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霧の魔法  作者: 美月 純
2/9

第2話:トモダチ

「おはよう!」

「おう、おはよ。」

 

「なんだよ宙、元気ねえじゃん?」

「ん?そうか、普通だよ。」

 

「おいおい、俺とおまえはガキの頃からの幼馴染(おさななじみだろ。おまえの調子は一目見ればわかるんだよ。」

美樹生(みきお)・・・おまえには嘘つけねぇな。」

 

「やっぱ・・・で?どうした?」

「ん?あぁ、まぁなんていうか・・・。」

 

「なんだよ。それじゃわかんねぇよ。」

「あぁ、つまり・・・なんだよ。思春期ってことかな。」

 

「なんだそりゃ?ん・・・あぁ!まさか、女?」

「ん?まぁ。」

 

「マジで?!出来たの彼女?」

「違うよ。出来てりゃ悩まんだろ。」

 

「そっか・・・じゃあ、片思いってやつ?」

「んん・・・まだよくわかんないんだけど。」

 

「ふーん、なにどこのコよ?うちの学校?」

「いや、たぶん西高。」

 

「マジ?じゃあおまえより頭いいじゃん。」

「んなこと関係ねえだろ。そりゃうちよりランクは上だけど。」

 

「ふーん、じゃあ、なに、優等生タイプ?おまえそういうの趣味だったっけ?まさかメガネっ娘とか?!」

「俺はオタクかよ。アキバ系じゃねぇってーの。」

 

「そっか、まぁそういうタイプじゃないな。でも、じゃあ、どんなコよ。」

「んーなんていうのかな。背が小さくて、でも、けっこう顔立ちがはっきりしてて、見方によっては美人系。」

 

「なんかよくわからんなぁ。例えばタレントとか、誰似?」

「タレント?ん〜誰だろ?最近のコじゃいないなぁ。」

 

「女優とかは?」

「女優?ん〜、あぁ、蒼井恵。」

 

「蒼井恵?あぁ、あの人ね。わかるけど、目がクリッとしててかわいい感じ?」

「うん、笑ってる顔がかわいい。でも、黙ってると美人。」

 

「ふーん、マジで惚れたな。おまえが何かに夢中な時って前見えてないから、わかるよ。」

「どういう意味だよ。マジでかわいいんだよ。」

 

「実物を拝まないとな。それにおまえの趣味ってイマイチわからんから。」

「じゃあ、会わせてやるよ。」

 

「え?会えるの?片思いじゃないわけ?電車男みたいに声もかけられないみたいな。」

「違うよ。話も出来るし、メルアドだって知ってるよ。」

 

「え?メルアドゲットしてんの?じゃあ、全然OKじゃん。片思いじゃねぇじゃんよ。」

「違うんだよ。でも、彼氏いるんだよ。彼女には。」

 

「え?なにそれ?わけわからん。」

「だから話すと長くなんだけど・・・。」

 

 宙は美樹生に今までのいきさつを話した。

 

「へぇ、そんな出会いってあるんだ。でも、彼氏の誕生日プレゼントを買いに行かされたのが初デートかよ。」

「デートじゃねぇよ。」

 

「悪い悪い。怒んなよ。でも、次に会えるのはそのハンカチ返す時で、それ返したらサヨナラだろ?」

「ん・・・たぶんな。」

 

「たぶんな。ってそれで言い訳?」

「いいも悪いも仕方ないじゃん。どうしようも出来ないし。」

 

「どうしようも出来ないじゃねぇだろ。とっちゃえよ。その彼氏から。」

「どうやって?それに彼氏も西高だろうし・・・勝ち目あるわけないじゃん。」

 

「恋は学歴ですんじゃねぇだろ。男ならビシッと決めてこいよ。」

「ビシッとも何も、相手は俺のことなんてなんとも思ってないし、どうしようもねぇだろ。」

 

「なにビビッてんだよ。よし!ハンカチ返す時、俺がついていく。その絵羽ちゃんにコクれ。」

「おいおい、なんでいきなりコクるんだよ。意味わかんねぇじゃん。嫌がられるに決まってるだろ。」

 

「そんなのやってみなきゃわかんねぇだろ。もしかしたら彼氏とうまくいってないかもしれないし。」

「ありえない。だって誕生日に彼氏の名入りのカップ作るんだぞ。しかも五千円もすんだぞ。おまえ好きでもない女に五千円も使うか?」

 

「そりゃ使わんけど。でも、必ずしも二人の関係がハッピーとは限らんだろ。」

「そりゃそうだけど・・・とにかく今度あってコクるなんてできねぇよ。」

 

