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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

巫女がブチ切れる話

作者: 熊五郎

「このバカタレ。ふざけたことぬかすのも大概にしとけや」


 シーンと静まりかえる周囲。みんな死んでしまったのかと思うほど、静かだった。原因は先ほどの私の発言のせいなのだが、とりあえず後悔はしていない。


 大塚さんの良い子ちゃんぶりには限界だった。大塚さんは私と共に『救世の巫女』として異世界に召喚された仲なのだが、どうも馬が合わない。大塚さんは巫女に相応しい博愛主義者で、「右の頬をぶたれたら左の頬を差し出しなさい」や「汝の敵を愛せよ」を地で行く人なのだ。そこまで清らかで優しくない私も、いつもハッピーエンドに解決してしまう大塚さんに一目置いていて、大目に見たり、見過ごしていたが、色々と積み重なった結果、今日ついにプッチーンと切れてしまった。


「そいつに生きる価値はないねん!絶対に殺す!」


「イヤよ!絶対に殺さないわ!」


 大塚さんの後ろには腰を抜かしてブルブル震える醜い男がいる。私の後ろには女性が引き千切られた服の上から騎士のマントをかき抱き、真っ青な顔で震えていた。そうだ、先にこの人をどうにかしないと。


「…魔術師様、その人をどこか安全な所に…。できれば、一晩付き添ってあげて下さい」


「…分かったわ」


女魔術師に女性を託し、この場を離れてもらう。いつまでも忌々しい男がいる場にいたくないだろう。



 私たち旅の一行は世界を救う旅の途中、立ち寄った治安の悪い街で女性が強姦されそうになっている場面に出くわし、無事未然に助け出すことができたのだが、大塚さんは「自分がされて嫌なことを人にしてはいけないわ!」と小学校の先生のようなお説教を披露すると、何をとち狂ったのか「二度とこのようなことをしてはダメよ」と見逃そうとしたのだ。そこで私は逃げようとした男に剣を向け、大塚さんが男を庇った。そしてこう言ったのだ。


「今村さん、大丈夫。この人はもう反省してるわ」


そして冒頭のセリフに至ったわけだ。


本来なら近くの警備兵などに託すのがベストなのだが、何せこの街は治安が悪すぎてそういった警察的役割が存在しているようで、何の効力もないのだ。なので、ここで犯罪は日常茶飯事。強姦されても泣き寝入りするしかないのだ。それも、生きていればの話だ。


「ねぇ、どうしたの今村さん?そういえば、関西出身だっけ…?」


「なぁ、大塚さん。分かるやろ?今そいつを殺さな、また被害者が出るねん。お前はその責任を取ることが出来るんか!?あぁ?」


 それをどうしたものかと見守る騎士と王子。こいつらは大塚さん贔屓だが、さすがの今回はどうなのか、様子を見守っている。


「そんなの、分からないじゃない。ちゃんと反省して、これから悪さはしなくなるかもしれないわ!」


「はあぁあああッ!?同じ人間とは思われへん思考やな!」


 一体どう育てばそんな神々しいお考えが出来るのか。私はどちらかというと優しいに部類される人間なのだが、大塚さんを前にすると同じ優しいとはまた違うものだと実感する。


 確かにそうだ。あの男が罪を繰り返すかどうかなんて、誰にも分からない。大塚さんの言う通り、心を入れ替え真っ当に生きるかもしれない。

だけど、私は信じられないのだ。強姦された人の気持ちなんて到底理解出来るものではないし、推し量れるものでもない。しかし、いつまでも震えている女性を見ていると、その怒りや恐怖が私にも伝わり、この男をどうしても生かしてやれなくなるのだ。


「もし、また女の人を襲ったら!?その時、被害にあった人はどうなるん!?責任取れるんか?無駄な被害者出す前に、元凶を消せばええやん!なんでそれが分からんねん、このアホんだら!!」


「なっ!ぜ、絶対にしないもん!あんなに反省しているんだから!チャンスをあげてもいいじゃない!」


「じゃあ、あの男と二人っきりで全裸で一晩過ごしてみろや!!それで証明してみろよ!」


「おい、やめろ!いい加減にしないか!!」


 止めたのは騎士だった。今にも大塚さんに飛びかかりそうな私を後ろから羽交い締めにした。


「放せえええぇぇ!!このアホんだらぁあああ!どつきまわしたる!!」


「さっきからどうしたんだ!言葉が乱れているぞ!落ち着け!!」


「これが素じゃああああ!ぼけぇええええ!!」



 結局、そのあと強姦男は警備兵の駐屯地に連れて行かれた。私は騎士の男に引き摺られ宿に帰った。


「落ち着いたか?」


「…はい。でも、反省はしてません。だって、私間違ってないです」


「あぁ、間違ってないさ」


 騎士は憂げな顔で私を見ていた。クソ、このイケメン。いつも大塚さんの味方だったくせに、急に味方しやがって。


「だが、君は巫女だ。巫女が殺せなんて言葉を乱用してはいけない。それに、リオンに対してあの暴言はいただけない」


 リオンとは大塚さんの名前で、やっぱり騎士は大塚さんの味方だった。


「どうしてですか?あの男が罪を繰り返さないかどうか、彼女が立証すればいいじゃないですか。それで大塚さんが犯されずに帰ってくれば結果良しですよ。まあ、大塚さんなら強姦されたとしても、許してしまいそうですけどね」


「…君に慈悲の心は無いのか」


「慈悲?なんですかそれ」


よく慈悲なんて言えたものだ。家族から、友だちから、世界から、私を引き離したくせに。私の大切なものを奪っておいて。


「君は巫女としての自覚が足りない」


「何度も言ってるじゃないですか、私はただの女子高生ですって」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 関西弁が良いです。暴言(笑)に勢いがありますな。 [一言] 巫女と関西弁の暴言というミスマッチが良いですな。ワシも関西弁、好きなんで、読んでて楽しいです。 関西弁、書き続けてくださいまし…
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