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第四章 接触

三人での旅行から三週間が経ち、相変わらず三人はそれぞれの仕事が忙しく、電話やメールでの連絡のみで、会えない日々が続いていた。茜は陵人に会いたくて会いたくて禁断症状が出ているほどだ。

そんなある日。陵人は一人でNYXにいた。数名の客がテーブル席を囲む中、陵人はカウンターに座り、碓水特性のイカの塩辛をつまみに日本酒をちびちびと楽しんでいた。

「ところで陵人。茜ちゃんとはその後どうなのよー!?」

碓水が楽しそうに聞いてくる。

「どうもこうも何もないよ。師匠みたいなこというなっつーの!」

「いいじゃない!母親代わりとしてはいろいろと心配なのよ。」

「まさか孫の顔が見たいなんていうんじゃないだろうね?」

「あら、よくわかったわねー!」

(ホントにこういう思考は師匠そっくりだ・・。)

などとたわいも無い話をしていると、突如邪悪な気配が店内に流れ込んできた。

碓水、陵人はもちろん、店内にいた全ての能力者がそのことに気付いた。

碓水のテリトリーに何者かが侵入したのだ。

碓水は自身の『隔絶』の能力でNYXの周囲一帯に大きな結界を作り上げ、一般人や、邪悪な能力者の侵入を常に阻んでいる。その結界が破られたのだ。

「全員戦闘態勢をとって!ただ者じゃない!」

陵人はとっくに警戒体制に入っている。他の能力者たちも碓水の一言で非常警戒態勢をとった。

かつて最恐と恐れられた元阿頼耶式総長の結界が破られたのだ。

今店内にいる能力者の中でそんな芸当ができるのは陵人しかいない。

全能力者を合わせてもほんの一握りの能力者しかできないことを、破られるまで気付けないほど迅速にやってのけた者がこちらに向かってくる。店内に異常な緊張が走った。

「来る・・!」

陵人はいつでも術が発動できるよう集中力を高めた。

静かに店のドアが開き、一人の男が入ってきた。

「お邪魔します。」

「これはまた大物が来たわね・・。」

「ご無沙汰しています。碓水さん。それに陵人。」

男は笑顔を絶やさず挨拶しているが、その笑顔は冷たく、凍りつくようである。

「随分舐めたマネしてくれるじゃない。覚悟は出来てるんでしょうね?鏡一(きょういち)?」

「やだなー、そんな怖い顔しないでくださいよ。別にやり合おうってんじゃないんですから。」

「だったら何しにきやがった!?返答しだいじゃ今すぐ殺すぞ。御堂(みどう)。」

「まったく二人とも血の気が多いんだから。綺麗な顔が台無しだよ。」

「テメー・・!」

戦闘態勢に入った陵人をひとまず碓水が抑える。

「それで、何のようなの?元MAINDS 鎮圧部隊 『獣神』副隊長さん。暁の副総帥って言ったほうがいいかしら?」

「どちらでも構いませんよ。肩書きなんてあってないようなものですからね。今日はほんの挨拶ですよ。久しぶりに昔の仲間の顔が見たくなりまして。」

「何が昔の仲間だコラ・・!テメー自分が何したかわかってんのか・・!?」

「もちろん自覚しているよ。反省はしてないけどね。」

「貴様・・!」

「まぁそういきり立つなよ。君の相手は私じゃない。そうだろ?」

御堂は不敵な笑みを浮かべている。その笑いの意味が陵人にはわかっていた。

「近いうちに挨拶にくるそうだよ。あとうちにも血の気の多いのがいてね。どうしても君とやりたいって聞かないんだ。そっちの方もよろしく頼むよ。殺しちゃって構わないから。」

