#006「阿弥陀籤」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、渡部、朝丘の四人。
「たしか、祝日と祝日に挟まれた平日は、国民の休日になるんだよな?」
「そうだよ、山崎くん」
「それだったら、五月一日を祝日にできないものかと」
「四月二十九日から五月五日まで、七日間を休みにしたいんだね?」
「そういうこと。振り替え休日は要らないから、まとまった休日が欲しいんだ。何とか休みにならないか?」
「僕たちがここで話し合ったからと言って、どうにかなるものではないけど、考えてみようか。五月一日、ねぇ」
「メー・デーですね」
「早かったな、渡部」
「お帰り。保健会議は終わったんだね」
「仕事内容の確認だけでしたから。特に連絡することはありませんし、昨年度からの変更点もありません」
「美化会議のほうは、長引いてるみたいだな」
「小笠原先生は、説明が回りくどいから」
「一から十まで言わないと、気が済まない性格ですよね」
「朝丘も、退屈してるだろうな」
「担当教員が誰か、考慮すべきだったかもね」
「そうですね。四人で相談し直しましょう。それより、五月一日がどうしたのですか?」
「大したことじゃない。その日が祝日なら、丸々一週間休みになるのになぁって話だ」
「メー・デーを祝日にすると、そうなるね」
「でも、それでは勤労感謝の日と、役割が半分、同じになってしまいますね」
「勤労の日と感謝の日とで、分割すれば良いんじゃないか?」
「なるほどね」
「メー・デーと、サンクス・ギビング・デーですね」
「やれやれ。数学の授業以上に、話が長かった」
「おつかれ、朝丘」
「おかえり、朝丘くん」
「美化会議も、何とか終わったようですね」
「掃除用具を点検する当番を決めようってことだけで、何であんなに時間を取るんだろう?」
「どうやって決めたんだ?」
「確率が等しくなるように、とか何とか言ったんじゃない?」
「いかにも、小笠原先生が言いそうな台詞ですね」
「公平に決めるにはどうすれば良いかって話し合いからスタートしたんだが、議論が飛躍して、収拾がつかなくなってしまってさ。結局、あみだくじで決めたんだ」
「始めから準備しておけば、すぐに済むものを」
「でも、いきなり名前を書かされたら、それはそれで不満に思わない?」
「集まった中には、身勝手だと思う人がいるでしょうね」
「全員を納得させるのは、難しいものだな」