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第一章 出会い

プロローグ

9月15日。残暑が厳しく、昼間の気温が30度を越える日が続いていた。夕方以降はいくらか過ごしやすいものの、いまだ夜は寝苦しい。そんな夜21時。神崎陵人は友人との約束のため都心の街にいた。時間にはきっちりしている陵人は約束の10分前には必ず約束の場所にいることにしている。今日もそうだった。20時50分には約束の場所にいた。喫煙スペースで煙草を吸いながら、友人を待つ。街は仕事が終わり、さー飲みに行くぞ!と言わんばかりのサラリーマン達。早くもテンションマックスで大声で喋りあっている学生達。これから食事がてら飲みに行って、そのままホテルに行き、朝まで「素敵」な時間を過ごそうとしているカップル達と、完全に浮かれているピンク、黄色といった華やかな色を醸し出している「者」であふれている。

一方で、忙しそうに携帯電話片手に早歩きで歩いて行く者。冷めた目で周りをボーっと見ている若者。疲れてきった顔で駅に向かう者。そんな街を陵人は無表情で観察していた。この限られた空間に全く違う色をした「者」達が自分の人生の一瞬を過ごしている。様々な想いが今自分の目の前で乱雑に混ざり合い、一つの「街」として形を成している。陵人はそんな「街」を見るのが嫌いではなかった。むしろ好んでいた。人間の生涯はせいぜい80年。普通に生きていれば、途方も無く長い時間に感じるかもしれないが、それは一瞬のことである。そんな一瞬の人生のさらに一瞬のこの時間を、様々な「色」を常に変化させながら歩んでいる「者」達が、陵人は好きだった。


第一章「出会い」

「わりー遅くなった」そう言って陵人の隣に座り、煙草に火をつけたのは立石駿たていししゅん。陵人が約束をしていた友人だ。「おせーよ」そう言って陵人も新しい煙草に火をつける。「15分じゃ早い方だろ」詫びる様子もなく子供のような屈託の無い笑顔を見せながら駿は笑っている。「まーそうだな」つられて陵人にも笑みがこぼれる。「てかお前こんなとこで堂々と煙草なんか吸ってていいのか?イメージに関わるだろ?」「問題ねーよ!未成年じゃねーんだから!」そう言って今度はまた別の笑顔を見せる駿。立石駿の職業は俳優。つまり芸能人だ。ただの芸能人ではない。現在若手実力派俳優NO1の超スーパースターだ!180cmの長身に絞まった身体。爽やかさと男らしさを兼ね備え、27歳にして高校生の役から名医の役までなんでもこなし、ドラマに映画、舞台と幅広く活躍している。歌がへたくそなのが唯一の欠点くらいか。(世の中には知られていないが)そんなスーパースターが繁華街の喫煙スペースで煙草を吸っていたら嫌でも人目につく。すでに駿に気づいた連中がざわざわと騒ぎだしている。「めんどくせーことになる前に行こう」そう言ってまだ半分くらいの煙草を消し、立ち上がった駿に「そーだな」と陵人も煙草を消し、予約してある店に向かって歩き出した。

陵人と駿が出会ったのは10年前。お互い高校2年生の時である。最初は仕事だった。駿からの依頼を陵人が受け、見事に解決し、その後交流を続け、今では友人と呼べる中になったのである。駿が出した依頼は「心霊現象の解決」だった。

当時の駿は今ほど有名では無かったが、すでにドラマや映画に出演しており、立派な芸能人であった。芸能人はメディアを通じ、多くの人の目に触れる職業である。そのため、様々な感情の「標的」になることが多い。もちろんそれがなければ芸能人としては成功しないし、ファンがつかなくてはどうしようもない。しかし、芸能人に向けられる感情はそんな正の感情だけではない。嫉妬、妬み、そして度を越えた愛情、憎悪。そんな負の感情が理不尽に向けられることも少なくないのである。駿はそんな理不尽な感情の「標的」になってしまった。

