女神は見た! 湯煙温泉宿殺人事件 その7
前回のあらすじ
ダーディさんから不穏な空気が漂ってきています……。
※注意
このエピソードには一部、BLを含むけっこうキツイ性的な表現や、どうしようもない変態が含まれております。
もし苦手な方は、恐れ入りますが第24部「マツコベ村に行きました。」までスキップしてください。
今回の事件を、事故ということにしてほしい。
ダーディさんは確かにそう言いました。
「事故って……ダーディさん、それはいったいどういう」
『ルージュ』
私は慌てて口を噤みました。ダーディさんの後ろに佇む女神の姿が見えたからです。女神の魔法による幻影でした。久しぶりに見た女神のお姿はやはり光り輝くように美しく、人差し指を立てて口に当てるジェスチャーからのウインクは完璧な愛らしさを秘めていました。相変わらずイラッとするほどの美人でした。
『ルージュ。ここから先はわたくしに任せなさい』
『女神さま……』
『とある理由から、あなたはダーディから優れた名探偵であると信頼されなくてはなりません。迂闊な発言は慎むべきです。分かりますね?』
『うーん、そのとある理由もダーディさんの真意もさっぱり分かりません』
『そうですか。しかしご安心なさい。あなたの隣には常にこのわたくし、女神トーラがいるのです。あなたはわたくしの言葉に注意深く耳を傾け、そのありがたさに咽び泣き、盲信し、全ての質問にハイかイエスで答えていればよいのです。最終的にはこの書類にサインを』
『あっ、そこまでは別にいいです』
とはいえ女神はやる気充分といった様子で私の耳元に顔を近づけ、私が喋るべき言葉についてアドバイスをもたらしました。女神の像は幻影ですので耳元に顔を近づける意味はまったくありませんし、小声なのも当然無意味でしたが、ある意味女神の趣味とも言える過剰演出でした。
ダーディさんは、途中で言葉を切ったかと思えばふんふんと頷く私を見て首をかしげていました。おそらく女神が見えていないのでしょう。女神はちょっとシャイなところがあります。
ふむふむ……なるほどなるほど……。
『という訳です。なるほど得心がいった、という様子でズバリダーディの心中を暴くのです』
『はい! やってみます!』
私は役者になったつもりで、さもたった今閃いた! という顔をした後、ちょっと思わせぶりな感じでニヤリと笑ってみました。
するとどうでしょう。おお、ダーディさんが動揺しています。なるほど。こういうのもちょっと楽しいですね。
「ダーディさん!」
「どうしたのかねルージュ殿。先ほどから様子がおかしかったが」
「事故という扱いにしてほしいと言ったのは、それはツーマさんとこの宿を守るためですね?」
「……ほう」
ダーディの動揺がピタリと止まりました。
代わりに浮かんだのは表情は不敵な微笑み。どうやら私の突然の奇行に腹筋が刺激された、というわけではなさそうです。
「なぜ、そう思われたのでしょうか?」
「ホワイトタブは人界でも有数の観光地です。もしその中の宿の一つで何か事件が起こったとしたら、それはあっという間に人界を駆け巡るでしょう」
「うむ。うむ。そこまでで結構です。やはり私の目に狂いはなかったようだ」
そう。
今回の事件は被害者であるオットーさんを妻のツーマさんが殴り、命を奪ってしまったというもの。
もしこの事実がホワイトタブの町中に知れ渡ったとしたらまずツーマさんは衛兵に引き渡されますし、オールドウッドは事実上の営業停止です。
仮に営業停止を免れたとしても、人々の口に戸は立てられません。
噂はあっという間に町中に広がり、やがて町の外へと広がっていくでしょう。私が遠く離れたエイピアの町にいながら、シュリンクラブやワイルドヴェッジ、アングルバードといった宿の評判を知っていたのは何故なのか? それはホワイトタブという町がそれだけ多くの人々に注目されているからです。それこそ、町から町へと移動する商人や冒険者たちの話題のタネとなるほどに。
あの宿の女将は、前に主人を殴り殺したらしい。
もしこんな噂が流れ出してしまったら、温泉宿オールドウッドはおしまいです。
つまり今回の事件を殺人事件として処理するということは、今後オールドウッドが客商売を続ける上で間違いなく致命傷となる、特大級のスキャンダルなのです。
だからこそ、ダーディさんは庇ったのです。
大切に受け継がれてきたオールドウッドを。そして未来あるツーマさんを。
オットーさんを失った悲しみや怒りを二の次にしてまで、それを守る決断をダーディさんはしたのです。
女神によって心中を見抜かれたダーディさんは、満足げに何度も頷いています。ダーディさんは私の目に狂いはなかったと言いました。つまりこれは期待通りだったのでしょう。
ぶっちゃけ全部女神の受け売りなんですけどね。
そしてまだまだ、受け売りのターンは終わりませんよ!
