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くろねこじゅっぴき。






応接間に着くとリファナは頑張って下さいね、と微笑んでどこかに行った。


何を頑張るのか、と少しだけ紗亜音は訝しげに思った。


そして紗亜音は目の前にあるドアを軽くノックする。





「どうぞ。」





ガチャリ、と音を立ててドアが開く。中に入ると成る程、応接間と言う名前に相応しく煌びやかな印象を受ける。


ガラスの机を挟む様に黒色の大きなソファが左右に2つずつ置かれている。机には花瓶に花が添えてあり、紗亜音の部屋にあったあの可愛らしいベルも置かれていた。


いたってシンプルだが高級そうな雰囲気の部屋にちょっとだけ緊張する。


目の前のソファには昨日の夜話したシャムと言うリュオンの側近が座っている。シャムは紗亜音にスファに座るようにとニコニコと勧めてくれる。言葉通りソファに座ると、タイミング良く知らないメイドがお茶を運んできた。


シャムは優雅にお茶を飲む。


束の間、沈黙がその場を支配する。


沈黙に耐えられず、紗亜音が口を開く。






「えっと…話しって言うの、は…?」


「あぁ、そうでしたね。こちらの生活はどうですか?」


「こちらの生活って…。まだお邪魔して2日しか経ってないですけど。私はいつ帰れるんですか?」


「…その事ですが。シャーネ様。残念なお話があります。」





背中が冷やりとする様な、嫌な予感がした。





「な、何なの?」


「実は紗亜音様が私を助けたあの森、あちらの世界では何か名前がありませんでしたか?」


「正式な名前は知らないけど、私の育った施設の園長はあの森の事を《神隠しの森》って呼んでたはず。」


「《神隠しの森》…ですか。あながち間違っては無いですね。」


「どう言う事なの…?」


「あの森はこちらでは《時限の森》と呼びます。まぁ、《次元の森》とも言いますが。」


「じげんの…もり?」





訳が分からず首を傾げる紗亜音。


シャムはまた一口、お茶を飲む。


紗亜音も何となくお茶に口をつけてみる。


ほんのりとした甘味が紗亜音をリラックスさせ、少しだけ頭が冷え、さっきの意味が何となく分かった。





「…つまり、私はもう帰れないって事なの?」


「正確には、帰れない事はないですが…。次に森の扉が開く時は300年後…。まぁ、紗亜音様からしてみれば帰れないと同様ですね。ましてやこちらとあちらの世界では、時の進みが違いすぎます。」





何となく、そんな気はしてた。


だが、改めてその事実を確認されるとショックが大きかった。


どうせ自分には居場所が無いのだから…そう思ってはいたが、この世界では本当に自分の居場所なんて無い。あちらの世界では一応、施設や学校といった仮の場所はあった。


そんな場所も無いとすると…私はこの世界でどうやって生きていけばいいの…?


不安が紗亜音の心を覆い尽くす。


シャムはそんな紗亜音に優しく微笑みかける。





「そこで、です。シャーネ様に1つ提案が御座います。この世界で再び魔王の花嫁として暮らしてみては如何でしょうか?」


「は、花嫁!!?」


「えぇ。貴女は元々この世界の魔王の花嫁だったんですよ?それに私の姉君でもありましたし。まぁ、色々あって貴女は逝ってしまわれたのですが…。それがまた再びこの世界に戻ってきて、私たちと過ごしている…!!こんなチャンスは2度とありません!陛下や私たちのため…でもいいんです。また再び私たちと過ごしませんか?」


「そんな…。たしかにシャムさんの言う事はわかりますし、この暮らしも良いなぁとは思いましたけど…。いきなりは…決められません。」


「勿論、決断するのはシャーネ様ですし、時間ならたっぷりあります。その間はこの城でお過ごしください。魔王陛下もお喜びになりますしね。なんなら今からでも陛下の元に行かれば良いでしょう。今なら多分バラ園に居られると思いますよ?」





ニッコリとシャムは優しく微笑みながら言う。気持ちはスッキリしないが、とりあえずバラ園に行ってみよう。



まだきちんと話した事の無い私の花婿だった人と少しだけでも良いから話してみようと思い、紗亜音は応接間を後にした。







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