ある日駿のもとに小包が送られてきた。中には手作りの小さなクマのぬいぐるみと手紙が入っていた。手紙には「応援しています。頑張ってください」と書かれていた。駿はファンからの贈り物だと思い、事務所の決まりで返事こそ出さなかったものの、ぬいぐるみを部屋に飾ることにした。それから毎週のように小包が送られてくるようになった。駿は少し怖くなった。事務所に相談したが、「そういうことはよくあることだから気にしなくていい。人気が出てきた証拠だよ」と言われてしまった。まぁそれもそうだなと思い、駿も気にしないように努めたが、ある晩。部屋で寝ているとふいに目が覚めた。時計を見ると2時を指していた。「まだこんな時間か。水でも飲むかな」と部屋を出て一階に行き、冷蔵庫からミネラルウォーターを出してコップに注ぎ、一気に飲み干した。「さ、寝よ」部屋に戻って眠ろうと階段を上り、部屋に入ろうとした時に異変に気づいた。「誰かいる」自分の部屋の中に知らない誰かがいる。部屋のドアは閉まったままだし、中は見えないが、間違いなく誰かいる!駿は混乱と恐怖にかられた。「こんな時間に!?いったい誰が!?どうやって入った!?」そんなことが頭の中をぐるぐると駆け巡る。しかし、部屋の前でじっとしていても始まらない。駿は覚悟を決め、ドアを開けて中に入った。女が立っていた。部屋に飾ってあったクマのぬいぐるみを手に取りじっと眺めている。駿は渾身の勇気を振り絞って「誰だ!人の部屋で何してる!?」と女に向かって叫んだ。すると女はゆっくり振り返り、「飾ってくれているんですね。嬉しい」そういって不気味な笑みを浮かべた。「うわぁーーー!!」駿は叫びながらベッドから飛び起きた。そこに女の姿はなく、時計も7時を指していた。「夢・・だったのか・・?」全身汗だくになりながら安堵する駿に再び恐怖が襲った。ダッシュボードに飾ってあったはずのクマのぬいぐるみが、枕の横に置いてあった。その横に見たことのない、ピンクの可愛らしいリボンをつけたクマのぬいぐるみが寄り添うように座っていた。ぬいぐるみは小さなメッセージカードを持っていた。そのカードには「またきます」と書かれていた。

その夜から毎晩のように夢に女が現れるようになった。時間は決まっていつも2時。目を開けると自分の目の前で不気味に微笑んでいることもあった。最初は事務所も「夢だろ?気にし過ぎだ」と取り合ってくれなかったが、日に日にやつれていく駿に事務所も事態を重く見るようになり、遂に陵人に依頼がだされた。

事務所の応接室のソファーには社長の赤間、マネージャーの大塚そして駿が横並びになって座っていた。駿はすっかり精気を失い、体重は5kgも落ち、心身共に疲れきっていた。毎晩正体不明の不気味な女が自分に会いにきているのだから当たり前だ。そこに「失礼します。神崎様がおこしになりました」「入ってくれ」社長の赤間が秘書に答える。秘書に連れられて入ってきたのは、駿と同い年くらいの若者であった。180cm近い身長にスリム体系、健康的な色黒の肌で、端整な顔立ち、モデルをやっていますといっても誰も疑わないような好青年である。(こんなんで大丈夫か・・?)駿は心の中で呟いた。「ご依頼をいただきました。神崎陵人といいます」「お待ちしてました。まぁかけて下さい」「失礼します」赤間と陵人のやり取りをどこか遠くの方で駿は聞いている。「早速ですが、今回の依頼内容を確認させてください。」赤間に促され、駿は重たい口を開き、今自分に起きている不可解な現象は話始めた。陵人は駿の顔をじっと見つめながら話を聞いている。一通り内容を話したあと、「いくつか質問があります。」そういって陵人が話し出した。「毎晩送られてくるというぬいぐるみはどうされているんですか?」「もちろん全て処分しています。女が出てきたあと、最初に送られてきたぬいぐるみも処分しました。手紙も何もかも。」駿の顔が恐怖に満ちていく。「そうですか。なぜ、それまでぬいぐるみを飾っておいたのですか?普通毎週送られてくるようになった時点で気味が悪くなって処分しようとすると思うのですが?」「いや、毎週送られてくるようになってからはさすがに気味が悪くなったので、送られてくるものは処分していましたよ」「ではなぜ最初に送られてきたものは処分しなかったんですか?」陵人がすぐに切り替えしてくる。そう言われて初めて駿は思った。「何故だろう?」陵人の言っていることはもっともだ。送られてくるものは全て処分しているのに、何故最初に送られてきたぬいぐるみだけは捨てず、律儀にも飾っておいたのだろう。いくら考えても答えがでない。しばらくの沈黙が流れる。「たぶん、忘れていたんだと思います」そう答えるしかなかった。「そうですか」陵人はやや考え込むように右手を口もとにもっていった。少しの沈黙のあと、「ぬいぐるみはもう一つも残っていませんか?」「いや今日置いてあったぬいぐるみは持ってきました。あなたが来るということだったので、何かの手がかりになればと」そう言って駿はぬいぐるみを取り出し、テーブルの上に置いた。ピンクのリボンをつけた可愛らしいぬいぐるみを見て、陵人はそのぬいぐるみに右手をかざした。何かを感じている様子だったが、すぐに「やはり『能力者』か」陵人が呟く。「能力者?」三人が声を揃えて問いかける。「えぇ」陵人は短く答える。「その能力者というのは?」大塚が再度質問する。「この世には『能力者』と言われる特殊な力を持った者が存在するんです。分かりやすく言えば超能力ですね。このぬいぐるみも能力者の力で作ったものでしょう。キーワードは『夢』『ぬいぐるみ』『進入』。しかし、幸い素人のようです。きちんと修行を積んだわけではないようだ」とさも当たり前のように話を進めていく陵人。「まぁそれが厄介といえば厄介か」目の前の三人を完全に置いてけぼりにし、ぶつくさと一人考え込んでいる。「さっきから何言ってるんだこいつは?」事態が全く呑み込めない駿は、心身の疲れからかやや苛立っていた。「もう少し分かりやすく言ってくれませんか?何言ってるか全然わかんないんですけど?」と陵人に喰ってかかる。陵人は表情を崩さず、「今からお宅を拝見してもよろしいですか?早ければ今日中にかたをつけることが出来ます。」

