大切
妹がいじめられてこっそり独りでに泣いていた。
父が病気を宣告された。
友が震えながら悩みを打ち明けた。
私は、知らないふりをし、神妙な顔をし、生ぬるい手を重ねた。
人を愛せない。大切に思えない。
祖父が亡くなった。
泣いた。彼の記憶が目の前に映る。優しい言葉、
厳しい顔、凛々しい顔つき。
もう何も得ることはできない。
もう何も与えることはできない。
ぼろぼろと頬をつたう粒。
亡くなって初めて彼を大切に思えたのか。
一緒に過ごした時から、そう思えていたのか。
大切な感情、愛情ってなんだろう。
良き心を演じる自分と、自然と溢れる心。
私は私がわからない。
祖父の遺影を見つめ、すすり泣く父の背中を見つめながら思った。