陵人は湧き上がる感情を必死に押さえ、今は戦う時ではないと自分自身に言い聞かせた。

冷静さを取り戻し、

「ようするに宣戦布告ってことだな?」

「そう捉えてもらって構わないよ。といっても実際に動くのはもう少しあとだけどね。」

「容赦しねーからな。奴にもそう伝えろ。」

「伝えておくよ。彼も喜ぶ。」

二人は一切視線をそらさず、今にも殺し合いが始まりそうな緊張感と殺気を隠しもせず前面に出している。普通の人間ならこの場所にいるだけで命を失ってしまうほどの圧だ。

「じゃあ、あまり長いしてもなんだから私はそろそろ帰らせてもらうよ。碓水さん、また顔が見れてよかった。お邪魔しました。」

「二度とこないで頂戴。」

碓水が笑顔で返す。しかしその表情はかつて最恐といわれた頃の顔に戻っていた。

「それじゃ。」

終始笑顔を絶やさなかった御堂は静かにNYXから出ていった。

御堂が出ていったあとも、陵人と碓水はしばらく扉を睨んだまま拳を握り締めていた。

数分後、完全に御堂の気配が消えたのを確認し、陵人はようやく緊張を解いた。店内にいた他の能力者たちはたった数分の出来事に疲労困憊の様子だ。

陵人はとりあえず『息吹』を唱え、店内の空気を一掃した。

そして再び席に戻り、酒を飲み始めた。

「遂に向こうからしかけてきたわね。」

「好都合だよ。俺もそろそろだなって思ってたしね。」

「挨拶にくるって、あいつがくるってことかしら?」

「だと思うよ。奴の相手は俺にしかできないからね。全面戦争になるにしろ、最後は俺と奴との一騎打ちになる。それは奴もわかってるはずだから・・。」

「そうね・・。」

これ以降、二人は会話をすることなく、この夜は静かに更けていった。

一方・・・

碓水のテリトリーから出た御堂は、その足でとあるBarに向かった。

地下への階段を下り、重苦し店の扉を開けると、カウンターに一人の男が座っていた。

「戻りました。」

そういって隣に腰を下ろす。

「どうだった?」

「さすがにあの二人を前にすると緊張しますね。本気で殺されるんじゃないかと思いましたよ。」

「そうか。てことは陵人は相変わらずってことだな。」

「えぇ。力を抑えてる状態であれだけの殺気を放つんですから、まいりましたよ。彼からの伝言です。『容赦しねー。』だそうです。」

「そうか。楽しくなってきたな。」

「あの二人はホントに行かせるんですか?」

「あぁ。残りの面子が揃うまでちょうどいい暇つぶしになる。俺は陵人の方を見物してくる。ついでに挨拶もしてくるから、お前はもう一人の方につけ。後始末を頼む。」

「了解しました。しかし、どこの組織にも身の程を知らない奴ってのはいるんですねー。」

「いいんだよ。そういうのがいなけりゃつまらんだろ。」

「まぁそうですけど。いつやらせるんですか?」

「二日後だ。」

「わかりました。」

こうしてもう一つの夜も、静かに更けていった。


翌日。陵人は都内で仕事を終え、久しぶりに駿と約束をしていた。(久しぶりといってもたかだか三週間ほどだが。)

茜は残念ながら仕事で地方に行っているため不参加だった。事前にわかっていたため、あえて茜には連絡を入れていない。(自分だけ参加できないと泣きわめきかねないからである)

二人でNYXに向かって歩いていると、陵人は背後に気配を感じた。攻撃的な気を隠そうともせず、真っ直ぐに陵人に向けられている。

「駿。どうやら客のようだ。」

「客?もしかしてつけられてるのか?」

「あぁ。恐らく暁だ。一応心の準備だけはしといてくれ。」

「あいよ。」

駿がここまで冷静でいられるのは、こういったことが初めてではないからである。

陵人の職業上、同業者に狙われるのはそう珍しいことではない。ただ実際に襲ってくる度胸のあるやつはなかなかいなかった。何せ天上天下に轟く最強の能力者なのだから。

それでも身の程を知らない奴はいるもので、以前にも、二人でいるところをいきなり襲われたことがあった。

刺客からしたら、駿がいることで集中力が散漫になるだろうという浅はかな理由で。

当然そんなことくらいでは何の意味もなく、目の前でぼろくそにやられる能力者に駿は何度か遭遇したことがあった。

今回も同じだろうと思ったのだ。

しかし、陵人はいつもほど冷静ではなかった。

敵の気配がかなりの力の持ち主であるといっていたからだ。

もちろんまともにやりあって負けるということはないが、今までの相手のように駿を守りながら戦うとなると、やや厳しい。それほどの相手だった。

(さて、どうするか・・。)

頭の中でシュミレーションを立てていた陵人だったが、次の瞬間、敵が物凄いスピードで突っ込んできた!

陵人は咄嗟に駿の腕を掴み上空に飛んだ。

敵の放った一撃で地面には直径二メートルほどのクレーターが出来ている。

上空からすぐに敵の位置を把握する。

敵は陵人に向かって第二撃を撃ってこようと身構えている。

次の瞬間敵は力強く地面を蹴り、陵人目がけて再び突っ込んできた。

片腕に駿を抱えている陵人は空中で交わすことが出来ない。仕方なく、陵人は右手を敵にかざした。

「『赤爆(せきばく)』!」

右手から真っ赤な炎の塊が飛び出し、敵に当たると大きな爆発を起こした。

その隙に着地した陵人は、

「駿。少し下がってろ。」

次の一手に備える。煙の向こうに人影が浮かびあがる。

敵は陵人の赤爆をまともに喰らったにも関わらず、全くの無傷。

「けひゃひゃひゃひゃ!!最強なんて言われてる割にゃーたいしたことねーなー!

え!神崎 陵人さんよー!」

「テメー・・。誰に喧嘩売ったかわかってんだろーなー?こんな街中で術使わせやがって。

殺すだけじゃすまさねーぞ・・!」

「まーそう焦んなよ!俺の名は(とどろき) (ごう)(てつ)暁十二業(じゅうにごう)の一人だ!前々から最強最強って言われてるおめーとどうしてもやりたくてなー!お頭に許可もらっておめーをぶち殺しにきたのよ!」

轟と名乗るこの男。二メートル近い身長に筋肉隆々の身体。名は体を表すとはこの男のためにあるような、名前のカードと身体の写真を合わせるゲームがあったら、百人中百人が正解できるだろうわっかりやすい男だ。

(昨日御堂が言ってた馬鹿野郎はこいつか・・。)

「テメーの名前なんてどうだっていいんだよ・・。覚悟は出来てんだろーなー。」

「おめーをぶっ殺す覚悟ならとっくに出来てるぜ!」

(こいつ本物の馬鹿か・・。)

何故こんなにも自身満々になれるのか陵人は理解に苦しむ。確かにその辺の能力者と比べれば力はある。しかし、本気になった陵人には遠く及ばないのは明らかだ。それとも何か他に作戦でもあるのだろうか?陵人は瞬時に頭をめぐらせるが、答えがでない。

「まぁ安心しろ!今日はほんの挨拶だ!きっちりタイマンで勝負して勝たねーと意味ねーからな!」

(何を安心しろと??)

