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貧乏と家族と幸せと

作者: 針音
掲載日:2016/09/14

初投稿となります。よろしくお願いします。


5~10分程度で、さくっと読めて、ホロっと泣けることに重点を置いて書きましたので、ガチガチの小説を好む方には稚拙に思えるかもしれません。細かい描写は脳内で補完してください。


すい~っと暇つぶしにケータイ小説読むくらいの気持ちで十分です。


感動系コピペを見たときに閃いて書いたので、2次創作といえばそうかもしれません。

どんなコピペだったかは忘れました。

さて、何から話そうか…

そうだな…


んじゃ、まずは自己紹介から。

俺はユウヤ。いたって普通の男だ。

普通に結婚し、普通に娘が生まれた。

そう、俺は普通が好きなんだ。


え?嫌いなものは何かって?


……。


貧乏だな。

俺は貧乏が嫌いだ。大嫌いだ。


ウチは“ど”が付く程の貧乏で、凄く苦労したんだ。

ボロいアパートに穴の空いた服。

学校の友達によくからかわれた。


おふくろは近所のスーパーでパート。

親父は町工場で機械油にまみれて俺を育てた。

おふくろが言うには、昔はそこそこ「デキる」奴だったそうだが、そんな片鱗は全く見えない、うだつの上がらない男だった。


親父は毎日夕方6時ごろには帰ってきて、まず先に手を洗う。

かなり念入りに洗う。

機会油はなかなか落ちないのだろう。俺は、その背中を見ながら手を洗い終わるのを待っていたんだ。


「ユウヤ、ただいま。元気にしてたか?」


『うん!』


まだ微かに機械油の香りを纏った手が俺の頭を撫でる。

ごつごつした大きな手だった。

子供の頃の俺はそんな親父の手が好きで撫でられるのが嬉しかったんだ。


けほ…けほ…


「大丈夫か?ユウヤ?」


『平気だよ!』


俺は小さいころの記憶はあまり無いが、体が丈夫なほうではなかったんだと思う。

何の病気かは覚えていないが、アレルギー性のものだとおふくろは言っていた。


「ユウヤ、ごめんな…」


俺が咳き込むと親父はいつも悲しそうな顔でそう言うんだ。

親父が何故謝るのか俺には解らなかった。


でも、昔はこれで良かったんだ。

そう、昔は。


大きくなって色々なことを覚え、友達との“差”を感じ始めたころ――

俺は貧乏に嫌気がさしていた。

全てのものが気に入らなかった。


『なんでウチはこんなに貧乏なの?もう貧乏嫌だよ』


おふくろは困った顔をして答えた。


「ユウちゃん。必ずしも貧乏が不幸ってことじゃないのよ」


『不幸だよ!俺達みんなにバカにされてるんだよ?お母さんこれでも幸せなの?』


「…」


「お父さんね…ここに引っ越す前はバリバリのエリートだったの」


『お父さんが?』


「そうよ。ユウちゃん覚えてないの?」


『…』


「忙しくて忙しくて、家にも帰らずに仕事してたの。でも今は家族みんなと過ごす時間が増えてお母さん幸せよ」


『そんなのおかしいよ…お金あった方が絶対幸せだよ…けほっけほっ…』


「あら?発作かしら」


それから自分の体が大きくなるにつれ、毎日6時ごろに帰ってきて手を洗う親父の背中が小さく感じ、近所のスーパーで野菜を陳列してるおふくろを恥ずかしく思うようになった。

