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女神は見た! 湯煙温泉宿殺人事件 その6

前回のあらすじ


オットーさんを殺ったのはツーマさんでした。

そしてオットーは男女どっちでもイケるタイプの人でした。


※注意

このエピソードには一部、BLを含むけっこうキツイ性的な表現や、どうしようもない変態が含まれております。

もし苦手な方は、恐れ入りますが第24部「マツコベ村に行きました。」までスキップしてください。

 オットーを殺したのは、自分だ。

 突然そんなことを言い出したフレードさんに度肝を抜かれた私は、ついまじまじとフレードさんのことを見つめてしまいました。


 ロビーで初めて出会ったとき、私はフレードさんにチャラそうな印象を持ちました。

 しかしそれはフレードさんが髪を染めて、アクセサリーをじゃらじゃらと身につけていたせいでした。こうして浴衣に着替えて髪を下ろしたフレードさんは中性的な造形をした美形で、なるほどこれはその筋の男性は黙っていないなと認識を新たにしました。

 殺人の罪を告白したフレードさんは真剣そのもの。切れ長おめめに飾られた長いまつ毛が緊張に震えるさまは、守ってあげたいという強い庇護欲を掻き立てます。これで淑やかな言葉遣いをすればさぞ映えるだろうと思いましたが、もしかしたらフレードさんはそれを嫌ってワザとチャラい言葉遣いをしているのかもしれません。なんとももったいないことです。

 体つきもスラッとした細身で、がっしりむっちりとしたオットーさんと比べると対照的でした。これが、山奥に住んで日夜体を動かし続けているオットーさんと、商人の跡取りとして馬車に揺られているフレードさんの差なのでしょう。

 私はつい出来心で、目の前のフレードさんと、今もなお全裸姿のオットーさんを脳内で並べました。特にオットーさんについては大浴場に駆けつけた際にいろいろばっちり目撃してしまったので、妄想のクオリティもハイレベル。その筋のプロも納得の、非常に完成度の高い仕上がりでした。


「はぁん」


 たまりませんでした。

 思わずうっとりとした声が出てしまい、またぽたぽたと鼻血がこぼれました。

 それは私的には、切ない悲劇に感動して涙するぐらいには自然な生理現象でしたが、フレードさん的には異なったようです。例えるならばそう、酒を飲んで笑っていた冒険者が急に真顔になって頬を膨らませた瞬間、ざっと周囲の人たちが一斉に遠ざかるときに見られるような身のこなしで一歩引きました。

 見慣れたものでした。知ってますよ。それは分かりやすい言葉でどん引きと呼ぶんです。いったい勇者として旅をし始めてから、この魔力のせいでどれだけの人々に引かれ続けてきたことか。どん引きされることに関しては既に一家言ある私です。


「勇者ちゃん、俺の話聞いてる? なんで殺人を自供されて鼻血出してんの?」


 フレードさんは頬をヒクヒクさせながら言いました。

 いったん中性的な印象をもってしまうと、フレードさんは声のトーンも高く、まるで青年か声の低い女性のように聞こえます。つくづく、もったいないなぁ。


「すみません。この鼻血は、えっと、アレです。勇者的嘘発見機的な何かです」

「な、何かってなんだよ!」


 咄嗟の言い訳でしたが、フレードさんのツッコミにはキレがありません。キャラがどうというより、嘘発見機という単語に対して反応してしまったようです。

 まぁ、そうですよね。ツーマさんがオットーさんを殴ったのなら、フレードさんは犯人ではありません。それともオットーさんは二度死ぬのでしょうか。


『ルージュ。人の命は一度きり。ともすれば儚く散ってしまうからこそ、人々は限りある命を大切にし、尊ぶのですよ』

『いや嘘ですよね。オットーさん今二度目の人生を謳歌してるじゃないですか』


 思わず蘇生済みのオットーさんを見つめました。彼は今日一度死にましたが、いつかやがて二度目の死を迎えるのは明白です。

 自分で蘇生させておきながら、女神はこうしてちょくちょく説得力皆無な白々しいことを言っては笑いを取りに来ます。大抵の場合はネタが私の魔力絡みですので、他人事で片付けられなくてあまりクスッと来ないのですが。私はこれも女神流のジョークなのだろうとのほほんと構えていました。

