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女神は見た! 湯煙温泉宿殺人事件 その1

前回のあらすじ


リエリアの町を出たルージュたちは、イチャついたりイチャついたりイチャついたりしながら次の町を目指していました。


※注意

このエピソードには一部、BLを含むけっこうキツイ性的な表現や、どうしようもない変態が含まれております。

もし苦手な方は、恐れ入りますが第24部「マツコベ村に行きました。」までスキップしてください。

 滝のような豪雨が建物を叩く音と、劈くような激しい雷の音が、私たちの心を搔き毟りました。


「いやあああああああああっ!!」


 倒れているオットーさんに縋り付いて泣き喚くツーマさん。


「嘘だろ……」


 呆然と立ち尽くすフレードさん。


「オットー……こんなバカなことが……」


 膝をついて涙を零すダーディさん。


 そして彼らを遠巻きに見つめるアグニと、私。

 たった六人。

 これで全員。

 今この場には、私たちが宿泊している温泉宿、オールドウッドに取り残された全ての人間が揃っていました。

 ですがたった今、一人減って、五人になってしまいました。

 オットーさん……。

 いった、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか……。


 誰もが意味のある言葉を発することができませんでした。

 そのとき、夜の暗闇を切り裂く雷がまた一つ落ちて、一瞬だけ皆の表情を照らしました。

 恐れの表情を。

 疑心暗鬼の表情を。


 そう。

 私たちは今、オールドウッドに取り残される形で閉じ込められています。

 突然の豪雨で町中の川が氾濫し、誰も出ることも入ることも出来なくなった一夜限りの陸上の孤島。


「いったい、誰が……」


 ダーディさんの呟きに、誰もが息を呑みました。


 今、ここは豪雨と雷に隔絶された密室空間。

 その中で起きた、オットーさんを襲った殺人という名の凶行。

 その意味するところは明白でした。


 誰もが気付いていたんです。

 つまりこの中に。

 オールドウッドに取り残された、この五人の中の誰かに。

 オットーさんをその手にかけた、犯人がいるということに。


  @


 私たちがその町、ホワイトタブに到着したのは、お昼と夕方のちょうど中間くらいの時間帯でした。

 その町に辿り着いたときの感動を、私は鮮明に思い返すことができます。


 その町は決して大きいとは言えない町でした。

 山間の辺鄙なところにありました。

 私たちがまっすぐに王都を目指していたならば、決して立ち寄ることはなかったであろう町でした。

 しかし。


「ホワイトタブの近くを、通るんですか!?」


 私がそれを知ったとき、私は天幕の中でアグニに詰め寄っていました。

 アグニは面食らったような顔になって頷きました。


「あ、ああ。だが近いと言えば近いが、しかし」

「近くを通るだけなんですか!?」

「ルージュ殿。だから」

「どうなんですか!?」

「……」


「私、ホワイトタブに行ってみたいです!!」


 このように、交渉だとかそういう高尚なやりとりは一切ありませんでした。終止ちょっとした力技と熱意だけで押し切りました。しかしこうして無事寄り道の許可をもらい、私たちは一路その町へと立ち寄ることになったのです。

 ワガママを言ってしまったという自覚はあります。悪い事をしてしまったという気持ちはあります。けれど私にはどうしても、ホワイトタブに向かわねばならない理由がありました。


 そう。

 何を隠そう、この私の正体は勇者ではありません。

 暫定的に内定した(というかさせられた)だけの、進路に迷う勇者兼魔王候補生。そう。実家(さかば)の手伝いを辞めてこうして旅に出ている以上、今の私には家事手伝いという言い訳すらも通用しません。言わば完全なる無職です。

 そして今の私の真の目的は、人界と魔界のことをよく知ること。勇者になるか魔王になるかを選ぶために、私はこの世界のことをよく知りたいのです。

 ぶっちゃけ観光がしたいのです。

 せっかくこうしてアグニと旅をしているのですから、王都へ直行するなんてもったいない! もっと寄り道して、人界を観光したいのです!

 見られるときに、見るべきところを見ておきたいのです!

 ましてやホワイトタブは、人界の中でも一二を争うほどの観光名所!

 なぜなら、そう!

 ホワイトタブとは、湯煙と観光の町!

 町中の至るところで温泉と呼ばれるお湯が湧き出る奇蹟の町!

