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010 サンライスフィルド奏鳴曲

 <イリン講堂跡>の湧き水のところで井戸端会議を済ませたトキマサとボクは、布を買いに出かけた。多少デート気分を味わっていたのだが、トキマサの方はそうではないらしく、いたって真剣な表情だ。

「舞華先生。ありがとうございます。これで絵が描けます」


 トキマサが手にしたのは、何の魔法具でもないただの布だ。絵画用にするにしては少し目が粗いようだが、トキマサは気にしていなかった。

 この非常時にそんなに描きたい絵があるのかしらと思ったけれど、デート気分を味わっているボクの方が非常識だ。少し反省。


 トキマサは<ギエン>に戻り、布の四隅を綱で結ぶと二本の木に結びつけた。裏に板を立て掛けることで器用にキャンバスを作った。ボクはそういった作業は非常に不器用なので、黙って応援だけしていた。


「どんなの描くの?」

「<ギエン>のみんなを守れるような絵を描きたい」

 トキマサが墨を一心に磨り始めたので、水差しに水を入れて傍にいく。

「墨、いっぱいいる?」

「あの大きさだからね」


 四メートル四方といったところか。なかなかな大作になりそうだ。


「ボク、やろうか?」

「お昼までに磨り終わらなかったら、すいません。手伝ってください」

 ボクはトキマサをじっと見た。

「ボク、絵のモデルになってもいいよ」

 トキマサもボクをじっと見つめた。

「先生。邪魔するくらいならみんなの様子見ていてください」

 つれない。


 <ギエン>の塾生たちのMPは回復しないままだ。見た目上残量一を保っている。自然回復が追いつかないのだ。

「自然回復?」

 ボクははたと気づいてサクラリアに念話を入れた。



■◇■

 【工房ハナノナ】の本拠地<P-エリュシオン>。

 サクラリアはユイたちの出発を見送ったあと、大ホールに桜童子たちを運んだ。

 大ホールには、バジルピアノがある。椅子に渡した担架の上に桜童子を寝せ、その脇には膝を抱えた姿勢で眠る<羅刹>がいる。


 そこに運ぶまでに騒動があったのだが、<羅刹>の身体を覆う装備の布面積が非常に小さいことに起因するもので、バジルの尻の辺りがイクスの爪で引っ掻かれズボンが裂けてしまったという結果のみ記しておく。


 <羅刹>は桜童子の召喚した従者である。

 従者は自律行動が可能だが、自身が倒されてしまったり主人に命じられたりすれば送還される。また主人が倒されてしまうと自動的に送還されるのが一般的である。MP切れの際は召喚されない。


 つまり、桜童子は昏睡状態に入る前に<羅刹>を召喚したということである。しかし術者が昏睡してしまったので、<羅刹>は送還されてしかりである。

 それでもこの場に留まれているのは、胸元に抱えた<ルークインジェ・ドロップス>のおかげだろう。カマドで寝ている<サラマンダー>の子ども、サラ坊と同じだ。


「あ、ちょい待って。舞華ちゃんからだ。ハイ、どうしたの? 舞華っち。え?」

 サクラリアは、舞華からの念話を受信した。


「ああ、そのアイディア、私も思いついたんだ。減る量を超えるだけMPを注ぎ込めば、ひょっとしたらにゃあ様目を覚ますかもっていうんでしょ。うん、うん。そう、そう。でも、私が知ってるのって龍眼さんか、ウパロさんか。あ! てるるちゃんがいる! 後で連絡してみるよ」


 MPの操作に長けた<付与術師>をサクラリアは思い浮かべた。元々少ない職種である。彼女の知り合いは三人だけだった。てるるはフリーで活動しているため、近くにはいないかもしれない。


「え、<ルークインジェ・ドロップス>を? にゃあ様に持たせる? いや、それはやめた方がいいと思うな。あれ、私が思うにはコラーゲンみたいなものだと思うのよね」

「ぶはっ、どんな例えだよ」

 ホールの観客席で念話を立ち聞きしているバジルは野次を飛ばす。

 ポコリとバジルの頭を叩くイクス。迂闊に爪を出さないようにと反省したのだろう。手首のあたりでつついている。


「あはははは。ほら、顔に塗っても意味ないじゃん。分子が大きくて肌に入っていかないっていうかー。うん、そうそう。さすが舞華っちわかってるぅ」

「通じたのかよ」

「石の力が大きくて、直接もってるだけじゃMPを増やすことはできないってイメージ。そうそう。それにさ、舞華っちが花の山に行ったときさ、大量のモンスターに囲まれてたじゃない? あれさ、<蒼球>をにゃあ様が使ったから、エンカウント異常の影響を数キロ先まで増幅しちゃったんじゃないかって思うの! そう! <サンライスフィルド>が地獄と化しそうじゃない?」