 私にお茶目な印象を抱かせて、女神にいったい何の得があるのかについてはさっぱり謎でした。


「で、ホントにフレードさんがオットーさんを、その、殴ったんですか?」

「お、おお、そうだ! 俺がこう、一撃でな!」


 フレードさんはやる気充分といった様子でシャドーを始めました。ぶんぶんと拳を振り回す姿からは残念ながらあまり迫力が伝わってきませんでしたが、しかし見栄えは良く、汗を散らしながら激しく運動する姿はとてもカッコいいです。次第に徐々にはだけてゆく浴衣からも私は目が離せません。


「ん、んん! でも確か、オットーさんは桶で殴られたのでは?」

「あーっとぉ!? そうか、そうだった! こう、桶で一撃でおわあっ!?」


 女神並みに白々しいことを言いながら、フレードさんは慌てて浴場の端に積まれていた桶を取りに行こうとして、そして軽快に足を滑らせて転倒しました。強かに背中を打ちつけるフレードさんの一連の動作は流れる水のように美しく淀みなく、まさしく芸術でした。それにしても、あのスコーンって音はどこから出てるんでしょうね?


「ぷっ」


 私じゃないですよ! 今笑ったのはオットーさんです! っていうか何笑ってるんですか、ちゃんと死んだフリしてて下さいよ。やる気あるんですか?

 そんなことを脳内で愚痴っていたら、オットーさんが急にもぞもぞと体を動かし始めました。おや、どうしたんでしょう。何か様子が変です。


『心配は要りません。オットーは性的に興奮しているだけです』

『なぁんだ』


 じゃあしょうがないですね。

 きっと盛大にコケたフレードさんの愛らしさにトキメいてしまったのでしょう。無理もありません。私もちょっと興奮しましたから。

 とはいえ、もぞもぞしているオットーさんをフレードさんの目に触れさせるのはあまりよくありません。なにせオットーさんはいま、死んだことになっているのですから。やれやれしょうがないなと、私はフレードさんを起こして話を進めました。



「そんな! ツーマが、殺人を自供しただって!?」


 そのことを知ったフレードさんは、動揺を隠しきれませんでした。

 そして恐る恐る私の様子を伺い、私がツーマさんの自供を全面的に認めていると分かるや、がっくりと肩を落としました。


「そうか……。そうだったのか……。やっぱり、ツーマが……」


 そしてフレードさんは、ぽろぽろと涙を流し始めました。

 オットーさんの遺体を目の当たりにしても、憔悴するばかりで涙を零していなかったフレードさんが初めて流した涙でした。

 ツーマさんの犯行と確信することで、彼はようやくオットーさんの死を受け入れたのでしょう。愛されてますねオットーさん。死んでる場合じゃないですよ。


「いったいどうして、自分がオットーさんを殴っただなんて嘘をついたんですか?」


 これは女神に指示された質問でもあり、私の心からの質問でもありました。

 フレードさんは犯人ではありません。そしてフレードさんの口ぶりからすると、ツーマさんの犯行であることを疑っていたようです。

 そしてその上で、フレードさんはその罪を被ろうとしたのです。

 生半可な覚悟ではありませんでした。


「その様子じゃあ、聞き出すまでは離してくれそうにねえな」


 何度も頷く私に、フレードさんは諦めたかのようにため息をつきました。

 それは話したくないことを嫌々喋らされる憂鬱から来るものかと思いましたが、顔を上げたフレードさんの眼差しは晴れ晴れとしたものに切り替わっていました。

 もしかしたらフレードさんは、胸の内に抱える秘密を誰かに話したかったのではないかと、このような日が来ることを待っていたのではないかと、ふと思いました。


「分かった。話すよ、勇者ちゃん。俺の知っていることを。俺の罪を、全部。だから、聞いてくれ」


  @


 ことの始まりは、少年時代のフレードさんとオットーさんが仲良く温泉で遊んでいた時だったそうです。

 オットーさんとツーマさんが男女の関係になる前のことです。

 その時ツーマさんは別の場所にいて、いったいどんな用事で彼女が離れていたのかは、その後の体験が強烈すぎたために覚えていないそうです。

 その頃からオールドウッドはオールドウッドとしてこの場所にあって、オットーさんを訪ねるために、フレードさんはよく遊びに来ていました。

 そんな折でした。


「俺もオットーも、お互いの裸なんか見慣れてたはずなんだよ。だってこんなにちっこいころから温泉で遊んでたからさあ。だからその時どうして、突然そんなことを考えちまったかは全然、まったく分からないんだが……」


