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逃げ場はありませんでした。

前回のあらすじ


 エミルはくっ殺の後、無事従者になりました。

 

「勘違いすんじゃねーぞ! 俺は別にオマエに心から屈服したわけじゃねーからな! バロールのため、仕方なく! 仕方なくオマエに従ってるフリだけはしてやる! フリ! フリだからな! いいな! だから調子乗るんじゃねーぞコラァ!」

「エミルきゅん復活早いですね」

「うむ。エミルは昔からすぐに凹むのだが、その分メンタルの回復は早いのだ」

「勇者かも知れないヤツにそういうこと言うんじゃねー!! あとエミルきゅんって呼ぶなーーーーっ!!!」


 やれやれ。一時はどうなることかと思いましたが、なんとか無事に竜王改めエミルきゅんを従者に迎えることができました!

 エミルきゅんをこの目で見るまで、胸中を渦巻いていた様々な不安。

 怖そうな人だったらどうしよう。

 生理的に受け付けないタイプだったらどうしよう。


 そんなのはまったくの杞憂でした。

 何故ならエミルきゅんは、唾を飛ばして怒鳴る姿さえも優しい気持ちで見守りたくなるほどの思春期系かつ反抗期系美少年。

 人の姿をとったエミルきゅんは、怖いというより可愛い。竜王というよりエミルきゅん。そう呼ぶのが相応しいくらい、ちっちゃくて愛らしい男の子だったのです。


 そう。

 人々を恐怖に陥れた竜王の正体は、ちょっぴり生意気で口がやんちゃなただのショタっ子だったんですよ!!


「バロール。コイツ目ん玉ちゃんとついてんのか? 雄々しく竜化した俺の勇姿がなかったことになってるんだけど?」

「安心しろ。人界もそこそこ広いが、おまえをただの子ども扱いできるニンゲンなどこいつだけだエミルよ」

「ええ……。俺これからコイツについていかなきゃならねーんだろ? 安心できる要素が皆無なんだけど」


 はっ! そうでした。人知れずふんすふんすしている場合ではありません!


「そうです。これからエミルきゅんには私たちと一緒に来てもらうことになります。バロールから聞いたと思うんですけど、目下の目的はズバリ、魔界観光です!」

「観光」

「はい。勇者兼魔王になってから私、人界はそこそこ歩いてきたんですけど、やっぱり勇者になるにしても魔王になるにしても、魔界は絶対一度は見ておかなきゃならないスポットじゃないですか」

「魔界を観光名所みたいに言うな」

「だから出来るだけ早くに魔界に行きたいんですけど、でも人界も色々ありまして、もしかしたらエミルきゅんには少し待たせてしまうかもしれません。だから先に謝っておきますね。すみません」

「いい加減エミルきゅん言うのやめろ! ……待たせる? 何をだよ」

「魔界に帰れるのが、です」

「は?」


 エミルきゅんのおめめがぱちくりと瞬きました。

 あれ。何か変なこと言ったかな。

 戸惑う私以上に、エミルきゅんは急に狼狽えたようになりました。ちらちらと交互に私と魔王を見やり、どこか挙動不審で落ち着きなさげです。

 まるで思っても見なかったものが目の前に急に現れて戸惑っているような。

 そこまで考えて、私は得心しました。


 ああ、そっか。

 エミルきゅんは今まで実感が湧いていなかったんだ。


 魔王がくつくつと笑いながら言いました。


「ま、人界でのゴタゴタを片付けてからにはなるがな、エミルよ。今一度改めて言うぞ。おまえはやがて嫌でも魔界に帰ることになるのだ。このわがまま娘に連れられてな。当代の魔王、ルージュについていくとはそういうことだ」

「わがまま娘ってしっつれいな」

『魔王ではありませんっ! ルージュは勇者ですっ!』


 私の異議を打ち消すように、島の隅っこで膝を抱えてのの字を書いていた女神がキッと振り返って言いました。ただいま女神は絶賛いじけモード発動中。無理やりお口を閉じたのがだいぶ堪えたようです。

 魔王は「いい薬だ。ケッ」などと言っていましたけれど、それは言い過ぎなんじゃないかなあと思いつつも、もしまた話が進まなくなった時には強制執行を辞さない覚悟の私です。