「ダーディさん、あなたは既に、犯人の正体にも気付いていますね?」
「ええ。その通りです」
ダーディさんはとても素直に認めました。
やっぱり! これは私も予想ができていました。
ダーディさんは確か、事故ということにしてほしい、と言いました。
それは私が既に事件の真相に近づいていると確信しているからでしょう。
信頼と言い換えてもいいかもしれません。きっとダーディさんの心中を見抜いたのが効いたのでしょう。
そしてその言葉はまた同時に、他ならぬダーディさん自身もまた、オットーさんの死が事故だなんてこれっぽっちも思っていないことを証明しているわけです。
そう。何を隠そう、犯人はあの――
「フレード、なのでしょう?」
「えっ?」
いや、違いますけど?
『違いません。そうだと答えるのです』
「えっ、えええっ!? あっ、はい! そ、そうです!? フレードサンガハンニンデス!」
「やはり、そうではないかと思っておりました」
『えっ!? 犯人ってフレードさんだったんですか? ツーマさんではなく!?』
『何を言っているのですか。犯人はツーマだと言ったではありませんか』
『!?!?』
えっ!? えっ!?
誰か! 助けてください!
この村の中に、人を騙す嘘つき女神がいます!
私の見立てではトーラさんが怪しいです!
それではフリートーク三分間、どうぞ!
『誰が人食い狼ですか。落ち着くのですルージュ。あくまでダーディの中ではフレードが犯人だというだけの話です。大丈夫、問題ありません。話をあわせるのです』
『えっとつまり、本当はツーマさんが犯人だけど、ダーディさんはなぜかフレードさんがやったと思い込んでいて、勘違いさせたままにしておく必要があるってことですか……?』
『その通りです。賢いですね。流石は人界の勇者です』
ややこしすぎます!
お褒めに預かったところでそろそろ町娘の頭脳は限界なんですよ! もうオットーさんが犯人でいいじゃないですか! 結局あの人が節操なく腰を振ったせいでこんなことになってるんですから! 違いますか!?
『違いませんが、それでは利益になりません。ンン、いえ、何でもありません。さあわたくしを信じて、言葉を繋げるのです。ハッピーエンドはもうすぐそこですよ』
『イエス……マイゴッデス……』
そう呟いたものの、女神の目指すハッピーエンドという言葉にひどく不安を掻き立てられる私は、トーラ神聖教では異端なのかもしれません。というか、利益って、ナニ?
いったい女神はナニを企んでいるのでしょうか。
@
女神の企みの正体が判明したのは夜が明けてからのことになりましたが、ダーディさんの勘違いの原因は割とすっぱり判明しました。
人界の名探偵にして女神の手先こと私、ルージュがズバズバと暴いていったからです。
「ダーディさんが犯人を突き止められたのは、ダーディさんとフレードさんの特別な間柄ゆえですね?」
「ええ、そうです」
「その間柄ゆえに、ダーディさんはフレードさんがオットーさんに殺意を抱く動機に気がついた!」
「まさしく。ツーマさんにはオットーを殺す動機がありません。この宿を見れば夫婦仲に問題がなかったことは明白でした。貴女とアグニさんも当然違う。となればフレードしかおりません。消去法とは斯くも残酷に真実を浮き彫りにしてしまうものなのですね」
「ええ、色々と残酷な結果ですね……。それはともかく、あなたとフレードさんの関係は……………………えっ?」
「どうなさいました?」
「えっと、えっと、ダーディさんとフレードさんの関係は……その」
「……ああ。どうやらその様子では、もう既に気付いておいでのようだ。流石は名探偵ルージュ殿だ。まさしく、真実に愛された人物と呼べるでしょう」
「ってことは、本当に?」
「ええ。フレードは私の愛人でした」
「……………………いつからですか?」
「オットー達が、まだこれくらいの年の頃ですね」
ダーディさんが腰の辺りで手の平をスッスッと動かしました。
気が遠くなりそうでした。
くらりと傾く景色の中で、私の頭にふと思い浮かんだのは、ダーディさんと初めて出会ったときの第一印象。
