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とある悪役転生者の物語

悪役坊ちゃまは決意する

作者: 水銀(hg)

あれこれ考えたけど、やっぱり勢いって大事。

またまた、ほぼ勢いで書きました

 ――――――学生の本分が学業であるというならば、一族の長の本分とは一族を守ることだろう


 ゲームの開始である四月初頭の入学式が終わり早二か月と少し。夏の本格的な暑さの前にの雨の季節真っただ中の曇天のある日、俺はノックもすることなく年季の入った扉を開け放った。


「戻られましたか、総帥」


草加くさか、明日の朝に緊急会議を開く、各方面に出席するように伝えておけ」


「明日は学園に通われるのでは? 」


「北米支部が泣きついてきた。どうやら向こうのコミュニティに干渉した馬鹿が盛大にやらかしたようでな、供鳳院傘下(おれたち)にも酷く影響が出ているとのことだ。おかげで今夜は妹の顔を見れそうにない」


 最後の発言に苦笑した直属の部下である草加が、早速仕事に取り掛かるの。正直言って精神力といったものを削り取っていく類の話であったために、弱音の一つでも吐いて気分を楽にしたいが部下の手前なので自重しておく。


 今の時間帯は平日の昼下がり、場所は供鳳院本社最上階の執務室。高校生という肩書持つ俺は本来、通うべき恰好施設において授業を受けてなければならない時間帯である。無論、自分が仕事をしていることを学校側は認識しており、そのために学園を訪れないなどあちら側も百も承知だ。


 お坊ちゃま、お嬢さま達が集められた『私立葛乃葉学園』。そこに通い、卒業する事は一種のステータスとされ、いわゆる『上流階級』や『貴族』、『華族』なんて呼ばれる界隈では重要視されている。と、いえば聞こえがいいが実際は数あるそういった『セレブ用教育機関』の一つに過ぎない。


 家庭教師によって10歳の時にすでに高校生レベルの教育を詰め込まれていた俺からすれば、いまさら学園に通うというのは無意味なものであった。


 一応通うことになった私立の中学校は適当なところに在籍だけしておき、週に一度課題を受け取って提出するだけというドライな関係であった。


 卒業後は高校に進学するのではなく、これまで通り供鳳院家の当主としての仕事に専念するつもりであったし、実際に高校は受験することなく卒業を迎えた。


 当時は知らなかった話だが、そういった『教育機関』による俺の熾烈な争奪合戦が起こっていたという話だ。中には海外からの参戦もあったとか、聞いたときはさすがに眉をひそめ密かに妹の進学先候補から抹消したが。


 奴らはその程度で引き下がるほど奴らも柔ではない。現役合格ではなく一年浪人してでも入学を、と押してくる『教育機関』も多々あった。というか、ほぼすべての『教育機関』が、何かしらのアプローチを仕掛けてきた。


 当時は家の立て直しが終わり、傾いていた企業が一転して拡大と発展を始め軌道に乗った矢先のことだったと記憶している。そんな俺に堂々と正面から取引を持ちかけてきた『教育機関』……いや『一家』がいた。


 ある程度予測できだろうが今現在在籍している『私立葛乃葉学園』を経営する『葛乃葉』だった。物語の舞台であり、実家の屋敷から車で30分程度という立地もあって妹を中等部に通わせていたことも、相まって面白いものだと鼻を鳴らしたのを覚えている。


 交渉の席に着いたのは、送られた手紙の文面から感じた、拭い去れない違和感。当時から俺の下にいた草加も同様の違和感を感じたことから、実際に会ってみることにした。


『妹を、どうか妹を助けてください』


 話を持ちかけてきた葛乃葉の当主と対談に臨んだ俺は、顔を合わせた瞬間に土下座と共にその言葉を耳にした。詳しくは省くが、学園内において葛乃葉家当主の歳が離れた妹が危機にさらされているという。


『葛乃葉』の一族は中立である。


 セレブ用教育機関を運営している都合上、家同士のもめごとであったとしても葛乃葉の一族は決して一方に肩入れしない。


 上流階級、一般家庭問わず常にニュートラルでありつづける。たとえそれが自分たち一族が関わっていたとしても、『家』としては関わることはない。我々の界隈では当然のことであると認知していたし、いくつかの事例も耳にしていた。


 その中立で不干渉を掲げていた葛乃葉が、わざわざ助けを求める発端は学園の運営に携わる理事会内部での抗争の激化であったらしく、とある編入生がきっけけで水面下であった抗争が表面化したらしい。