 誰もが憧れる旅行先! 一度は行ってみたい町ナンバーワン!

 この町に寄らずして、いったいどこに寄るというのですか!


 とまあそんなような事を私は申し訳程度のオブラートに包み、溢れる熱意と情熱を加えて、懇切丁寧にアグニに語って聞かせました。

 説得に一晩かかりました。

 そして、そうした苦労と小高い丘を越えた私たちの視界に広がった光景は、私の期待を決して裏切らないものでした。


「わあ! すごい! 見てくださいアグニ!」

「ああ! すごいな!」


 山間を流れる、もうもうと立ちこめる大量の湯煙。

 町中を流れる、白濁した大量の温泉。

 風に乗って漂ってくる、今まで嗅いだことのない独特の匂い。

 そして、まるで革袋を打ったような大量の水音。


 観光。ただそれ一つで人界を代表するまでにのし上がった湯煙と観光の町、ホワイトタブ。

 私たちがその町に着いた時、まさかあんな事件が起こるだなんて、まったく想像だにしていませんでした。


  @


 ホワイトタブに入った私たちは、早速今晩の宿を探すことにしました。

 今回アグニに許してもらったホワイトタブでの滞在はたった一泊だけ。

 なればこそ、私はその一泊を心の底から楽しむために、選りすぐりの宿からさらに厳選しなければなりません。

 実は私こう見えて人並みには町の外に憧れておりましたので、ホワイトタブの噂についてもお店の常連さん経由でちょっと詳しいですよ!

 そうですね。

 例えばシュリンクラブという宿は料理が美味しいと聞きました!

 あとワイルドヴェッジという宿は料理がすごく美味しいらしいです!

 それにアングルバードという宿は料理がとても美味しいと……はい……料理ばかりですね……。

 いいえ、私は挫けません! 例え情報源が食い意地の張った冒険者たちによる偏った知識だとしても、旅先で食べる美味しい食事は観光の醍醐味ではないですか!

 よいのです! それでよいのです!

 取り急ぎまずはバロットエッグという宿を探しましょう! 噂によればこちらの宿は、それはそれは美味しい卵料理を――


「ルージュ殿、こっちだ」


 あれ、妙に力強いアグニの牽引力を感じます。

 いったい私はどこへ連れていかれようとしているのでしょうか?

 あっ。アグニ、あの宿はゴートブレインです! 世にも珍しい珍味を出してくれるという名物宿ですよ! ああっ! あっちにも! アグニ、聞いてくださいアグニ! ああっ!


  @


「着いたぞ、ルージュ殿」


 そう言って私が連れてこられたのは、周りの宿から一線を画すような独特な雰囲気を醸し出している宿でした。

 隠された秘境というイメージを掻き立てるような立地。

 年期を感じさせる古びた木造建築。

 傾き、朽ちかけた看板。

 閑古鳥の幻影が私たち二人を出迎えていました。

 どこからどう見てもボロ宿でした。


「アグニ」


 私はアグニの腕に縋り付いていました。こうでもしないと足が震えて立っていられそうにありませんでした。


「アグニ」


 私の声もまた震えきっていました。辺りに満ちる湯煙のおかげで体は暖かいのに、心はこんなにも寒々としていました。

 泣き落としとかそういうアレでは決してありませんでした。

 ガチ泣きでした。

 いくらなんでもあんまりな仕打ちでした。

 この町ホワイトタブに寄りたいと言ったのは、確かに私のワガママだったかもしれません。

 ですが、ですがこれはあんまりではないでしょうか?

 僅か14歳で故郷を離れ、勇者として王都に向かうことを快諾してから、私は一度もワガママらしいワガママを言ったつもりはありませんでした。

 初対面の男性との、慣れない二人旅。苦労もたくさんありました。恥ずかしい思いもたくさんしました。

 そんな私が初めて口に出したワガママ。

 憧れだったホワイトタブ。

 たった一泊だけの滞在。

 せめてそのたった一泊を、幸せな思い出にしたいと願う私は、間違っているでしょうか?

 それは許されないほどの贅沢なのでしょうか?


