森牛狩りに興味津々です。
前回のあらすじ
「という訳で、別に私は特別お金が好きなわけでも、拝金主義者でもないですし、お金でしあわせが買えるだとか、世の中お金だとか、そういうことはまったく全然、これっぽっちも考えていませんが、それはそれとしてこのお金はいただいておきますね!」
「ええ、ええ! 全部まるっとすべて分かっておりますよ勇者様! ご安心ください勇者様!」
『この男もそうだが、ルージュも大概大物だよな』
『勇者の貫禄というものが身についてきていますね』
『うるさいよ』
マツコベ村はゴードグレイス聖王国の中でも北東に位置する小さな村です。
勇者になったことがバレた私が国王陛下にお呼ばれし、気持ち程度に目指している王都ディアカレスはマツコベ村から見て西南西の方角。
故郷のエイピアを離れて約二ヶ月。生まれてこの方一度も出たことがなかった町どころかレイライン辺境伯領すら飛び出して、かなり王都へと近づいてきていますが、今回私たちがマツコベ村を訪れたのは王都への近道だからでも通り道だからでもなくただの寄り道。つまるところ、観光目当てでした。
なにせマツコベ村へと繋がっているのは南から延びる街道一本。これは私たちがやってくるときに通った街道であり、ここから王都を目指すのならば、まずはこの街道を引き返す必要があるからです。
ちなみに、王都から見たエイピアの町が東南東の方角にあることを考えると、どれほど私たちが寄り道しまくっているかが分かります。どう見たって北上しすぎで、まっすぐ王都を目指していないことは一目瞭然です。しかし私に反省はありません。これもすべて、ホワイトタブをはじめとする観光名所が北側に集中しているのが悪い。
さて。
そういった立地も手伝って、マツコベ村は明確に目指さない限りは決して訪れることのない村です。
辺境の村はないない尽くしと言いますが、冒険者ギルドの支部はもちろん旅人のための宿もありません。一応宿の代わりのものはあるのですが、冒険者はあまり寄り付かなくなり、訪れるのは商人ばかり。
それがましてや勇者ともなれば、レガートさんの代では見かけたことすらなかったと言います。
『女神さま。今までの勇者さまたちは、マツコベ村を避けてでもいたんですか?』
『いいえ、ルージュ。単純に、勇者の旅路にこの村がカスりもしなかったのです』
女神に選ばれし勇者はまず女神トーラのお膝元、ゴードグレイス聖王国の王都ディアカレスへと向かい、国王陛下の承認を得ます。ちなみに承認されなかった例はないので、あくまで通過儀礼みたいなものだそうです。
そうして国から認められ、名実ともに勇者となった者は、国王陛下より聖王国に代々伝わる転移魔法を授かります。そして国王陛下のスキルによって世界各地へと『送還』されながら、転移先とレベルを増やすための旅に出るのだそうです。
『国王によって様々な都市に送り届けられた勇者は、その地で歓待を受けたり、幾つかの依頼をこなすなどした後、王都で習得した転移魔法を用いて王都へと帰還します。そして暫し休息した後、国王の手により再びどこか別の都市へと送られる。
国王の『送還』スキルと勇者の転移魔法により、地方と王都を短時間で行き来する。これが、人界のどこかで何かが起こった時に勇者がすぐに駆けつけることができるよう、勇者の転移先を効率よく増やしていくために生み出された勇者の旅の正体です』
人界のどこであろうと、移動時間を限りなくゼロにできる『送還』スキルと転移魔法のコンボは威力絶大。ですがもちろん、いくら効率がよいと言っても限度はあります。
時は無限ではありません。魔王は、魔族はいつだって待ってはくれなかった。