『なんとなく私は、同世代との絡みよりも凄く年下の少年をセメるのが似合いそうな方だなと思いました。』
「それっ……リアルでやっちゃダメなやつじゃないですかあっ……!!!」
私は床に跪いて思わず叫びました。
「ルージュ殿、どうかそんな顔をしないでください。愛人と言ってもごく短い間の、子どものお遊びのようなものだったのですよ」
「お遊び感覚で、フレードさんの若い肉体を貪ったのですか?」
「意外に苛烈な表現が好みなのですねルージュ殿は。勿論そんなことをすれば法に触れますので、私とフレードは清い関係でした。私はただ単純に、子どもの頃のフレードの肉体が非常に肉欲的で美しいことに気がついただけなのです」
「ただの立派な変態じゃないですか!」
「言葉もありませんな」
そんなことを言いながら髭を弄るダーディさん。開き直りっぷりがハンパありませんでした。立派と言われてちょっと気取ってる気配さえありました。厳格な老紳士などとんでもない、見下げ果てた変態紳士がそこにいました。
女神にせっつかれて嫌々ながら詳細を聞いたところ、愛人と言ってもフレードさんにその気はまったくなかったようです。
ただ当時からよくオールドウッドに泊まりに来ることが多かったフレードさん。タイミングを見計らい、ダーディさん的には合法で納まる範囲でのコミュニケーションだったりスキンシップだったりまぁ一言で言えば犯罪に手を染めたらしいですよ。というか愛人要素ゼロじゃないですか!
その後フレードさんたちが成長し、わざわざ大人がお風呂についていかなくてもいい年齢になると、ダーディさんは「これはなんか違うな」と思い段々と疎遠になったんだそうです。なんというかもう……。
「それじゃあ結局ダーディさんは罪を免れたんですか?」
「人を犯罪者のように言うのはやめていただけませんか。私の初犯は未だ温存中。まぁ、当時のことでフレードから何かを言われたということはないですな」
ダーディさんは心外だとばかりにぷんすか怒っていますが、普通の人は初犯を温存するという言い方はしません。
「しかしいくら合法だったとはいえ、仮に私の行った数々の悪戯をフレードが未だ克明に覚えており、もし万が一私に恨みを抱いたとすれば、それはオットーを殺害する動機になるでしょう。この私にとっては、息子夫婦とこの宿は掛け替えのない宝物。それを一度に奪うには、オットーを殺すのが最も手っ取り早い。オットーには、本当に申し訳ない事をしてしまった……」
「一応悪い事をしたっていう自覚はあるんですね……。あ、いえ。はい。全てまるっとお見通しの名探偵ルージュデシタ」
「ハハハ! 流石名探偵ルージュ殿! この老骨ではとても敵いませんな。しかしこうしてお話することができて、少しホッとしている自分もいるのです。私は過去の行いを、ずっと誰かに告白したかったのかもしれませんね」
そう言ってダーディさんはとてもスッキリとした表情で微笑んでいました。憂いのあった過去は全部解決したという感じの笑顔でした。
その笑顔を見て私は思いました。合法っていったいなんなんだろうって。
「もはや何も言うことはありません。今回の事件をどうか、悲しい事故だったということにしてください。それがツーマさんを、この宿を、ひいてはフレードを守ることにも繋がるのです。どうか、どうかよろしくお願いいたします」
@
こうして事件解決に向けて行われた三人の事情聴取が終わりました。
ダーディさんを脱衣所へと送り返し、アグニには暫く一人にして欲しいと言うと、アグニはただ一言「そうか!」と言ってくれました。すさんだ心にアグニの明るい笑顔はよく染みて、思わずホロリとしそうになりました。
その後大浴場へ引き返した私は、倒れこむようにして床に突っ伏しました。
皆さんと話してみて分かったことが一つあります。
この宿、ちょっと特殊な性癖の人しかいません!
唯一の例外はツーマさんでしょうか。むしろツーマさんがノーマルであるために他の人たちが際立っているのです。これじゃあツーマさんが可哀想すぎますよ! 殺人犯とはいえ!