「アグニ」


 上を向いていないと、涙がこぼれるのを堪えられそうにありませんでした。

 だから私はじっと上を見ていました。

 アグニの顔を見ていました。


「ルージュ殿」


 アグニもまた、私を見つめていました。

 アグニは怒っていませんでした。

 アグニは、ただただ静かに凪いだような面持ちで、沈痛さを湛えた瞳で、私に言いました。


「オレはかつて、何があろうとも君の笑顔だけは守り抜いてみせると誓った」

「……」

「だが、金がない」

「……」

「金がないんだ」


 私の頬を、ツウと涙が伝いました。


「……アグニ」

「オレはこれから冒険者ギルドに行って、何か依頼がないか探してくるつもりだ」


 ぶわっと目頭が熱くなりました。


「贅沢をさせてやれなくてすまない」

「アグニいいいいいいい! ごめんなさああああああああああいい!」


 私たちは宿の前で抱き合って泣きました。私は大号泣しました。アグニもちょっぴり泣いていました。

 例え何人から奇異の視線で見られようとも、関係ありませんでした。

 アグニの胸でわあわあと泣きました。

 そして私は女神の言葉を頭の中で何度も反すうしていました。


『ルージュ、あなたも覚えておくとよいでしょう。いいですか。世の中、金です』


 しあわせは……おかねで……かえる……?


  @


 確かにお金があれば、人は幸せになれることもあるでしょう。

 それは女神でさえも肯定する、人界の真理の一つなのかもしれません。

 だがしかし。

 幸せとは決してお金だけではありません。

 心がボロボロになった私にさえも、そう確信させるだけの料理が目の前にありました。


「なにこれ美味しい!」


 私はいま、幸せを噛み締めていました。


「ああ! 美味い! 実に素朴だがなんというか、心が満たされるような味だ!」


 普段あまり食べ物を誉めない、食べられれば問題ない主義のアグニも大絶賛しています。


「そんなに喜んで頂けるなんて嬉しいわ」


 そう言ってたおやかに微笑む美人さんは、このオンボロ宿……コホン。温泉宿、オールドウッドの女将さん。

 その名もツーマさん。

 この激ウマ料理の数々を作り上げた料理人でもあります。


「たくさん食べて、ゆっくりしていって下さいね!」


 そう言って豪快に笑うのは若旦那のオットーさん。

 線が細いのに豪快な笑いが似合うイケメンです。

 つまりこの二人は美男美人のカップルという訳です。それも女将と若旦那。あの憧れのホワイトタブで、二人きりのおしどり夫婦で宿を切り盛りですよ! 信じられますか!?

 うらやまけしからなさすぎます。こんなこと本来許されません。断固許せませんが、だけど今は、今だけはこのトロトロ温泉卵に免じて見逃したいと思います……!


『ルージュ! ルージュ! 我にもその肉を一切れくれ!』

『なっ! ずるいですよ駄犬! 一度死した身でありながら、浅ましくも食を楽しもうなどと!』

『クハハハ! 幻影でしか顕現できぬクサレ神風情が! 貴様はそこで指でも咥えて黙って見ておれ!』

『きぃぃぃっ! ルージュ! その肉を決して渡してはなりません! これは啓示です! 聞こえていますね!?』


 初めての温泉に、女神と魔王もはしゃいでいるようです。寄り道してよかったですね。



 失意のままにチェックインした私たちを出迎えたのは、こちらにおわす美男美女ペア。オットーさんとツーマさんでした。

 外からはどう見てもオンボロ宿にしか見えなかったオールドウッドですが、なんということでしょう。いざ中に入ってみると清掃の行き届いた綺麗で素敵な空間が広がっているではありませんか。

 呆然とする私たちに対し、オットーさんとツーマさんは慣れたものだと言わんばかりに、丁寧に部屋へと案内してくれました。

 真心が伝わってくるような、お二人の誠心誠意のおもてなし。

 高価な食材こそ使っていませんが、だからこそ料理人の技量が分かるような熟練された手料理の数々。

 聞けば当然のように温泉にも入れるとか。

 それでいて、お値段はアグニの事前調査通りのお値打ち価格とくれば、アグニは勿論私にだって文句のつけようなんてありませんでした。

 エイピアのお宿とは何もかもレベルが違いました。

 ホワイトタブを正直ナメていました。

 外見だけで物事を判断してしまった自分が恥ずかしいです。

 認めなくてはなりません。

 人界観光における一等地、ホワイトタブで宿を構えるということがどういうことなのかを……!


