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第六章 覚悟

天界から戻ってきた陵人は、携帯を見て愕然とした。

おびただしい程の着信とメールが届いていたのだ。

相手はもちろん茜である。


「そういえばあいつには天界に行くって言ってなかったな・・。」


陵人はしぶしぶ茜に電話をかけた。

すると1コール目で茜の怒声が鳴り響いた。


(もしもし陵人!?今まで何してたの!?この三日間電話もでないしメールも返ってこないし、私すっっごい心配したんだからね!!)


茜の金きり声に思わず携帯を遠ざける陵人。


(ちょっと陵人!?聞いてるの!?)


「いちいち怒鳴るな。ちゃんと聞いてるよ。ちょっと天界に行ってたんだ。さすがに天界じゃ


電波ないから携帯は置いてったんだよ。」


(なんで一言言ってから行かなかったの!?)


「報告する義務はないだろーが。」


(そ、そりゃそーだけど・・。でも私心配で心配で夜も寝れなかったんだからね!!)


「わかったわかった。悪かったよ。」


(心がこもってないー!!)


「どうしろってんだ?」


(もちろんこの三日間の埋め合わせをしてもらわないと!)


「具体的に言え。」


(だからー・・、その、今度二人で会いたい・・!)

「二人で?駿はなしってことか?」


(そう!二人で会いたい!出来ればクリスマスイブに☆)


「あー、そういやもうそんな時期かー。しゃーねーなー。」


(会ってくれるの!?)


「空けといてやるよ。」


(やったーーー!!絶対だからね!約束だよ!?)


「わかったよ。どこ行きたいか決めとけ。」


(うん☆てかもう決めてあるんだー♪)


「ちなみにどこだ?」


(イルミネーション見に行きたいの!)


「イルミネーションたって色々あるだろ。」


(んとね、六本木ヒルズがいい!)


「また人ごみを選びやがって・・。」


(イブなんだからどこ行っても人ごみでしょ!じゃあヒルズで決まりね☆)


「わーったよ。」


(じゃあ18時に待ち合わせね☆)