「明日の夕方。海沿いにある廃工場に来い!場所はわかんだろ!?」

海沿いの廃工場。なんともアバウトな説明だが、能力者の間で海沿いの廃工場と言えば一つしかない。そこは自然に出来た結界のおかげで、多少暴れても外部にそれが漏れることがないという能力者にとっては格好の場所だった。世界各地にそういった場所がいくつも存在し、訓練や実際の戦闘が繰り広げられている。

「あぁ。」

「よっしゃ!逃げるんじゃねーぞ!今夜は最後の晩餐を楽しむこった!けひゃひゃひゃ!」

(うっとーしい笑い方しやがって。)

「わかったわかった。とっとと失せろ。」

陵人は轟をただの馬鹿と認定し、今日のところは大至急お引取り願う方向で進めた。

「それじゃーな!けひゃひゃひゃ!」

馬鹿が馬鹿笑いしながら去っていく。普通に歩いて。その後ろ姿に馬鹿と書いてあるかのようだ。

少し下がったところで様子を見ていた駿が陵人の元に戻ると、

「なんだったんだ。あいつ。」

「わからん。気にするな。それより怪我はないか?」

「あぁ。俺は問題ない。お前は?」

「あんな馬鹿相手に怪我なんかしねーよ。」

「だろーな。とりあえず行こうぜ。人が集まってくるかもしんねー。」

「あぁ。行こう。」

二人は今の事はなかったことにしようと思い、足早にNXYへの道を急いだ。

それほど轟は馬鹿にしか見えなかった。

NYXに着くと、陵人は碓水に轟のことを話した。

碓水は予想通り苦笑いを浮かべている。ただの能力者なら腹を抱えて笑うところだが、相手が暁、しかも十二業の一人ということで、手放しで笑うことが出来なかった。

「暁にもろくでもないのがいるのねー。まぁ基本的にどうしょうもないのの集まりだけど。」

「久しぶりにあんな馬鹿みたよ。明日殺してくる。」

「構う事無いから徹底的にやってやりなさい!二度と転生出来ないくらいにね!」

「もちろんそのつもりだ。」

「相変らずおっかない母子だなー・・。」

「駿も被害を受けたんだから、言ってやればいいのよ!どうせ殺るのは陵人なんだから!」

「いやいや、俺はそこまでは・・。」

「どうせ殺るのはってのが若干気になるけど?」

「事実でしょ?今日はしっかり飲んでしっかり食べて、明日に備えて頂戴!とびっきりのサービスをするから!」

碓水は二人のために次々と料理を出していく。酒もじゃんじゃん注がれていった。

「な、なぁ。なんで美影さんあんなに乗り気なんだ??」

「こないだちょっとな。もともと暁の連中が死ぬほど嫌いな人だから。」

「そ、そっか・・。」

「お前は気にせずどんどん食って飲め!」

「そうだな!いやー美味い!そういや最近茜ちゃんとは連絡とってんのか??」

「あぁ。ほとんど毎日メールやら電話が来る。今はグラビアの撮影で沖縄にいるんだと。」

「それで今日は来れなかったのか。悔しがるだろうなー!」

「そう思って連絡してない。」

「でもそのうち連絡くるだろ?」

「そうなんだよ。なんて言おうか・・。」

そんなことを話していると、ホントに茜から着信が来た。

「うわっ、マジでかかってきた!」

「出ろよ!切れちまうぞ!」

「いや、とりあえずここは放置でいこう・・!」

「だー、じれったい!」

駿は陵人から携帯を奪いとり、茜の電話をとってしまった。

「ちょっ、お前何勝手に・・!」

「あらあら楽しくなってきたわねー!」

碓水も料理を作りながら興味津々だ。

「もしもし、茜ちゃん?久しぶりー!駿だよ!」

(え、駿君!?これ陵人の携帯だよね??もしかして一緒にいるの!?)

「そーゆーことー!今NYXにいるんだー!沖縄だって!?大変だねー!」

(ちょっとー!!ぬけがけー!?ずるいよー!)

「駿、私にも替わって!」

碓水がウキウキでしゃしゃり出る。

「もしもし茜ちゃん?久しぶりー!元気!?」

(美影さーん!!私も行きたいですー!!)

「そうよねー!じゃあ来ちゃいなさいよ!」

(だって今沖縄なんですよー・・。)

「大丈夫よ!陵人に道を繋げてもらえば!」

(道ってなんですか!?)

「ちょっと美影さん!またそうやって勝手なことを・・!」

「いいじゃない!私も茜ちゃんに会いたいもん!あ、もしもし茜ちゃん??今から陵人に道を繋げさせるから、それを通ってこっちに来て!」

(な、なんかよくわかんないですけど、わかりましたー!)

「いやいやいや!誰もやるとは言ってないでしょ!?」

「いいからやりなさい。命令よ。」

碓水の表情が一瞬で『鬼女』に変わる。陵人はほとんどトラウマ化しており、この時の碓水の言うことは聞かざるおえない。

「わ、わかりましたよ・・。電話を返してください・・。」

陵人は碓水から携帯を受け取ると、

「茜。今から・・」

(ちょっと陵人――!!なーーんで私に内緒でNYXに行ってるわけーー!ホントありえないいんですけどーー!?)

