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続 椰子の風に吹かれて  作者: 佐々木三郎
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バナウエ banaue

 バナウエ banaue


 翌日戸籍簿ができたと連絡がきた。清美大神のお告げどおりだ。和雄と洋平は旅支度に大童。無理もない初めての海外旅行と常男花南の日本国籍を携えての旅だ。航空券の予約も済んだ。薬、電気剃刀は必携だ。荷物も7人なので85kgまで持ち込める。いざ行かん南の島、ルソン島。


 関空で缶ピ-スのたばこ、日本酒、チョーヤ梅酒などを買い求める。テロ防止から液体の機内持ち込みは禁じれているんですな。左様か、出国とは面倒なことよ。日本の税関は鷹揚ですが、問題は常男さんと花南さんの入国で、この戸籍謄本がものをいうのですわ。貴殿のおかげ。

 出国手続きは簡単に終わった。搭乗、離陸。和雄の緊張が伝わってくる。もう日本を離れたかの。時間的にまだ領海内でしょう、この航空会社は安いのが取り柄でサービスはないんですな、飛行ルートと現在位置を表示するように言っているのですが。3時間のフライトは長くない。南海雄も紀和も大人しくしている。機内はフィリピン人の会話がうるさい。


 ほどなくマニラ空港に着陸。ヒリピンでござるな。左様、これから入国手続きでござるが、英語が使用されので無言にしかず。心得た。坂本は南海雄と審査を受ける。後ろの二人は俺の友達だ。OKサー。荷物を荷車に載せて税関へ。南海雄がパスポートと入国票を提示。もの怖じしない。すんなりいった。外には陳とカルロス。男は陳の車、女はカルロスの車に乗り込む。空港警備員がとんできて荷物を車に積む。チップ50ペソ。

 大物にはへつらうのはいずこも同じだがここはひどい。よくおいでなされた、お疲れでしょうが、バギオに直行してよろしいかな、途中で休憩をとりますので。和雄がうなずく。こちら陳さん。そして山田和雄さんと洋平さん。やっかいになります。なりなり、常男さん待ってる、急ごう。柳さんが200万用立てくれた。柳さん金持ち、問題ない。一応決済しておいてくれ、こちらが頼んだことだ。わかった、で予定は。常男さんと花南さんのパスポートが取れ次第、日本に行く。了解。

 車が高速に乗る。このスカイウエー、ユキハイウエーと呼ばれている。ユキとは、あの。そうですユキが日本の会社に発注した、お金も借りた。道路美しい。日本並みね。左様か、女傑じゃのう。龍次絵を描く。ユキ実行。陳よけいなこと言うな。俺たち家族、山田さんと一緒に日本へゆく、龍次案内しろ。わかった。と、いうことは、カルロスも。当然そうなるな。やれやれ。塩崎さんも待ってる。


 坂本の行く末が思い遣られる。日本入国はいかなることに。子供たちの顔をひとりひとり見つめる審査官の顔が浮かんでくる。トイレ休憩。ユキが真知子に電話する。食事の用意ができてるから早く帰ってきなさい、ってお母さんが言ってる。ちょっとまて、山田さんあと一時間ぐらいでつきますが、腹の方いけますか。ご心配なく、早く甥と姪に会いたい。よし、出発だ。

 塩崎家に着いたのは日が傾く頃。握りずしが山盛り用意されていた。お母さん一人で、とユキが涙ぐむ。お腹すいたでしょう。手を洗ってきなさい。はーいとユキ清美。常男と花南が駆けて来る。おお、常男か、花南。二人は和雄に抱きつく。兄貴にそっくりじゃ。叔父さん。

 感激のとき、ことばはでない。半世紀の時を越えた対面であった。常男は唱和25年のあの日に戻っていたのかもしれない。常男、花南、お父様は新しい任務に出発されるのだよ。笑ってお見送りしましょう。声の主は清美であったがそれは明らかに清美ではなかった。日本人は整列して山田中尉の部隊に敬礼する。その中にはイメルダもいた。マリリンお母さん、とつぶやく。


 こは何やらむ、心霊現象、集団催眠、その場にいた人間は日本軍部隊が行進して行くのを見たのである。マリリンが清美に乗移ったか、清美が彼らを呼び寄せたか。今、兵隊が20名ほど通っていった。日本軍だ。門を開けろ。右に向かった。バナウエか。おいかけますか。いや、ここで見送ろう、いざ行け、兵日本男児。カルロスが歌いだす。いざ行け、兵日本男児!大合唱となる。

 突然清美が倒れる。坂本が抱きとめる。激しい息遣いだ。酒をのませろ、和雄が叫ぶ。洋平が日本酒の栓を開ける。真知子がすばやくコップを差し出す。清美が一口飲み干す。清美、お祖母さまにブレスしなさい。お爺様はバナウエに行かれたよ。いつ。たった今、お見送りしなさい。お爺様、清美は門に立って手を振る。

 山田中尉が答えたかは定かでない。お母様、どうしてお見送りに起こしてくれなかったの。清美寝ぼけてるのかい、お前もそこで手を振っていたじゃないか。うそ。おかしな娘だね。やはり清美が呼び寄せたのか。お母さんお腹すいた。なんだね、子供みたいに。


 清美が猛烈に食い出す。お母さん美味しい。しっかり食べなさい。塩崎さんすみません、お手伝いもせず。いいんですよ、ユキさん清美さんがお腹ス化して帰ってくると思って、それに大叔父様もおいでになると腕をふるいましたのよ、ほほほ。そうだ、乾杯してなかったぞ。陳音頭をとれ。それは筋違い、塩崎さんだ。そうだな。山田さんのご来訪を歓迎して乾杯。山田中尉のご健勝を記念してカンペー。かんぱーい。


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