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聖槍? 魔槍?

前回のあらすじ


 ショタっ子をお風呂へと連れ込みました。

 

 とまぁそんなこんなで脱衣所から大浴場へと移動した私たち。大きめのタオルを体に巻いて、両手をワキワキさせながら意気揚々と振り向いたわけなのですが。


「さて! 気を取り直して、ごしごし洗っていきま……す……よ……」


 そこに期待した細身の美少年の半裸姿はなく、代わりに山がありました。

 見上げちゃうほどの山でした。つい最近、どこかで見たような翠色をした山です。見覚えあるなー。なんか凄い既視感を感じます。デジャヴュって言うんでしょうか。確か竜化して竜王モードになったエミルきゅんの鱗がちょうどこんな色だったような気がー。


「っていうかなにしてるんですかエミルきゅん。解いて。今すぐその竜化解いて」

「イヤだね! オマエのその嫌らしい目つきでじろじろと見られるくらいならこっちの姿のほうがマシだ!」

「いやでも室内! ここ、室内ですよ! いくら広いってったって限度があるでしょ! 言っておきますけどその姿でここの設備に指一本触れたらダメですよ! もしもうっかり壁とか天井ぶち抜いたり、桶の一つも壊そうものなら、女神さまが黙ってませんよ!」

「どう黙ってないってゆーんだ!? 俺はもう知ってるんだからな! クソ女神は所詮口だけで、直接手出しなんかできねーってことをよー!」

「いいや! エミルきゅんは女神さまのことを分かっていません! いいですか。よく聞いてください。我らが人界の女神トーラさまはね」

「なんだよ」

「この世界で最もお金にうるさいんです」

「……」

「エミルきゅんはピンと来ないかもしれませんけど、ホワイトタブの宿はきほんどこも高級宿なんです。設備一つひとつにとんでもないお金がかかっているんですよ多分。具体的な金額は想像もつきませんけどきっとそうなんです。もしですよ。もしエミルきゅんがそんな温泉宿の目玉とも言える大浴場で、万が一何かを壊して弁償だなんて騒ぎになったら、私はまず間違いなく、女神さまに泣きつきます! なりふり構わず!」

「……」

「想像してみてください。エミルきゅんに明らかな非があって、女神さまがその金策の提案を私に求められたとき、女神さまがいったいどれほど楽しそうに、活き活きとし出すかを」

「……」


 エミルきゅんはぶるぶると震えだしました。


「私の言いたいことは分かりました?」

「……うん」

「じゃあ、危ないから竜化解きましょう?」

「……やだ」


 いやだと言いながらもエミルきゅんはきゅっと体を縮め、翼を慎重に折り畳みました。確かに見た感じコンパクトになったように見えますがまだまだ全然でかいです。っていうか竜化は解く気ないですか。そうですか。いや、これはこれでなんだかギャップカワイイのですが。


「はぁ。しょうがないですね。恥ずかしがり屋のエミルきゅんのために、ここは私が譲りましょう」

「れっ、礼なんて言わねーぞ!」

「はいはい。その代わり、お湯に浸かる時くらい竜化は解いてくださいね。流石にその姿だと、どうやったってサイズ的に無理なんですから」

「ぐっ……わ、分かった」


 っしゃー! ショタっ子モードのエミルきゅんとの混浴確保に成功ォー!

 私は見えないところで小さくガッツポーズをしました。


「ところでエミルきゅんは、その状態で自分で体洗えるんですか?」

「オマエがここから出て行ったら姿を戻して自分でやるよ!」

「却下です。エミルきゅん目を離したら飛んでいっちゃいそうですし、第一私が楽しくないです」

「ぐっ、こ、コイツは……! じゃあ、オマエがなんとかするんだな! なんせ困るのはオマエなんだからな! 俺は別にこのままだって構わないんだぜ!」

「それはちょっと看過できない不潔発言ですねえ」

「俺だって好き好んでやってねーよ! オマエが出て行かねーからだろうが!!」


 そう言って牙を剥いて唸るエミルきゅん。

 私はふむと考えました。

 この状況。一見するとワガママを言って私を困らせようとしているように見えますが、言っていることをよくよく捉えると「お姉ちゃん、体洗って?」に聞こえなくもありません。

 「お姉ちゃんが洗ってくれないなら、ぼく体洗わないもん!」でも可。


 なんでしょう。急激にご褒美感が湧いてきました。


「まぁもともと美少年フォルムのエミルきゅんを問答無用で私が手洗い丸洗いする予定でしたし、そう考えるとエミルきゅんが竜化してても大きな問題はないかもしれませんね」

「オイ聞こえてるぞ犯行予告的な独り言が!」

「あい分かりました! そこまで言うなら仕方がありません。私が洗ってあげましょう!」

「クッ……! ニンゲンに……しかもよりにもよって勇者なんかに体を洗われる日が来るなんてっ……! でも人型で洗われるよりは数十倍マシだっ……!」


 エミルきゅんは何やら葛藤しているようでした。


 さて、そうと決まれば早速……といきたいところなのですが、竜化したエミルきゅんの体はそれこそ乗れちゃうくらいのサイズです。流石にタオルやスポンジで、というわけにはいきません。

