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二話 ヒロインは薩摩切子!!

「うむ、美味い、金魚鉢で飲むサイダーは格別じゃの」


 俺は魔王から熱い接吻を受けていた。


 金髪美少女から熱い接吻なんて羨ましいと読者の諸氏は思うかもしれないが、考えても見て欲しい。


 俺は金魚鉢である。


 口を付けられてサイダー飲まれても嬉しくもないし、むしろよくこぼさないなと感心するばかりである。


『私が女性に踏まれても嬉しくないのと同じだな』


『あ、カーペット先輩。おはよーっす。……嬉しくないんですか?』


『いや、ごめん、嬉しい』


 そりゃそうだろう。だってあなたはカーペットだもの。


『貴方達仲が良いんですね』


『……!?』


 俺の中で激震が起こった、よもやお声をかけていただけるとは思わなかったからだ。


 声を掛けたのは薩摩切子さん。ガラス製品の中でも底辺に位置する量販店税抜き1980円の俺にとってはまさに雲の上の存在だった。


『さささ、薩摩切子さん、ごきげんようです』


『大丈夫、揺れてるわよ? 地震? 地震は怖いわよね』


 台座に置かれていた俺は思わず揺れていた。


 確かに僕らガラス製品にとって地震は天敵だが、そうではない、恐れ多いのだ。青を主体とした何とも素晴らしい色合い。直線と曲線が融合したスタイリッシュな模様。


 とても同じガラス製品だとは思えない。なんて美しいのだろう。


『って、待てよ。俺は金魚鉢だぞ?』


 金魚鉢は携帯電話ではない。バイブレーション機能などついてはいないのだ。


 どぉんっ!!


 俺は激しく揺れる。中身のサイダーが少しこぼれた。


『な、なんだっ!?』


 扉が無残にも破壊され、そこには一人の男が立っていた。


「き、貴様は、勇者!!」


『と、扉さーーーーんっ!!!』


 まず我々は、そこに驚く、さようなら扉さん。地球製じゃなかったけどいい物だった。


「四天王はどうした!?」


「へっ! インフルエンザで休暇を取ってるぜ!!」


「そういえばそうじゃったか!!」


『手洗いうがいは大事だよね』


『ですね。タオル先輩』


 八百屋のロゴが入ったタオル先輩と会話をする。そこで俺は改めて気が付いた。


『って、あの、あの顔は……!! たかしくん!?』


「勇者タカアシ!! ここであったが百年目じゃ!! 今日こそ引導渡してくれる!!」


 強大な魔法を手に溜める魔王を尻目に俺は叫ぶ。


『タカアシってなんだよ!! なぁ、お前はたかしくんだろ!? たかしくーーーん!!』


 だが、俺の叫びは届かない。俺は人間ではないので発声器官が存在しないのだ!!


 たかしくんは、俺の前の持ち主である。俺が見ていたのは子供のころのたかしくんだったがこんなに立派な青年になって……!


「喰らうが良い、この極大魔法を!!」


『え……?』


 勇者タカアシ=たかしくんはなんかすごい盾で魔法を防ぐが、余波がカーペット先輩をめくりあげらせ。俺を激しく揺らす。


『あ……!! 薩摩切子さんーーーーーー!!!!!』


『きゃあっ!!』


 しかし、その衝撃で棚から薩摩切子さんが落下してしまう!! 地面は固い床だ!! ガラス製品は死んでしまう!!


 俺は目を瞑れないので思わず視界を閉ざした!!


『あ、あれ……生きてる』


『え、ああ、薩摩切子さん!?』


 薩摩切子さんは生きていた、なんて素晴らしいんだ!!


『私がいる床で……傷はつけさせないぞ』


『カーペット先輩!! 合成繊維中古カーペット先輩!! 今すっげーカッコいいっすよ!!』


 カーペット先輩が薩摩切子さんを包んでいた。そう、金魚鉢である俺には手も足も出せなかったのに!!


『良かった、薩摩切子さん……』


『ありがとう、金魚鉢君』


 彼女は柔らかにそう言った、なんか、距離が縮まった気がする。


『あ、いや、助けたの、カーペットである私なんだけどね?』


「喰らえ魔王!!」


「ぬぉおおおおお!!!」


 そんなガラス製品たちをよそに、死闘は佳境に入っていた。


 他所でやれ。





「魔王様、お疲れ様でした」


 メイドさんが戦い終わった魔王をねぎらう。部屋の隅にあるあの大仰で体の三倍くらいある甲冑は使わなかった。あれ、意味あるんだろうか。


「うむ、メイド、ごくろう。サイダーにホコリが入ってしまった」


「すぐに代わりをお持ちします。……ところで、こちらを。異世界岬から拾って来たのですが、魔王様がお好きかと思って」


 そこに持ってきたのは、ビニールに入った魚。赤い魚。そう!!


「ふむ、異界の魚じゃな。名は……金魚か」


 そこにいるのは、二匹の……そう、金魚だった!!


 最近知ったことだが、魔王は異界の物の名前を知ることができるらしい。名前以外は分からない。


『そう、金魚、金魚鉢っすよ俺!! 金魚と金魚鉢があるから答えは一つだろう!?』


『良かったわね!! 金魚鉢君!!』


 薩摩切子さんも棚に戻され、俺を応援してくれる。


「そうじゃな。それは奇麗な魚じゃから、良く映えるようにそこの薩摩切子に入れよう」


「はい、畏まりました魔王様」


『え……?』


『そうじゃねぇだろう魔王ーーーーーーー!!!!!!』


 俺は、心の底から慟哭した。



 少し大きめのグラスとはいえ、薩摩切子さんに入れられた金魚は、少し狭そうだった。



 そして俺らは、互いにかけてあげる言葉が見つからないのだった。



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