この広い広い人界の中で、限られた時間で。より多くの土地に勇者の影響を及ぼすためにはいったいどうすればよいのか。その議論はずっとずっと昔から繰り返し行われてきたと女神は言います。
ことは勇者。無関係な人も、無関係な国もありません。外交上の問題もあったといいます。多くの国の偉い人たちが集まって、譲れないものを譲り合って、誰もが一生懸命頭を悩ませて。主要な国の主な地方、最低限ここは必要だろうという都市まで数を絞って、それでも半年はかかってしまう。
ある意味、人界で最も過密なスケジュールで動くことを強要されてしまう存在。
そんな多忙を極める勇者に対して、辺境の寒村までご足労願うなんて望むべくくもありません。
『そう言えば私も、今まで生きてきて勇者さまをナマで見た事ってありませんでした。きっと、エイピアもカスらなかったんですね……』
『そうですね。仮にレイライン辺境伯領が選ばれたとしても、『送還』先はエイピアではなく、リエリアになるでしょう』
辺境生まれの田舎娘という自覚はありましたが、こうして女神本人の口から「お前の故郷は辺境です」と言われてしまうと中々クるものがあります。
しかしこのショックな気持ちは、決して私一人だけのものではありませんでした。
女神に言われるまでもなく、誰かに教わるまでもなく、自らの故郷が辺境の地であることを充分に自覚して生きてきた人が私の目の前にも一人いました。
レガート・マツコビアンさん。このマツコベ村の村長さん。
いや、彼だけではなく、もしかしたらこの村の村人全員がそうだったのかもしれません。
私が辺境の小さな町に生まれた田舎娘だとすれば、彼らは辺境の小さな村に生まれた村人たち。
いちいち誰かに説明されなくとも、こんなところに勇者なんて来るわけないよと考えていた人たち。
諦めていた人たち。
だからこそ、突然現れた勇者をまるで珍獣のように扱う人たち。
そんな彼らを代表してか、レガートさんは言いました。
「ところで勇者様は、いったいどうしてこの村を訪れたのですか?」
レガートさんの瞳に灯っているのは、隠しきれない好奇心。
あるいは興味。あるいは期待。
あるいはそれは、欲望と言い換えてもいいもののように私は思いました。
そして私はそれに対して、隠し事なく答えました。
「はい。それは、観光です!」
「うむ。観光だ!」
「えっ。……観光、ですか。勇者様が?」
思いがけない答えだったのでしょう。レガートさんの目がまん丸になってちょっと面白いです。
同じく呆気に取られる村人たちに、私は大きく頷いて答えました。
そう。
何を隠そう私は、世界を救うために世界観光を何より重視する寄り道系勇者。
歴代勇者のお歴々を見渡したところで、こと観光にかける熱意で私の右に出るものはちょっと居ないでしょう。
歴代勇者は忙しかった。その上特に理由もなかった。だからマツコベ村を訪れなかった。
なるほどなるほど。理解できます。
だけど、私は違います。
この人界で私だけは、魔王はまだまだ復活しないことを知っている。
当の勇者本人が、次代の魔王でもあることを知っているから。
だから私にとって王都行きとは、別に火急の要件ではありません。
しかもぶっちゃけ、私は今も王都で粛々と練り上げられているであろう勇者ルージュの旅の計画を、まるっと全部スルーするつもりでいます。
親愛なる国王陛下を待たせてしまうし、期待も裏切る。いち国民としては誠に申し訳がありませんけど、だってこればっかりはしょうがない。なにせ私のこの双肩には、割とガチで世界の命運がかかっているんですからね!