 部屋へと案内された私とアグニは、その後二手に分かれました。

 私は観光へ。アグニは冒険者ギルドへ。

 アグニの衝撃のカミングアウトから路銀が尽きかけていることを知った私は、自分もアグニに同行したいと伝えました。

 元はといえば私のワガママが原因なのです。何か手伝えることがあれば手伝いたい。そうアグニに伝えたのですが、


『いや! これは男の甲斐性のようなものなんだ。君はゆっくりと休み、旅の疲れを癒してくれ』


 そんなことを言われてしまいました。乙女としては頷く他ありませんでした。

 実際のところ、溢れる魔力のおかげで私の体力はアグニを上回っています。生まれて初めて森に入ったラスタの森の一件でもちっとも疲れませんでしたし。

 ちなみにこのことはアグニも知っています。方便という奴ですね。まったく男の人というのはめんどくさい生き物ですね。

 私は軽くオールドウッドの中を探索したあと(小さな宿だったので、すぐに終わってしまいました)、町に出て自由きままにぶらついてみました。

 途中、とある露店でちょっとした力仕事をお手伝いしてほんのちょっぴりお小遣いをいただき、ご当地グルメっぽい甘いおやつを買い食いしたり、アグニにお土産を買ったり、温泉の滝を観光したりして過ごしました。あと足湯! あれは気持ちよかったです! 実体化して一緒に浸かった魔王共々、あまりの快楽にうめき声を抑えることができませんでした。長旅で蓄積されたあらゆる疲れが吹っ飛んだ気がします!

 オットー夫妻におもてなし頂いた時にも思いましたが、この町の人たちはなんと言うか、珍妙な人間に対して非常に深い懐で接してくれると言いますか、ぶっちゃけ私の魔力を見せてもそこまで引かれません。鋼の接客根性で普通のお客さんと同様の扱いをしてくれるので、私としては旅先というよりは落ち着ける故郷に帰ってきたかのような安心感すら感じます。これは嬉しい誤算でした。

 とても充実した時間を過ごした私は夕方を過ぎて宿に戻りました。しばらくするとアグニも戻ってきました。驚くべきことに、アグニは短時間で結構な額を稼いできました。


「こんなにたくさんのお金、いったいどうしたんですか!?」

「ああ! 町の裏手の山が鉱山になっていてな。たまたま堅い岩盤を爆破する仕事があった。割の良い仕事だった」


 アグニはニカッと笑って言いました。なるほど。それは確かにアグニの得意分野ですね。鋼の塊をサイコロカットするアグニの炎付き偽聖剣にかかれば、砕けない岩盤なんてないでしょう。

 その後、私とアグニは宿のお部屋でのんびりとした時を過ごしました。私が町で見聞きした事を話し、アグニが鉱山であった事を話したりしました。


「そう言えば、町中で開放されている足湯の辺りが騒がしかったな」

「ああ! 足湯ですか! 私も行きましたけど、もの凄く気持ちよかったですよ! そうだ、アグニも明日一緒に行きましょう!」

「そうか! やはり君だったか」

「どういうことですか?」

「うむ。夕方過ぎ頃から恐ろしい濃度の魔力が温泉に溶けだしたとかで、少し足を浸けただけでエリクサー並みの疲労回復効果を発揮する魔湯(まとう)と化したらしい。他にも異様な効能が幾つも発見されていて、湯質調査に役人達が大慌てしていた」


 なるほど。隣で足を浸けていた腰の曲がったおじいちゃんおばあちゃん夫婦が突然お姫様抱っこスタイルで走り出したのはそういう理由でしたか。


「しかし、そうか。君の残り湯にはそういう効果もあるのだな」


 アグニは私の顔をじっと見つめて何やら考え事をしながら、ちょっと聞き捨てならない事を言いました。この人は真面目な顔をしていったいどんな変態的なことを考えているというのでしょうか。乙女の残り湯をこの変態に渡すくらいなら、魔王の飲み水にでもしたほうがマシです。


『おまえはいったい我を何だと思っているのだ!?』

『いえルージュ。ここは勇者の聖水と銘打って空き瓶に詰めて売りましょう。勇者の残り湯というキャッチーなフレーズ。プレミア感。そして確かな効能。これは確実に売れます。早急に量産耐性を整えるのです』

『そんなことをしてみてください。人界にいられなくなった私は即闇落ちして魔王に即位しますよ?』

『今までにないまったく新しい金の匂いです! ルージュよ、乗るしかありません! このビッグウェーブに!』

『乗りません』


 そんな話をしているうちに時間はあっという間に過ぎて、やがて美味しそうなお料理が運ばれてきました。

 そして、今に至ります。



 私がホクホクと料理に舌鼓を打っていると、ふと向かいのアグニから視線を感じました。

 アグニは穏やかに微笑んで私を見つめていました。なんでしょう。保護者の心境でしょうか?