そして何より穴の空いた服を着ている俺が恥ずかしかった。


だから俺は高校を卒業したらすぐに家を出た。

親父は反対したよ。


「どこに行くんだ」


『さあね。仕事の多い都会に行くさ』


「仕事ならここでも探せるだろう」


『こんな田舎じゃ高卒の俺に良い仕事なんてねぇよ』


「何も仕事の良し悪しが人生の全てじゃないんだぞ」


『わかってるよ!』


苛立っていた。

頑なに都会を避ける親父に。


「金か…金だろうな…」


『……』


「ウチは貧乏だからな…辛い思いをさせたな…」


『俺は…俺はっ!』

『もう嫌なんだ!貧乏は!』

『俺は自分で働いて…金を稼いでっ!自分の人生を始めるんだ!』


「ユウヤ…」


そこで親父は何か逡巡し、言葉を選ぶように、子供にやさしく言い聞かせるように言った。


「いいか、ユウヤ。いくら金を稼いでも手に入らない物は多い」


そんな事を言う親父に驚いた。

そして思い出した。


――「お父さんね…ここに引っ越す前はバリバリのエリートだったの」――


俺はおふくろの言葉なんか信じずに、リストラされて田舎に逃げてきたんだと思っていたんだ。

だって親父だぜ?町工場のうだつの上がらない冴えない男なんだ。

そんな男が初めて見せた、どこか悟ったような顔に驚いた。


「ユウヤ、道を選べるのは幸せなことだ。」

「全てを拾えないなら何を拾うかを選ぶんだ。よく、覚えておけ」


何を今更…と思った。

俺は怒りがこみ上げ、つい言ってしまった。


『俺はアンタの作り上げた貧乏のせいで選ぶことなんか何一つ出来なかっただろう!何が道を選ぶだ!なら選ぶさ!俺は出て行く』


「ユウちゃん!」


おふくろが俺の腕を掴んだ。


「いいんだ、母さん。ユウヤが選んだんだ」

「体は…大丈夫なのか?」


『…ああ』


堰はもう出なくなっていた。


「そうか…なら、やってみるがいい」


『ああ…』


『俺は…アンタみたいにはならない。世話になったな。親父、おふくろ』


俺はおふくろの手を振りほどいて家を出た。




それから俺は都会で一人暮らしを始め、一生懸命働いた。

働いて働いて、金を稼いだ。それでやっと普通を手に入れたんだ。

挙式はしなかったけど結婚して娘が生まれた。普通の幸せな家庭だ。


気がかりなのは実家のことだった。


おふくろとはたまに電話で話すものの、あの日家を出てから両親には会っていない。

俺から出て行って親父と顔を合わせづらいこともあるが、何より仕事が忙しい。


そして娘のユミが言葉を覚えたころ、俺は妻と衝突するようになっていた。


「あなた…今日も仕事なの?たまにはユミと遊んでやってよ」

『悪いが忙しいんだ』


『ただいま』

「お帰り、今日も遅かったわね。ユミはもう寝たわよ」


「そんなに忙しいの?」


「今日も残業なの?」


「ユミがパパと遊びたいって」


「今度どこか連れて行ってあげたいの」


「次の休みはいつ取れるの?」


………。


「お父しゃん、遊んで」

『休みくらい寝かせてくれよ』

「ユミ、お父さん疲れてるからダメよ」


『仕事が忙しいんだよ!』


『俺が毎日働いてるからユミだってお前だって生活できるんだ!』


『今働かないとすぐ転落して貧乏になっちまうんだよ!』


嫌だ…貧乏は…

俺は親父のようにはならないんだ!


『今日は遅くなる』

「今日も、でしょ」


貧乏は…嫌だ…


[[ レンジで温めてください ]]


貧乏は…嫌なんだ…


[[ 先に寝ます ]]


[[ 明日は実家に行ってきます ]]


[[ ユミの体調が悪いので病院に行ってきます ]]




「お帰りなさい」

『ただいま、病院どうだった?』


「堰が出るわ。アレルギー性の喘息かもって」

『…そうか』

「都会は嫌ね、空気が悪いから」

『……』


『治るのか?』

「ここで暮らす以上無理でしょうね」

『……』

「ねぇ、引っ越さない?」

『そんなこと出来るわけないだろ』

「…そうよね。あなたは仕事があるものね」


ユミ…

お父さん頑張るから。

お前に貧乏で辛い思いなんてさせないから。


『ユミ、大丈夫か?』


けほ…けほ…


「へーき!」


『ユミ、ごめんな…』


――「ユウヤ、ごめんな」――


っ!!


「お父しゃん、どうしてごめんなさいするの?」


『あ、ああ…はは、なんでだろうな…はは…』


俺は…親父のようにはならない…。あんな惨めな生活は嫌だ!




けほ…けほ…


「ユウヤ…ごめんな…」

『お父さん、なんで謝るの?』




俺は仕事でほとんど家に帰れないようになっていた。

帰ってもユミも妻も寝てる。もう書き置きすらない。


それでも俺は進むしかないんだ。家族のために。




『お父さん!おかえり!』

「ただいまユウヤ!お父さん、手洗うから待ってろ」




家族…か。


「お帰り」


『ただいま。こんな遅くにまだ起きてたのか』


「ユミの堰が酷くて、寝つきが悪いの…」


『………』


「たまには顔くらい見てあげたらどう?」

『…そうだな』


………。


『ユミ…』


かわいい…俺の…娘…

お父さんがんばってるんだぞ…

お前たちに辛い思いさせないために…

毎日仕事頑張ってるんだ…


「ん…」


『あ、起こしちゃったか』


「ん~~……。だぁれ?」


『っ!!』


はっとした。


俺は大事な娘のために一生懸命仕事して…

働いて、働いて、家に帰れなくなって…

仕事に生きて、家庭をほったらかして…


娘に忘れられてしまうんじゃないか…


「ああ……お父しゃんだ……」


娘の…笑顔…


『ユミッ!』

『あっ…ぐっ…ユミっ!ごめんな!ごめんな!』


涙が止まらなかった。


「あなた、どうしたの!」


『ユミ…ごめん!うっ…ごめん!』


「けほ…お父しゃん…なんで泣いてるの?」


俺は馬鹿だ。

なぜ思い出さなかった。

あの日の父の涙を。





「ユウヤ!ごめんな!…ごめんな!」


「あなた、どうしたの!」


「このままだとユウヤがっ!俺を忘れてしまう!」


『お父さん…苦しいよ…けほ…けほ…』


「ごめん!…ごめん!」



――道を選べるのは幸せなことだ――



その時俺はやっと理解した。

父は選んだのだ。



――全てを拾えないなら何を拾うかを選ぶんだ――



選んでくれたのだ。

このどうしようもなくバカな息子を。


『ごめん!』

『ごめんなさい!…父さんっ!』




………。




それから俺は仕事を辞め、引っ越すことにした。

ユミのために空気のよい田舎暮らし。

妻は快く頷いてくれた。


「じゃあ、いきましょう」

『ああ…』


見えてきた。

久々に見る顔は皺が深くなり、髪は真っ白になっていた。


俺は親父のようにはならない。

そのために必要な家族。俺の家族。


「ご無沙汰しております。ほらユミ、おじいちゃんとおばあちゃんよ」

「こんにちは、おじいちゃん、おばあちゃん」


体も一回り小さくなった老夫婦は笑顔で迎えてくれた。


『ただいま。父さん、母さん』




そして今、俺は親父と同じ場所に立っている。

いかがだったでしょうか。


主人公の選択が必ずしも正しいとは限りませんが、正解の無い物語を読んでいただき、少しでも感動して泣いてくれる読者様が居てくれたならば幸いです。


読んでくれた皆様に感謝。

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