バロールよりも好きって言って?
前回のあらすじ
ショタっ子と混浴だ! やった! と思っていたら、エミルきゅんが竜化してしまいました。
取りあえずデッキブラシで磨いたら激しくンアりました。かわいかったです。
気を失い、竜化が解けて人型に戻ってしまったエミルきゅんを抱えて、待ちに待った温泉へとインする私たち。
「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ん染みるぅ。疲れた体に温泉が染み渡るぅぅうぅうぅうん!」
『ルージュ。ルージュ。乙女にあるまじき声が出ていますよ』
『乙女なあ。見た目はこれでも魂はオッサンなのだから仕方あるまい』
「うるさいよ! せっかくの温泉なんだから無心で浸らせてよ!
ほらほらエミルきゅん起きてます? 人界の温泉ですよ。染みますよ~。気持ちいいですねえ。気持ちいいですか?」
『う~ん。う~ん。きっ、気持ちイイ……気持ちイイよぉ……』
エミルきゅんはびくんびくんしながら言いました。
「よかった。目を覚ましたみたいですね」
『いやどう見ても気を失ったままだろう』
『しかも魘されていますね。プッ。ざまぁ』
女神はとても機嫌がよさそうに言いました。
えっ。魘されてるんですか、これ?
私、気持ちよがりながら魘されている男の人って初めて見ました。いや、女の人でも見たことないんですけど。
『そんなことよりもルージュ。魔族とそんなに密着していて本当に大丈夫なのですか?』
「えっ。何がですか?」
女神の問いかけに首を傾げる私。
今の私の体勢を分かりやすく伝えますと、浴槽縁に背をもたれながら、ぐったりとしているエミルきゅんをぎゅっと抱きしめて支えているような格好です。
相当な密着度であることは否定できません。
お腹に当てた手の平からはエミルきゅんの細さとしなやかさが、腰と太ももからはエミルきゅんのやわらかなおしりの感触が伝わってきていて、大丈夫か大丈夫でないかで言えば、正直たまらない状況です。
『忘れたのですか? ここホワイトタブの温泉とあなたの魔力は相性抜群。勇者と魔族と混浴するだけでも問題だというのに、万が一あなたがその魔族に対して発情するようなことがあれば、その邪な感情はたちどころに湯に浸透し、最終的に今度こそオットーの命はないでしょう』
「着地点そこなの!? フレードさんもういないよ!?」
『それはどうだろうな。我には顔を紅潮させ股間を膨らませながら人里に下りて青少年を追い掛け回す首輪姿の変態の姿が鮮明にイメージできたが?』
私にも鮮明にイメージできました。
否定できませんでした。
「まぁオットーさんのことはさておき、私は問題ありません。いまの私の心を占めているのは、性欲ではなく慈しみの心。そこにあるのは下心ではなく無償の愛なんです。イエスショタっ子、ノータッチ。つまり、世界は平和ってことなんです」
『ルージュ。人界は戦時中ですよ。その誤った認識を早急に正すのです』
『ほっとけ! どうせ深い意味などないわ! そもそも思い切り触っているではないか! 抱きしめちゃってるではないか!』
「大丈夫です! 美少年はお腹までだったら触ってもセーフなんです! 女の子の乳首は許されないけど、男の子の乳首は許されるのと同じ理由です!」
『どんな理由だ!? そして誰が許すのだ!?』
『アウトですよルージュ! 乳首は許されてもその発言は勇者的にはアウトで許されませんよ!』
「そんな! 私には魔王になるしか道はないの!?」
『乳首を改めるつもりはないのですか……!?』
『乳首を理由に魔王を継がれても喜ぶに喜べんわ!』
「乳首乳首ってオマエらうるせーーーーーーーっ!」
あっ! いつの間にかエミルきゅんが起きてます!
「エミルきゅんおはよう! 気持ちイイですか?」
「この話の流れで第一声がそれ!? 風呂の話だよな!? 乳首の話じゃねーよな!?」
「何言ってるんですか。温泉の話に決まってるじゃないですかエミルきゅんたらやらしい!」
「コイツマジでむかつくな! あー気持ちイイよ! 予想を超えて気持ちイイよ! なんかすっげー疲れ取れるよ体のはな!」
「まるで体以外の疲れは取れてないぜとでも言いたげですね暗に」
「言ってんだよまさに! 心の疲れがハンパねーよ! あといい加減そのエミルきゅんって言うのやめろ!」
「えーいいじゃないですか! 呼び名から可愛さが滲み出てますよ! かわいいかわいい。エミルきゅんかわいい」
「竜王! 俺これでも竜王だから! 竜王やってることに俺マジ誇り感じてっから! かわいい竜王とかマジありえねーから! だ・か・ら・い・い・加・減止めろーーーーーーっ!」
ぎゅっと抱きしめて頭を撫でり撫でりしながらエミルきゅんの頭髪に鼻先を埋めてくんかくんかする私を完全にスルーしながら、エミルきゅんは吼えました。
私は可愛いと思うのですが、エミルきゅんは本当にそう呼ばれるのが嫌なのでしょう。イヤよイヤよも好きのうち、という言葉はありますが、これは嫌がらせてしまっている本人が使うべき言葉ではありません。
私は抱擁を解いてエミルきゅんを振り返らせると、じっと目を見て言いました。
「分かりました。嫌がらせてしまってごめんなさい。もうエミルきゅんって呼ぶのは止めにします」
「お、おう。なんか急にやけに素直だな……」
「私は本当に嫌がってることはしません。でもその代わりにですね」
「なんだよ」
「『バロールよりも私のほうが好き』って言ってください」
私がそうお願いすると、エミルきゅんは生まれて初めてウェーノでパンダを見た時のような顔になりました。
「はぁ!?」