喋る前に茜の金きり声が陵人の耳を貫く。

「だーもう、だから今から呼んでやるって言ってんだろうが!鼓膜が破れたらどうすんだ!?」

(自業自得ですーー!)

「ったく。いいか?今からこっちとお前のいるところの空間を繋げる。目の前に空間に歪みが出来たらその中に入って進んでいけ。いいな?」

(了解―!早くやってー!)

「はぁーー、なんでいつもこうなるんだ・・。」

陵人はブツブツ言いながら携帯をいったん駿に預け、両手を前にだし、人差し指と親指で三角形を描き、集中する。

「『亜空(あくう)航路(こうろ)』」

指で描いた三角形の先から徐々に空間が歪んでいき、少しずつブラックホールのようなものが出来あがっていく。陵人は頭の中に茜を思い浮かべ、

「牧村 茜」

茜の名を呼んだ。

すると通話中の携帯の向こうから茜の反応があった。

(なんか、真っ黒いのが出てきたー!!これに入るの!?)

術を完成させた陵人が携帯を受け取り、

「そうだ。思い切って入ってこい。しばらく歩くと光が見えてくる。その先に俺たちがいる。」

(わかったー!じゃあ行くねー!)

茜は思い切って中に入り、道を進んで行った。『亜空航路』の中は大きな渦のようになっていた。砂粒のような小さな光が無数にちりばめられており、入り口からは想像できないほど明るかった。

「キレーイ!!」

茜は渦の中を見回しながらゆっくりと進んでいく。

しばらく歩くと、先に薄っすらと光が見えてきた。

「あ、あれが出口かな?」

茜は小走りで光に向かっていった。

そして勢い良く光に飛び込んで行くと、目の前に立っていた陵人の胸の中にたどり着いた。

「りょ、陵人・・!」

突然陵人の胸の中に飛び込んでしまった茜の心臓はドッキンドッキンだ。

「どーせ勢い良く飛び込んでくるんだろうと思ったんだ。立ってて正解だったな。」

柔らかい笑顔の陵人が目の前にいる。会いたくて会いたくてしかたなかった陵人が目の前に。茜は天にも上る気持ちだった。

「いつまで抱き合ってるのかしらー??」

「あ、ご、ごめん・・!」

碓水に冷やかされ、ようやく我に返った茜は慌てて離れる。(本当はまだまだくっついていたかったのだが。)

「いらっしゃい、茜ちゃん!」

「お邪魔します!美影さん!駿君も久しぶり!」

「たかだか三週間だけどね!元気だった?」

「うん!駿君ドラマ見てるよー!」

現在駿は月九で主演をしている。視聴率も平均20%を越す最近では珍しいくらいの人気だ。

「ありがと!」

「いいからお前も座れ。」

「はーい!!」

こうしていつもの面子が揃い、宴が始まった。

「ねーねー、さっきのなんて術??」

「『亜空航路』だ。離れている相手と亜空間を繋げることで行き来することができる。」

「なーんでこんな便利な術を隠しとくかなー。」

「別に隠してたわけじゃねーよ。難しい術だから発動条件が細かいんだ。そう簡単に使える術じゃねーんだよ。」

「発動条件って??」

「まず大前提として相手があるということだ。何もないところに道を繋げることはできない。そして、繋げる相手の名前と顔、そして現在地がある程度わかってるってことが必要だ。」

「その条件なら私たちには使えるんじゃないの??」

「もう一つある。お互いの意思が同じであるということだ。お互いが道を開くことを許可しなければ道は繋がらない。今までは俺がこの術を使う気がなかったから、この術は使えなかったんだ。」

「なんで使う気がなかったのよー!?」

「なんでもかんでも術に頼ってたら堕落するだけだろうが。自分でいうのもなんだけど能力は表の人間からしたら反則技のオンパレードだからな。極力使わない方がいいんだよ。もともと緊急脱出ように作った術だしな。」

