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コード・エラー  作者: 松秋葉夏
ロストシルバー
10/14

6-白銀(1)

 目尻に熱いものが込み上げてくる。

 俺は目を擦るともう一度目の前の少女に向き直る。

「ど、どうしてここにいるんだよ?」

「ハッ、別にずっと隠れていたわけじゃない。私の能力でお前の側まで移動しただけだ。まあ、監視はさせてもらっていたがな」

「監視って……」

 ずっと見られていたのか? けど一度も視線なんて……。

「バカかお前は。こそこそと付け回すわけがないだろ」

「…………ああ。なるほど」

 この思考を先読みしたかのような言い方。俺の心を覗いていたってわけか。

 恐らくは別れてからずっとユリノは俺の心を覗いていた。

「その空間跳躍能力。久しぶりだね。《ロストシルバー》――いや、ユリノ君と言うべきか」

 秀司が銃口をユリノに向けて唇の端を吊り上げる。

「ああ。二度とその顔を見たくはなかったがな。このバカがどうしようもなくバカだから釣られてきてやったぞ」

「そうか。君にとって陽斗は大切な存在なわけか」

 怒りを滲ませ銃口を向けた指先に力が籠る。

 いや、なんであいつが俺に対してそこまで怒りを滲ませるのか理解できない。

 ほぼほぼ初対面のはずだ。

「バカ言うな。コイツが大切なわけがないだろ。コイツの能力が大切なだけだ」

「まさか――」

 秀司の顔色が怒りに染められる。

「ああ。使わせてももらったぞ。『祝福』は今、コイツの体の中にある。私がコイツを手放さない理由はそれだけだ」

「なんてことを……無関係の人間を巻き込んだのか! どんな目的があるのか知らないけど到底許されることじゃない。君のくだらない目的のために陽斗を巻き込むなんて」

「くだらないだと? 私の全てを賭けた願いがくだらないだと? 言ってくれるな偽善!」

「なんとでも言えばいい。僕は絶対に君を許さない!」

 それが戦闘の合図だった。

 駆け出したユリノを秀司の銃口が追う。

 懐に入り込まれる刹那に放たれた銃弾にユリノはギリギリで反応して顔を逸らして避ける。

 そして地面に手をつき体を捻るように逆立ちの姿勢から回転蹴り。バックステップで距離をとった秀司は勢いよく地面を蹴り上げ、ユリノに肉薄。銃身を振り上げ、腕をクロスさせたユリノに叩きつけた。

「グッ!」

 衝撃で地面に叩きつけられたユリノはすぐさま地面を転がるように移動。その後を追うように銃痕が地面に跡を刻む。

 ユリノは転がりながら落ちていた鉄の棒を拾いあげるとパンと乾いた銃声音と同時に振り上げ、目の前で火花を散らせた。

「今回は随分と慎重だね」

 肩で息をしていたユリノは吐き捨てるように眉を上げた。

「この前、お前の銃弾で痛い目を見たからな。当たらないようにするのは当然だ」

「なるほど。僕の特殊弾を見越しての防御か。確かに一撃でもくらえば君は不利になる。けどそんな鉄の棒切れで銃弾を防げるとでも?」

 直後放たれた銃弾がユリノの鉄の棒に直撃。

 カンと尖端を叩き折られた鉄の残骸が音をたてて転がった。

「僕の銃弾を前にその武器は盾にならない」

「…………ただの水鉄砲も使い方次第だな」

 ユリノは鉄棒を構え直すとジリジリと秀司から距離をとる。

「僕の銃弾の正体に気付いていたんだね」

「ついさっきだがな。地面の銃痕には弾丸ではなく水滴がついていた。お前の銃弾は水圧を押し固めた弾を使っているんだろ? 威力もスピードも弾の水圧次第。この棒っきれを折ったのも水圧を高くしただけだろ」

「半分正解かな。僕の『W・G・S』の通称は――『水銃剣』――水圧を銃弾に使うだけではまだこの武器の半分の力も引き出していない。『type・S』――行くよ。ここからが本番だ」

 カチリとグリップ部分のスイッチをスライドさせ、銃を勢いよく振るう。

 グリップが稼働し、銃身が柄のように形を変える。そして秀司が引き金を引くと銃身からスライドした刃が銃口を挟むように飛び出した。

 銃剣――まさにその言葉通りにそれまで銃だった武器が剣に姿を変えた。

 切っ先を落とし、斜めに構えた秀司は一息でユリノとの距離をつめ、手にした剣を振り上げる。

 ユリノはその一撃を鉄棒で防御しよう――としたところで強引に体を捻り、ギリギリでその一撃を避ける。

「いい反応速度だ」

 空振りに終わった一撃はユリノの数メートル後ろの校舎の壁に鋭い爪痕を残していた。

「あのまま防いでいたら今頃君の体は真っ二つだったよ」

「水圧の刀身か。なるほどこれは厄介だな」

 刀身のように伸ばした水圧で切り裂かれた校舎の壁の傷跡は綺麗な一直線の形だ。

 鋼すら紙切れのように切断しかねないその威力に遠巻きに二人の戦闘を見ていた俺は恐怖を覚えた。

 ユリノでは勝てない。

 いや、体術では互角かもしれないが、使う武器の次元が違いすぎる。

 ただの鉄くずと本物の武器ではどうあがいても性能面に差が出る。

 ユリノもそれを認めているのか徐々に後退していく。

「悔しいが私ではお前に勝つことは難しそうだな……」

「だからといって手加減はしない。このまま押し切らせてもらう」

 再び距離をつめた秀司の一撃。

 その一撃が届く刹那――。




「も一度戻れる保証はないが仕方ない……」





 その言葉を最後にユリノの姿が掻き消えた。

「また空間跳躍か!」

 周囲を見渡した秀司はすぐにユリノの居場所を突き止める。

 そう俺の目の前にユリノは現れていた。

 俺は視界いっぱいに映るユリノの顔に見惚れて呼吸を止めた。

 そしてその口を塞ぐように力いっぱい押し付けられた柔らかい感触は到底忘れることなんてできそうにないユリノの唇の感触だった。



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