 フレードさんは恥ずかしさのためか顔を真っ赤にしながら、その時の様子を告白しました。


「ただ、なんて言えばいいのかな。……勇者ちゃん。オットーってガタイいいだろ?」

「はい。いいカラダしてますよね!」


 こくりと頷いて返した私に、フレードさんはテンションを上げて言いました。


「そうなんだよ! あいつガキの頃から、こんな山奥だってのに平気で徒歩で行き来するし、子どもの頃から満載の荷車引いたりするしさあ。そのせいでスゲー筋肉付いてたんだよね。んでさあ、おまえガタイいいよなとか言いながらこう、オットーの体をべたべた触ったりしてた訳よ、湯船の中で」

「ああ、いいですねえ。その光景が目に浮かぶようです」

「勇者ちゃんめっちゃ鼻血出てんだけど。俺嘘ついてないんだけど」

「気にしないでください。私、興奮しても鼻血が出る体質なんです」

「勇者ちゃんも大概だな」

「それでそれで、どうなったんですか?」

「うっ。まあ、それでな」


 私は殺害現場である大浴場に点々と血痕を増やしながら、フレードさんに昔話をせがみました。現場保存の鉄則? あとでアグニから聞いたので許してください。


 とても言い難そうにしていたフレードさんでしたが、酒場で鍛えられた聞き上手スキル(自称)を持つ私の前では抵抗は無意味です。

 あれよあれよと「あいつの足がスゲー色っぽいことに気付いたんだ」だの「」だのといった言質を取るなかで、私はついに、驚愕すべき事件の真相に辿り着いたのです。

 女神はこれを私に伝えたかったんだ!

 思わず叫びました。


「ええっ!? 実は、フレードさんのほうからオットーさんを襲ったんですか!?」

「ばっ! 声がでけえ!」


 女神による防音魔法を知らないフレードさんが慌てていますが、説明している余裕はありません。

 なんということでしょうか。

 まさかの大逆襲でした。

 当然ですが、肉体を鍛えて物理で殴るとか、そういう方面の襲う、ではありません。もっと犯罪的なほうの意味合いでの襲う、のほうですよ!

 えっ! フレードさんが、攻め!?

 まさかの!?

 ツーマさん、話が違いますよぉ!!


『ルージュ、今すぐその場で横になるのです』


 おっと、ここでドクターストップです。


「勇者ちゃん、どうしたんだ!?」

「フフ。少し血を流し過ぎました。フフ。ちょっと安静にしていれば治ります。フフ。これしきの出血、どうということはありませんよ。フフ。私は勇者なんです」

「頼むからそういう台詞は戦場で言ってくれよ!」


 あと半笑いなのも怖いと言われました。しっつれいな。ちょっと興奮しすぎたせいで、血が足りないだけです。


 私は大浴場に仰向けに転がり、女神の造血魔法のお世話になりました。あーこれこれ。効くぅ。


『今なら私、勇者として殉死しても悔いはありません』

『いけません! 意識を保つのです! ルージュ! ルージュ!』



 その後、女神の決死の救出活動によって、私は一命を取り留めました。

 私は床石の堅い感触を後頭部で味わいながら、フレードさんの話を聞きました。

 フレードさんは私の出血量に戸惑いを隠せない様子でしたが、実は私が余命僅かな病弱娘で、勇者としての旅の途中で養生のためにホワイトタブに立ち寄ったこと、そして今回の事件の顛末を知り、解決に導くことこそが最後の望みだということなどを等身大の語り口調で明かしたところ、滂沱の涙を流しながら横たわる私の手の平を握り締め、全てを話してくれました。私ですか? もちろん、健康体ですよ。ツーマさんのご飯を何杯おかわりしたと思ってるんですか。

 誤解を恐れない言い方をするのであればそう、これは女神の入れ知恵による嘘でした。人の好意につけ込むことに関して、女神の右に出るものはいませんでした。


 しかしフレードさん、いい人だなあ。人は見かけによりませんね。チャラい格好さえしなければモテると思うのに。



 フレードさんの告白によると、フレードさんは同性愛者でした。

 少年時代のハプニング以降、どうも女性をそう言う目で見られなくなった代わりにオットーさんに恋愛感情を抱くようになり、オットーさんがその気持ちに応える形で関係が始まったそうです。