「うーん、じゃあ、せめてもう一回会う口実を作れ。」

「どうやって?」

 

「うーん。ハンカチ借りたお礼にお茶でも奢るからとかなんとかいってさ。」

「お礼?なんか変じゃない?」

 

「変じゃないよ。いきさつはともかく、ハンカチを借りたのは確かだし。お礼は変じゃない。」

「そっかなぁ。まぁ、いいや、試してみるよ。」

 

「いつ返すんだよ?」

「夕べ洗濯したから。もう乾いてるだろうし。今日メールして明日にでも会えれば会うよ。」

 

「ふーん。」

「おい?なんか企んでない?」

 

「え?なにが?何いってんの宙ちゃん。」

 

 美樹生は、にやりと笑って宙の肩をポンっと叩いた。

 

「あやしい・・・。絶対何か企んでる。」

「めっそうもない。さっ授業始まるよん!」

 

「・・・・。」

 

 宙は、放課後少しドキドキしながら絵羽にメールをしてみた。ほどなく返事が返ってきた。

 

 《了解です。明日大丈夫だよ。時間も五時でOK!楽しみにしてるね。じゃ!(^_-)-☆弟へ姉より。》

 

「弟へ?姉より?なんじゃそりゃ?あははは、子ども扱いじゃん。」

 

 隣で盗み見をしていた美樹生が笑った。

 

「うるせぇな。言ったろ、店で馬鹿にされたって。」

「聞いてたけど、おっかしいな絵羽ちゃんって。」

 

「なんだかなぁ。やっぱ望み薄でしょ。弟扱いじゃ。」

「そうでもねぇよ。ほら、女って精神年齢はやっぱ上じゃん。だから、逆に母性本能くすぐる感じでいったらいいかも。」

 

「母性本能?おまえ、勉強できねぇくせにそういうことだけは言葉よく出てくんな。」

「ほっとけ!宙が心配だから言ってやってるんだろ。」

 

「わかったよ。じゃあ、とにかく明日会ってくる。で、お茶誘ってみるよ。」

「ほいほい。がんばれよ。じゃ、俺部活行くから。」

 

「おう、じゃあな。また明日。」

 

 そのまま家に帰った宙は家の手伝いで仏具店の店番をしていた。

 

「よう、宙!」

 

 部活帰りの美樹生が店に来た。

 

「なんだ、美樹生?なんか用?」

「あぁ、えっと明日って、ほら、絵羽ちゃんと会うの。ショッピングモールのとこだよな?」

 

「え?そうだけど・・・やっぱ、なんか企んでるだろ?」

「いやいや、別に。ちょっと心配だったからさ。」

 

「なんだそれ?わけわからん。あ?まさか来る気じゃないだろな?」

「いやいや、そんなことするわけないじゃん。でも、宙見せてくれるって言ったよな?」

 

「いや、やっぱ無理。別に彼女でもないんだから会わせるなんてできるわけないじゃん。」

「ふーん、そう。ま、いいや。じゃあ疲れたから帰るわ、俺。」

 

「なんだ?何しに来たんだおまえは?まぁ、いいや、気をつけてな。」

「おう!じゃ明日。」

 

「明日!」

 

『明らかに美樹生は何か企んでいる。でも、美樹生とは幼稚園からの付き合いだから、あいつが悪い奴でないことはよくわかってる。中学の時も俺が好きになったコになかなかコクれないでいたら、美樹生が変わりに話をしてきてくれて、結局はふられたんだけどその後「ごめんな。」て何度も謝って一緒に泣いてくれた。気がいい奴だ。』

 

 部屋に戻った宙は干してあるハンカチを手に取ると、そっと匂いを嗅いだ。

 

「俺は何やってんだ。変態か・・・そうだ!」

「お袋!アイロンある?貸して!」

 

「アイロン、何すんの?ズボンにあてるならやってやるよ。」

「いいよ。自分でやる。」

 

「ん?押入れの中だよ。やけどすんなよ。」

「大丈夫だよ、ガキじゃねえんだから。」

 

「ったく、都合のいいときは大人にも子どもにもなるんだねぇ。いいねぇ高校生は。」

「うるさいなぁ。とにかく借りるよ。」

 

「はいはい、使ったらちゃんとしまっとくんだよ。」

「はいはい。」

 

 宙は小学校の家庭科以来アイロンを使った。

 