 いくつかの懸念はあったものの、提示された条件はあまりにもこちらに有利すぎるものだった。一瞬、罠ではないかと疑って今うほどの条件に『本気か!? 』と、年上相手に敬語を忘れてしまったほどだ。


 家として保ってきた絶対中立のスタンスを捨ててまで助けを求めたのは、偏に妹への愛だった。急激な成長の真っただ中にありどの家も無視できない『勢い』をもつ俺の元に、僅かな縁だけを頼りに培ってきた歴史すべてを投げ打ってでも、妹を助けたいという思いだった。


 彼の妹への愛に共感した俺は、取引を受け葛乃葉学園に一年高校浪人する形で入学。


 一年浪人で入学した学園は、理事同士の抗争に漬け込んで生徒会が暴走し、いじめや暴力が横行していた。


 そして生徒会の面々の暴走の原因は、例の火付け役となった転入生。お姫様に愛されたい一心で、生徒会の王子様たちは彼女にかまってばかりで、本来の役目を果たしていないという有様だった。


 そんな惨状だったために、一部の生徒の怒りが経営者一族である葛乃葉に向き、当主の妹に悪意となって降りかかっていた。


 更には根も葉もない『葛乃葉は経営者であることを傘に好き勝手している』という噂が例の転入生の耳に入り、何をトチ狂ったのか生徒会の王子様を連れて直接相対するという事件まで起こした。というか、俺の目の前で起きた。


 とりあえず、その場は供鳳院の名前を使って解散させ、即座に馬鹿どもの実家には金とコネを使って圧力と脅しをかけ、彼らの行動を制限させた。


 脅しが利いたのか気持ち悪いくらい従順な彼らの実家をこき使って悪事を調べ上げ、学園内部に抗争を持ち込んだ理事ごと徹底的に締め上げた。一応言っておくが締め上げると言っても、物理的ではない。


 この一件における唯一の汚点というか苦い味だったは、特に酷かった阿保の家か没落し屋敷まで援助を請いに押しかけて来た事だ。あたかも、これから自分がたどることになるかもしれない末路を、自分の手で作り上げたようだったことが直視したくないものだった。


 結果として、一度生徒会は解体され理事会の再編に伴い、生徒会の持っていたいわゆる『特権』は全て取り上げられ、実権の無い教員達の使いっ走りと化した。理事会の暴走をきっかけに実家の威光を後ろ盾に好き勝手していた生徒会に対し、教員達の不満は爆発したと言っても過言ではなかった。


 話は逸れたがその時の取引によって、様々な理由を付けて授業を休み、企業を束ねる供鳳院当主として働くことができるようになったわけだ。


 無論部下に仕事を押し付けることで、週に2日程度は学園に顔を出せるようにしている。だが大抵は正午過ぎ頃から夕方あたりに草加や副社長、傘下の重役達らのヘルプが入ったりする。


 たまに外部からの会食の誘いが来たりと、終業まで学園に居ることは稀である。前に二日連続で登校しただけで、担任教師が白目向いていた。人をいったいなんだと思っている。


 本音を言えば、毎日でも学園に通って物語の推移を確かめておきたい。一週目は強制的に彼女のルートに突入する仕様だったために、少しでも情報は欲しい。しかし一方で、急激に成長した企業を維持できる人材の当ては、残念ながら存在していないのが現状



「そういえば総帥、如月の御嬢さんこんやくしゃとは進展はありましたか」


 自分の執務机の上で書類に目を通しながら試行していると、作業の休憩に入ったらしい草加から声がかけられる。


「解りきったことを聞くな阿呆」


「いえいえ、同じ学園に通われて早一年と少し。いくら冷め切った間柄でも、青春の熱で少しは温まらないかと思いましてですね」


「給料切るぞ」


「つれませんねぇ」とつぶやいて業務に戻る草加。全く、そんなに俺を如月がらみで弄りたいのかっ!! それとも何だ、最初に実力でねじ伏せたことを、まだ根に持っているのか。


 ――――――いやまあ、如月が俺を弄る格好のネタだとは理解しているが。


 今現在、俺と万葉の関係は、完全に冷戦状態にあると断言できる。そこに至るまでの経緯を語るには、まずは彼女の家……如月家について語らねばならん。


 彼女の家は成り上がりと呼ばれる、比較的最近俺たちの界隈に参入した家である。


 そういった家では、血筋よりもまず実力が優先される傾向にある。せっかくセレブと呼ばれる世界に足を踏み入れたのだ、入って早々潰れたくはないので家を維持できる人材を優先するのは当たり前と言える。