だから私は寄り道します。アグニの腕を引っ張って、あっちに行きたい、こっちに行きたいとワガママを言います。
それに、どうせこれは遅かれ早かれ国王陛下にバレること。なので、私は今から隠しません。
きっと私たちの旅の様子は、風の噂が王都へ運んでいることでしょう。
勇者ルージュは、観光と寄り道が大好きな人間なんだって。
そう思ってもらったほうが、都合がいいから。
だから私は、胸を張ってレガートさんに答えるのです。
「本当は近くを通るだけだったんですけど、森牛の聖地が近いと聞いたらどうしても寄り道してみたくなって」
「寄り道……。不躾ですが、勇者様は今、王都を目指して旅をなさっておいでなのでは?」
「それはそうなんですけど、別に急いでもいませんので!」
「あっ、……そう、なのですか?」
『我としては急いでほしいのだが?』
『国王が聞いたら卒倒しかねませんね』
別に卒倒させるために言っているわけではないんですけどね……。
ちなみに魔王は、私にすぐにでも魔界に行ってほしいので急ぐ派。女神は人界のいいところを見せるためか、のんびり派です。アグニはともかく私がのんびり観光派なので、この旅は自然とのんびりまったりしたものになっているのです。
とはいえアグニの馬が速すぎて、普通の馬車なら王都へ直行しているくらいの速度で進んでいたりするのですが。
何より近衛騎士であり国王陛下の使者でもあるアグニも頷いてしまっているので、見方によっては国王陛下公認という解釈もできます。旅を始めた当初はアグニも急ぐ派、というより拙速を尊ぶ派でしたので、染まったなぁという印象です。
「おお……。そうですか、そうですか。勇者様が国王陛下への謁見よりも、我がマツコベ村の観光を優先してくださるとは……」
レガートさんの声は震えていました。
目端に光るものを浮かべて、何かを噛み締めるように拳を握り締めています。一言で言うとじーんときているようでした。
マツコベ村というものの素晴らしさを、あの勇者が共有している。
そういう感動があったのかもしれません。少し大げさな気はしますけれど、勇者が森牛の聖地という名前に惹かれて寄り道を決めたのは事実。ここは黙っておくことにしました。
暫くして、レガートさんは握り締めた拳を解いて、私にこう尋ねました。
「勇者殿は、今晩は我が村に滞在されるのでしょうか?」
「はい、そのつもりです」
「であれば明日、是非ともお見せしたいものがございます」
「見せたいもの……ですか?」
「ええ、はい」
レガートさんはニヤリと笑って言いました。
「明日、西の森へ森牛狩りに行くのですが……その狩猟の様子を、見てみたくはありませんか?」
「森牛の狩猟!」
狩りなんて、勿論見たことありません!
私はぱっとアグニを仰ぎ見ました。なんだか微笑ましそうな顔で頷くアグニに、私はもろ手を挙げました。
「見たい! 見たいです!」
突然迫られた選択に、私はなにも迷うことなく頷き返して。
こうして、私たちの明日の予定が決まりました。
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ことことと揺れる馬車の隣を、デルタがぽくぽく歩きます。
牧草地を掻き分けるようにできた土を踏み固めただけの簡素な道を、二台の馬車と一頭の馬が並んで進んでいました。
時刻は早朝。宿がないため、行商人のためにと建てられたコテージを借りて一泊した私たちは、旅人の常識で考えてもちょっと早い日の出の前に起こされて、マツコベ村を出て一路西の森へと向かっていました。
二台の馬車に乗っているのは、レガートさんをはじめとするマツコベ村の村人たち。一頭の馬はもちろんデルタで、私とアグニがいつもの脱力スタイルで騎乗しています。
いつもはもっと気持ちよく大地を駆け抜けるデルタですが、今は馬車に合わせてのんびりとした速度。案内役のレガートさんを立ててか、一馬身下がったところから控えめに追走する姿は馬の身にして気遣い充分。いつもながら、なかなか意識が高いです。
「気をつけてくれルージュ殿。もし今魔力漏れを起こすと、もれなく隣の馬車が暴走を起こす」
「分かってますよーう」
声色から本気でないと分かるアグニの警告に、同じノリで返します。
現在私もデルタ同様、動物を怯えさせる魔王の魔力を抑えるべく、アグニの胸の中で省エネモードの真っ最中。これはレガートさんたちを乗せた馬車と一緒に進むためにはどうしても必要な措置で、つまりは不可抗力でした。いやあ、大義名分を得て真っ昼間からごろごろするのは気持ちがいいなあ。
「フフフ。そうしていると、まるで愛らしい仔猫のようですな」
リラックスするのに最適な位置を探るためにぐりぐりとアグニの革鎧に頭をこすり付けていると、隣の馬車の御者台に腰掛けるレガートさんが不意にそんなことを言いました。
瞬き一つしてアグニを見上げると、なんともいえない苦笑顔。あれ。もしかしてアグニ、少し恥ずかしがってます?
思えば私が馬上でアグニに甘える姿を人に見せる機会はなかなかなかったかもしれません。長い時間を共にしてきた私とアグニにとってはいつものことでも、思い返せば、それはいつも二人きりでのこと。
ふと客観的に今の自分の姿を仰ぎ見ると、そこにいるのは精悍にして誠実なるイケメン騎士さまと、その胸の中でだらけきった表情で甘える小柄な町娘の姿でした。馬車に乗れないことを言い訳に、男女二人きりで寄り道三昧。なんとも不良で不潔な勇者の出来上がりです。
あらやだなにこれ。ちょっとやらしい!
