動き出した物語
速足で管制室に飛び込んだ秀司はそのまま中央で指揮を執っていたレインに近づいた。
「シュウジ、状況はどうなった?」
監視カメラで見ていただろ。
と言いたい気持ちを押さえ込む。
レインが言いたいのは秀司の失態を責めたいわけではないのだから。
恐らくレインは察しているのだ。特殊部隊の第七席がなにも出来ずにノコノコと帰ってきたわけではないことを。
いや、違うな。第一特殊部隊に所属するのだからノコノコと帰ってきていいわけがないと言いたいのだ。
「……敵に麻酔弾を撃ち込みました。至急、戦闘部隊を用意してください。今なら彼らの戦力でも十分に捕えることができるはずです」
「敵の場所はわかるのか?」
「はい」
秀司はホルスターから《W・G・S》を引き抜くとグリップの底をレインに見せた。
「――あの瞬間にそこまでのことができたか」
レインが驚いたように息を呑む。
普段、グリップの底には端末情報を送信する簡易的な装置が取り付けられているのだ。
本来なら武器の所在や所持者を管理する装置だが、秀司は彼女が目を覚ました時、取り逃す可能性も示唆して蹴り飛ばされた拍子に装置をグリップから取り外していた。
結果として銃をとり落とす失態をしてしまったわけだが、《ロストシルバー》が姿を消す瞬間、伸ばした右手から装置を少女の外套のフードの中に放りこむことに成功していたのだ。
この装置の位置情報を辿れば《ロストシルバー》の場所も探知することが可能だろう。
「なるほど。これなら追撃は可能だ。至急戦闘部隊を用意する。シュウジ、君は医療室で怪我の具合を見てもらうんだ」
「……はい」
やはりお見通しか。
確認するまでもなくこの怪我の具合では追撃部隊には参加出来そうにない。
腹部や腕の痛みはともかくとして背中の一撃のせいで腰を曲げることにすら痛みを感じる。
少なくとも今日はもう戦えそうにない。
秀司は管制室を後にすると医療室に向かい傷の手当てを受けるのだった。
◆
そのおよそ二時間後、戦闘部隊が全滅させられた知らせが届き、現場に駆け付けた秀司は搬送されていく戦闘部隊の面々を見送る中、現場のすぐ側に落ちていた学校の校章を拾い上げたのだった。