1時間後、陵人、駿、の2人は駿の自宅の前にいた。大塚も付き添うと言っていたが、大丈夫と駿は断った。何故かは分からないがそのほうが良いと思ったのだ。実家暮らしの駿は両親、妹の4人家族。2階建ての少々年期の入った一軒屋で暮らしていた。2階の窓際に面した部屋を指差し、「あれが俺の部屋です」と陵人に説明した。陵人は少し目を細めるように部屋を見ていた。「どうぞ」と陵人を家に招き入れ、部屋に案内する。幸い家には誰もいなかった。階段を上がり、一番奥の部屋の前で「ここです」と一度立ち止まった。昼間に女が出てきたことはないが、駿はこの部屋自体に恐怖を感じるようになっていた。しかし、17歳にもなって嫌な夢をみるからこの部屋で寝たくないなどと子供じみたことを言うわけにもいかず、この数日間駿はずっと恐怖と戦いながらこの部屋で過ごしてきた。「失礼します」そう言って陵人はなんの迷いもなく部屋に入った。部屋の中をぐるっと見渡し、「やはりそうか」と呟いた。「何がですか!?」いったい自分の部屋に何が起きているのだろうと駿は恐る恐る聞いてみる。「能力者の念で満ち溢れています。よくこんな部屋でいままで眠れていましたね。数日でやつれてしまうのも無理ない」別に眠れていたわけではないが、やはりこの部屋は異常なんだと改めて感じさせられた。「なんとかしてください!俺もうこれ以上は耐えられません!お願いします!」と半分泣きそうな声で駿は陵人にすがった。「もちろんです。このままじゃ私も気分が悪い。少し離れていてください」そう言うと右手の人指し指と中指を立てて印を結び、それを口元に持っていくと『息吹(いぶき)』と唱えた。部屋中に風が吹いたと思うと、今までの不快は空気が一瞬で洗われたように清々しい空気に変わった。「さて、次は・・」何が起きたのか全く分からず、口をぽかんと開けていた駿に「さっきのぬいぐるみを出してください」と陵人は息つく暇もなく指示をした。状況が飲み込めないまま駿は言うとおりにぬいぐるみを差し出した。陵人はぬいぐるみを机の上に置くと、再び印を結び『追捜(ついそう)』と唱えた。するとぬいぐるみがやんわりと光始めたと思うと、強い光を放ちそのまま消えてしまった。「さて仕上げは・・。」そう言って駿の背中に右手を置き、『快來(かいらい)』と唱えた。今まで重苦しいかった身体が嘘のように軽くなり、何事もなかったような活力が沸いてきた。顔色も戻り、なんと体重まで戻っていた!「これはいったい・・!?」狐につままれたような顔をしている駿に「これでもう大丈夫です。あの女が現れることはありません。大元もあとで処理しておきます。」と陵人は微笑む。初めて見せた陵人の笑みに駿は心の底から安堵した。陵人の微笑みは、そのな力を持っていた。これは今まで使った力とは違う。陵人の人として器がそうさせていた。しかし、この短時間で目まぐるしいことが目の前で当然のように繰り広げられた駿は、真相が知りたかった。陵人に説明を求めたが、「まだ全てが終わった分けではありません。これから大元を処理してきます。話は全てが終わってからきちんとお話しましょう」そう言って陵人は去って行った。