まさか登場人物の性格と性癖というフィルターを取り除いただけで、こうも事実とは全く異なる邪な連想ができてしまうとは思いませんでした。
もしかして私たちはいま、勇者と従者の不純な関係を疑われていたりするのでしょうか?
よりにもよって、この噂好きなレガートさんに。
おっと、これは捨て置けない。
これは一つ、釘を刺しておかなければなりませんね。
「いや、違うんですよ? これはあの、不可抗力でして。ほら、魔力がですね」
「ええ、ええ、分かっておりますとも! 何も仰る必要はございません!」
ダメだ。この人やっぱり話を聞いてません。レガートさんはぐっと親指を立てるサムズアップスタイルで何か言うばかりで、完全に右から左です。
ああ。これでまた、変な噂が流れなければいいんですけれど。
ふと、アグニとまるで恋仲のように噂される自分を想像して、なんだか少し恥ずかしくなってしまった私は、ごまかすようにして言いました。
「それであの。森牛って、村で飼ってた牛とは違うんですか?」
「ああ、いえ、あれはただの乳牛です。森牛は人里では生きていけませんからな」
ちょっと裏返りかけた私の声を華麗にスルーして、レガートさんは一つ咳払いをして、そして語り始めました。
「森牛というのはその名の通り、森だけに住む動物なのです。外にこれほど広大な牧草地があっても、森牛は森の外には出てきません。森牛の生存圏は森の中だけに完成されており、無理に引きずり出そうとすればストレスで衰弱死してしまうほどです」
「はー、衰弱死」
「それはまた、なんとも繊細な動物だな」
「ええ、とても繊細で、そして臆病な動物です。そのため森牛は家畜として飼うことができません。なので、基本的には狩りをすることによって食肉とするしかないのですが、これがまた厄介なことに、森牛というのは実に素早いのです」
「素早い? 牛がか?」
怪訝そうなアグニの声に、私の脳裏にも牛の姿が想起させられます。
世間知らずを自称する私も、流石に私も牛は見た事がある。エイピアの町にもいましたし。
それはモーモーと鳴きながらもごもごと草を頬張る、のんびり屋のイメージ。
少なくとも、素早さとは無縁のイメージでした。
「ひょっとして、牛ではないとかですか? こう、牛とは言っても名前だけみたいな」
例えばシロアリって、実は蟻じゃなくてゴキ……ごほん。台所の天敵の仲間なんだそうですよ。知ってました? 私は知りたくありませんでした。
「いいえ、見た目もきちんと牛ですよ」
残念、外れました。牛と言いつつ実は狼みたいな生き物でした! とかだったら面白かったんですけど。
でも狼だとすると、食べる部分少なそうですね。
『おいルージュ。おまえ、何か不穏な想像をしているだろう。今すぐやめろ、悪寒が止まらない』
『バロールはどちらかというと、狼というより犬寄りじゃないですかね。あっ、見てくださいよあそこ! 牧羊犬ですよ! 一生懸命羊を追っててかわいい!』
『なっ! お、おまえまで我を犬と呼ぶのか!? いい機会だ、ハッキリ言っておくぞ! 我は犬ではない! 誇り高き、魔狼族だ!』
『こんな村から離れたところに羊飼いがいるとは。この辺りは魔物があまり出ないようですね』
『平和ですねえ』
『おい聞けお前ら!』
それはさておき、レガートさんの話です。
「森牛の足の早さといったら、それはもう並みの素早さではありません。想像してみてください。立派に成長した成体の牛が、強弓から放たれる矢の如き速度で木々を隙間を駆け抜ける姿を!
