表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワスレナグサ  作者: 疑心暗鬼
3/3

日常と非日常の間3

「ふぅ……」


何度目かの溜息を吐き出す。

最近気がつけば溜息ばかり出ている気がする。

周りを見渡すと黒い合成の革張りの長椅子にそれぞれが思い思いに座っている。

天井からぶら下がっているモニターには番号が表情され、36番と映されている。

自分の番号は40番である。

いつもの計算で考えるとあと30分ぐらいで自分が呼ばれるのであろう。

まだ時間的に余裕がある。

重たく凝り固まった身体を持ち上げ長椅子から立ち上がる。

長い通路とエレベーターを使い建物の裏にある喫煙所まで向かう。


喫煙所に入るとちょうど誰も居ない。

煙草に火をつけ深く吸い込む。

ふと正面の壁に目を向ける。



喫煙は、あなたの体に悪影響を与えます。

吸いすぎには注意を。

マナーある喫煙に気をつけましょう。



手作りであるポスターにはそうかかれている。


今更なにが健康か。


ポケットにふと手を突っ込むと紙がくしゃりと当たる。

取り出してみると整理券であった。


精神神経科

40番


見慣れた整理券をシャツの胸ポケットにしまい直す。








病院から出て会社への道を歩く。

今日は病院へ行くことを伝え昼からの出勤にしてもらっている。

前もって一ヶ月前から話しているにも関わらず揉めるに揉めたが……。



よく考えれば長い長い通院期間である。


仕事では怒鳴られ辛い1日を送る。

自分ではしっかり業務に当たっているつもりではあるが、上司は自分の何が気に入らないのかよく呼び出されとにかく怒鳴られる。



何でこんな簡単なことが出来ないのか。

仕事は早くできればいいものじゃない。

皆、お前のこと仕事ができないってよく言ってるんだ。どうにかしろよ。

こんなに早く出社するなよ。早く出社して仕事しないと終わらないなんて理由にはならないからな。

男のくせにださいな。

残業なんてするなよ。仕事中に全部終わらせろよ。

俺が言ったことすらできないのかよ。




記憶を巡らせれば毎日の嫌なことを思い出す。

気がつけば俺は眠れなくなっていた。

22時、23時、2時、4時。

時間だけが過ぎていき結局眠るのは5時で、外はうすら明るく日が昇り始めているころだ。

毎日、毎日眠れず遅刻する日々が続いた。

酒をどれだけ飲もうが眠れる時間は30分が限界だった。

もう、身体も心もボロボロだ。


病院に行けば当然の様に精神科を紹介された。


処方された薬は抗不安薬に睡眠改善薬。

それと、精神薬である。




あまり改善されない症状と改善されない会社での扱い。



疲れ果て限界を迎えていたのであろう。



自殺は何度も考えた。


いざ実行に移すと恐怖し、できない。



だが、本当に限界が来ていたのだ。


もう疲れてた。


身体も。心も。生きることにたいしても。


死に場所はどこでもいい。


他人に迷惑がかかる事さえどうでもいい。


鞄にはいつも縄が入っている。


いつでも覚悟さえできれば準備はできているのだ。


歩くことさえ辛い。


目の前にビルが見える。


二階はテナント募集中と書いてある。


もうここでいい。


鍵はかかっているだろうか。


重い足に最後の気力を振り絞り二階に昇る。


無事、鍵はかかっていないようだ。


天井は板が外れ鉄骨が見える。


細いが折れはしないだろう。


雑然とした室内には事務椅子が数脚ある。


足場の心配はない。


縄をどうにか数回投げ垂らす。


いよいよだ。


あとは輪に首を通すだけだ。


もう過去さえ思い出すことも苦痛だ。










「……」


うっすらと目を開ける。


全身には汗がじっとりまとわりついている。


自分の首に手を当てる。


首がついているか確認するが異常はないようだ。

七海先輩が覗きこんでくる。

その顔は何とも言えない悲しい表情だ。


「私も見た世界……見えたかな?」



「はい……つらいですね」



「一番辛かったのは、亡くなった男性だよね。本当に辛くてどうしようもなかったんだろうね」


先輩はそういうと窓の外に視線を向ける。

つられて外を見る。


陽が傾きかけ、太陽が沈んでいく。

もう時期、夜がくる。


亡くなった男性はもう朝日を見る事なく一生を終え人生に幕を閉じた。


もし、もしも男性の自殺を止めることができたら……いや、いまは考えることは止めよう。


静かに手を合わせどうか安らかな死を。

そう思うしかなかったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