「まぁそれはそーだな。」

駿がうなずく。

「まぁそれはそうかも・・。」

一応納得はしいてみる茜だったが、陵人に会えるならどんな反則技だって使っちゃえ!というのが本音だ。

「だいたい最近のお前たちはだなー・・」

「はいはい、じじくさいこと言ってないでどんどん食べてどんどん飲みなさい!」

「そーしよー!」

碓水の助け舟に二人はウインクで返し、宴を再開させた。

三人で集まるのは旅行以来のため、今夜は碓水も混ざって大いに盛り上がった。

明日はあの馬鹿・・いや轟との決戦が待っている。ほんの少しだけそのことを考えながら、陵人はこの仲間との宴を心行くまで楽しんだ。

深夜、再び茜を『亜空航路』で沖縄のホテルに送り返した。

駿と別れ、陵人は一人家路に着く。

明日、暁の馬鹿を片付ける。もしかしたら、あいつも来るかもしれない。そんな期待をしながら、騒がしい夜は静かに過ぎて行った。


次の日・・。

十二月に入り、本格的な冬が訪れ、日が落ちるのが更に早くなった。

現在時刻は16時。すでにあたりは薄暗くなっている。

陵人は指定された海沿いの廃工場に向かって車を走らせていた。

あと30分程で到着するだろう。

車の中で陵人は轟のことではなく、御堂の言葉を思い出していた。

「あいさつにくる」

暁の総帥であるあの男がもうじき現れるということだ。

陵人はこの男を知っている。

そしてそれはおそらく今日であると、陵人は感じていた。

轟は噛ませ犬でしかない。力はそれなりにあるだろうが、陵人の敵ではない。油断させしなければ問題なく倒せるだろう。

それよりもあの男の方が気になる。

そんなことを考えているうちに、陵人は目的地に到着した。

海沿いの廃工場は、寂れた漁村に存在し、周囲に民家はほとんど存在しない。さらに自然に出来た結界によって、能力者以外は見つけることが出来ないようになっている。

元々は海鮮類を処理する工場だったが、過疎化の影響で住民がどんどん減少していき、遂にはつぶれてしまったということだ。

その後怪異のたまり場と化した工場が、能力者の念に反応し、結界が生まれることとなった。

陵人は工場の付近に車を止め、工場の敷地内へと入っていった。人はおろか猫一匹姿を見せない。陵人はかつて修一郎と共に修行でこの工場を使用していた。訪れるのは数年ぶりだ。

「なつかしいな。当たり前だけど変わってねーな。」

少しだけ昔のことを思い出しながら進んでいくと、工場の内部に轟が待っていた。

陵人を確認した轟は、小学生のように目をキラキラさせた。

まるでお父さんの帰りを待っていた子供のように。

いったい何時間前から来ていたのだろうか。もしかしたら前日から泊まり込んでいたのかもしれない。

そんなことを考えてしまうくらい、轟は見事な笑顔を作って見せた。

「待ちくたびれたぞ!てっきり逃げ出したんじゃねーかと思ったぜ!けひゃひゃひゃ!」

「その笑い方なんとかならねーのか?非常に不愉快だ。」

タバコに火をつけながらあからさまな表情を浮かべる。

「けひゃひゃひゃ!相変わらず威勢がいいな!だがなー!そんな余裕が浮かべてられるのも今のうちだぞ!武士の情けだ!この世で最後のタバコを存分に味わえ!」

呆れるしかない陵人はお言葉に甘えてゆっくりとタバコを吸っている。

しかし、陵人は妙な違和感を感じていた。

確かに目の前にいるのは二日前に会った轟本人なのだが、この前とはどこか違うような気がする。馬鹿野郎っぷりは全く同じだが、二日前に会った時よりも力が上がっているような、そんな気がした。

しかしそんなことよりも陵人には気になることあった。

「お前、本当に一人で来たのか?」

「んぁ!?何だビビッてんのか?安心しろ!俺一人しかいねーよ!へたな小細工を使う気はねー!」

「そうか・・。」

周囲の様子を窺うが確かに気配は感じられない。

(期待し過ぎたか・・。)

大きく吸い込み、勢いよく煙を吐いた。

「さて、じゃあ始めるとするか。先に言っておくが、容赦しねーぞ。」

「上等だー!そっくりそのまま返してやるぜ!けひゃひゃひゃ!」

「だからその笑いをやめろって言ってんだろうが・・!『赤爆』!」

遂に二人の戦いが始まった。先にしかけたのは陵人。

轟は上空に跳び、攻撃をかわす。壁に激突した『赤爆』は大きな爆発ととも煙を上げる。

轟はそのまま陵人目がけて突っ込んできた。

「だーっしゃー!!」

後方に跳び攻撃をかわす。間髪入れず次の術を発動させた。

「『(ざん)()』」

目に見えない高速の刃が轟に襲い掛かる。

着地と同時に放たれため、轟は避けることが出来ず、その場で防御の姿勢をとったものの『斬鬼』をまともに食らってしまった。

にも関わらず、轟はかすり傷一つおっていない。

「何・・!?」

「効かねーなー!!」

更に轟は陵人目がけて突っ込んできた。二日前に会った時よりも数倍の速さだ。

陵人は避けきれず、防御の上から一撃をもらい、壁まで一気に吹っ飛ばされた。

「けひゃひゃひゃー!どうしたどうしたー!そんなもんかー?あー!?」

壁に激突したが、常に肉体を強化しているため、それほどダメージは食らっていない。

すぐに起き上がり、

「くそが!調子に乗るなよ・・!『隼』!」

瞬時に轟の背後に回り、

「『竜槌撃(りゅうついげき)』!」

竜をも打ち落とす威力の拳を轟の顔面目がけて繰り出す。

だが、轟は陵人の動きにしっかりとついてきていた。陵人が拳を繰り出したと同時に、振り返りざまの一撃を放つ。

轟と陵人の拳が激突する。

威力は互角に見えた。拳と拳が均衡している。

しかし、陵人は全力で拳を放っているが、轟には余裕の笑みが浮かんでいる。

「けひゃひゃひゃ!やっぱりだ!お頭の言った通り、おめーの技は俺には通用しねー!」

「な、なんだと・・!」

陵人はさらに力を込めるが、轟はビクともしない。

「効かねーって、言ってんだろーがーー!!」

轟は雄たけびと共に拳を一気に振り切った。

陵人はさっきの倍の速度で壁に吹っ飛ばされてしまった。

「く、くそ・・が・・!」

今度は思いのほかダメージを受けてしまった。

「けひゃひゃひゃー!おめーこの前の俺の動きが全力だったとでも思ってたのか?あん時はおめーがかわしやすいようにわざとスピードも威力も抑えてたんだよ!今の俺はあの時の十倍の力だ!」