 魔王たち魔界勢も当然のように女神をスルー。女神はしめやかにのの字を生産する作業に戻っていきました。


「……帰れる? 俺が?」


 まだ呆然としているエミルきゅんに、とても優しく語りかける魔王。

 凝り固まり、複雑に絡んだ心の糸を、一本ずつ解きほぐしていくかのよう。


「この我と再会したというのに、まさかおまえ、自分が帰れるはずがないだなどと思ってはおるまいな」


 感極まったようにきゅっと唇を噛み締めたエミルきゅんは、きっと、そう考えていたに違いありませんでした。


 いつしかエミルきゅんは、ここでの孤独な生活が当たり前のものになっていたのでしょう。

 魔界での生活や思い出の数々を、ずっと過去のものとして飲み込んでしまったのでしょう。

 だからきっと、死に別れたはずの魔王や、勇者兼魔王を名乗る娘なんていうよく分からない存在が突然現れても、ましてや魔界観光がどうのと聞かされても、本の中の物語のように遠く感じていたに違いありません。


 今まではそうだったのかもしれない。

 だけどこれからはそうじゃないんだよってことを、私は、私たちはエミルきゅんに伝えなくてはなりませんでした。

 それが私とエミルきゅんの関係の、大切な第一歩でした。


「それにルージュのことだ。どうせ言われなくても、おまえの故郷に行きたがるに決まっている」

「エミルきゅんの故郷! いったいどんな場所なんですか?」


 どこかおどけた調子の魔王に、私は興味津々に聞き返します。

 演技の必要すらありませんでした。だって本当に気になるんですから!

 すると魔王は待ってましたとばかりに鼻先をついとこちらへ向けました。

 以心伝心。人間の娘と元魔王による、打てば響くようなやり取り。

 これを魔王も楽しいと感じてくれていれば嬉しいな。


「エアーリア竜谷と言ってな、大地に高くそびえる渓谷の中腹にある緑竜族の集落なのだ。無数の洞窟と吊り橋から成る、非常に情緒ある場所だ。それだけでも美しい場所なのだが、特に絶景なのは夕日が差し込む時だ。無数に走るオレンジ色の光の中を、渓谷の隙間を縫うようにして無数の緑竜族が飛び交う様は、死ぬまでに一度は見るべきだと魔族の間で語られるほどだ」

「うわあ〜! すごい! 竜が飛び交う光景なんて、想像もできませんよう! ねえバロール、ホワイトタブも山間の町でしたけど、雰囲気似てますか?」

「全然違う。そうだな、あれは口で説明するのが難しい。実際に行って、その目で確かめてみないことにはな」

「汚い! 流石魔王汚いです!」

「クックック、そう褒めるな、照れるではないか」


 魔王はそれはそれは魔王らしく、無駄にイイ声で誇らしげに言いました。

 ですがその時、私は少年モードの魔王の姿を思い出してしまって、それがあまりにも似合ってなくて笑ってしまいました。

 エミルきゅんも笑っていました。目じりを下げて、瞳を潤ませながら。


「いつか案内してくださいね」


 少し屈んで、目線を合わせて。私はエミルきゅんにお願いをしました。

 その意味が、じんと胸に染み入ったのでしょう。

 エミルきゅんはぐっと唇を噛んで俯いてしまいました。

 フードの淵からぽたぽたと雫を零しながら、それでもエミルきゅんは涙を拭かずに言いました。


「誰が連れていくかよ。ばーか」


 泣いてるだなんて認めない。

 嬉しいだなんて思ってない。

 いたいけな美少年のか細い鼻声によって奏でられる、精一杯の強がり。


 その声に、私の心の中にある理性(ピン)が、重たいボール状に何かによってガッシャコーンとなぎ倒されるイメージを見ました。


 はぁーーーーーーーーん!!!

 なにこの生き物! かわいすぎるうううううう!!


 なでなでしたい。抱きしめたい。ドロドロに甘やかして慰めたい! でもいま触ったらすっごく怒られそうな気がする! 沈まれ、私の野生! 沈まれぃ! 沈まれぇえーい!!

 あーーーーっ! だけど魔王がいったああああ! 足をぺろぺろして慰めています! 汚い! 流石魔王汚い! ずるい!! あっ、ショタっ子の足が汚いという意味では、ないですよ……?