その素早さ故に、森牛には天敵というものが存在しません。過去に西の森に三つ目狼が湧いた時も、その数をまったく減らさなかったほどです。奴らが森から出ようとしないのも頷けますな。熟達の狩人でも怪しいというのに、そこいらの冒険者などでは一矢とて浴びせられますまい」
「あの三つ目狼をか! そうか、それほどか」
やれやれと首を振って、レガートさんはいかに森牛の狩猟が難しいかを力説します。それに対し、アグニが感心した様子で頷いていました。実際に世界を旅して、三つ目狼とも戦ったことのあるアグニです。私もラスタの森で実際に三つ目狼を目撃しましたが、なるほど、あの魔物から逃げられる野生動物となると相当なものです。
そんなアグニの様子を、なんだか自慢げな表情で伺う気配がありました。それは馬車の幌から顔を出して話を聞いていた村人たちで、これ見よがしに鼻の下を人差し指でこする姿はなんとも誇らしげです。ニヤニヤと、まるでもっと褒めろと言わんばかりにアグニと私を眺めています。
それを見て私は、いや、私たちはこれから何をしにいくのかを思い出しました。
「なるほど。つまりレガートさんたちには、そんな森牛を狩る方法があるってことですね?」
「ご明察です! いやいや、流石は勇者様ですな! 気付いて欲しかった点は、まさにそこなのです!」
二台の馬車の中から一斉に聞こえる、イエーイ! という嬉しそうな声とハイタッチの音。レガートさんも隣の御者さんとパチンとやりました。
「森牛狩りは我らがマツコベ村の伝統であり、誇りなのです。勇者様が観光なさると聞いた以上は、是非見て頂きたかった!
さて、どうでしょうか勇者様。ここは一つ、わたくしと勝負と参りませんか?」
「勝負ですか?」
「ええ、簡単な勝負です。勇者様と我々、どちらがより多くの森牛を倒して捕らえるか。わたくしどもは、こと森牛狩りにおいては、勇者様にも引けを取らないと自負しております」
この人界で、歴代勇者の実力を知らない者はいません。
魔王に匹敵し、人界の最大戦力である勇者は冒険者としても超一流。一流の冒険者では太刀打ちできず、一流の狩人にも困難な森牛狩りでも、それが勇者となればどうなるかは分からない。
マツコベ村の村人たちは、自らの誇りはあの勇者にだって引けを取らないのだということを、心のどこかで証明したがっていたのかもしれません。
とはいえ。
「すみませんけど、勝負はできません」
「おや。理由を伺っても?」
「お恥ずかしい話なんですが、私、魔物の討伐って数えるほどしかしたことがないんです。その、ちょっと苦手で」
「ああ! ご安心ください。森牛は凶暴な魔物ではなく、臆病な動物です。危険はなにもありません」
なにか優しげに微笑まれました。あっ。これは私の見た目に騙されて、また何か勘違いをされていますね。違いますよ。あなたの目の前にいる田舎娘は今のところ人類最強らしいです。
煮え切らない私に見かねたアグニが、助け舟を出してくれました。
「そうではないのだレガート殿。つまりだ。ルージュ殿の魔力を感じると、もれなく野生動物たちは逃げ出すのだ。馬や牛も、魔物もな。おかげでこの道中、魔物らしい魔物を討伐していない。森牛狩りなど、恐らく勝負にもならんだろう」
「……あっ。それは、なんと申し上げてよいか」
「いえ、なんかすみません。たぶんレガートさん、私のレベルを知ったらびっくりしますよ」
なんせ未だ一桁台です。レベル一桁の勇者なんて聞いたことありませんよ。
それにたっぷり魔力をもらっているのに、私は魔法も使えません。一応王都で転移魔法が教われるらしいですけど、もしかして今の私、イマイチパッとしないのでは?
そろそろ王都も近いですし、ここは一念発起して、アグニに魔法を教われないでしょうか。
そんな私の思いを乗せて、デルタは気持ちゆっくり目に、馬車は気持ち早足で進みます。
幾つかの丘を越え、幾つかの小屋を通り過ぎて、やがて私たちは牧草地を抜けて、西の森へと辿り着きました。
森牛たちが住むという、本当の森牛の聖地。そして、レガートさんたちの言う狩り場に。
あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いいたします!
お待たせしておりすみません。森牛編はちょっと難産気味です。
マツコベ村のコテージの話とか、レガート村長の賄賂の真意とか、書きたいことはあったんですけど収まりが悪いのでカットしています。あととっとと森に言ってほしかった。
回想的な感じで他で盛り込めたらいいなあ。