「もうやだこの宿。いっそ事件とか全部忘れてお風呂入りたい……」
『まだですよルージュ。これで事件の真相は全て明らかになりました。あとはこれを解決するのみです』
『真相ってつまりだいたい全員変態だったってだけじゃないですか!』
そう。
ホワイトタブの温泉宿で起きた今回の殺人事件とは、一言で言えばそういう事件でした。
被害者のオットーさんは男女両方の幼馴染をぺロリと食べてしまった範囲攻撃型アタッカーの人で、その所業ゆえに自業自得気味に撲殺されました。
ツーマさんはある意味今回の事件の最大の被害者で、フレードさんを掘り掘りしているオットーさんを目撃して錯乱。今回の件についても真っ当に心を痛めているノーマルな性癖の持ち主で、あと殺人犯。
フレードさんは幼い頃のオットーさんを誘惑して衆道に引きずり込んだ道案内人で同性愛者。
そしてダーディさんは更に幼少の頃のフレードさんに性的な悪戯を繰り返し、フレードさんの人格形成に多大な悪影響を及ぼした極上の変態で、ある意味今回の事件の黒幕。
特殊性癖のオンパレードでした。
『思い返してみてもビックリの変態密度ですよ……! それに自分で言うのもなんですが、私もアグニもある一定の基準を満たした変態じゃないですか! もうヤダこの宿! 私はエイピアに帰らせてもらいます!』
『自覚があったのですか……!?』
なんか凄い勢いのガガーン的な音楽が鳴り響いた! そんなにショックですか!? しっつれいな!
私はちゃんと弁えてますよ! だから普段ちゃんと隠してるじゃないですか!
『まあそれはともかくとして、ここからお楽しみの解決パートですよルージュ。名探偵の醍醐味です。どうです、少しワクワクしてきたのではありませんか?』
『何も知らなかった頃なら、そういうこともあったかもしれませんが……』
成り行きから始まったとは言え実はちょっぴり楽しかった名探偵でしたが、楽しさのピークはフレードさん辺りまででした。
正直いまは事件解決してやんぜ! という気持ちよりも、どーすんのこれ? という気持ちのほうが強いです。
変態だらけのこの事件、女神はいったいどう解決するつもりなのでしょうか?
まず、事実どおりにツーマさんが犯人だったと言った場合。
これは個人的にはNGです。どうせオットーさんは生きている訳ですし衛兵に引き渡すようなことにはならないと思いますが、この事件最大の被害者であるツーマさんが犯人扱いされるのは納得いきません。ここは譲れません。ツーマさんを衛兵に突き出さなきゃならないような真実なんて、土を被せて埋めてやりますよ!
ではフレードさんの言うとおり、フレードさんを犯人ということにする? うーん。実際のところフレードさんがやったことって本を正せばだいたいダーディさんのせいですし、これもかなり後味が悪いです。フレードさんが無実だと知っているツーマさんにも負い目が残りそう。
じゃあダーディさんの言うとおり、事故ということで処理する? オットーさんは女神パワーで生き返りました! 今回のことは不幸な事故だったんです! イヤー危なかった! 今回のことは綺麗さっぱり忘れましょう! とか……いや……ないな……。
こんなの絶対ギクシャクするじゃないですか……。
結局のところ、オットーさんがツーマさんに不倫現場を押さえられた時点で詰んでいるのです。
オットーさんとツーマさんの蟠りを解かない限り、ご夫婦の未来もオールドウッドの未来は暗雲に包まれたままです。賭けてもいいですが、このままうやむやにしたってツーマさんはいつか絶対また殴ります。
『もういっそこのままオットーさんは亡くなったことにして、別の町とかに行ってもらったほうがいいんじゃないですか?』
『それはあまり良くはない選択肢です』
私の提案はあっさり却下されました。むう。
『参りました。降参です』
『フフ。降参と言う事は、あなたは答えを知りたいということですね?』
むむ。
意識した言い回しではありませんでしたが、言われてみれば、確かに。
認めるのは少し癪ですが、女神がどうやってこの事件を解決するのか、気になっているのは確かです。
『はい、私は女神がどう事件を解決するのか、知りたいです』
『良いでしょう』
女神は実に満足そうな声でそう言った後、オットーさんのすぐ傍に姿を現しました。