 よくよく考えたら、魔王も実は犬よりワイルド系美少年がホントの姿っぽいんですよね……。つまり、この光景ってどういうことなんだろう。泣いてる子を慰めるために、足下に跪いて足を舐めてる美少年って図に置き換えていいのかしら。

 あっ。鼻血出そう。


  @


「さて、それでは話を戻すんですけれど」

「鼻に布を詰めながら言うなよ……」

「ノットデリカシー! 逆にそう言う事を女の人に言っちゃダメですよ! 極めて失礼!」


 溢れる血をどうにかするために、やむを得ず布を使う必要が女の子にはあるんです!

 しかもこの布は女神に祝福(ブレス)された、止血効果のある有り難ーい鼻に詰める用の布なんですからね!


 私が目じりを吊り上げると、流石のエミルきゅんも勢いに押されたのか目を逸らしながら「わ、悪い」と謝ってくれました。やだこの子素直かわいい。悪い男の人に騙されないか、お姉さん心配です!


「いや、やっぱ鼻に詰めるのはやっぱ何かが違うような気が……」

「それはさておきエミルきゅん。これから王都に行く前に、バロールのほうから一言あるそうです」

「なんだよ改まって。アレだろ? 王都って、つまりニンゲンがたくさんいる場所のことだろ? 心配すんなよ。今更暴れたりしねーよ。まっ、連中から攻撃してくるってんなら、俺も容赦しねーけどな」


 ギラリと八重歯を輝かせて危険に微笑むやる気充分のエミルきゅんですが、残念ながらそういうことを言いたいのではありません。

 私が魔王に視線を寄せると、やれやれといった風に話し始めました。


「エミルよ。率直に言うが、今のおまえはだな」

「なんだよ」


 魔王は遠慮容赦の一切もなく言いました。


「臭う」


 おそらくその時、数秒間だけ時が止まりました。

 やがてエミルきゅんが小刻みに震えながら再起動。


「……ハッハッハ! おいバロール。オマエ、デリカシーが、なんだってえ?」

「それを言ったのは我ではないぞエミルよ」

「うるせー!! しょーがねーだろ! 俺が何ヶ月この島で一人暮らしたと思ってんだ! 湖で水浴びするだけじゃ、どうにもならねーことだってあるだろうがよぉ!」


 エミルきゅんは深く傷ついたのか、さっきとはちょっと違った涙がこぼれそうになっていました。

 そんなエミルきゅんに私と魔王は、ごめん! ごめんよと何度も声を重ねながら、それでもこれは、エミルきゅんが憎くて言ったわけではないのだと伝えました。


 そう。

 エミルきゅんは竜王というフィルターを通すと惑わされがちですが、しかし同時に、人の立ち入らない湖上の島で長い時間を過ごして来た現役バリバリのサバイバーでもあるのです。

 生きるだけでも大変な環境です。そんな状況下で、体を清潔に保ち続けられるわけがないのです。

 よく見ると髪はごわごわしてますし、お顔を見るに、満足に顔も洗えていないのは一目瞭然でした


「正直、さっき足を舐めた時も変な味がしたぞ」

「どんな? ねぇバロール、エミルきゅんのおみ足はどんな味がしたの?」

「ルージュよ。何故おまえはそんなにもそこに食いつくのだ」

「足の味とかどうでもいいだろ! 変態かよオマエ!」

「なにを! じゃあ実際に足を舐めたバロールは変態だとでも言うのですか!」

「ばっ!? バロールは…………その。いいんだよ……」

「誤解を招く言い方をするんじゃない! おまえのほうが変態みたくなっているぞ!?」


 てれてれと魔王を擁護するエミルきゅん。そんな風に特別扱いされる魔王がちょっぴり羨ましいです。特に魔王だからいいのか、犬モードだからいいのかによっては私の大事な選択にも影響を及ぼしかねません。

 美少年の足をペロペロできるなら、魔王になったっていい。そう言う女の子だって太陽の光を浴びて呼吸をしてもいいのだと、私はそう思うのです。


「んんっ! ……何度も言いますけど、別に責めてるわけじゃないんです。こんな状況だったんだもの、しょうがないですよ。

 だけどこれから私たちはエミルきゅんを国王陛下にご紹介しなくちゃいけません。ゴードグレイス聖王国の国王っていったら、それはもう偉い人なんです。魔界で言うと……どのくらいですか?」

