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続 椰子の風に吹かれて  作者: 佐々木三郎
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水 練

                  


                    水 練


 水練が始まった。捕虜は棟梁、監視員はダニロが教えることになった。バーナード1000ペソで教えてやるぞ。教えてください。よし。カーシムが俺たちもかとふくれる。俺、全員と言った。イエスサー。分かれて水練。

 バーナードお前も母親の腹の中で泳いでいた、思い出せ。え、覚えていない。そのうち思い出すさ。プールサイドで顔を水につける。息を吐く。顔を上げる、息を吸う。ゆっくりやってみろ。そうだ、水の中で長く息を吐く。よし、摑まってバタ足だ。足首を柔らかくしないと推進力が生まれない。


 水を飲んでバチャバチャやるのもいる。棟梁休憩するか。そうだな。全員上がれ。カーシム大佐、プールサイドに監視員を置いたほうがいいな。イエスサー。ここの所長は安全管理が下手だからな、と嫌味。兄ちゃん、溺れているのを引き上げたら500ペソのボーナスがでるぞ。本当ですか、大佐。ああ、としぶしぶ答える。俺頑張る、ダニロみたいになる。でも、溺れる奴そんなにいるかなあ。そうだな、めったにいないな。監視員は200ペソ手当が付くと大佐が言ってたぞ。カーシムが坂本を睨む。


 常男が日本泳法を見せると棟梁が競泳を申し出る。捕虜の一人が加わる。100mのスタート。捕虜が飛び出す、リードを広げてゴール。棟梁、常男の順。捕虜から大歓声。今度は200m。棟梁、捕虜、常男の順。最後400mだ。常男、棟梁、捕虜の順。平均すれば総合は同順じゃな、と常男。

 ダニロどういうことか。大佐殿、ミステルヤマダの泳ぎにはロスがない、数キロ泳ぐことができるものと思われます。そうか、どうすればよいのか。サー、彼は水と友達になっております。なるほど、お前は彼に勝てるか。わかりません、があのように美しく泳ぐことはできません。わかった、ありがとう。


 競泳に刺激されてか、全員張り切る。リラックス、母親の中を思い出せ、水と友達になれ、指導員の声がとぶ。メンデルが泳げるようになった。おい、どうやって覚えた。棟梁の泳ぎを観察した。ヘール山田ダニロ、力を抜いている。なるほど医者は観察が鋭いな。

 バーナードここまで来い、俺の肩につかまれ。全員の目が向けられる。馬鹿、女の肩を抱くように上品につかまれ。イエスサー。向こうまで泳ぐぞ。坂本は平泳ぎで泳ぐ。女を抱くように。スケベ、女の肩を抱くようにだ。スケベは何を意味する。ユリに訊け。今は泳ぐことを考えろ。ヤー、ヘール。今度は顔を上、青い空を観ておれ。なじかはしらねど こころわびて 昔のつたえぞ ああ、思い出した、昔こうしていた。いつごろだ。生まれる前。調子がいいの。


 陳が常男に声を掛ける。山田殿拙者にも泳ぎの手ほどきをお願い致す。心得た、これに来られよ。全身の力を抜く。酒に酔うた状態でござる。知道了。わかりました。して進むには。女の乳房を撫でる如し。おお、なかなか筋がよい。山田殿、某にも。おお、てほどき致そう。水に浮くには。左様射精して果てた状態でござる。かようにか。ようござる。して。女の乳房を下から揉み上げる。然り、泳ぎとは楽しいものでござるな。


 監視員は上達が早い。ダニロの指導よろしきをえてたちまち泳ぎ出す。身体能力の良さ、訓練なれ、日当ボーナスなど原因はいろいろ考えられる。カーシムも指揮官としてのプライドか結構いい泳ぎをする。ダニロがもう教えることはないというと女の救助法が要求される。3000m以上泳げるようになったら。


 救命具としてはペットボトル、ビーチボールが用意された。これは水上ラグビー、バスケットに転用される。遊びとは発明発見の訓練になる。ともかく全員50m以上泳いで単位取得。カーシムの号令、全員整列、教官殿に敬礼。質問、脚がつったときはどうすのか。常男が答える。指を引っ張る、と片足を上げて見せる。それでも治らなければプールの底を這って行く。

 海や河では。助けを待つしかないのう。常男はプールに飛び込んで膝を曲げて浮いている。助けがなければ。困ったときの神頼み、祈るんだな。日頃の行いの良い人間は天が助けけてくれる。そのとおりと棟梁ダニロがうなずく。生と死の分れ目を見てきた二人だ。人間の限界に挑むとき、人間を超える存在、能力を求めるのかも知れない。


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