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ステャルナ・ミラム─ファティマ─

作者: しげもり

授業が終わり、浩多は新しく出来た友達の誘いもそこそこに家に走る。玄関に靴を脱ぎ捨てて、慌ただしく部屋に入る。


「コラ浩多ー!!靴くらい揃えろよ!!」


母が居間から叫ぶがもう浩多には聞こえていないようだった。

なんで。なんであんな夢を見た?痛みさえ現実になる夢。また眠れば『続き』が見られる…?



一刻も早く“レニー”の顛末を知りたくて───今すぐ眠りにつきたかったが、興奮と緊張で眠れる訳が無かった。

制服のままベッドに入っていて、気がつけば深夜だった。漸く眠りに落ちた。

普通ならここで『意識』がなくなる筈なのだが、浩多には解っていた。この感覚──落ちていく──“夢”へ───


ガクン、と、“レニー”が目を覚ます。ベッドの暖かい感覚。ふと周りを見回すと、そこはベッドが二台とキャビネットだけの簡素な部屋だった。入り口の方から声がした。


「ハーイ!ここは宿屋だよ!一晩100リンだよ!!」


宿屋なのか……確かに街道でモンスターに襲われて倒れたのに………


遠く聞こえたNPCの声に浩多は倒れた時のあの白い空間に居た少女を思い出していた。

「あの子もNPCなのかな…」

ぽつりと呟いた。すると突然近くに声が聞こえた。


「あの子って?」


びくりとして声の元を見る。そこには黒い長髪に黒い服の剣を携えた男が座っていた。


「うわぁっ!」


「なんだよー命の恩人にビビってんなよー」


男は妙に間延びのする喋り方で飄々と話す。


「最初の街でゲームオーバーとか、お前どんくせーなー」


「ちっが…」


「お前名前はー?」


いきなり現れた男にゲーム下手を指摘されて赤面している浩多に男は構わず質問する。


「ああー…えっと……レニー=ハウザーって言うらしいッス…」


「“らしい”て」

そう言って男はひゃひゃとひとしきり笑った後にこう言った。

「俺はファティマ。ファティマ=ネーベル。レニーは何時からログインしてんの?」

男のさも当たり前の口振りにレニーは聞きたい事を全て聞いた。

「これって俺の夢だよね!?続きみたいだし…ていうかNPCじゃないんだ…俺の夢?あんたの夢?」

レニーの慌てふためく姿を見てファティマは抱腹絶倒だった。

「──ヒッ──あーあ…ちゃんとチューニングしろよ~!ここは“俺の夢”“お前の夢”──牽いては世界各国のアカウント持ってる奴ら全員の“夢”だ。」


「アカウント…って、俺も持ってるのか?」


「当~然。大体はアクセサリー形式なんだけど。」


アクセサリー…そう聞いてレニーが思いつくのは一つしかない。──父に託されたブレスレット───

ふと手元を見ると、服も姿も現実放れしているのに、あのブレスレットはそのまま“レニー”の左手首に着いていた。それを見てファティマはポンと言う。


「そうそうソレソレ!─……オニキスか。俺はガーネット。」

ファティマの右耳に血のような赤黒い石の付いたピアスが光る。

「これ外せばログインもログアウトも出来ないからな。気ーつけろ。」

「──あ──…ッス……」

歯切れの悪いレニーにファティマは何故か興味津々の様だ。落ち着きなく狭い室内をうろうろしながら話し続ける。


「そーいやーレニー君、なーんで剣なんか持ってんの?使えないでしょーに。」


「えっ?解るの?!」


ファティマはニヤニヤ笑って答える。

「だーからチューニングちゃんとやんなさいよー。対応武器の話されたでしょ?」


「えっ、されてない……」


レニーの言葉にファティマはよくわからない顔をして再び問う。

「えっ…チューニング誰だった?」


「えー…と…シルヴルって言うやつ?」


それを聞くや否や、ファティマはがくりとうなだれる。そしてむにゃむにゃ何か文句を垂れている様子だった。


「あー、まあそれは…災難…」


フォローの仕様が無いようだ。そして漸くレニーが寝ているベッドの隣にドカリと座って話し出した。


「“アレ”のチューニングじゃ禄な話されてねーだろ。どーよ?俺がシステム教えちゃるよ?」


「マジですか!助かります!」


「イヤもーマジですよー優しいお兄さんだろー?お金も今なら超格安ですよー?」


「あっお金取るなら要りません。」


あまりの退き際の良さにファティマは笑顔のまま固まる。

「──あれっ?いいの?またゲームオーバーだよ?」

しかしレニーも普段あの母親にガッツリ教育を受けている。締めるところは締める。

「最初に剣買っちゃったんでお金ないんで。堅実に雑魚倒して慣れます。」


ファティマも顔を渋らせる。どうやらこの話がしたくてレニーが目覚めるまで待っていたらしい。