 オットーさんに目をつけたフレードさんも慧眼ですが、その気持ちに応えたオットーさんもオットーさんですね。きっとオットーさんも、女性的な特徴を持った若いフレードさんの裸を見て、何か思うところがあったのでしょう。

 フレードさんはそこそこ幸せな少年時代を過ごしていたようなのですが、やがてオットーさんが本心ではツーマさんを慕っていることに気付き、二人で話し合った結果、フレードさんが身を引く形で関係が終わったそうです。


「それじゃあオットーさんとフレードさんがそういう関係だったことを、ツーマさんは知らないんですね?」

「ああ、そうだ。このことは俺とオットーの、二人だけの秘密だった。どの道オットーはいつかは嫁を貰って、オールドウッドを継がなきゃならなかった。あいつがツーマに惚れてるって知って、俺は嬉しかったんだよ。ツーマは本当にいい女だったから……。

 だから俺は、オットーと、何も知らないツーマの幸せな暮らしの邪魔だけはしねえようにと、この秘密は墓場まで持ってくって決めたんだ……」


 やがてオットーさんとツーマさんが結婚すると、フレードさんもまた商人としての修行が始まり、町の外に出ることが多くなりました。

 段々と疎遠になっていくフレードさん。寂しさはあったものの、たまにオールドウッドへ足を運んだ時の幸せそうな二人の笑顔を見るたびに、これでよかったのだと自然に受け入れられたのだそうです。

 いつしかオットーさんとフレードさんは心のどこかで感じていた蟠りも忘れ、本当の意味でただの男友達のような関係へと戻れたのだそうです。

 しかし……。


「それじゃあどうして、昨晩はオットーさんと?」

「うっ……それは、やっぱツーマから聞いたのか?」


 頷くと、フレードさんはガリガリと頭を掻き毟って苦い顔をします。


「昨日、俺はただ温泉に入っていただけなんだ……。俺達はもうガキじゃねえ。分別弁えた大人になったんだ。だけど昨日は……クソッ、よく思い出せねえ……。なんで……なんだって俺らは、あんなことになっちまったんだ……?」


 昨晩のことに話が及ぶと、途端にフレードさんの口は重くなりました。それは隠し事をしているというよりも、本当に思い出すことができずに困っているようでした。


 ただ、分かっていることもありました。

 それはオットーさんとフレードさんは入浴中確かにウッフンムフフなムードに突入し、抜き差しならなくない状態に陥ったということ。

 めくるめく繰り広げられた肉欲の宴を、よりにもよってツーマさんが目撃してしまったということ。

 そしてそれを目撃してしまったことがきっかけとなって、ツーマさんが凶行に及んでしまったこと。

 これらは一片の曇りも間違いもない、あまりにも重い事実として、私たちの前に立ちはだかっていました。


「全部俺のせいなんだ……。オットーがあんな性癖になっちまったのも俺のせいなら、今日の大浴場でのことだって俺のせいだし、ましてやそれがツーマに見られたのも、それが原因でオットーが殺されちまったのも、全部、全部俺のせいだ! 俺の罪だ……。だから、勇者ちゃん、頼むよ」


 その肩にかかる重みはいったいどれほどなのか、フレードさんは耐えかねたかのように膝を折り、力のない目で私を見上げ、こう頼みました。


「オットーも、ツーマも悪くねえんだ。あいつらは本当に良い奴なんだ。良い奴だったんだ……。オットーのことは悔やんでも悔やみ切れねえけど、この上ツーマまで不幸にしちまったら、俺はあの世でオットーの奴に顔向けできねえんだ。だから、頼むよ。ツーマの言う通りなんだ。オットーを殺したのは、俺なんだ。だから、ツーマのことを見逃してやってはくれねえか。頼む、頼むよ。頼む……」