「こんな感じかな。おぉ、上出来。ピシッとしたな。これなら絵羽ちゃんも喜んでくれるかな。・・・って別に絵羽ちゃんのもの返すのに喜ぶわけないか・・・ははは。」

 

 宙は、なぜか浮かれている自分がおかしくなった。

 

 次の日、放課後になって絵羽と待ち合わせのショッピングモールに出かけた。今日は学校帰りなので制服のままだ。

 約束の五時を少し回った頃

 

「よ!」

 

 いきなり後ろから肩を叩かれた。

 振り返ると制服姿の絵羽がニッコリと笑って立っていた。

 

「あ!お、おっす!」

「いやぁ!元気だった?って二日しか空いてないか。」

 

「うん、そうだよ。一昨日会ったじゃん。」

「だよねー。で、ハンカチ持って来てくれた?」

 

「あぁ、はい、これ、サンキュー。」

「わぁ、なんかピシッとしてるね。アイロンあてた?」

 

「あ?ん、一応借りたもんだし、ちゃんとしないとって思って。」

「プッ、やっぱかわいいね。宙って。」

 

「なんだよ。おかしいかよ。ちゃんとしようと思っただけじゃん。」

「なんだぁ?怒った?ごめんね。ソ・ラ・ちゃん。」

 

「宙ちゃんはよせ。タメだろ。」

「ごめん、ごめん。怒んないでよ。」

 

「別に怒ってないよ。とにかく返したよ。」

「ありがと。きちんと洗濯してくれて。」

 

「おう、じゃあ、俺帰るよ。」

「あ、ねぇ、時間ある?」

 

「え?別に・・・あるけど。」

「ほんと?!じゃあさ、ちょっとお茶しない?」

 

「え?お茶?あ、うん、いいよ。」

「よし、決まった。じゃあ、そこのスタバいこうか。」

 

「あ、うん。」

 

 そういうと絵羽はさっさと歩き出し、後ろをついていくように宙も歩き出した。

 本当は宙から「お茶」を申し出るはずだったが、絵羽と会って何もいえなくなっていたところ、好都合にも絵羽からお茶を誘ってくれた。

 それぞれ注文をすると窓際の二人がけの席に座った。ちょっと高めのカウンター席だったので、背の低い絵羽の足が地面につかずにプラプラと揺れていた。その姿が愛らしくて宙はちょっと自分の顔が熱くなっているのがわかった。

 その気持ちをそらそうとふっと店内を見回すと、見慣れた感じの人間がこちらをチラチラと見ていた。

 

「美樹生・・・。あいつやっぱりきやがった。」

「ん?なぁに、なんか言った?」

 

 キョトンとした顔で絵羽が尋ねた。

 

「あ!いや、何でもない、気にしないで。」

 

 宙は、あたふたとしながらも冷静を装って返事をした。

 

「あのね。ちょっとだけ話聞いてくれる?」

「うん、なに?」

 

「あのね。宙って・・・エッチしたことある?」

「ブッ」

 

 飲んだコーヒーを噴出しそうになった。

 

「いやん。飛ばさないでよ。制服なんだから。」

「って、無理言うなよ。いきなりそんなこと聞くんだもん。」

 

「あ?刺激強かった。ってことはまだだよね。」

「え?あ、うん。残念ながら。」

 

「だよねー、そっか、まぁいいんだけど男の子ってさ、やっぱ好きだからエッチしたくなるの?」

「え?まぁそうだろう。あ、いや、人によるかな。」

 

「人によるって?」

「ん〜つまり、俺は好きな人とじゃなきゃやだけど、男の中には誰とでもしちゃう奴もいるよ。」

 

「ん〜、そっか、そうだよね。女でも誰とでもできるコいるもんね。」

「うん、たぶん。え?まさか彼氏とはまだ?」

 

「え?やだぁ、いきなり聞くな。」

 

 宙は、赤面してる絵羽を見て自分の胸が何か締め付けられる感覚を味わった。

 

「あのね。実は昨日彼氏の誕生日だったじゃん。」

「うん。」

 

「でね。彼の家まで行ったの。そうしたらご両親が留守で。」

 

 両親が留守という言葉を聞いただけで宙は心臓がドキドキしだした。

 

「でね。彼の部屋は二階にあって、お茶とか入れてくれて、いつものように話しててプレゼント渡して、すっごく喜んでくれて。そうして・・・。あ、何話してんだろあたし。恥かしくなってきた。」

「なんだよ。そこまで言ってて。」

 

「ん、じゃあ、言うけどあまりこっち見ないで。ハズイから。」

「わかったよ。」

 