 バジルの声がサクラリアには届いていないようで、その後も延々と念話し続けた。さすがに話が恋愛の話題に移ったので、バジルはサクラリアにチョップを食らわせた。


「いだだ」

「おめぇがにゃあの介の<悔恨呪>を解除するって言ったんじゃなかったですっけねー」

「解除自体はまだ先だろうけど、とりあえずにゃあ様起こさなきゃだね。まあ今のは、その打ち合わせ的な?」

「で? 何やるんだよ。オレ様バステ解除する特技なんてもってないぜー。むしろ付加させる方が得意だがよー」

「とりあえずにゃあ様と羅刹ちゃんの様子を観察していてほしいんですよ」

 バジルが<羅刹>の前に座りこもうとするので、イクスが押し退ける。


「だーかーらー、腐れバジルはリーダー担当にゃ!」

「わーったわーった。爪ひっこめろ。まったくよー。で、嬢ちゃん、一体何をはじめるんだ」


 サクラリアはバジルピアノの前に椅子を引き寄せて座った。

「私はこのピアノを弾くだけです」

「おい」

「忘れたの? バジルさん。このピアノ、出てくる音符に触れればMPが回復するでしょ」


■◇■


 サクラリアのピアノの腕はなかなかのものだった。

 演奏する曲はベートーヴェンピアノソナタ第十四番「月光」だ。

 楽譜もないため、昨日は第二楽章で何度もつまずいていたが、何度も練習して指が思い出したらしく、実になめらかな演奏だ。


 途中、ピアノから飛び出す音符が桜童子に当たっていないことに気付き、バジルとイクスは担架を頭上に持ち上げたが、そうすると桜童子のMPが回復しているのか確認しづらい。そこで演奏を一旦中断し、支えになるものを探して回った。

 シモクレンのハンマーを立て掛ける台が適当なのだが、使っていいか聞くため念話したのに応答がない。<ユフインの温泉郷>にいるはずだが、何かのトラブルに巻き込まれたのだろうか。


 とりあえず桜童子のぬいぐるみのような身体は目の高さにキープされ、音符も当たりだした。ゆっくりだが、MPも増えはじめた。

 サクラリアも気になるが演奏に集中する。バジルとイクスの反応でアイディアが間違いなかったことがわかる。


 ところが、第三楽章に入ろうか、というところでバジルとイクスが声をあげた。

 どうやら、順調にたまっていたMPが急激に減ったらしいのだ。

 曲の勢いが増して湧き上がる音符の量が増える。サクラリアは演奏を続ける。これも自分の戦いだと言い聞かせて演奏に集中する。


 昨日練習した曲の中では、音符の湧き上がり量が一番多かったのが、このピアノソナタ第十四番の第三楽章だった。

 第三楽章から弾き始めると、効果は第一楽章を演奏したときと変わらなかった。第一、第二、第三とすすんで、ようやくこれだけの湧き上がり量となる。

 約十五分間の詠唱呪文のようだ。十分以上演奏してようやく適切な効果が現れはじめるとはなんと気の長い魔法だ。だが、MP回復魔法といったものはサクラリアの知る限り存在しないので、休憩をはさむレイドなどにこのピアノを用いれば、<ルーターズソング>との組み合わせでパーティの大きな助けになるかもしれない。

 とはいえ、持ち運びできない上、敵に休憩場所を示す行為になってしまうであろうから今後改良しないと実戦投入は難しいだろう。


「リアにゃんの演奏は、あったかいにゃあ」

 イクスがそう呟いたすぐ後、かすかに声が聞こえた。

「オイラ、ドノ、クライ、寝テタ」


「今のリーダーさんの声にゃか!?」

「いや、ウサギの介はまだ動いてねえ」

 サクラリアはガタンと立ち上がる。演奏を中断してしまった。

「にゃあ様!?」


「コッチダ、コッチ」

 一斉に振り返る。


 声を出したのは<羅刹>であった。


■◇■


 ボクたちは庭に出た。墨を入れたお椀にトキマサは筆の先を浸す。


「先生、汚れるといけないですから、門側に立った方がいいです」

 ふーっとひと息吐いて、筆を画面に叩きつける。すっとカーブを描く。

 ボクはなにを描くのか聞かされてないから、ただ見ているだけだった。

 時おり筆をびゅっと振るって墨を飛ばす。ランダムに線を叩きつける。真ん中当たりに波模様のような連続線を丁寧に描く。そうして見るとランダムな線は、波模様より下に集中していることがわかる。