  @


 脱衣所への扉を開けると、アグニが四つんばいの体勢で待ち構えていました。


「うひょああ!」


 これは私でした。ビックリしました。


「これはルージュ殿! 失礼した!」

「いえ、アグニ、いったい何してたんですか?」


 すっくと立ち上がったアグニに、私と同じく面食らったフレードさんと共にアグニに聞くと、こう答えました。


「うむ! この脱衣所内に何か手がかりが残されていないかどうか、こうして調査していたところだ。名探偵とは、ほんの些細な違和感から手がかりを見つけて犯人を追い詰めると聞く! オレは少しでもルージュ殿の手伝いをして、役に立ちたいのだ!」

「そ、そうですか。ありがとうございますアグニ。それで、何か気付いたことはありましたか?」

「そうだな。この宿は掃除がとても良く行き届いている」


 ダメそうでした。


「えっとそれでは最後に、ダーディさんをお願いします」

「うむ。任せてくれ!」


 アグニはフレードさんを連れていき、代わりにダーディさんを連れてきてくれました。

 フレードさんを睨みつけるツーマさんと、その視線を甘んじて受け入れるフレードさん。二人の事情を知っているだけに、心が痛みました。

 ダーディさんを連れて再び大浴場へと向かう際にちらりとアグニを振り返ると、またもやアグニは四つんばいの体勢になって鼻を動かしていました。それを見て私は、埃を吸ってしまわないかと少し心配になりました。


  @


 フレードさんと同じく、オールドウッドの浴衣に着替えているダーディさん。

 ダーディさんは確か、私たちの中で唯一ずっと起きており、ツーマさんの悲鳴で叩き起こされなかった人物です。そのせいでしょうか。寝癖が目立ったフレードさんと比べると、おひげの角度までバッチリ決まった老紳士然としたダーディさんは、フレードさんとはまた違った独特の着こなし方をしていました。なんというか、ワイングラス片手にチーズとか摘んでいるのが似合いそう。


 さて。これから最後にダーディさんに話を伺うのですが、実のところ、今回の事件について私から聞きたいことは特にありません。


 なにせ今回の事件はオットーさん、ツーマさん、そしてフレードさんの三人から始まり、三人によって完結してしまった事件です。


 私やアグニ、そしてダーディさんは言わば巻き込まれた人間であり、それについては疑う余地がありません。

 ホワイトタブで生まれ育った三人の幼馴染による爛れた性生活によって引き起こされた悲劇。

 それが今回の、湯煙温泉宿殺人事件とも言うべき事件の真相なのです。


 この真相に対して、いったいどのような解決を示すべきなのか。それを決めることを、私はまだできていません。

 真実を明らかにし、ツーマさんが犯人であると示すべきなのか。

 フレードさんの思いを汲み、フレードさんが犯人であると示すべきなのか。

 果たしてどちらがよい選択であるのか、私はきっとこれから一晩かけて悩むと思います。

 しかしそれは、ダーディさんとは関係がないことでもあり、そして密接に関係していることでもあります。

 私はこれからの時間を使って、オットーさんの父親であるダーディさんとのお話の中から、彼らがいったいどういう人物だったのかを知るつもりでした。

 そのせいでしょう。今回については女神からも、特にこれを聞けという指示がありませんでした。ですので私は、アグニに対するポーズとしてお呼びした一面もありますが、まずは少年時代のオットーさんとフレードさんがダーディさんから見てどのように映っていたのか、彼らの背景に薔薇の花は咲いていたのだろうかと、まずはそんなことを聞こうと思い、話を切り出しました。

 しかしダーディさんは口を開きかけた私を遮って、こう言いました。



「勇者……いえ。名探偵ルージュ殿。どうか今回の事件、事故ということにしてはいただけないでしょうか?」



 思わず絶句する私と、轟く雷鳴。

 その時、ニヤリと女神の口端が緩む気配を感じました。


 感情を煮詰めたかのような熱さを湛えつつも、あくまでも理性的な光を宿す迫力あるダーディさんの眼光に射竦められた私は、もしかしてこの事件は更に迷走するのではないだろうかと、そんな不安を覚えました。

 そして残念なことに、私の不安は的中してしまったのです。

次回、被害者のお父さんことダーディの告白。


次々と明らかになっていく登場人物たちの性癖!

果たしてダーディは老紳士キャラを守り抜くことができるのか!?


最近仕事のほうが忙しく、若干ペースが落ちています。最低週一更新くらいはしたいと思っているので、気長にお付き合いいただければと思います。

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