「な、なんだと・・!まさか『封刻』を施してやがったのか・・!?」

「よく知ってんなー、その通りだ!お前が来る前に俺は封印を解いておいたんだよ!これが俺の真の実力ってやつだー!」

『封刻』とは、協力な力を持った能力者が通常時の力を抑えるために、自らの身体に封印を施すことである。力の強い能力者はそれだけで周囲の怪異や人間に影響を与えてしまう。そのため、普段は自らの力を抑えなくてはならない。更に、この封印は他の者には全く分からないのである。そのため、陵人も轟の封刻に気付くことが出来なかったのだ。

「どうやら、お前を甘く見すぎていたようだな。まさか『封刻』を使ってやがったとは。」

「昨日お頭に言われてなー!封印を解けばおめーの術なんて怖くねーってよ!まったくその通りだぜ!おめーの攻撃は痛くも痒くもねー!けひゃひゃひゃー!」

「なるほど・・。」

陵人は確信した。あの男は間違いなくきている。完全に気配を消しているが、どこかで様子を窺っている。

「上等だ・・!いいだろう。俺も本気を見せてやる。」

「今更なにを強がってやがる!おめーの攻撃は効かねーと言ってんだろーが。」

「お前、まさか『封刻』を使えるのは自分だけだと思ってんじゃねーだろうな?」

「なんだと??え、ま、まさかおめーも・・!?」

「ホントに知らなかったのか?おめでたいやつだ。」

陵人は自らの気を高めていく。

「言っておくが、俺の『封刻』はお前とは比べ物にならんぞ。」

「く・・、させるかーー!!」

轟は封印を解く暇を与えまいと、陵人目掛けて突っ込んでいく。

「無駄だ。『月影(つきかげ)』」

陵人の『封刻』はそんじょそこらの封印ではない。天上理事会常任理事である陵人はいわば神と同等の力を持つ。その強大な力を抑えるため、四重の封印を自らに施しているのだ。

一つ一つの封印が術化しており、術を発動すると封印が解ける仕組みになっている。

一つの封印を解くと、力は数十倍にまで膨れ上がり、封印を解くことにより、通常時には使うことが出来ない高度な術を使うことができるようになる。

第一の封印を解く術『月影』。

発動させた時点で、轟の勝ち目はゼロとなった。


一方その頃・・

ここは地方にあるゴルフ場。今使われておらず荒れ放題で、何故か広大な敷地だけが手付かずで残されていた。

「まったく、こんなところに呼び出すなんてどういう神経してるんだい?」

そうもらすのは神崎 修一郎。

「すみませんね。こんなところにまできていただいて。」

「ホントだよ。で、いったい何のようだい?まさか本気で私と戦いたいってわけじゃないだろ?」

「いえ、純粋にあなたと戦いたかっただけですよ。」

「そもそも君は何者だい?手紙には暁としか書いてなかったけど。」

「申遅れました。私は如月(きさらぎ) 和人(かずと)。暁十二業の一人です。」

「暁十二業?君が?」

「えぇ。ずっとあなたと戦ってみたかったんです。今日ようやく叶えることができます。」

「なぜ私なんだい?他にも相手ならいくらでもいるだろう。MAINDSの若手の方が実力も近いだろうに。」

「そんなんじゃ意味がないんですよ。今この世界ではあなたの弟子である神崎 陵人が最強だと謳われています。しかし、真の最強は師であるあなただと私は思うのです。前線を退いたとはいえ、現在もMAINDS特別顧問という総統と同等の権力を持つあなたこそ、最強の名にふさわしい。違いますか?」

「君は私を買いかぶり過ぎだよ。陵人はとうに師である私の実力を超えている。彼が最強であることに間違いはない。師としては喜ばしい限りだよ。」

「あくまで謙遜されるのですね。いいでしょう。しかし、私の目的に変わりはありません。私の目標はあなただ。そして、今日。その目標を超える。」

「えらい自身だねー。まさか本気で私に勝てるとでも思ってるのかい?」

「えぇ。そのために必死で修行し、技を磨きました。暁に入ったのも、その方があなたと戦える可能性が増えると思ったからです。おかげさまで、今こうしてあなたの目の前の立つことが出来ています。」