 当然、彼女にも後継者として相応しいだけの教育が施され、同時に彼女も教育相応の結果を出している。しかし、彼女にとって屈辱ともいうべきなのが俺の行動すべてであった。


 最初、如月家にとって供鳳院家は『足元見て取引できる家』であった。


 自分もそう思うし、父もそう思っていただろう。家の復興のためには表向き養子である妹ではなく、長子である俺を婿養子に出さねばならなかった事が如実に語っている。


 そうであるがゆえに、彼女にとって俺は『何をしても許される玩具のような存在』であったといえる。


 俺が家の実権を握った後、妹のためにと神経をすり減らしながら働いた結果、供鳳院家と如月家とのパワーバランスは逆転。今度は『血筋と歴史をを分けてくださる家』という形に変化してしまった。


 普通であればそこで関係に変化が訪れるものだが、それを狙っていた俺にとってみれば予想外の結果となった


 ――――――彼女の個性キャラである高すぎるプライドが、誤算の最大の要因であったことに後になって気が付いた。


 作中ゲームでも描かれていたが、彼女はプライドが高い女だった。いやまあ、作品では主人公が落としたるーとはいった後のギャップにやられた奴も多かった。とかいう俺も前世では……脱線したようだ、彼女のプライドの話に戻そう。


 俺という下僕を従えていた彼女は、生まれ持ったプライドから俺に対しては、それこそ犬を虐待するかの様に横暴に振舞っていた。俺はその様に、前世から知っているとはいえご褒美などと言える剛毅な人間ではない。


 というか、俺のすぐ傍には妹という名の天使がいたために、間違っても恋情を抱くことなんてなかった。妹がかわいすぎて、彼女に削られた気力を回復してもらう方がよっぽど重要だった。


 まず最初に、自分が意識されていないことが彼女のプライドに傷をつけた。


 それに続くように、家を発展させた俺の能力にプライドを傷つけられた。


 そして最後に、見下す側と見下される側の逆転で彼女のプライドは砕け散っった。


 プライドが砕けた彼女が、俺に対して抱いたのは憎悪である。逆恨みもいいところだと言いたいが、結果として物語同様に彼女が一方的に俺を嫌っている、という状況が出来上がったのは思ってもみない誤算だった。


 世界の強制力、と考えれば楽ではある。しかし、そう考えてしまえば、未来は変えることのできないと決めてしまう。しかし、一方で本来の立ち位置と異なる状態、物語は始まった。その(ひず)みが運命のトランプタワーに対して、決して少なくないダメージとして蓄積されていると思いたい。


 ーーーーーギャンブルはまだ始まったばかり。この時点で焦る必要は無いが、かと言って手を抜く必要は常に皆無である。猶予期間(これまで)のように、ゲーム終了(かっておわる)まで常に全力で進んでいくだけだ。


 まずは、妹と会話する時間の確保だな。今夜話せない分を、どこで補おうか。いや、広い部屋しょくどうで一人で食べさせるというのも問題だ、時間を確保してレストランで夕食にるるするというのも悪くない。なるべく一人ぼっちにはさせたくない、何か理由をつけて彼女と居る時間を作らねば。


 ……何だ草加、その生暖かい目は。本当に給料減らされたいか? 俺は一向に構わんぞ。






 ◇




 往々人間とは、唐突に非現実的な事象に遭遇した場合思考が停止する生き物である。



「あら、供鳳院くんおはよう。今日は学園に通えるのね」


「貴様も大概だな、倉橋(くらはし)。それとーーーー」


 人間椅子。大抵は四つん這いにさせた人間の、背中を椅子にするもの。たまに土下座させた上に座るというのもあるが、形式はともあれ屈辱的なものである。


「おはようっ、ございますっ、供鳳院さんぎぃ! 」


「あらあら、最近の椅子は喋るのですね。」


 乗馬鞭、馬の厚い皮膚を通して痛みを与えることで追い立てる為に、人間に対して使うのは威力がありすぎて危険とされている代物。もしくは超のつく上級者向けの代物。使い込まれているのか、程よい味がある。