「あぁ。」


こうして二人は初めて二人っきりのデートをすることになった。それもクリスマスイブに。

電話を切った茜は大きく深呼吸をした。誘ってみたものの、断られたらどうしようと内心ハラハラだった。


「よし・・!あとはプレゼントを用意しないと・・!」


茜はある決意をしていた。クリスマスイブに陵人に告白をしようと。


今までの関係が崩れるかもしれないという恐怖はあったが、茜はもう限界だった。


陵人とずっと一緒にいたいという想いが全てのリスクを退かした。


決戦までそう時間はない。茜はこの夜から自室で連日ファッションショーを開催し、勝負服を選び抜いた。


可愛さの中にも女の色気をふんだんに取り入れ、事前に駿から陵人の好みをリサーチするなどあらゆる角度から準備を行った。


そして数日があっという間に過ぎ去り、ついに運命のクリスマスイブが訪れた。


午後18時。

日もすっかり落ち、輝くイルミネーションがカップルたちの聖なる夜を際立たせる名脇役へと姿を変えた。


街は仕事が終わり、主役となるべく闊歩するカップルで溢れ、街もそれを受け入れるかのように様々な趣向でむかい受ける。


「よう。早いな。」


陵人の声がし、振り返った茜に、陵人はそのまま『擬立』を唱えた。


「やることが早いね!」


「こんな街中じゃろくに話も出来ないだろ。お前単体で十分目立つんだからよ。」


「今日は皆それどころじゃないと思うよ!自分たちのことで精いっぱいだって!」


「まぁそれもそうだろうけどな。よし、じゃあ俺らもいくか。」


「うん!」


二人はヒルズのイルミネーションに向かって歩きだした。

今日の茜は覚悟を決めてきているため、いつもより数段大胆になれた。

横を歩いている陵人の腕にそっと腕を絡ませる。


「なんだ急に?」


「いいじゃない!イブなんだから♪」


「理由になってねーよ。」


そうは言うが、陵人はその腕を払おうとせず、二人はどこから見ても普通のカップルのように歩いていく。


駅から数分で約400メートルに及ぶけやき坂のイルミネーションが見えてきた。

降りそそぐ純白の雪が、青い輝きをともなって光の結晶となった姿がイメージされ、とても幻想的な空間が広がっている。


「わぁー綺麗ー・・!」

「毎年見事なもんだな・・。」


二人は幻想的な光の道をゆっくりと歩いていく。

そして66プラザ、毛利庭園のイルミネーションへと進み、闇と光がおりなす世界を堪能した。

そして陵人によって事前に予約されてたレストランへと向かった。


「予約してくれてたんだ!」


「飛び込みじゃなかなか入れないだろ。」


「さすが陵人!」


二人は夜景が一望できる席へと通され、クリスマス特別メニューを味わった。


「陵人、あの、これ・・。」


「なんだ?」


「クリスマスプレゼント・・。」


「マ、マジか・・。」


陵人は綺麗にラッピングされた小箱を大事そうに受け取る。


「開けていいか?」


「うん!」


ラッピングを丁寧にはがし、小箱を開けると、そこにはシルバーのブレスレットが入っていた。


「気に入ってもらえるかわかんないけど・・。」


「いや、大切にするよ・・!ありがとな!」


陵人は今までで一番の笑顔を茜に贈る。

今までの茜ならそれだけで十分だったが、今日は違う。この笑顔を一番近くでずっと見続けていきたいという願いがある。

いつ切り出そうかと思うと急激に緊張してきた。


「茜。」


「は、はい・・!?」


「場所を変えるぞ。着いて来い。」


「う、うん・・。」


二人はレストランを出ると、人気のない裏路地へと入っていった。


「陵人ー、どこ行くの?」


「秘密の庭だ。」


そう言って笑うと、陵人は茜を抱き寄せる。


「ちょっ、陵人・・!?」


「『天庭空路』」


二人は一瞬にして六本木から姿を消し、陵人の作り出した異空間へと飛んでいった。


そこは見渡す限りの大平原。


様々な草花が絨毯のように敷き詰められ、空には今にも降ってきそうな満天の星空。


「すごい・・。」


茜はそのあまりにも美しい光景に言葉を失った。


「ここは俺の力で作り出した異空間。秘密の庭だ。なかなかだろ?」


「うん・・。」


茜は絶対的な情景に涙が出そうになる。


「それと、俺からもプレゼントだ。」


陵人は茜の首元に手をかざす。すると光輝くクロスのペンダントが茜の胸元を照らしていた。


「綺麗・・。」


「俺のオリジナルだ。こいつがお前を守ってくれる。」


「ありがと・・。嬉しい・・!」


茜は覚悟を決めた。


今こそ告白しようと。


「あのね陵人・・。私・・!」


茜が思いのを伝えよとしたその瞬間、陵人の携帯が鳴り響いた。


「お、悪い、ちょっと待っててくれ。」


陵人は電話を取り、茜から距離をとった。


(もーっ!せっかく言えるタイミングだったのにーー!!)


茜はチャンスを潰され、頬を膨らませながら地団駄を踏んでいる。


一方、陵人の電話の相手はMINDS総帥 アルフレッド・シーカーであった。


「陵人か。しばらくだな。少しは本部にも顔をださんか。」


いつものように実家の父親のような語り口で話を始めるアルフレッド。陵人の師である修一郎とは若い時から共に腕を磨いた仲であり、陵人を幼い頃から気にかけ、何かと世話をしてくれていた。今では時の番人である陵人の直属の上司である。