 左右に黒黒とした規則正しい線が描かれる。ようやくなにを描くのかがわかりはじめた。

 羽根だ。猛禽の羽だ。

 筆を替え、繊細に頭部を描いていく。再び墨を散らす。


 それまで、ただの線だったものが、突然鷹の姿となって布の上に現れたようにみえた。

 トキマサがボクの方を見ずに下がってくる。

 近くまで来たので、ボクは彼の香りを感じとって心臓がドキンとする。ボクはあまり鼻が効くほうではないというのに。


 トキマサはまだ集中している。瞳を入れるのだ。

 左眼を入れる。一旦確認し、続いて右眼。

 トキマサは椀に筆を置き、ボクを見て一礼した。そして、庵の縁側の方へとふらふらと歩いていく。


 完成したのだ。

 向かい風に翼をひろげ今にも飛びたとうとする鷹がいた。

 ボクがふらふらと近寄ると、鷹の目がボクを追いかける。

「八方睨み」


 ボクがそういうと、作品が僅かに輝いたように見えた。モンスターを倒してアイテム化するときと、よく似た光だ。

 目を凝らすと、この絵のアイテム名は<八方睨み>になってしまっている。


 ボクは、しまったと思い、トキマサを探した。トキマサは縁側で力尽きたように突っ伏している。

 小一時間、ほとんど息するのも忘れかきあげたのだろう。ボクは慌てて水を取りに行った。


■◇■


「メイワク、カケチマッテルナ」

「なんで羅刹ちゃんが、にゃあ様のしゃべり方でしゃべってるわけ?」


 サクラリアは羅刹の膝に手を置いた。

「<ソウルポジェッション>デ、キンキュウダッシュツ、シタ。ハラノキズガ、ヒライタシ、MPガヘッテイッチマッタカラナ」


「にゃあ様言葉の羅刹ちゃん可愛い」

 サクラリアの頭にチョップを打つバジル。

「それどころじゃねえんだよ。おい、ウサギの介! どこまで事態把握してんだ。何が起きてんだ」

「ヤスラギノナカデタイキセヨ」

「はあ? なんだって?」

「ネムリニツケバアンゼンハホショウサレル」

「こわいこわいこわいにゃん! リーダー突然何を言い始めたにゃん」

「しっ!」

 バジルはイクスを静かにさせる。

「ロクオク、ヨンセンマンタンイト、ヒキカエニ、キカンハ、ナサレル」

「なんだきかんって?」

「ドウイスル、ケイヤクシャハ、アクセスヲウケイレ、スイミンノナカデ、タイキジョウタイヲ、センタクセヨ」


「おい、メモするものはねえか」

「ダイジヨウブダ、ヒツヨウナラ、ナンカイデモクリカエシテヤルヨ」

「おお、ウサギの介、壊れちまったかと思ったぜ」


 桜童子のぬいぐるみのような身体を確認すると、以前と変わらず倒れたままだ。彫りの深い目を半眼にして、僅かに唇を震わせるように<羅刹>が喋っている。

「おめぇさん、動けるか?」

「気絶シネエヨウニスルノガ、ヤットダ」


「さっきのはなんだ」

「敵ダロウナ。本体ノアタマニ、カタリカケテクル。オソラク夜ノ間ダケナ」

「敵は何が言いたいのかオレ様には分からねえ」


 イクスが答えた。

「力を吸うから大人しく寝てにゃ。吸い尽くしたら家に帰してあげるにゃってことにゃね」


「お、おめぇ意味わかるのか」

「イクス天才だからにゃ!」

そう明るく言ったが、表情はいつもよりも悲しげだった。

「<冒険者>になってわかったにゃ。<冒険者>のお家はホントはここにはないにゃよね。だからホントはお家かえりたいにゃね」


「オレ様は帰るつもりはねえ」

「バジル?」

「おめぇもそうだろ、イクス。ここがオレ様たちの家だ。だからここを全力で守る。おい、ウサギの介。おめぇも絶対そんな取り引きのるんじゃねえぞ」


「元居候なのにかっこいいこと言うね、バジルさん」

「余計なお世話だ、リア嬢ちゃん。おい、ウサギの介。動けない理由は腹の傷のせいか、その話しかけてくる敵のせいか、MP減ったせいか。どれなんだ」


 <羅刹>姿の桜童子はしゃべらなくなってしまった。

「嬢ちゃん、曲再開だ」


「待って、念話きた」


■◇■


「リアちゃん? ボクだよ。トキマサ画伯が絵を完成させたんだ」

(こっちはにゃあ様が一瞬眼を覚ましたよ)