「人界のジクス・ストーカーと言ったら分かるか? エミルよ」

「あー、なんとなくは」

「ジクスさんって、前に話してた魔族の取り纏めの人ですか?」

「ああ、そうだ」


 氏族によって見た目が大きく異なる魔族たち。それを束ねて、取り纏めるというのだから確かに魔族のトップと言っても過言ではないのでしょう。

 ジクス。ジクス・ストーカー。私もいずれ魔界に行った時に、お会いする機会があるかもしれません。名前だけは覚えておこうっと。


「そんなわけですので、お会いする以上はなるべく失礼のない形にしないといけません。とはいえエミルきゅんは臭っても魔族ですし、細かい礼儀作法はこの際置いておきましょう」

「オマエいま臭ってもって言ったか? なぁ」

「細かくなくとも礼儀作法なんぞおまえも知らんだろうが」

「とにかく! せめて匂いだけでもどうにかしないといけません。そんなわけですので女神さま、エミルきゅんに清浄魔法をお願いしてもいいですか?」


 私はいつの間にかネハンブッダスタイルに体勢を移し、こちらに悩ましい背中を向けている女神さまに言いました。

 この三ヶ月間、私とアグニがたっぷりとお世話になった女神の清浄魔法は一言で言うと、体や服を綺麗さっぱり清潔な状態に戻す魔法です。お風呂上がりのようなさっぱり感はありませんが、匂いや汚れ、痛んだ肌や髪質なんかもどうにかなってしまう優れものなのです!

 優れものなのですが。


『は? 嫌に決まっているではありませんか。むしろそのままのほうが魔族の穢らわしさを全身で表現していてよいのではありませんか?』

「ですよねー!」


 ご紹介します。あちらで顎だけで振り向きながらボリボリとお尻を掻きつつ嘯いているのが我らが人界の女神さまです。

 魔族のために使う魔力はこれっぽっちもないという不退転の覚悟を感じます。凄まじい貫禄でした。全身の所作で己の意思をあますことなく表現することをボディ・ランゲージと呼ぶのであれば、女神に勝る使い手はこの世にいないでしょう。


 まぁ正直、私も女神さまが素直にお願いを聞いてくれるとは思っていませんでした。女神の魔族嫌いは年季が入っていますからね。

 でも一応は聞いておかないと自ら存在をアピールしてくる上に、じゃあと頼むとやっぱり断られることになるので必要な手順でした。我らの女神さまはめんどくさいことでも有名なのです。


 ですが敢えて言いましょう。計算通りと。


「いやー女神さまに断られちゃいましたね。困ったなー。断られちゃったからには、もう、他に方法もないしなー。仕方ないなー」

「バロール。バロール。この女、急にすげーニコニコし始めて怖いんだけど。なんなの? 何をする気なの?」

「凄まじい茶番臭を感じるが、一応言ってみろ。ルージュ、おまえはいったい、何をどうしたいのだ?」


 急にてれてれにまにまとし始める私に対して、ぷるぷると怯えた様子を見せるエミルきゅんと呆れ顔の魔王。

 そんな二人とついでにやさぐれ女神に向けて、私はにこやかに言い放ちました。


「決まってるじゃないですか! 魔法がダメなら手洗いです。古今東西、体を洗うと言ったらお風呂! 温泉と相場が決まってますよ!」

「おお! ホワイトタブか!」


 私の提案に、嬉しそうにはしゃぐ魔王。

 ホワイトタブの町では色々と、それはもう色々なことがありましたけど、魔王の中では最終的に、美味しくて良い思い出として消化されているようです。

 出来れば例の件も忘れてくれているといいのですが。


「風呂か!? 何ヶ月ぶりだろう!」


 お風呂と聞いてエミルきゅんも嬉しそうです。

 私はうんうんと頷いて続けました。


「人界の素敵な温泉宿を知っているんです。ご飯もお風呂も、宿の外から見える景色も素晴らしいところですよ。あったかいお湯に一緒に浸かって、身も心もリフレッシュしましょうね」

「うん! ……………………………………待って」


 噴血ものの元気なお返事の後、長らく溜めてから待ったが入りました。

 私はすっとぼけることにしました。


「今、一緒にって言ったか?」

「いいましたけど」

「誰と?」

「私と」

「誰が?」

「エミルきゅんと」


 エミルきゅんがじりっ……と一歩下がりました。

 なぜかひどく怯えた目をしていました。


「落ち着いて? 大丈夫、別にとって食べたりはしませんよ」

『ええ。ルージュは『全身くまなく丁寧に、溜まりに溜まった恥ずかしい垢を全部綺麗にこそぎ落としてあげますよ! ふんすふんす!』くらいにしか考えておりません。このわたくしが保証しましょう』

「…………!!!(がくがくぶるぶる)」

「それわざとやってますよね!? 乙女の秘め事をひけらかさないでください!」


 ああっ! いい感じに言いくるめる予定だったエミルきゅんが警戒心を露わにしています!

