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#038「西行法師」

舞台は、教室。

登場人物は、山崎、朝丘、吉原の三人。

「俺からか。――ここがどこだか、いまがいつだか、だれもしらない」

「吉原、台詞」

「えぇっと。――なるほど。僕が、国体紊乱分子に指定されている、と?」

「朝丘、台詞」

「あぁ、本当だ。――そうだ。発見次第、速やかに排除せよ、と」

「僕は、逃げも隠れもしないよ。でも、質問して良いかな?」

「朝丘、怪訝な表情。聞く姿勢になる」

「その質問に返答すること自体が、その回答になりはしないか?」

「じゃあ、遠慮なく言わせてもらうよ。君たちは、きわめて低い確率でしか起こらない事象に対して、過剰に神経を尖らせ過ぎている。もっと寛容になるべきだ」

「朝丘、険しい表情。後半、声を荒げて」

「悠長に構えていては、非常時に取り返しがつかない事態に陥る。安易な妥協をすべきではない」

「こうして国境を挟んで戦力を拡張し続ければ、それこそ取り返しがつかない事態になる」

「朝丘、拳を握りながら台詞」

「そういう考えを持っているから、政府から睨まれ、排除命令が下るのだ。確認するが、転向する気は無いのだな?」

「万に一つも、無い」 

「朝丘、刀の鞘と柄に手を掛けながら台詞」

「残念だが、今のこの国では、国体紊乱思想保持者を生かしておくことはできない」

「それが今の法ならば、従うより他に何ができようか」

「朝丘、刀を抜き、切っ先を吉原の顎先に当てる」

「何か、言い残すことはあるか?」

「ねがわくは、はなのしたにて、はるしなん、そのきさらぎの、もちつきのころ」

「朝丘、切っ先を地面に下ろす」

「何だ、それは?」

「遠い、東の島国で、昔に詠まれた歌さ。春の月が満ちる頃に、桜の樹の下で最期を迎えたいものだ、という意味だという」

「朝丘、勝ち誇ったような嘲笑を浮かべながら台詞」

「いい歌だな」

「朝丘が吉原に刀を振るおうとせんところへ、山崎、登場――あっ、そうだ。俺も、ナレーションだけじゃなくて、出なきゃいけなかったんだ」

「本番では、忘れるなよ」

「変な間が空いたら、シリアス・シーンが台無しだよ」

「長いな、この一幕。ちょっと、休憩しようぜ?」

「一息、入れるか」

「喋りっぱなしだもんね」

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