「そのリーダーさんの傷のことなんだけど。ひょっとしたらわかったかもしれない」

(え?)


 ボクの前には白地の布に描かれた鷹の絵がある。

 その周りには、大量の虫の死骸がある。


 ボクのせいで勝手に<八方睨み>の名がついてしまったが、特筆すべき点はフレーバーテキストだ。


<我が仲間を護る盾とならん。絵師の強き念が凝固し鷹の形となる。鷹は禽獣の頂点にして、百虫百蟲寄せ付けることなし>


(フレーバーテキスト!?)

「そう。リーダーさん、<大地人>の傭兵にやられたって言ってたよね。いいかい、リアちゃん。ユイくんが爆発的に強くなったのも、傭兵さんの傷が治らないのも、トキマサくんの絵がすごいのもボクの仮説では同じ現象なのだと思うのだよ!」

(出た、名探偵浮立舞華!)


「名探偵なら証拠もないのに仮説をべらべら喋らないけどね。ボクは喋っちゃう。結論としてはね、フレーバーテキストの効果を強めてしまう<大地人>がいるとしたらどうだろう。<冒険者>が現れたこの世界で、新たな力を身につけた<大地人>。そう、ボクは彼らをこう呼びたい。<新世代古来種>と」

 ボクは、トキマサやユイの更なる成長を願ってそう呼んだ。

(な、なんか形容詞が打ち消しあってない?)


「細かいこと気にしないの。リーダーさんが刺されるとき何て言われたか聞いた?」

(罪があるなら裂けよ、じゃなかったっけ?)

「つまり、リーダーさんは、罪の意識を感じた瞬間、刺されたところが裂けるように仕向けられたバステ攻撃を受けたんじゃないかなあ。おそらくその傭兵の持つ剣のテキストはこう。<罪悪感を持つ限り呪いを与える>」

(それが悔恨呪かあ。にゃあ様の罪悪感を拭わないといけないんだ)


「風呂の栓は閉めなきゃね」

(え?)

「いや、こっちの話。また目が覚めたら、何に罪悪感抱いてるか聞き出した方がいいと思う」

(ありがとう、舞華っち。じゃあにゃあ様にMP注入再開するね)

「了解」


 トキマサが眠ったまま時間はすぎた。幸いMPの減少は見られない。トキマサが<ギエン>の仲間を護るというなら、ボクはトキマサを全力で守る。


 布屋に聞いたのだろう。<ギエン>に見舞いに来た<大地人>がかなりの数いた。帳面に名前を書いてもらい、第二波に備えるよう伝えた。彼らがどれだけ夕刻までに情報を拡散できるかは分からないが、できるだけ多くの人々に助かってほしいとぼくは願った。


そして遂に、夕刻が来た。

「来るなら来い!」


<常蛾>の群れが見えた。昨日の攻撃で味を占めたのか、十倍以上の大群だ。ナイフを構える。


 だが、大群は<ギエン>を避けるようにして南に飛んだ。

 時おり近付きすぎた数体が錐揉み状態になって地面に落下してくるので、ボクはトドメをさした。

「やっぱりトキマサくん、すごい」

 言った直後に気がついた。

「南には<P-エリュシオン>がある! まさか、リーダーさんを狙って!?」



■◇■


 <P-エリュシオン>屋上では、イクスとバジルがいた。

 フラットなところばかりではないが、器用に立ち回っている。

 どちらかと言えば狭い足場担当が<猫人族>のイクスで、広い足場担当が<狼牙族>のバジルだ。


「すまねえ! 広々としたところの方が性に合ってんだ」

「そのわりには、<デッツはめ>するときにはこそこそ狭いところに逃げるけどにゃ!」

「足場の問題だっつうの!」


 昨日とは比べものにならないほどの大量の<常蛾>に囲まれている。突撃を食らえば多少MPが減少する。だが、「自分たちは<火雷天神>や<龍脈>のおかげでドレイン攻撃に慣れている」というモチベーションのおかげなのか、大混乱を引き起こさずに戦闘を継続している。