「愚かなことをしたね。いいだろう。相手をしてあげよう。男からのラブコールは好きじゃないんだ。今日で終わりにさせてもらうよ。」

「ありがとうございます。では。行きます・・!!」

もう一つの戦いの火蓋が切って下ろされた。

「『散烈光弾(さんれつこうだん)』!!」

如月の両手の指から機関銃のように無数の念弾が修一郎目がけて発射された。

「ほう・・。」

修一郎は右手をかざし、念で壁を作りあげた。

「やりますね・・。それでは・・、『迫撃(はくげき)操光弾(そうこうだん)』!」

如月は両手で念の塊を作り上げ、修一郎に投げつける。

「切り替えが早いね。」

修一郎は壁を解き、上空へとかわす。

「無駄ですよ!」

上空へとかわした修一郎の動きに合わせるように光弾が進路を変更させる。

「面白い・・。」

追ってきた光弾を上空でひらりとかわす。

「そいつは命中するまであなたを追い続けます。」

如月の言葉通り、光弾はどこまでも修一郎を追ってくる。修一郎は紙一重で光弾を避け続けた。

「よく練りこんでいるね。それでは・・!」

光弾とある程度の距離を取ると、修一郎は振り返り、右手に力を込めて後方から一気に前に突き出した。

その瞬間、光弾は爆発し、辺り一面に激しい閃光が降り注いだ。

「さすがですね・・。しかしこれならどうですか??」

如月は『迫撃操光弾』を今度は片手に一つずつ練りだした。それを同時に修一郎目がけて放つ。

光弾は上下左右と曲線を描きながら修一郎に襲い掛かる。

「なかなか器用じゃないか。だが無駄なこと。」

修一郎は避ける動作を一切せず、先ほど同様右手をかざし、光弾を二発まとめて爆発させた。

「く・・!まだまだ・・!」

如月は『散烈光弾』を発射しながら動き出す。上下左右あらゆる方向から発射し、辺り一面煙幕が広がり、視界が遮断されていく。何百、何千という弾を浴びせ、如月は止めに直径一メートルほどの巨大な光弾を作りあげた。

「これで終わりです!『絶光弾(ぜっこうだん)』!!」

躊躇なく修一郎に投げ放った。

弾は修一郎に直撃し、爆音と共に嵐のような爆風が巻き起こり、辺り一面煙塵が立ちこもる。

「はぁ、はぁ、どうですか・・。私の力・・。」

如月もこれだけの力を使い、さすがに息を切らしていた。だが、手応えは感じていた。この爆発から考えても間違いなく『絶光弾』は命中した。当たりさえすれば、修一郎とてただではすまないはず。如月からは勝利の笑みがこぼれる。

徐々に砂埃が落ち着き始め、視界が開けていく。

だが次の瞬間、如月の笑みは絶望へと変わった。

「これで、終わりかい?」

そこには修一郎が無傷で立っていた。あれだけの『散烈光弾』を浴び、『絶光弾』も命中したはずなのに、かすり傷一つ負っていない。

「さすがは十二業の一人だね。なかなかの威力だ。」

「そ、そんな・・!確かに命中したはず・・!」

「命中?この程度の攻撃を私が食らうとでも?随分舐められたものだねー。」

修一郎は苦笑いを浮かべる。

「く・・、くそ・・!まだだ!まだ終わりじゃない!ここで終わるわけにはいかないんだ!

うぉーー!!」

雄たけびと共に如月は両手を後ろに回し、『迫撃光弾』を放つと、ジェット噴射の要領で一気に修一郎の間合いへと飛び込んだ。

肉弾戦に持ち込もうというのだ。

「しつこいねー君も。」

如月はその勢いのまま突っ込み、全力で拳を握り、修一郎の顔面に叩きこむ。

だが、修一郎は紙一重でそれをかわす。

「ほう、拳の中で念を練り威力をあげているのか。肉弾戦のことも考えていたとは、優秀だねー。」

まだまだ余裕の修一郎に、如月は次々に拳や蹴りを入れていく。

しかしどの攻撃も全て紙一重でかわされてしまう。

「くそがーー!!」

顔面に向かって放った拳を始めて修一郎が受け止めた。

「く・・!」

「さて、そろそろ終わりにしようか。如月君。」

修一郎の強烈な一発が如月のどてっ腹に叩きこまれる。

「がぁ・・はぁ・・!」

更に反転し、如月の後方に回ると、延髄に強烈な蹴りを繰り出す。如月は一気に十数メートル先まで吹っ飛ばされた。

「さて、どれくらい効いてるかな?」

修一郎はゆっくり如月に向かって歩いていく。

如月はなんとか気絶せずに済んだというレベルだった。たった二発の攻撃を食らっただけで、立ち上がることさえ出来ずにいた。

そんな如月にゆっくりと修一郎は近づいていく。

「満足したかい?」

如月は気力を振り絞り、どうにかこうにか立ち上がる。

「く・・。やはり・・あなたは最強だ・・。ここ・・、まで・・レベルが違うなん・・て。」

「君の実力が足りな過ぎたんだよ。その程度でよく私に戦いを挑もうと思ったね。」

「総帥から・・、やってみる・・、価値は・・、あると・・、言われたんですよ・・。」

「そうか。どうや君は暇つぶしの道具にされたようだね。」

「な・・!?どういう意味ですか・・!?」

「君程度の実力では私に傷一つ付けられないのは当たり前だ。私のことを知っている人間なら誰だってわかる。そして、君のとこの総帥と私は少なからず面識がある。つまり、こうなることは初めからわかっていたはずだ。にも拘らず、彼は君を行かせた。戦力が揃うまでの暇つぶしとしてね。」

