#004「参画強制」
舞台は、寮の自室。
登場人物は、山崎、吉原、朝丘、渡部の四人。
「明日から、体育はスポーツ・テストだな」
「毎年やらなくてもいいのに」
「きっと、記録が必要なんだろう。それに、一週間の辛抱じゃないか」
「記録カードを見る限り、今年の種目は、五十メートル走、握力、反復横跳び、ハンドボール投げ、立ち幅跳び、上体起こし、長座体前屈、二十メートル・シャトル・ランの八つです」
「それぞれ、どんな能力を試してるんだっけ?」
「カードに書いてあるよ」
「五十メートル走が走力、握力が筋力、反復横跳びが敏捷性、ハンドボール投げが投力、立ち幅跳びが跳躍力」
「上体起こしは、筋持久力。長座体前屈は、柔軟性。二十メートル・シャトル・ランは、全身持久力。以上を計測を目的に、テストするようです」
「五十メートル走やハンドボール投げは得意なんだけど、反復横跳びや長座体前屈は苦手なんだよなぁ」
「僕も身体が硬いから、長座体前屈の記録は良くないんだよねぇ」
「自分は、シャトル・ランが嫌いだな。どうも、あの電子音と平板な声が好きになれない」
「あの、ド、レ、ミ、と一オクターブを一音ずつ刻んでいく無機質な音と、トータル数を感情なしに読み上げる声ですね。私も、あまり好きではありません」
「好きなことだけを、好きなだけできないものかな?」
「難しいと思うよ」
「そうか? 案外、やってみたら簡単なことかもしれないじゃないか」
「嫌々やらなければいけないことは、しなくても済む方法を考えることを放棄した瞬間に生まれるものかもしれませんよ、吉原さん」
「こうしなきゃいけないものだって考えを、一旦、捨ててみると、どうでもいいことに執着してたって気付くかもな」
「でも、それでいくと、放り投げちゃいけない義務だって存在すると思うよ」
「話が重たくなってきたな」
「責任の話になってしまいましたね。夢見心地が悪そうですから、雰囲気を軽くするために、一人ずつ笑える小噺を言って行きましょうか。まずは、山崎さんから」
「無茶振りだな、渡部」
「山崎くんが言わないなら、僕から言うよ」
「待った。自分が先に言う」
「言い出したのは私ですから、私がイの一番に」
「それじゃあ、俺が」
「「「どうぞ」」」
「オストリッチ倶楽部じゃないか。俺は、寝るぞ」
「おやすみ、山崎くん」
「ベタだけど、面白いな。おやすみ」
「うまくパスが繋がりましたよね。おやすみなさい」