた。酒のせいではなく、<常蛾>のせいだ。

それ以来ラオコーンも不眠不休で警備と看病にあたっている。<大地人>であるから体力的には非常にきつい。


金銭で雇われただけのラオコーンだが、それでも<ナカス>を守る使命感があった。

所詮警備兵は<冒険者>、よそ者だ。ラオコーンはそう思った。


<猫妖精族>急襲部隊は、攻略に成功したので、今夜の警備を免除されている。だからといって問題が解決もしていないのに飲んだくれて地面で寝るとは呆れてものが言えない。


上の者にしてもそうだ。問題を解決するための閉門というが、解決するつもりが本当にあるのかすら疑わしく思えてくる。

だから、ラオコーンは<ナカス閉門>を苦々しく感じていた。


ラオコーンは、南門の真上で<妖術師>の魔法が花火のように輝くのを見て駆けつけた。

「なんだ。何が起きている」

「<オイドゥオン>が攻めて来ているらしいのです」

南門担当の部下は慌てた口調で答える。

「規模は?」

「五十人程度」

「追加で偵察を出せ。装備、戦力の把握。チミカド殿と、シャドーマン殿は?」


ラオコーンは<冒険者>傭兵である二人の名を聞いた。彼らは<召喚術師>で式神使いである。普段は、<ナカス>への侵入者を見分けるスポッターの役割をしている。


「シャドーマン殿がそこに」

狩衣のような装備の術師がラオコーンを見つけて近付いてきた。

「出番かい」

「この街を攻めるにはあまりに寡兵。何か要求があるのではないかと思われる。式神で彼らの要求を聞いてもらえぬか」

「かしこまった」


ラオコーンは報告に戻る。

何か違和感がある。これまで反乱の気配すらみせなかった南端の<オイドゥオン>家がわざわざやって来て、たった五十人程度という点が気にかかるのだ。

攻める気はなく、単に抗議の意図か。それとも和睦か。いや、玉砕覚悟なのか。


ラオコーンは腰の剣を見る。正々堂々と戦わない相手には癒えない傷を残すという呪いの剣。その真意を問うためにこの剣を振るいたい思いであった。


■◇■



「あたや義を通しん来たどん、門あくる気なかどんが、こいは民見捨てる気ぃやっが!」


 トゥトゥリは美しい顔立ちの割りにきつい訛りある声で叫んでいる。即時に翻訳された形で脳に届くので、かなり遠くの建物の陰に潜んでいる桜童子たちにも内容がわかる。分からなくても憤慨しているのは十分伝わる。


 義憤の意を示しているのだ。


「ナァ、<火雷天神>。雷バリバリ落として蹴散らしたら解決する話じゃねえっすか? そろそろ<オウーラ>も叩き終わるし、夜の間に討ち洩らしの<常蛾>が襲うくらいで、明日には開門されるでしょ」

 桜童子はヒソヒソと<火雷天神>に話しかける。


「たわけ、そこもとが<蒼球(ぶるぶる)>を持って来ぬから力も出ぬわ」


 廃墟に身を潜めてふせている白牛と幼童と筋肉女の横に鬼がもどってきた。


「いやあ、うさぎ耳の、言う通りっちゃん。とんでもない、量のが潜んで、おりましたばい」

「そこもとが息を切らせてどうする。使い魔がおるであろう」

「そこの、階段、のぼるだけで、ふー、運動不足だな」

 シュテンドは背後の階段を振り返って言う。


「ひと月拘禁されればそんなこともあるもんかのう。あやかしうさぎも用心しておれ」

「オイラはぬいぐるみの方もこの身体も特別不都合なく動かせるけどなー」

 桜童子は<火雷天神>に指摘されたが、さして気にする様子もなく掌をグーパーさせた。


「面妖なやつよ。で、何が潜んでおったのだ」

 シュテンドに<火雷天神>が尋ねる。

「牛がおったとですよ。それも大量の、五百頭はおったとですばい」

 

「牛じゃと。ホレ、飛梅、そなたなんとかせい」

 <火雷天神>がそう言ったが、白牛は完全に知らんぷりする。<火雷天神>はグーパンチするも、角であしらわれて簡単に転がされる。


「シュテンドさん。ヒョットしてその牛の角には何か結ばれてなかったかい」

 桜童子は何か閃いたように呟いた。


「ええ、どうじゃったとかな。ああ、ああ! ほうじゃほうじゃ、あったですばい! なんか、木んようなわら束のような」

「あやかしうさぎ! 火牛か!」


「エエ、火牛の計ですね」

「な、なんね、カギューのケーて」

 シュテンドは眉を顰めて聞いた。


「シュテンドさん、括りつけられていたのは松明だ。牛の尾や角に火をともして興奮させる。スルと怒り狂った牛は力尽きるまで突撃を繰り返す。火牛とはいわば古代のミサイルといったところです。イカに<衛兵>がいるといっても、五百頭の火牛を同時に放たれれば、対応は難しいでしょう。寡兵と侮って開門すれば最後、<ナカス>の街は火牛によって蹂躙されるんだ。ソウなれば<ナカス>は<オイドゥオン>家によって陥落する」


