三話 冷蔵庫会議
ほの暗い、冷たい暗闇の中に俺はいる。
『いや、まぁ、もう食器として使われることに、異存はないんだけどさ』
俺の金魚鉢である前に一つのガラス製品だ。こんな物生もあるんだと少し諦めが来た。
いや、薩摩切子さんに金魚が入っているのにはちょっと納得いかないけど。
『色がついてるから横から金魚が見えないだろうっ!!』
『落ち着いてねー、金魚鉢ちゃん』
『あ、すいません、冷蔵庫さん』
俺は冷蔵庫さんの中にいた、冷蔵庫さんの中はひんやりとして、ガラス製品の俺はちょっと委縮してしまう。
『それにしても、冷蔵庫さん、ちゃんと冷えるんすね。電気どうやってるんですか?』
『それはねー、なんか魔王が電気の魔物って人を使って交代供給してるらしいわよ』
人ではないと思うけど、なるほど。
『コンセントなんてよくあったなぁ』
コンセントさんは隠れがちなので俺はまだ挨拶をしたことは無い。何者だろう。
『ほんとねー、で、何をそんなにカリカリしてるの金魚鉢ちゃん?』
そうだ、俺は魔王たちに怒っていたのだ。
『聞いてくださいよ冷蔵庫さん!! 俺は器として使われるのは、まぁ許せます! そういう使い方をする人もいますから、まぁ、仕方ないかと!!』
インテリアに使われたりするよりまだ有意義だろう。できれば金魚を入れて欲しいが。
『だけど!! 「ゼリーを作りますけど、中に金魚のおもちゃを泳がせたら面白いんじゃないですか?」ってなんだよおおおおお!!!!!』
俺の中には今、青と透明の二色に別れたゼリーに金魚のおもちゃが泳いでいる物が入っていた。上にはなんかミントとか浮いてる。奇麗だ。
『あいつら、分かってやってんだろちくしょおおおおおお!!!!』
俺は慟哭する。実は俺の声が聞こえてて分かってておちょくってんじゃないのか、あいつら。
『落ち着いてねー、金魚鉢ちゃん。あの人たち、本当に分かってないのよ』
む、ちゃん付けで呼ばれると、いくら俺でもちょっと何かが刺激される。
『あ……すいません。その、よく考えたら、冷蔵庫さんは普通に使われてますよね? なんでなんですか?』
その辺に、ここで生きていくコツがあるかもしれない。
『ワタシはねー、ほら、取扱説明書がついてたから』
『そうかーーーっ! 取扱説明書かー!』
そりゃ金魚鉢にはついてないなぁ!!
『にしても、連中説明書が……日本語が読めるんですか?』
『それが読めるのよー。すらすらと。だから貼ってある注意書きも読んでくれてるのー』
『あー、やっぱ重要ですねー、その辺。俺中古品だからなぁ』
『ワタシ新古品だったからねー』
『そりゃそうですよねー』
いかん、感染りそうだ。
『お前らはまだいいよ。理解されてるんだからさ』
『あ、魔法瓶先輩』
魔法瓶先輩は顔などないが、陰鬱な表情をしている。
『オレの気持ちがお前らに分かるのかよ!! オレは本来、温かい飲み物や冷たい飲み物を保温する容器だぞ!!』
『お、落ち着いて魔法瓶先輩!!』
『なんで、ぬるい麦茶を冷蔵庫で冷やす羽目になるんだよ!! ずっとぬるいままじゃねぇか!!』
魔法瓶先輩に激しい同情を禁じ得ないが、彼はこの扱いのせいで大分不安定になっている。
『ちっきしょー! オレだってオレだって、冬の寒い日、コーヒーを入れられあったかいと言われたい! 夏の暑い日に遠足の小学生にごくごく飲んでもらいたい!!』
『落ち着いて、魔法瓶先輩!! もうあの頃は返ってこない!!』
『手入れだけ注意書きを読んできちんとしているのが、さらに許せない!!』
『なんで用途は分からないのに、手入れは分かるんでしょうね連中!!』
俺らは、流れない涙を流した。
『皆、大変ねー』
『うう、俺達も説明書さえあれば……』
泣いている所に光が差す。何い物かが冷蔵庫を開けたのだ。理由は明白だろう。
「さて、ゼリーは冷えておるかのー?」
そこに、風呂上りなのかパンツ一枚でうろついている金髪美少女魔王様がいた。
俺を胸元に寄せて、突いている。俺は……もとい、俺の中身は固まっている。
ここで読者諸氏は「またラッキースケベかよ!!」と思うかもしれないが考えても見て欲しい。
俺はガラス製品で金魚鉢だ。人の肌のぬくもりで癒されたりはしない。ひび割れの危険性が出てくるだけだ、まぁ、温度差の許容範囲内だが。
ばぁん!!
「そこまでだ魔王!!」
「ぎゃあ!? こんな時に出てくるでない勇者タカアシーーー!!!」
魔王の魔法が連打で鼻血を吹いているタカアシに直撃する。
『仲いいな、あいつら』
『そうっすね、ありがとうございます魔法瓶先輩、冷蔵庫さん』
『いえいえ、どういたしましてー』
俺は逆さになって魔法瓶先輩と冷蔵庫さんの間につっかえることで、割れるのを防がれていた。
中身の金魚が、戦闘音に震えて、まるで泳いでいるようだった。
ああ、本物の金魚が恋しい。