「結果良ければ……と考えてよいのだろうか?」


 私はほっぺに手を当てて、自分の表情を確認しました。

 そうですね、私はいま、笑っていたと思います。


「アグニ。しあわせはお金じゃないですよ」

「そうか! いやしかし、君がそれを言うか!」


 アグニは楽しそうに笑い出しました。女神に対するちょっとした意趣返しのつもりだったのですが、逆手に取られてからかわれてしまいました。まだまだアグニのほうが一枚上手みたいですね。

 勇者兼魔王の魔力補正は、口のうまさには通用しないみたいです。

 しばらくの間は今回の寄り道のおねだりと、アグニの胸で号泣した件でいじられそうな気がしますが、今なら私、大抵のことなら許せてしまいそうな心持ちです。

 頭の中で女神が悔しそうにうめいているので、それだけでもよしとしましょう。


「ところで、私たちのほかにお客さんはいないんですか?」


 私はずっと傍に控えている、オットーさんとツーマさんに尋ねました。私とアグニが美味しく食事をしている間中、ずっと二人はそこにいました。


「ええ。今晩のお客さまは貴女方だけですから」

「こんなにごはんが美味しいのに、お客さん少ないんですか?」


 私は悲しくなって言いました。


「リピーターは多いほうなのだけれど、なぜか一見さんが中々来てくれないの。どういう訳かもう廃業していると勘違いして、来た道を戻るお客さまも少なくないみたい」

「そうなんです。この宿は確かに古い宿で、分かりづらい場所にあります! しかし、私どもとしては趣と伝統ある良い佇まいであると自負しています! それを! それをよりにもよって廃墟と勘違いするだなんて!」


 ぷりぷり怒っているオットーさんには申し訳ないのですが、それはたぶんナナメかつボロボロになった看板のせいだと思います。


「あれもこの宿の味なんです!」


 この人意外と頑固ですね。


「まあそれはともかくとして、実はあと一人予約が入っているのですが、こちらは身内ですので」

「身内ですか」

「ええ。私の父が今晩訪れることになっているのです」


 オットーさんが顔をほころばせて言いました。


「このオールドウッドの先代の主人が私の父でして、数年前に後を継いだのです。なのでたまに宿の質が落ちていないかと様子を見に来るんですよ。私としてはいい加減に息子離れしてほしいのですけどね」


 その割にはオットーさんは嬉しそうでした。なんだかんだで愛し愛されているのでしょうね。

 そんなオットーさんを、隣で微笑ましそうに見ているツーマさんがなんとも印象的でした。きっと、理想の夫婦ってこういう人たちのことを言うのでしょうね。

 羨ましいなあ。


  @


 食事の後、私たちは待望の温泉に入ることにしました。

 が。


「こ、混浴ですか?」


 憧れのホワイトタブ、初めての温泉はまさかの混浴でした。

リエリアからホワイトタブまでは、直接来たとも幾つかの町を挟んだとも描写しない予定。なぜなら閑話ネタが増えるかもしれないから!

なにか良いネタがあったらこっそり教えてください。


という訳で殺人事件回です。

一応その3くらいで終わる予定ですが、次回予告に定評のない私のことですからその4から5くらい行っても不思議ではありません。


次回温泉回。弾ける肌色! 果たしてルージュの貞操は!? アグニの股間の運命や如何に!


ここから御礼。

初レビューを頂いてからPV数が目に見えて増加していて、アクセス解析をぽちぽちするのが最近の楽しみになっています。

ブクマ登録、レビュー、評価をつけてくれた方々には重ねて感謝申し上げます。ありがとうございます。


感想? そういえばそんな都市伝説がありましたね。

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