 かつて妹と初顔合わせの後に、母が父を肉体的に追い詰めるのに使っていた。小学校上がったばかりの年齢の息子の目の前で、笑顔で父親を鞭打ちする母親は恐怖と言う形で否応が無しに覚えている。


三日月(みかづき)お前はまたやったのか」


「違います! 今回は冤罪です! 助けてくだいぎぃ!」


「椅子は喋っちゃいけませんって、習いませんでした?」


 パシィン、パシィン、パシィン。


 乗馬鞭が人体を叩く音が、昇降口脇から響いている。なんで朝からアブノーマルな光景を見せられねばならないんだ。


「先に行って構わん。俺はこいつらを処理しておく」


「わかりました、お兄様。では、先に失礼します」


 共に車から昇降口へ向かっていた妹を、先に行かせる。深い理由は無い、ただこの光景は、妹にとっては毒だと判断したまでだ。


「倉橋、一旦三日月への制裁を止めろ。喘がれては、話が聞けん」


「喘いでませんよ! 」


 人間椅子に全体重を掛けて座り、鞭で打っていた人物は、倉橋美代(くらはしみよ)。母譲りのウェーブのかかった赤髪が特徴の、そこそこ付き合いのある家の令嬢。


 一方で、人間椅子にされて、鞭で打たれる側の男子は三日月周(みかづきあまね)。かつては、放蕩息子と呼ばれていた元問題児。昔は染めて金髪だったが、今ではただの黒髪である。


 二人の関係は、婚約者同士と言う何の捻りもない関係。


 元問題児の三日月は金遣いが荒く、女遊びにも手を出していた愚か者。ギャンブルへの布石として、使える手駒を増やすために潰してから拾い上げようとしたいた。そこに待ったを掛けたのが、散々裏切られてきた倉橋だった。女遊び手をされてもなお、婚約者を庇おうとする姿は、当時は健気なものだと鼻で笑た。


 興味本位で話してみると、健気な外面で封じ込めた本心が露わになった時は、不覚にも声を上げて笑った。


 幼少からの教育で「いい子でなければならないと」刷り込まれた彼女は、側からみれば健気にも婚約者を思う可哀想な奴に見えた。


 教育によって抑圧された本心は、時間とともに強大に凶悪に育ていた。その仮面の奥のものに気がついた時は、手駒にしようとしていた三日月に不覚にも哀れみを覚えた。


 重度の独占欲と、極度の加虐要求を併せ持つ生粋のサディスト。それが彼女の正体であった。


 あの時は楽しかった、屁理屈こねて「いい子」であろうとする倉橋を、言葉を使って分厚い化けの皮を剥がしていく。被ってきた『いい子』の仮面が、本性を必死に否定する様は見ものだった。


 一度本性を自覚してしまった倉橋は、あっさりと仮面を。具体的にはその日のうちに、三日月を恐怖によって従えさせた。内容は不明。聞き出そうとすれば、顔面蒼白担って震えだすので不明。手駒を増やす方法として、知っておきたかった話せないのであれば仕方ない。


 それ以降、二人して俺の手駒として学園内で、活動させられるようになった。たまに倉橋による『お仕置き』によって、三日月が行動不能になることもあるが。


「さて、貴様ら本題に入るとしよう」


 貴様ら二人は、俺にとって学園内で使える数少ない手駒だ。俺に従う限りは相応の見返りをきちんと用意しよう。


「俺が学園に居ない間に起きた、奴がらみの出来事を一つ漏らさず報告しろ」


 丁度人も居なくなったことだ、遅刻早退なんざ日常茶飯事の俺にとってはホームルームの欠席は痛くもかゆくもない。


「ではまず、何から話しましょうか」


「奴の直接的な動きから話せ」


「そうですねぇ、私の集めた情報では彼女の動きはありません」


 時期は六月半ば、梅雨の季節。作中では明確な日付は示されていなかったが、この時期に相傘のイベントがあったはずだ。梅雨の雨は小休止に入っている状態であるため、ま駄起きていない起きる可能性も捨てきれない。それとも、


