日常と非日常の間2
薄暗い室内はまるでその場所自体が他を拒むかのような一つの完成された空間になっていた。
他を拒み一歩踏み込めば命の保証はしないと言わんばかりにねっとりとした空気に満ち溢れている。
二階の先は見えず階段の途中からはまるで別空間に繋がっているかのようだ。
「先輩はこの先か……」
一歩ずつ確実に足を踏み出す。
煤けた匂いと湿った感覚、ねっとりとした空間にじっとりと汗が滲む。
階段を登りきると存外がらんとした何もない空間が現れた。
窓際に見知った人物が焼け落ちた窓の外を見ている。
栗毛のショートボブに長身。表情はここからはわからないが背を向けこちらの存在には気づいているだろう。
「七海先輩、ここで何をしてるのですか。立入禁止ですよ」
身動き一つせずこちらには振り返らない。
「君こそ。ここは立入禁止だよ。何しに来たのかな」
「先輩がここに入るのが見えたので……それより質問に質問で返さないでくださいよ」
ここでやっと先輩は振り返える。
じっとこちらを見つめ口元はニヤリと悪戯っぽい表情をしている。
「先日、このビルは火事になってね……出火元は一階の飲食店から。二階は貸しテナントになっていて出火時は誰も居なかった」
一呼吸置くと先輩は窓の外に再び顔を向ける。
「出火時、死亡者は2名。一階で店の開店準備をしていた男声店長。そして、ここ二階で全く関係のない会社員の男性……今ちょうど君が立っている階段を登りきった場所だよ」
男性が死亡した場所。しかもその上に立ってていると言う事実にビクリと身体が反応し嫌な汗が一筋背中を通る。
「それで、先輩は……何故この場所に?」
本能的に聞いてはいけない気がするがここまで聞いてしまえば後には引けず先輩の返事を待つ。
「何故か…。この火事で亡くなったのは煙に巻かれ一酸化炭素中毒で死亡した一階の店長だけ。二階で死亡した会社員の男性は自殺なんだよ。二階で首を吊って自殺したあと、たまたま火事が起きた。たまたまね……」
そういうと先輩はこちらに振り返り近づいてくる。
「ただ、気になってね。何故か……この火事変だって」
いつの間にか先輩は息遣いが聞こえそうな程近づいていた。
そして手を両手で優しく握ぎる。
「君にも私の見ている世界を見せてあげるよ」
一気に冷や汗が身体中から噴き出す。
早くなった鼓動と嫌悪感が身体を支配する。
そして先輩の両目が合った瞬間、身体が地面に引きずられる感覚と共に視界は暗転した。