 桜童子は早口だが丁寧に説明した。

 シュテンドは手を叩いて喜んだ。

「それは願ってもなかこつ! 早く門を開けんかね。そうすりゃ夢の<ナカス>陥落だ」

「戦争を始メレば、多くの血が流れるぞ」


 桜童子の呟きを、シュテンドは鼻で笑い飛ばす。

「はっ、革命に流血はつきものじゃろうもん」


「想像スルんだ、シュテンドさん。<オイドゥオン>家の攻撃力は九大商家の中でも群を抜いているといってもいい。ダガ、守勢になればどうだ。陥落後は<ウェストランデ>は大量の兵を送り込んでくる。<都市間転移門>と<カンモンビッグブリッジ>、外と中の挟撃だ。退却戦は必至になる。革命どころじゃない。戦火は飛び火して大戦争になる」


「そ、それなら逆に<ウェストランデ>に攻め込むチャンスばい。九商家が協力して<ウェストランデ>を滅ぼせばいい」


「戦争で傷ツクのがいつも力なき民だとしてもか!」

 桜童子が大声で怒鳴ったので、シュテンドばかりか<火雷天神>まで目を丸くした。



「ただの感傷的な理由ダケで戦争をしてはいけないと言っているわけじゃない。おいらタチが小競り合いをしてたとえ命を散らしても、すぐさま復活できる。ダガ、<大地人>はどうなる。考えたことはあるかい、シュテンドさん。コノ世界にも質量保存の法則がある。ソレはおいらたちの生死やレベルアップについても言える。弱い敵は何度死んでもまたリスポーンされる。ダガ、強大な敵はどうだ。そう何度も蘇らない」

「キリがないけのう」

「強い敵は<冒険者>に経験値を渡して消滅スルと考えればどうだ。エネミーの命も還元される大きな輪の中にアルと考えられるだろう。じゃあ<大地人>の命は死んだらどうなる」


「あまねく大地に還るであろうのう」

 <火雷天神>が言った。


「じゃ、じゃあ、よかったじゃねえか。それなら」

「その命は、イヤ、<魂>と言い変えよう。おいらタチはこんな伝説を知っているだろう。数百年前<アルヴ大戦>の折り、失われた魂を使って<亜人間>を生み出した魔法があったと」

「<森羅変転>っつったっけ。オープニングで流れる、でもあれは<エルダーテイル>の中の話ばい」


「残念ながらココはきちんと異世界なんだ。おいらたちが<大地人>を守りきれなければ、彼らの魂は一度大地に還元され、<亜人間>となって蘇る。今でも<六傾姫>の魔法は生きているんだよ」


「<六傾姫>!?」

 シュテンドは面食らう。今は<ナカス陥落>の話をしていたはずだ。それがいつの間にかとてつもなく壮大な話になっていた。この鼻の高い女の体に入った兎耳男の話が本当だとすると、<大地人>はとんでもない地獄の淵に立っているようなもんじゃないか。戦争を起こすということは、彼らの背をどんと突くようなものだ。


「あの娘たちは、とんでもない災いを残していったもんだのう。それならわしが<大地人>を喰らえばいいな。わしは強くなるし、余計な<亜人間>を増やすこともない」

「オナカコワシマスヨー」


「ちょっ、ちょっと待て。俺らがいくら魔物を狩っても<大地人>がおっ死んだら、この世界は魔物だらけになるったい」

「ソウなるね」

「人間に勝ち目がなかじゃなかとね!」


「おいらはソウさせないための<六傾姫の雫ルークィンジェ・ドロップス>だと思ってるよ」


 桜童子は身を起こし、胸元から守り袋を取り出して眺めた。


「あやかしうさぎ、やっぱりそれで佳いから少し吸わせよ」

「やっぱりおいらは正攻法しかないんじゃないかと思うんですよね。<ナカス陥落>を防ぐには」

「おい、しまうな。おい」


「サア、行きましょうか」

 <火雷天神>とシュテンドの襟首を掴む。

「いや、俺は逃亡中―――、ぐぉっ」


 桜童子は二人を抱えて睨み合いの中心へと飛び出していく。

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