 そう言われて、ふっと視線をそらし、その隙に美樹生の動向を伺った。美樹生はあきらかにこっちを凝視している。

 

「で、ふと会話が止まって。その・・・キス・・・されたのね。」

「う、うん。」

 

「あ、別にキスは初めてではなかったからいいんだけど。」

『よくない。』心の中で宙はつぶやいた。

 

「で、いつもならそこで終わるんだけど。そのまま、彼があたしを押し倒してきたの。」

「う、うん。」

 

  返事をしながら宙の手は握りこぶしを作っていた。

 

「それで、その、エッチしたいって迫ってきて。でも、もちろん初めてだったから、それに、ほら、その、ゴム。コンドームもなかったし、やばいかなって思って。」

『じゃあ、コンドームがあればやってたんかい。』今度は心の中で叫んだ。

 

「で、まだ心の準備が出来てないって拒否っちゃたのね。」

「うん。」

 

「そうしたら彼、急に不機嫌になって、『今日は帰ってくれ。』って言われちゃって・・・。」

 

 絵羽の声のトーンが変わった。ふと見ると目に涙をいっぱい浮かべていた。そして、その大きな瞳から涙がこぼれた。

 

「絵羽・・・ちゃん。」

「あ、ごめん。ごめんね。なんか、エッチしなかったことが、あたしが彼氏を好きじゃないって思われたかと思って。」

 

「いや、絵羽ちゃんは正しいよ。そんなの彼氏の方がいけないと思う。うまく言えないけど、やっぱエッチって男より女の子の方がリスクあるし、心の準備も、それと・・・避妊とかもちゃんと考えないと。」

「ありがとう。そう思ってくれるんだ。」

 

「うん。だって、そりゃやっぱ、ほんとは男が冷静に考えなきゃいけないことだと思うし。」

「・・・・・・。」

 

「あ、ん〜うまく言えないけど、そういうのってお互いの気持ちが大事だし、片方が良くても片方が嫌だったらしちゃいけない気がする。」

「ありがとう宙、なんかスッキリした!聞いてもらっただけで気持ちが晴れたよ。」

 

「ほんと?」

「うん、ほんと!なんか宙って弟みたいって思ったけど、やっぱいい奴だね。男としても。」

 

『男として』その言葉で自分のポイントが上がった気がした。

 

「でね。実を言うと、最近彼氏とうまくいってないんだよね。」

「え?エッチ拒否ったから?」

 

「いや、その前からちょっとずつずれてきたっていうか・・・わかるかな気持ちのずれのようなこと。」

「気持ちのずれ・・・うん、なんとなくわかる気がする。」

 

「彼氏はね。一コ上だから、受験なんだ。」

「あー先輩なんだ。大学受けるんだね。」

 

「うん、一応進学校だし、ほとんどの人は受けるんだけど、浪人も多いけどね。」

「ふーん、まぁ一応うちも七割くらいは受けるかな。」

 

「宙は?大学受けるの?」

「え?あー、うん、たぶん、勉強は全然してないけど、ただ、ほら、うちっておふくろだけって言ったでしょ。だからこれ以上金銭的な負担は掛けれないかなって思ってるんだけどね。おふくろは大学くらい行かせる金はあるって言うんだけど。」

 

「そうなんだ?でね。彼氏ちょっと今回の受験では無理っぽいの、志望校は。」

「・・・・・。」

 

「それもあってなんかイライラしてて、部活もサッカー部だったんだけど引退したせいか発散するとこなくてストレスたまってるみたいで。」

「あーだろうね。今まで運動してたから急にやめるとストレス溜まるって言うし。」

 

「そうなの。だから、あたしにエッチ迫るのもそういうストレスのはけ口じゃないかって思っちゃうんだよね。」

「えーそれは酷くない?そういうのって愛情の問題じゃない。」

 

「愛情・・・っか、あるのかどうか正直わかんないんだよね。」

「なんで?絵羽ちゃんかわいいし、明るいし、言うことないじゃん。付き合ってて愛情がわかないわけないじゃん。」

 

 宙は、そう言ってから自分が何を言ってるのか反芻(はんすう)して恥ずかしくなった。

 

「ありがと。」

 

 そう言って絵羽はにっこりと宙に微笑みかけた。宙は、その顔がたまらなくかわいいと思った。

 

「宙ってよくみると男前だよね。もてるんじゃない?」

「え?なんだよ急に。もてねぇよ。彼女いない歴17年だからね。」

 