 女神めぇ! どうしていつもそう余計なことばっかりするのぉ!


「バロール……ニンゲンどもの貞操観念どうなってんの? これが普通なの?」

「いや。単にルージュがおまえを引ん剝きたいだけだろう。この娘は細身の男性に目がないのだ」

「だからって普通ニンゲンが魔族に欲情するか!? オマエの後継アタマおかしいんじゃねーの!?」

「フッフッフ。バレてしまっては仕方がないですね……」


 こうなっては秘め事も何もありません。

 そう。私は臭いにかこつけて、エミルきゅんをまるまる手洗いする気まんまんでした。

 ええ、認めましょう。

 私は本当は魔王が羨ましかったと!

 私だってエミルきゅんに抱きついて思うさま撫で回したいと!

 キューティクルを取り戻したエメラルドの髪に顔を埋めたいと!

 隙あらば「味もみておこう」なんて言ってみたいと!

 こんなに可愛い男の子を、魔王が独り占めにするなんて許せません!

 私だって半分は魔王なんだから、エミルきゅんとスキンシップを図る権利ぐらいはあるはずです!

 我慢する必要なんてありません。

 心配する必要だってありません。

 だって私は大人でエミルきゅんは子ども。

 私がエミルきゅんを丸洗いするのは、姉と弟が一緒にお風呂に入るくらい自然なこと。

 きっと、そうに違いありませんでした。


 エミルきゅんが下がった距離を、私は一歩詰めました。


「やだ……やめろよぉ……来るなよぉ……! そのワキワキさせてる手の動きはなんなんだよぉ……!!」

「これはね、イメージトレーニングです」

「俺に何をする気だーーーーー!!」


 じりっ。じりっ。にじり寄る私に、エミルきゅんが叫ぶような勢いで言いました。

 なにか途轍もない萌えのパワーの塊のようなものを感じました。


「要は綺麗にすればいいんだよな!? 俺っ、一人でできるよ!? 道具がないだけで、好きで不潔にしてた訳じゃねーからぁ! だからぁ!」

「エミルきゅん」


 力なくいやいやと首を振るエミルきゅんの肩を、私はそっと掴みました。

 もうどこにも逃げ場はありませんでした。


「ひぃっ!」

「大丈夫! エミルきゅんくらいの年の子は、女の子と一緒にお風呂に入ったっていいんです! つまり合法です! 合法なんです! 何も問題はありません!」

「人界の司法はどうなってんだよぉ! 魔族に対する慈悲はないのか!!」

「間違いなく合法の意味を取り違えているとは思うが、まぁエミルよ。今回は諦めろ。アズラには我の方からよろしく伝えておくから」

「バロール!? 俺を見捨てるのか!?」

「問答無用です!」

「ひっ!!」


 私とエミルきゅんを包み込む燐光。

 転移魔法の発動の前兆でした。

 気付いたエミルきゅんが魔力の流れを風で散らそうとしているのが見えましたが、勇者の濃密な魔力の前には無駄な抵抗でした。


「いやだぁ! 汚される! なんか俺、今以上に汚される気がする!」

「大丈夫。隅々まで綺麗に、優しくしてあげますからね」


 絶叫するエミルきゅんの輪郭が、徐々に光に解けていきます。


 次に向かうのはホワイトタブ。

 イメージするのは朽ちかけの古木のような古びた旅館。かつてちょっとした事件があり、様々な意味で思い出深い温泉宿『オールドウッド』。


 陛下。アグニ。ごめんなさい。もう少しだけ待っていてください。

 アグニと一緒に旅をするため、後悔しない選択をするため。

 私、これから身も心もサッパリしてきますっ!



 そうして燐光が消えた時、オムアン湖湖上に位置する名も無き島からは私の姿も、エミルきゅんの姿も、魔王の姿もなくなりました。

 後には荒れ狂った竜巻の痕跡と、ネハンブッダスタイルで人知れずふてくされたままの女神だけが取り残されていたという……。


最近またゲームをよくやるようになりました。

ソシャゲだとセブンナイツ、vitaだとPSO2とか面白いですね!

この週末は逆転裁判の新作をやる予定です。


来月はカルドセプトも発売になるしで忙しいですね!

一日が48時間くらいあればいいのにー!


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