「後払いでもいいからぁ~ねぇ~!」

最早どちらがお願いしてるのか判らない状態になっていた。なんだか馬鹿馬鹿しい様子なのに宿屋の店主は変わらず大声を出して客寄せをしていた。店主は明らかにNPCだ。

レニーは根負けした風に

「あー…じゃあ、良いこと教えてくれたら後払いで…」

するとファティマはぱあっと元気になり

「素晴らしいね!じゃあ早速街道行きますか?!稼いだリンは今日の飲み代だな!」


レニーは激しく後悔するような気がしてならない。

街道に出るなりファティマがレニーの持ってる道具袋から泥団子のような物体を取り出した。

「うわっ、なにそれ!」

「モンスターの餌だよ~。まずゲーム始めたら何持ってるか見よう?」

すると二人のヘッドホンから『エンカウント!レベル4グリズリー二体!』とアラート音が鳴る。

「ぎゃあ!出たあ!!」

レニーにとっては倒れたのはつい先程の事だったので、鮮明に痛みの記憶が蘇り焦りを見せる。それを見たファティマはケラケラ笑いながら剣を構える。鞘から抜き打たれた剣は刀身と柄に微細な装飾が為されていた。


「落ち着けー。レベル4だぞ?楽勝楽勝~!ホレ、レニーくんも武器構えて!」


そう言われ慌ててホルダーから銃を抜く。最初に銃を打った時には気付かなかったが、この銃にも細部に波打つような装飾が施されていた。紅い銃身と相まって美しいと感じた。ヘッドホンから『認証。攻撃を開始してください。』と音声が聞こえる。

ファティマは剣を走らせ、モンスターに斬撃を二度、流れる様に与えた。モンスターは断末魔を上げて消えた。そこに光る物体が幾つか落ちた。


「こ~んな感じだ。お前もう一体いるから試してみろよ~!」


ファティマに促され、レニーは向かって来るモンスターに狙いを定め、引き金を引く。

すると銃から銃弾ではない、赤黒い炎が一閃流れ、咆哮のような音を出しながらモンスターを一撃で消し飛ばした。ファティマはその様子を見て呆気に取られていた。当のレニーですら、こんな物があるとは知らず驚きに満ちていた。ヘッドホンから『レニー=ハウザー、レベルアップ。レベル5、スキルの取得はありません。』と、電子音が鳴った。


「ちょちょちょ、おま、武器見せろ!」

そう言ってファティマはレニーの手から銃を奪い取り、また何か見た事の無い道具でそれを調べていた。そしてその結果を見て唖然とした様に呟く。


「“ブラッド・ハウンド”……Sクラス武器じゃねえか……!」


「“ブラッド・ハウンド”?」


聞き返すレニーにファティマは信じられないように答える。


「これは『最後の街』まで行ってたって特殊条件揃えなきゃ手に入んねー超レア武器だぞ…?なんだってゲーム初心者のお前が持ってんだよ…!」


そう言われてもレニーには全く解らなかった。始めから持っていた物だし、そもそも夢の中でこんなゲームをするとも思っていなかったのに。


「いや、覚えて無いし…強い武器なんだ?」


ファティマはまだ驚きを隠せずに興奮気味に話した。


「お前……凄い事なんだぞ!?『始まりの街』は強くてもDランク程度のモンスターしか出ねぇけど、この武器持ってりゃ今のレベルでもBランクのモンスターでも倒せるぞ!」


「えぇ!?じゃあ一気に進める!?」


喜ぶレニーを漸く落ち着きを取り戻したファティマが諫める。


「いや、止めた方がいいな。“レニー”のレベルが低過ぎる。敵の攻撃食らったら一撃ゲームオーバーだ。」


レニーは少しがっかりしたように口を尖らせたが、ゲームにおいてのレベル上げの重要性も解っているつもりだったのでファティマに従う事にした。



それから二人はモンスターを何体か倒して金を貯める事にした。その間レニーのレベルも上がり、レベル8になる頃には空が黄昏に染まっていた。


「──し!こんだけありゃ今日は楽しめるぜ!」


「おお…!!慣れると戦えるようになってくるんだな。」


そうして宿屋に戻ろうと街道を遡っていると、突然視界の先に影が落ちた。不思議に思い視線を上げると目の前に巨大な岩が降って来た。レニーはファティマに身体を引かれ、間一髪難を逃れた。


「───!?──」


二人に緊張が走る。すると崖の上に人影が見えた。レニーはその人物を見て不意に自分があの時見た、白い空間を思い出す。


そこには薄青の髪の瞳の紅い少女が立っていた。表情こそ読み取れなかったものの、発した声に憤りが滲むのがわかった。

少女はその紅い瞳をギラリと光らせ、こちらを睨み付けた。






「“レニー=ハウザー”……!!」






───nextend────

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