 何か道具が必要でした。

 そこで大浴場の中を見渡してみると、隅の壁に、とある物が立てかけられているのが見えました。

 それは掃除用具でした。

 シンプルな見た目と抜群の汎用性を兼ね揃えた、対床決戦兵器と言っても過言ではない万能清掃用具。

 その名も。


「なぁ。オマエ、それ何持ってきたんだ?」

「見て分かりませんか? デッキブラシです」


 私はデッキブラシを槍のように構えてにやりと笑いました。

 エミルきゅんは心底嫌そうな顔をしました。


「それ、形からして床をこするヤツだろ……? そんなので俺を洗う気か? 止めろよ汚ねーだろ」

「それはどうでしょう。案外今のエミルきゅんのほうがばっちぃかもですよ」

「ぐぐぐコイツは……! チッ、しょうがねー。だけど早く済ませろよ!」


  @


 がっしゅがっしゅがっしゅっしゅ。


「ンアーーーーーーーーーーーーーッ!!(↗︎) やめっ、止めろォーーーーーーーーーッ!!」

「またですか!? ちょっとガッツが足りてないんじゃないですか! さっきから休憩ばっかりじゃないですか!」

「だって、だってこんな! んひぃ! やめっ! やめてって、言っ、ンアァアーーーーーーーッ!!!(↗︎)」


 びくんびくん。私の下で、緑竜の大きな体が気持ち良さそうに痙攣しています。

 私がゆっくりとエミルきゅんの背中からデッキブラシを離すと、まるで粘膜が糸を引くかのように小さな泡がまとわりついてきます。そしてその一つひとつに感覚があるかのように、再びエミルきゅんはふるふると体を震わせるのです。


 デッキブラシにまとわりついているのは泡だけではありませんでした。私の体から無限に沸き出してくる濃密な魔力が、デッキブラシを覆っていました。魔力で繋がったような感覚。アグニの偽聖剣を振った際、そのつもりもなかったのになぜか性能が超強化されてしまったあの現象が、いま、オールドウッドの大浴場に立てかけてあったデッキブラシにも起こっていました。

 アグニのアレが湖を割った聖剣だとしたら、竜王をひれ伏させたこれはさしずめ……そう。


「魔槍、デッキブラシ……!」

『そこは聖槍ではないのですか?』

「いやあ、なんだか灰色も黒寄りですし、魔っぽくないですか?」

『まあエミルのこの様子を見る限り、魔族を調伏していると言えなくもないが……』


 びくんびくんするエミルきゅんを見下ろしながら好き勝手なことを言う女神と魔王。

 どうやらデッキブラシがトンデモアイテムになってしまったことについては、誰も突っ込む気はないようでした。


「それにしても気持ち良さそうにとろけてますね。頑丈そうな鱗なのに、実は緑竜族って意外と敏感肌なんですか?」

『いいや、寧ろ逆だ。竜族の鱗は痛みや熱などの感覚を軽減するはずなのだ』

「じゃあやっぱりこれも魔力のせい?」

『だろうな。だがこれは、どちらかというと魔王だ勇者だと言うよりはおまえの願望の現れのような気がするぞ』

『聖槍ならぬ性槍というわけですか。更にそれを清掃道具にかけてくるとはルージュは実にユーモラスですね』

「なんか微妙に面白くないネタをあたかも私が言ったみたく言うの止めてよ!」

『いまわたくしが暗に面白くないと、そう言いませんでしたか? ルージュ? わたくしの声が聞こえていますね?』

「それにしても、このまま続けていいんでしょうか? 私的にはエミルきゅんのイイ声が聞けてちょっとご褒美気分ですけど」

『いいのではないか? 周囲のものを壊さぬ程度には自制も働いておるし、見違えて綺麗にはなっているからな』


 デッキブラシにこすられた後のエミルきゅんの鱗は、それまでの輝きがくすんで見えるほどに見違えた輝きを放っていました。

 今までの翠色が深い海の色だとしたら、今のエミルきゅんは光魔法を受けて眩く輝く宝石のようです。


「うーん。それじゃあエミルきゅんにはもうちょっと頑張ってもらいますか」

『うむ。エミルも普段感じないであろう刺激に戸惑っているところもあるのであろう。慣れれば意外と馴染むかもしれん』

「普段固く守られているからこそ、突然の刺激には敏感ってことですか?」

『おまえはどうしてそう微妙な言い回しを好むのだ……』

「なんかアレみたいですね」

『ルージュ。オブラートに包めば何を言っても許されると思っては大間違いですよ』


 女神と魔王のお小言を小耳に挟みつつ、私は再びデッキブラシをエミルきゅんの体にあてがいました。

 途端に敏感に反応を返すエミルきゅん。ですが私は、今度は手を止める気はありませんでした。


 がっしゅがっしゅがっしゅっしゅ。


「ンアーーーーーーーーーーーーーッ!(↗︎) ンアァァアァア!(↘︎) ンアァァーーーーーーーーッ!!!(↗︎)」


 エミルきゅんの断末魔じみた嬌声が、檜張りの大浴場の壁に響きました。

 私はそれを聞きながら、体を動かして汗を流すという肉体労働の素晴らしさをじんと噛み締めました。


 気がついたときにはエミルきゅんは失神していました。

 そして体のいたるところが、ちょっとありえないくらい光り輝いていました。

 それを見て私は、綺麗だな、と思いましたが、羨ましいかと問われると、肌が光り輝くのはなんか違うなと思いました。

精巣にもかけたかったけど無理だった。

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