くろねころっぴき。
「―――ゃぁ。みゃおぅ。」
……んっ。猫?
ズキズキとする頭を持ち上げてみれば、目の前に先ほど助けた猫がいた。
結構な時間、気を失っていたのか辺りはもう暗闇になりかけている。
…そっか。頭、打ったんだったけ。そろそろ帰らないと皆が心配……するわけないか。
自分の居場所が無いんだった、と改めて思う。
皆は自分に優しい。それは確かな事だと、他者の感情に敏感な紗亜音は思う。だが、皆は少しだけ自分たちと距離があるように紗亜音に接する。そうしないのは園長ぐらいだったのかもしれない。
まだ不安げに鳴く猫を安心させるために優しく猫の頭を撫でる。
気持ちよさそうに目を細め、お返しに、と紗亜音の頬をぺろぺろと舐める。
…くすぐったいなぁ。
苦笑気味に猫を見る。やっぱり毎晩見ていた猫にそっくりだと思った。
漆黒の体に金の目。首には自分が拾った銀の鈴が付いた首輪と同じものをしている。
…もしかしたらこの子について行けば、落とし主に会えるかな?
ふと、思い。体を痛めないようにゆっくりと起こす。少し頭が痛いが体を起こし終えると不思議と治っていた。
辺りを再び眺めると、暗闇が周りを侵食していた。昼は綺麗な森だったが、夜は不気味に見えるから不思議だ。
目の前の猫に目を向けると、金色の目を暗闇に中に輝かせながら、自分に付いて来いと言ってるかのように鳴く。
その仕草に従うように紗亜音は歩み始める。
猫は時々、チラッと後ろを振り返りながらまるで紗亜音がちゃんと付いて来ているかのように確認して行く。
……大丈夫だよ。自分じゃ何所にいるのかもわかんないんだから、猫ちゃんに付いて行くしかないじゃない。
再び苦笑を猫に向ける。猫は銀の鈴を鳴らしながら、歩みを速める。
何所に行くのかなぁ、と思ったその時。
目の前に森の出口らしきものが見えた。どんどん木々が少なくなっていき、目の前に現れたのは大きな黒いお城だった。
…ここ、日本だよね。こんなもの地図に載って無かった筈だよ。
紗亜音は不安げに城を眺める。猫はそんな事関係が無いかのように、城を囲む壁の隙間に這入っていく。
…っちょ。待ってよ、猫ちゃん!
追いかけるように、紗亜音も隙間に這入りこもうとする。隙間は大人の男がやっと這入れそうな程の大きさだった。狭いなぁ、と思いつつ、ぐいっと体を押し込む。
目の前には夢の中に毎晩出てきた男の顔があった。男は驚いた顔しながら自分を見る。
……え?これは夢?
そう思った瞬間に再びズキズキと頭が呻きだす。
その痛さが先ほどの比じゃないくらいに痛く、紗亜音は地面に倒れ込みそうになる。
だが、その瞬間。ふわり、と温かい何かの中に自分は倒れたのだと、痛む頭の中で理解した。
「―――シャーネ!」
そういえば夢の中の男は自分の事を知っていたが、目の前の男が何故、自分の名前を知っているのだろう。
遠のく意識の中、疑問に思った。