 <常蛾>のドレイン攻撃が微々たる影響で済んでいる原因は、もちろんそれだけではない。

 サクラリアの演奏だ。天井を突き抜けて舞い上がる音符に触れればMPは回復する。また、突撃してくる<常蛾>たちは、バジルやイクスの目前で音符に標的を変えるのである。MP採取が目的のためか音符のおかげで<常蛾>たちは致命的な攻撃を繰り出せずにいるのである。


「<常蛾>が音符にやって来た瞬間を叩けば、回復と攻撃が同時にできるぞ!」

「すでにやってるにゃ!」


 バジルが試みに<ラウンドウインドミル>を放つ。すると手に持つナイフ二撃で、<常蛾>が虹色の泡と化す。

「嬢ちゃん、この音符に<レゾナンスビート>をかけたのか!」


 普通は<吟遊詩人>が武器に<レゾナンスビート>をかけることで、二度叩いて衝撃波と追加ダメージを与えるものだ。だが、サクラリアは<レゾナンスビート>を断続的に詠唱しながら演奏しているのだ。


「こんな転用がありとはな! イクス、ダダンだ! ダダンのリズムで叩け! 太鼓の達人やってると思って!」

「駄段田堕団って何にゃ! 真イカの刺身食ってると思うってどういうことにゃ!」

「音ゲーだよ音ゲー! どんな聞き間違いだよ」

「何言ってるかさっぱりわからないにゃ!」

「とにかく攻撃を連続ヒットさせろ!」

「了解にゃ!」


 イクスは<常蛾>と音符が重なった瞬間、舞華から譲られた赤い刀身の双剣で続けざまに切りつける。

「な、楽だろ!」

 二発当てれば倒せるようになったら後は早い。次々と湧き上がる音符に合わせて斬るだけで<常蛾>のほとんどを殲滅できた。

「しばらく休憩できそうだな」


 しかし、一時間ほど経ったところでまた大量の<常蛾>に囲まれる。

「なんなんだよ! どうして増えるんだよ」

 しかも二撃では倒せなくなった。三撃目を叩き込まねばならず、その分倒すテンポが悪くなった。

「窓を破ろうとしてるにゃ!」

 イクスは、銀色の尻尾を使って器用に三撃目を入れている。坂になった屋上を駆けながら窓に群がる敵を切り払う。


「イクス! その尻尾、どうやって出してんだ!?」

「爪と一緒で、イクスの意思とはあんまり関係ないみたいにゃ!」

 パリンと窓が破れる音がする。何処かの窓が破られたようだ。


「しまった!」

「いや、大丈夫にゃ!」

 <剣牙虎>山丹が<常蛾>を咥えて屋上に上がってきた。

「えらいにゃ! 山丹!」

「がう」


 屋上の上で颶風のように立ち回る狼男と猫娘と虎。善戦のおかげで、<常蛾>の数は着実に減ってきた。

 バジルは最適なリズムを見出し倒しやすくなって来たためだろう。少し油断があったに違いない。

 狭い足場に立ったとき、<常蛾>二体の突撃を食らってしまった。


「裏に隠れてたのかよ!」

 バランスを崩して屋根から真っ逆さまに落ちる。

「バジル!」

 追いかけたイクスも屋根から飛び降りた。

 手を掴む。落下が止まる。

 イクスは銀色の尻尾を壁に突き立てたのだ。


「でかい貸し作っちまったな」

「バジルがいつも食べたいって言ってる<拉麺>というもので手を打つにゃ」


■◇■


「うさぎの介。蛾は追っ払ったぜ!」

「タスカル」

 <羅刹>姿の桜童子は言った。


「この様子じゃいろんなところで被害が出てるだろうな」

 バジルが呟くと、サクラリアが言った。


「ディルくんと、レンちゃんから報告がありました。<オウーラ><ロクゴウ>ともに日没後一時間経ったところで撤退したと。それから、きゃんDさんからレンちゃんに報告があったそうです。<神代樹の森>にて<機動戦線あまわり>が<常蛾>の巣を制圧したそうです。それも日没後一時間だったそうです」


「おい、それってうさぎの介!」

「アア、<ベアブック・ヘブングラス同時籠城戦>ト、オナジダナ」

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