#007「晩春京都」
舞台は、下鴨神社。
登場人物は、朝丘、吉原、渡部、山崎の四人。
「五月に、下鴨神社と上賀茂神社で行われるのが、葵祭で」
「七月に、八坂神社で行われるのが、祇園祭で」
「十月に、平安神宮で行われるのが、時代祭です」
「一度に言われても、覚えられないって。コンチキチンと鉦や太鼓を鳴らしながら、山車で練り歩くのは?」
「それは、祇園祭だ」
「山鉾巡行っていうんだよ、山崎くん」
「祇園祭の中心ですね」
「山の斜面に、大の字を灯すのは?」
「五山の送り火のことか?」
「毎年、八月のお盆休みの最後に行われてるよね」
「京都の夏の夜空を焦がす、伝統行事ですね。お精霊さんと呼ばれる死者の霊を、あの世へ送り届けるとされています。大文字、松ヶ崎妙法、舟形万灯籠、左大文字、鳥居形松明の順で、炎が上がります」
「大文字って、一つだけじゃなかったんだな。勉強になるが、頭が混乱してしまう」
「とりあえず、今やってる祭りが葵祭だということだけ、覚えておけば良い」
「京都四大祭りとして、世界でも有名なんだけどねぇ」
「今、この馬場で行われているのは、流鏑馬神事ですよ、山崎さん」
「このパンフレットによると、イン、ヨーって掛け声で、そこに並んだ三つの的を射抜く行事みたいだな」
「五穀の豊穣や諸願の成就を願っての神事で」
「的中すれば、それが叶うとされているんだよ」
「公家装束である束帯を着用しながら、馬を疾走させつつ、正確に的を射抜くには、熟練した高度な技術が必要です」
「普通に地面に立った状態でも、思った方向に飛んでいかないものなのに、動く馬の背中に乗って狙わなきゃいけないんだもんなぁ」
「難易度は、桁違いだな」
「あっ、始まるみたいだよ」
「乗り手さんの集中力を削いではいけませんし、馬は繊細な生き物ですから、静かに見守ることにしましょう」