「マジで?そうは見えないなぁ。性格に難があるとか?」

「酷くないそれって?」

 

「きゃはは、うそうそ、性格だっていいじゃん。それはあたしが良く知ってる。」

「ん〜なんていうのかな。臆病なのかも。女の子の前だと堂々と出来ないっていうか。」

 

「ふむ、そういうのって女からみると頼りない感じだしね。」

「だろう?そういうとこがもてないのかもな・・・。」

 

「へこんでる?」

「いや、別に、へこむというより、半分あきらめてる。」

 

「ん〜、でもさ、女も色々だから、そういう宙が“好き”っていうコも現れるよ。」

「そっかなぁ、今のところ高校では望み薄だけど。」

 

「そうぉ?少なくともあたしはそういう宙が好きだよ。」

「え?なにそれ?」

 

「あ・・・、ん〜と、トモダチとしてね。」

「あ、うん。トモダチとしてね。」

 

 ほんの少しの間、沈黙が流れた。

 

「あ、そろそろいくね。晩御飯に遅れちゃう。うちも母親うるさいから。」

「あ、うん、俺も、帰る。」

 

「ありがとう。じゃ、ハンカチ持ってくね。」

「あ、うん。こっちこそありがとう。」

 

「じゃあね。」

「あ、うん。あ!絵羽・・・ちゃん。」

 

「なぁに?」

「あの・・・また、会ってくれるかな?」

 

「え?あ、うん。いいよ。メールして。」

「うん!ありがとう。じゃ。いくね。」

 

 そう言うと宙は絵羽より先に店を出ていった。

 

「おい!宙」

 

 美樹生が追いかけてきた。

 

「どうだった?なんか最後笑顔だったじゃん。絵羽ちゃんも。」

「ふふふ、もう一度会う約束ゲットしたぜ!」

 

「マジで!やったな宙、うれしいよ。俺は幼馴染として。」

 

 そういって美樹生は腕で涙を拭くマネをした。

 

「ふざけてんじゃねぇよ。でも、よかったぁ。また、絵羽ちゃんと会える!」

「良かったなぁ、宙。くっそーうらやましいぜ。ほんと宙が言った通り、かわいいな、絵羽ちゃんて。俺も惚れそう。」

 

「おい、俺が目をつけたんだからな。美樹生は邪魔すんなよ。」

「えへへ、恋は自由さ、俺と会ったら絵羽ちゃんが俺のほうに気を向けるかも。」

 

「美樹生!」

 

 そう言って美樹生の首に手を回し絞めるマネをした。

 

「あははは、かんべん、かんべん、おまえの幸せをぶち壊すわけないだろ。おまえの幸せは俺の幸せだからなぁ。」

「ほんとかよ?まぁ、いいや。とにかくこれからだ。」

 

「そうそう、これからだ。せいぜい振られないように気をつけてな。」

「美樹生、おまえ俺の幸せ願ってるなんて嘘だろ?」

 

「ばれた?」

「この野郎!」

 

「あはははは。」

 

 帰りのなだらかな坂道を追い駆けっこをしながら帰る二人を丸く大きな月が見ていた。

 

 それから、日に何度か宙は絵羽とメールのやり取りをするようになった。お互いの学校のことや家のことなどありふれた日常のことが主だったが、本当は宙にとって一番聞きたかったのは彼氏のことだった。

 家に帰って夕食を済ませた頃、思い切って絵羽に彼氏のことをメールしてみた。

 

 《話変わるけど、その後どう?彼氏とは?》

 

 ほどなく返信が返ってきた。

 

 《ビミョウ。あれから校内で会ってもなんかよそよそしくて(-_-;)》

 

 その返信にかわいそうと思いながら片方でガッツポーズをとっている自分がいた。

 

 《そうなんだ。でも、はっきりさせなくていいの?》

 《うん。それはそうなんだけど、なんかメールとかでするのもなんだし、会ってちゃんと話したいんだけど。なんかチャンス逃しちゃって。》

 

 《とりあえずメールでアポ取って話す日を決めるとか。》

 《そうだよね。それが一番いいかな。うん。そうしてみる。ありがとうね。宙》

 

 《いや、お礼言われるのも変だけど。がんばって!俺が応援してるから!(^^)!》

 《ありがとう。んじゃ、メールしてみるね。また連絡する。おやすみ!》

 

 そういって絵羽からのメールが途切れた。

 その日はなんだか遅くまで眠れなかった。ふと外をみると絵羽と出会った日と同じように霧が立ち込めていた。


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