「私もいろいろと忙しいんですよ。それで、要件はなんですか?今人と会っているんですが。」


茜に目線を配り、さっさと電話を切りたい陵人はすぐに本題に入ろうとした。


「相変わらず冷たいな。私はお前がまだこんなに小さい時から心配をしてだなー・・」


「電話でこんなって言われても伝わりませんよ。急ぎの用でなければあとにしてもらえませんか?あとでかけ直しますから。」


そういって電話を切ろうとした陵人に、アルフレッドはたった一言でその行為を止めた。


「天童 忍から連絡があった。」


「忍から・・!?どういうことですか!?」


先ほどまでのうんざりした表情から一変し、陵人の顔から余裕が消えた。


「詳しい話は会って話そう。今から本部にこれるか?」


陵人は茜に視線を向け、若干の迷いを見せたが、それに応じることにした。


「わかりました。これから本部に向かいます。少し寄るところがあるので、時間をください。」


「わかった。待っているぞ。陵人」


「はい。では後ほど。」

陵人は電話を切ると、深刻な面持ちで茜に体を向ける。


「悪い。急用ができてこられか行かなくちゃいけない。」


「うん。今の電話でなんとなくわかった。」


「すまん。この埋め合わせは必ずするから。」


「期待してるよ!」


精一杯の笑顔を浮かべる茜。陵人の様子からとても大変なことが起こったことは推察できる。見事に計画は打ち崩されたが、陵人の邪魔はしたくない。茜は様々な感情を押し殺し、陵人見送ることにした。


(次こそは必ず・・!!)


そんな決意を胸に宿して。


茜を自宅まで送っていった陵人はすぐにMAINDA本部へと向かった。


MINDS本部。

ここは人間界とは少しだけずれた亜空間に存在する。

MINDSは世界各地から集められた能力者によって構成された人間界1の能力者集団だ。

計10の部隊で構成されており、それぞれの部隊長及び総長が時の番人のメンバーを担っている。時の番人にはそれぞれコードナンバーが割り振られており、NO1とNO2はMAINDSの幹部でもあるため、時の番人以外に様々な仕事を兼任している。

陵人のナンバーは13。時の番人のみに所属しているのは陵人だけだ。


本部に着くと、陵人は真っ直ぐアルフレッドのもとへと向かった。アルフレッドのいる総帥室の前で陵人は一度立ち止まり声をかける。


「陵人です。」


「入りなさい。」


「失礼します。」


中に入ると、正面のデスクにMAINDS総帥アルフレッド・シーカーの姿があり、その前に二人の男女が立っていた。


「なんだ。お前たちも来てたのか。」


「これでも幹部だからな。お前と違って立場上動かなければならないことも多いんだ。」


「会って早々に嫌みか。歳は取りたくねーなーシガー。」


「お前も相変わらずだな陵人。」


陵人と会話しているこの男。身の丈が2m近くあり、がっしりとした屈強な体、人生を物語るような低音ボイス、歳の頃は40代半ばほどであろうか。MAINDS最高勢力時の番人NO2のシガー・ランスである。


「少しは時の番人としての自覚を持ってくださいよ、陵人。あなたは仮にもMAINDS最強なのですから。」


穏やかな口調の中にもビシッと筋が入っているこの女性。ハリウッド女優と言っても誰も疑わない程の美貌の持ち主、年齢不詳、スタイル抜群の金髪ネーチャンが、時の番人を束ねるNO1、フェリス・ミゼルである。


「最強という自負はあるが、時の番人としての自覚は持つ気がないから無理だな。師匠の顔を立てるために参加しているだけだからな。」


「全くあなたという人は・・。」


この二人はMAINDSの中でも大幹部中の大幹部である。その二人にこれだけの悪態をついても尚絶大な信頼を陵人は得ている。これも陵人が持つ魅力の一つなのだろう。


「まぁその当たりにしておきなさい。取りあえず座ってくれ陵人。」


アルフレッドに促され、陵人は席に着く。正面にアルフレッドが腰掛け、シガーとフェリスはその両脇に立っている。


「それで、忍はなんと・・?」


「要件は二つ。一つは奴の目的。もう一つはその為の準備を我々もしっかり行っておけという言うなれば警告だな。」


「目的とは・・?」


「奴の目的は・・、能力者同士の戦争だ・・!」


「な、戦争・・!」


「奴は能力者が世界の影となっていることに不満らしい。人より優れた者が何故凡人のためにその力を使わなければならないのか。我々が授かった力は戦いのためにのみ存在する。ならば世界を巻き込んでこの世の全てを舞台にした宴を開く、そういっていた。」