『待てルージュ! それはどういう意味だ!? 答えによっては我も納得せんぞ!?』
予想通り弾かれたような反応を見せてくれるエミルきゅんと魔王に私は、なんて香ばしい反応なんだろう、やっぱり無自覚相思相愛ショタカップルって最高ですねと内心びくんびくんしながら続けました。
「ああ、違います違います。何も本当に好きになれって言ってるわけじゃないんです。ただ、エミルきゅ……エミルって呼びますね。エミルは普段なら絶対こんなこと言いませんよね?」
「当たり前だ! 誰がオマエなんか!」
「だからです。もしエミルがどうしても嫌で、我慢なんかできなくて、絶対に譲れないようなことがあったら、『バロールよりも私のほうが好きだけど、それだけは嫌だ』って言って断ってください。そうしたら私はもう、そのことをエミルに強制したり、エミルが嫌がるようなことはしません。約束します」
『つまり、普段絶対に口にしないような言葉を合い言葉にするという訳か?』
「そういうことです。もちろん、私にも私の目的がありますから、勇者だとか魔王だとかに関しては、すみませんけど譲れません。エミルには陛下に会ってもらわないといけませんし、一緒に旅もしてもらいます。だけどそうでない部分は、極力お互いに傷つかないところを探していきたいと思います」
「う、うーん」
じっと目を見てそう話すと、エミルは何やら視線を逸らして、ひどく悩ましげな様子でした。
私の言わんとすることは分かる。だけど感情が追いついていかない。たぶん、そういうことなのだと思います。
ですので私は押しました。
「お願いエミル! 言うだけっ! 言うだけでいいんですよっ! 気持ちゼロの感情の籠らない棒読みでも全然いいです! なんなら頭に『嘘だけど!』とか付けてもらっても構いません! 『こんなこと全然本心じゃないし無理やり言わされてるだけだし百パーセント嘘だけど、俺、バロールよりオマエが好きなんだからなっ!』とかで全然あっちょっと待って鼻血が昇ってきそう」
「自分で言って自分で興奮すんなバカぁ! へっ、変態! この変態! 変態勇者ぁっ! 俺はオマエが魔王だなんて絶対認めないぞ! なんでそんな必死なんだよキモいんだよぉ!」
『よせエミル! それ以上ルージュを興奮させるんじゃない!』
私は懸命に鼻を抑えて上を向き、体をびくんびくんさせつつ耐えました。大丈夫。私は生きてる。この幸せな時間の中で誰よりも強く生きてる!
「……ふう。さぁ、エミル。そんな訳ですので、記念すべき第一回目をお願いします」
「えっ!? それ今から有効なの!?」
「勿論! そうでないと私、本当にエミルが嫌がってるのか分からないなー」
「白々しい! 白々しいぞこの勇者! 白いのに黒いってどういうことだよ! その灰色の魔力はつまりそういうことなのか!?」
微妙にうまいことを言いながら勢いでごまかそうとしているエミルの耳元で、私はぽそっと言いました。
「エミルきゅん」
「っ!?」
「えーみーるーきゅ〜ん?」
「うっ、うぐっ」
みるみる真っ赤にのぼせ上がっていくエミルきゅん。だけどエミルきゅんは強情でした。ぷるぷると震えながらも、その言葉だけは口にすまいと葛藤しているのが分かります。
なので私は押しました。
押して押して押すことにしました。
ホワイトタブの濁ったお湯に身を沈めながら近い距離で見つめ合う私とエミルきゅん。
そんなエミルきゅんの腰にスッと手を当てもう片方の手は頭のほうへ。そのままきゅっと抱き寄せながら、私はほっぺですりすりしながら耳元で囁きました。
「かわいい。エミルきゅんかわいい。はーホントかわいい。エミルきゅんは全身くまなくかわいい。エミルきゅんは余すところなくかわいい。かわいいねえ。ねえエミルきゅん。エミルきゅんエミルきゅんエミルきゅんエミルきゅん」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
声なき悲鳴をあげるエミルきゅん!
真っ赤を通り越して噴火しそうな顔色でした。
私はもの凄くいけないことをしている気分になりながら、それでも決して追撃を緩めたりせず、ひたすら本能のままにエミルきゅんのふわふわほっぺにすりすりし続けました。
そして。
「あーーーーーーーもーーーーーーー! すっ、すっ、すっ、好きだよ! バロールより好き! 好きだから、もういい加減に止めてくれーーーーーーーーっ!!」
エミルきゅん……もとい、エミルはとうとう言いました。
言ってしまいました。
私がすっと抱擁を解いて体を離すと、エミルきゅんはがっくりとうなだれました。
偉大にして強大。風と嵐の支配者と謳われた竜王エミルのプライドを、一人の町娘が完膚なきまでに打ち砕いた瞬間でした。
その歴史的瞬間を前に、私は力いっぱい自分の太ももをつねりながら、
はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!
という、心の奥底から湧き上がってくる無限の衝動に、ただただ懸命に耐え続けました。
そのあとすぐに温泉から上がるはめになったのは言うまでもありません。
「ところで女神さま。なんか色々ありましたけれど、温泉のほうは大丈夫でしょうか」
『分かりました。アウトかセーフでお答えしましょう』
「お願いします」
『チェンジです』
「……それは……スリーアウトってことですね……」
私は事情を説明して、ツーマさんにお風呂を張り替えてもらいました。
ごめんなさい、ツーマさん……。
温泉って人をすごく開放的にしますよね。
私も書いていてもの凄く楽しかったです。
 