「徹底的に、下に口止めをさせたか」


 スキャンダルの芽は徹底的に潰しておく。奴の行動の中で真っ先に該当する行動だ。


「その可能性もありますねぇ。全くと言っていいほど情報が入らないことからも、逆に怪しいですわね」


「一応補足しますけど、男子の方でも全く情報が流れてないです。パッタリと途絶えてます」


「それで、配下の動きはどうなっている」


「それがですね」


と倉橋が一端言葉を切る。


「どうやら、一年生の切り崩しと取り込みを行っているみたいなんです。それも、割と派手に」


「続けろ」


「一年生の間で彼女の派閥は二割に満たない程度でしたが、ここ半月で急激に増加しているんです」


 一年生の切り崩し。地盤固めといえば聞こえはいいが、頭数だけ増やしたとこれでまとめるべき人間が居なければたやすく瓦解するのがオチでだ。


「男子の方も似たような感じです。結構派手に勧誘されてるみたいで、日和見主義のひよってる奴らが巻き込むなって愚痴をこぼしてます」


「妙、といえば妙だな」


「それと未確認ではありますけど、実は――――――」


 倉橋の語る情報が耳に入ってくるたびに、少しずつ頭の中が冷めていく。暗く冷たい水底へ沈むように、黒いモノが滲んでいく。


「ここから先は憶測になりますが、今回の派手な切り崩しの裏と何か関係があると思われます。」


「……そうか、有益な情報を感謝しよう。もういいぞ、俺はやることが出来た。それと三日月、あのホテルは供鳳院うちの傘下だ、慈悲は無い」


 冷め切った心からは一転してどうしようもない苛立ちと、怒り、そして後悔が湧きあがってくる。傲慢なのはどちらなのかと、鏡を突きくけられた気分だ。酷く、気分が悪い。





     ◇





 今回ばかりは優秀な手駒に感謝しよう。どうやら、お前の憶測は的を射ていたようだ。


「こうして学内で顔を合わせるのは久しぶりだな、妹よ」


「お兄様……どうしてここに」


―――――妹よ、君のそんな顔は見たくない。


「愚問だな妹よ、お前の性格であればどう動くのかなんぞ予測的る」


「でも……」


「優秀な手駒による情報だ」


 一歩彼女の元に踏み出す。ビクリと彼女の体が震える。


「お兄様、私は、私は供鳳院の――――――」


「もういいんだ」


 抱きしめる。


 妹の華奢な体を抱きしめる。


 力を込めてしまえば、そのまま折れてしまいそうな体。こんな体で彼女は、罪もなく極大の悪意をぶつけられたのだ。立場も関係も兄妹事情も全部抜きにして、彼女を抱きしめる。


「泣いていいんだ、祈。いっぱい泣いてしまえ、俺が許す」


「おにい……さま? 」


「最初からこうすればよかったんだ。クソくだらないプライドを持ていたのは俺の方だった。俺のせいでお前を傷つけた」


 ああそうだ、ギャンブルゲームなんて言ったが所詮はプライドの問題。頑張ってきたのだから、物語の舞台で勝利したいなんて考えた俺の過ちだ。俺の過ちが、大切な宝物いもうとを傷つけた。


―――――本末転倒もいいところだ。


「そうだ、俺の犠牲にしてでもお前を守ってみせると、あの日誓った、だから力を求めた」


その結果がこれだ供鳳院我道、己の過ちから目をそらすな。


「祈、おまえは俺の宝物だ。あの日、ただただ枯れて死んでいくだけだった俺の心に、水となって入ってきた。俺の世界に色を付けてくれたんだ」


―――――だから


「これから先、どんな悪意からでもお前を守り傍で支えてみせる。この俺に、お前を守らせてくれ」


 静かに涙を流し始める妹の髪を手で梳く。固めの自分の髪と違って、やわらかく手触りの心地いい髪だ。足元に散らばるのは、ズタズタに引き裂かれた妹の教科書(・・・・・)と体操服(・・・・)。妹はこれを、学園内に設置された焼却炉で廃棄しようとしていた。


 俺の妹はいじめを受けていた。そしてその主犯は俺のよく知る人物。目的はおそらく、俺に対する精神攻撃。


 ならばこちらも相応の報復と行こう。クソのような賭け事(ギャンブルゲーム)は強制中断。ここから先は実力行使がモノを言う。ディーラーが居なければイカサマも意味をなさないこの勝負。貴様が舞台で踊るために役者を引き摺り下ろすなら、おれは舞台そのものを公演中止にしてやろう。

かわいい妹って、正義だと思います。主人公は二回、妹で覚醒した猛者です。


地の分が多いので、精進して会話を多く文章に盛り込めるようになりたい。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう更新はされないのでしょうか? 更新待ってます‼︎
[一言] 続編お待ちしてます!
[一言] 面白かったです。 早く、速く続きをお願いします!
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