くろねこよんひき。
そこはひどく、煌びやかな一室だった。シンプルだがとても綺麗で大きなソファやベットが並んでいる。
そして、その空間には、甘く優しい2人の時間がゆっくりと時を刻んでいた。
端正な顔の男が、一匹の黒猫に話しかける。
『我が《愛しい花嫁》、今日は機嫌が良さそうだな。何かあったのか?』
男の問いに猫はみゃぉう、と甘く鳴く。
すると男は顔を和らげ、猫の頭を優しく撫でる。
『そうか。そんな事があったのか。それは良かったな……シャーネ』
男は優しく言葉を返す。そして大事に大事に猫を自分の腕の中に抱きかかえる。
猫は居心地良さそうに目を細め、ゆっくりと尻尾を揺らす。そのまま再び、男に向けて甘く、鳴き声を上げる。
―――朝。
ピピピと鳴る目覚しの音に起こされ、気だるげに体を起こす。まだ、横のベットにはすやすやと眠る麗菜の顔があった。
起こさないようにそっと、ベットから降り、廊下に出る。
まだ朝早かったためか、廊下には人影が無かった。
ゆっくりと歩いていると、突然、紗亜音はガバッと抱きつかれた。
「おはよぉ。紗亜音ちゃん!」
「……いつから由梨菜の挨拶は、背後から抱きつくようになったの?」
「いやぁーね。ちょっとした悪戯心よ。それにしても、今日は早いわねぇ。珍しいわ。いつもこんなに早く起きて、学校にきちんと行ってくれれば手が掛らなくて、良いんだけどねぇ…」
「うっ……。まぁ、今日は変な夢を見ちゃって目が覚めただけなんだけど。」
「あら、変な夢ってなぁに?」
由梨菜が興味深そうに聞いてくる。紗亜音は今日見た謎の夢を、由梨菜に話す。
「夢の中でね、私は一匹の黒猫だったの。特徴的なのは……目が黄金色って事かな。」
「なんだかその猫さん、紗亜音ちゃんみたいね。紗亜音ちゃんもカラコン入れて無いのに、目が黄金色だもん。」
「言われてみれば…確かに。で、私たちが居た部屋はとーっても広くて、綺麗だったんだ。」
「私たち?」
「あぁ、その部屋にはね、もう1人、端正な顔の男がいたの。えっと…確か髪は深い藍色で、目は紅だったかなぁ…?だいたい20代くらいかな」
「へぇ~…。藍色の髪に紅の目って珍しいわね。」
「そうだね。でも、もっと変って言うか、私は猫なのに私の事を《愛しい花嫁》って呼ぶの。私は私でその人の腕の中にいると、とっても落ち着くし。恥ずかしいんだけど……その人の事を“愛しい”って思ってたの。しかも最後に男が私の名前を『シャーネ』って呼ぶのも不思議だなぁ…って。」
「あらあらあら。恋心かしらね。まぁ、相手が猫さんってのがちょっと特殊だけど。」
「そんな夢だったの。なんていうか…今までの夢とはちょっと違うっていうか。あ!それに昨日、拾った銀の鈴のついた首輪を猫がしてたの!」
「銀の鈴のついた首輪?」
紗亜音は昨日、拾った首輪の事を由梨菜に話した。
「…なるほどね。まぁ、どうせ夢なんだから1度きりの事よ。それより早く起きたのなら、たまにはチビちゃん達の朝食作りを手伝って頂戴?」
「うん。わかった。」
由梨菜には1度きりの夢と断言されたが、そうでは無いと直感的に思った。
曖昧な、もやもやとした気持ちが胸を駆け巡る。
漠然とした思いを抱えながら紗亜音は由梨菜と共に朝食作りに行った。