『鍵はこの男。オットーです』
『オットーさんが?』
そういえば生き返ったオットーさんをずっと放置しっぱなしでした。
恐らく女神が声をかけたのでしょう。オットーさんはシーツに包まったままむくりと起き上がり、虚ろな表情で辺りを見渡して、私を見つけました。
死んだ魚のような目をしていました。
「ハハ。父がフレードと。ハハハ。知らなかった。ハハハハ。父がフレードと。ハハハハハ。知らなかった」
『ええ。これからこの男、オットーを使って全ての厄介ごとを全て綺麗に木っ端微塵に解決します』
『待ってください女神さま。ダメですよ女神さま。オットーさんどう見ても病んじゃってますよ』
無理もありません。ツーマさんに浮気がバレた件ならともかく、ダーディさんの件はきっとオットーさんも知らなかったんでしょうね。尊敬する父親と愛する幼馴染がただならぬ関係にあったと知ったら私でも病むと思います。私で例えるならばお父さんとコリンですね。……ん? いや、これは意外と……はい。この話はもうやめましょう。
『問題ありません。オットーにはこれから良い話を持ちかけます』
『良い話ですか』
『ええ、とても良い話です。これからオットーに、『どうすれば万事丸く収まるか』を教えます。その時あなたは、あなたに演じさせた名探偵ルージュの真髄を知るでしょう』
なぜでしょう。
ニヤリと不敵に微笑む女神の背後から、魔王のオーラに良く似た邪悪な気配を感じるのは……。
その後女神は私との念話を切り、オットーさんの耳元でゴニョゴニョと何かを囁いていました。
まるで性質の悪い悪夢を見ているかのようでした。
なにせ博打で全財産溶かしたような顔をしていたオットーさんでしたが、段々と目に光が戻ってゆき、最終的にはなんと女神と一緒にニヤリと笑ったのです。その姿は逆にホラーでした。
いったい何が? そんな疑問を挟む間もなくオットーさんは俊敏な動きで立ち上がり、シーツを颯爽と腰に巻くや溌剌とした表情で言いました。
「さあ行きましょうルージュさん! 妻達が待っています!」
とても今から自分を殴り倒した犯人の下へと向かおうとする態度ではありませんでした。
オットーさん。いったいあなた、女神に何を吹き込まれたんですか?
@
大浴場から、カッと光が溢れました。
なんということはありません。蘇生を演出する女神の目くらまし魔法です。
並んで脱衣所へ戻った私とオットーさんを出迎えたのは、いったい何事かと戸惑うアグニたちでした。
「お、オットー!」
死んだと思われたオットーさんが生きていた。
その事実に直面したツーマさんとフレードさん、ダーディさんの反応は劇的でした。
アグニは……何やらニコニコしています。アグニは女神の回復魔法のスゴさが身に染みているので、このオチは読めていたのかもしれませんね。
特に反応が顕著なのはツーマさんで、真っ白な顔色で今にも崩れ落ちてしまいそうです。それでもツーマさんは何かを言おうと唇を震わせましたが、私が先制しました。
「オットーさんですが、なんとか蘇生が間に合いました。ですが……」
そういって促すと、一歩前に出たオットーさんが申し訳なさそうな顔で言いました。
「みんな、聞いてください。実は私…………風呂に入った頃からの記憶がないんです」
「「「「…………えっ?」」」」
「どうしてみんなが騒いでいるのか、正直なところまだよく分かっていないんですが、ルージュさんと相談して詳しい話は翌朝に改めてしてもらうことにしました。という訳だからツーマ、私達も今晩は休もう」
「えっ、あの、でも、オットー」
「それに話したいことがあるんだ」
「……っ!」
ツーマさんはキュッと唇を噛み締めて逡巡する様子を見せましたが、やがてオットーさんに手を引かれて脱衣所を後にしました。
取り残された形になったフレードさんとダーディさん。それにアグニの視線が私に集中します。
代表して尋ねたのはダーディさんでした。
「ルージュ殿。これはいったいどういう?」
「あー、つまりそのですね」
私はぽりぽりと頭を掻きながら言いました。
「これは女神さまの啓示なんですが……女神さまはその。今回の事件を全部丸ごと綺麗に納めて、みんなで幸せになろうとしているみたいです」
次回、いよいよ事件解決へ!
話がアレすぎて一度まるごと書き直したのは秘密だ!