「あの馬鹿の考えそうなことだ・・。その戦争のための戦力をしっかり揃えておけということですね。」


「そういうことだ。」


「上等じゃねーかあのクソ野郎・・!」


「待て待て、お前が挑発に乗ってどうする。」


「しかしどちらにしろ奴らは仕掛けてくるでしょう。」


「おそらくな。そう遠くない話だとも言っていた。」


ここでシガーから暁に関する現状が告げられた。


「現在様々な能力者が暁のもとへと集まっている。中にはかなりの大物もいる。現在確認されている重要人物は5名。伊能(いのう) (しゅん)(すい)(けん)(りゅう) (そう)(いぬ)(かみ) (けい) 、錬崩(れんほう) 軍司(ぐんじ)、ウォン・レイ。陵人、お前も知っているだろうが、全員S級クラスの能力者だ。我々時の番人と互角の力を持っているとみて間違いない。」


「確かにとんでもない面子だな。そいつらが十二業ってことか・・。」


「恐らくな。しかしその十二業という連中のことも実際のところ何もつかめていないのが現状だ。他にどういった組織構成になっているのかもわからん。」


「十夜は何も掴んでいないのか?」


陵人はさらにシガーへ質問を続ける。少しでも暁の情報が欲しかった。


「阿頼耶識にもかなり動いてもらってはいるんだが、やつらが表だって動くことが極めて少ないからな。情報が少なすぎるんだ。先日お前と修一郎さんのところに来た刺客も始末されてしまったしな。」


「そうだったな。やつらは自分たちのことを十二業と名乗っていたが、そう思わされていただけだったし・・。」


一同に沈黙が流れる。暁に関してこちらはあまりにも情報が得られていないことを痛感させられた。先手を打ちたくてもどこから攻めていけばいいのか検討もつかない。天童がMAINDSを抜けてからの5年間。こちらから暁に打撃を与えられたという手ごたえは一つも得られていない。捕らえた違法能力者も暁に利用されていたに過ぎない小物ばかり。しかし、暁の目的が分かったからには、これ以上やつらの好きにさせておくわけにはいかなった。このまま待っていて起こるのは戦争だからだ。

少しの沈黙のあと、アルフレッドが重い口を開いた。


「そういえば、天界は何か言ってきているのか?」


「えぇ。とりあえず人間界のことは私に一任されています。天界は暁が魔界や冥界と手を結ぶことがないように監視を続けている状態です。」


「そうか。確かに魔界や冥界と手を結ばれては我々だけでは到底太刀打ちできんからな。」


「もしそうなったら天界にも力を貸してもらうことになるでしょう。」


「そうだな。そのならないことを祈るが・・。」


ここでそれまで沈黙を守っていたフェリスが口を開いた。


「今暁は戦力の獲得に力を注いでいます。名のある能力とコンタクトをとっているので、そこから暁に繋がる有力な情報が得られるかもしれません。阿頼耶識や「蛍火」、「陽炎」にはその辺りを中心に動いてもらっています。」


「蛍火」と「陽炎」。MAINDSの10ある部隊の一角である隠密機動部隊である。


「当面の指揮は私が執りますが、場合によっては陵人。あなたに全軍の指揮を執ってもらうことになるかもしれません。」


「全世界戦争になった場合だろ・・?」


「えぇ。天界を巻き込んだ戦いになった場合、私ではとても無理です。そうなった場合はあなたに委ねるほかありません。」


「そうならないことを祈るがな・・。」


一先ず、MAINDの全勢力を挙げて暁の動向を探る一方で、実戦部隊には戦闘準備をさせておくという結論にいたった。残り数ヶ月でこの世の命運をかけた戦争が始まってしまう。戦いは避けられない。あとは規模をいかに縮小させ、一般人に被害が及ばないようにするかということが鍵となる。陵人も今後は対暁のために行動していくという決意のもと、ある決断をした。


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