「そ、そんな・・!私は・・、玩具にされたというのか・・!?」

「まぁ、そういうことだね。」

如月は真実を知り、再びその場に倒れこんだ。戦意は完全に失っていた。いや、もはや生きる希望させも。

「君には一緒に来てもらうよ。いろいろと聞きたいこともあるからね。」

如月に反応はない。

修一郎が如月に手をかけようとした時、後方から凄まじい力の塊が飛び込んできた。

次の瞬間・・。

「がぁっ・・!!」

如月の心臓は破裂し、口から大量の吐血をすると、そのまま前に倒れこみ、動かなくなった。

「如月君!」

修一郎は如月を抱き起こすが、すでに手遅れだった。

如月の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。

「いやー、そいつを連れてかれるといろいろとまずいんですよー。修一郎さん。」

こちらに向かってゆっくりと歩いてくる見覚えのある男。

「相変わらずだね、君は。鏡一。」

「ご無沙汰してます。すみませんでした。こんな茶番につき合わせてしまって。」

「やはり彼の仕業かい?」

「えぇ。もちろん。でもまぁ久しぶりに修一郎さんの動きが見れてよかったですよ。ついでにそれの始末もしてもらえます。持って帰るの面倒なんで。」

「君という男は・・。」

「まぁまぁそう怖い顔しないで。この先はあなたに刺客を向けるようなことにはなりませんから!安心してください。」

「そうしてくれると助かるよ。あまり表舞台に立つのは好きじゃないんだ。それにこの先は若い世代の時間だからね。」

「わかってますよ。それじゃ、皆にもよろしく言っておいてください。」

そう言い残し、御堂は消えていった。

「陵人。いよいよ始まりそうだよ。世界を賭けた戦いが・・。」


そして舞台は再び陵人と轟へ・・


「食らいやがれーー!!」

轟は全力で陵人の顔面目がけて拳を繰り出す。しかし、すでに遅かった。

陵人の第一の封印『月影』はすでに開放されていた。陵人は轟渾身の一撃を片手で軽々と受け止めている。

「お遊びはここまでだ。」

陵人の強烈な一撃が轟の顔面に叩き込まれる。

轟は一瞬で壁まで吹っ飛ばされた。

封印を解いた陵人は、通常時に使っていた術の全てを、発動条件を無視して使うことができる。詠唱しなくては使えなかった術が、動きの一つ一つに溶け込んでいる。つまり、今の一撃には『竜槌撃』が自動で付加されているのだ。

「立てよ。こんなもんじゃねーだろ?」

「あたりめーだーー!!」

轟は勢い良く立ち上がり、再び陵人目がけて突っ込んでくる。

「芸のない野郎だ。」

陵人は『隼』の速度で攻撃をかわす。

術の威力、性能も桁違いに上がっている。

あまりのスピードに轟は付いていくことが出来ず、空振りをしたあと陵人の姿を捉えることが出来ない。

「ここだ。」

後ろから突然声をかけられた轟は慌てて振り返るが、陵人は待ってはくれない。痛烈な一撃を轟のどてっ腹に叩き込み、轟を上空に飛ばすと、間髪入れずに『斬鬼』を放つ。

「ぐうぉーー!!」

轟に無数の刃が襲い掛かり、体中が刻まれていく。

さらに陵人は攻撃の手を止めない。轟よりもさらに上空に跳び、数メートルの高さから轟を地面に叩きつけた。

さすがにこれだけの攻撃を食らってはひとたまりもない。轟は意識を失いかけていた。

「終わりか?」

陵人の声は聞こえていたが、身体がいうことを聞かない。

「所詮はこの程度か。手間掛けさせやがってこの馬鹿が。」

轟はやはり反応することが出来ない。

「さて、いい加減出てきたらどうだ?いるのはわかってんだよ!」

陵人の投げかけに応え、一人の男が工場内に入ってきた。

「久しぶりだなー陵人!元気そうじゃないか!」

「お前もなー。元MAINDS 時の番人NO5、天童(てんどう) (しのぶ)!」

「何もフルネームで呼ぶことないだろー!恥ずかしいじゃねーか!」

「うるせーよ!舐めたマネしまくりやがって・・!」

「心当たりが多すぎて分からんな。」

「なぜこいつに嘘を吹き込んだ!?」

「嘘?なんことだ?」

「とぼけんじぇねー!お前こいつに『封刻』は自分だけしか使えないって吹き込んだろ!?」

「あー、そのことか!だってその方が面白いだろ?」

「どこまで腐ってやがんだお前は・・!」

「おいおい、せっかくの再開なんだから、こんなゴミの話はいいだろ?それよりもっと楽しい話をしようや!なぁ、陵人!」

その時、意識を失いかけていた轟は、天童の言葉に反応し、残っていた力を振り絞り立ち上がった。

「お、お頭―!今の・・今の話は本当なのか・・!?」

「なんだまーだ生きてやがったのか?もうお前の役目は終わったんだ。とっとと失せろ。」

「ち、畜生――!!!」

轟は最後の力で天童に拳を放った。

「ゴミが・・。『(やみ)地獄(じごく)』!」

「な、なんだ・・こりゃ・・!?あぐぁ・・!!がぁ・・!!」

轟の身体が徐々に黒く歪んでいく。

「轟!?」

「身体が・・!俺の身体が消えて・・!!」

数秒後、轟の姿は跡形もなく消えていた。

「ったく、ゴミの分際で話の腰折りやがって。」

「テメーだけは必ず俺がこの手でぶち殺す・・!!」

「そうそう、そういう話だよ。もうじき全ての戦力が整う。もうじきだ!」

「ずいぶん長いこと待たせてくれんじゃねーか!そろそろ限界だぞコラ!」

「MINDSを抜けてここまで五年かー。まぁ確かに時間はかかったな。だが安心しろ。もうそんなに待たせないからよ!そうだな。来年中には形になる思う。そうしたら、楽しいパーティーの始まりだ!」

「楽しみにしてるぜ・・!俺だけじゃなく、MAINDSの全てがな!」

「あぁ。皆にもよろしくな!」

そして天童も消えていった。

(いよいよか・・。)

こうして二つの戦いは終わり、陵人、修一郎はそれぞれの戦いを知らないまま、お互い迫り来る新たな戦いに心を揺さぶられていた。


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