陵人の言葉通り、その日の夜から女が現れることはなくなった。数日後、自宅にいた駿に陵人が訪ねてきた。「真相をお話します。」と。部屋に招き入れ、「適当に座ってください。今母がお茶を入れてくれています。」すると陵人は「おかまいなく。それより一つお願いがあります。」「なんですか?」妙に真剣な顔つきに駿も思わず姿勢を正した。

「タメ語でいい?」「はい!?」思わず口から出てしまった。「だって俺らタメでしょ?そもそも敬語ってどーも苦手なんだよねー。明らかに堅苦しいじゃん?だいたいお願いされてんのはこっちなのよ!?なのになーんでこっちが気使って敬語になんなきゃならねーの?おかしくない?師匠が依頼人にはきちんと敬語で接しなさいって言うから使ってっけどさー。しかも今回はその依頼人がタメだぞ!最後くらい使わなくたっていいだろ!?」駿は開いた口が塞がらなかった。今までの陵人のイメージが正に音を立てて崩れていった。と同時に腹の底から笑えてきた。何だかんだ言ってこいつは俺と同じ17歳なんだ。てかタメだったのか!?若いとは思っていたがまさかタメだったとは・・。そんなこともおかしくなって遂には大声で笑ってしまった。「お願いじゃねーだろ!もう思いっきりタメ語で喋ってんだから!」「そー硬いこと抜かすな。男が落ちるぞ。」そういって陵人も笑っている。今までの緊張が馬鹿みたいに思えて、しばらく二人で笑っていた。そこに駿の母典子がお茶とお菓子を持って入ってきた。「あらあらずいぶん楽しそうね。下まで笑い声が聞こえてたわよ。はい、お茶とお菓子。」「ありがとうございます」そういった陵人の顔はやわらかく、5分前とはまるで別人のようだった。「ゆっくりしていってね。」そうやさしく微笑んで典子は部屋を出ていった。

「さて」出されたお茶を一口飲み、陵人が真相を語りだした。「犯人はお前のストーカーだ」そう告げられた時、「やっぱりか・・」と思いながらも「ストーカーにあんなことが出来るのか!?」と切り替えした。「もちろんただのストーカーじゃない。前にも言ったがあの女は『能力者』だ。自分の能力を使って夜な夜なお前に会いにきていたんだ。」駿は全てが解決した今ですら鳥肌がたってきた。「つまり夢の中に入ってくる力ってことか!?」「いや違う。やつが入ってきたのは夢じゃない。実際にこの部屋に入っていたんだ。」「そんな・・!?だっていつも起きるとあの女はいなかったし、部屋を荒らされたことだってない。夜中にふと気付くといるって感じだったんだぞ!?第一窓も何もかも鍵がちゃんとしてあった!それなのに誰にも気付かれずに部屋に進入することなんて・・!?」

駿は納得が出来ない、というか信じたくなかった。あの女が実際にこの部屋に来ていた!?実際に俺のすぐ横に!?夢だと思っていたことが全て現実だった!?鳥肌の数が倍増し、顔が引きつっていく。「落ち着け。だから『能力者』だと言っているだろ。あの女の能力は『空間移動』だ。自分の念を充満させた空間に、媒体を置くことで道を開き、移動する。今回の媒体は最初に送られてきたぬいぐるみだ。あのぬいぐるみに自分の念を注ぎ込み、標的の家に送りつける。そして空間に少しずつ念を充満させていき、道を開く。だが、普通そんなぬいぐるみが送られてきたら、いくら自分のファンからの贈り物だって気味が悪くなる可能性が高い。すぐに捨てられてしまったら空間に念を充満させることが出来ない。そこでやつはいくつかの罠をはった。一つはあのぬいぐるみを飾らせるための念を込めた。」「飾らせるため?」「そうだ。あのぬいぐるみはお前の部屋に置かれていなくては意味がない。だからお前が確実に部屋に置くという念を込めたんだ。そのおかげでお前はなんの迷いもなくあのぬいぐるみをご丁寧にも飾っておいた。これで下準備は出来た。あとはぬいぐるみから念が溢れだし、この部屋に充満させられれば道が出来るという仕組みだ。ここまではいいか?」

理屈は分かった。なるほどとも思う。だが整理がつかなかった。いままで芸能界という華々しい世界に身をおき、確かに普通の高校生とは違った人生を歩んできた。それでも駿は自分が普通に暮らしているのだと感じていた。もちろん意識したことはないが、事実そうだった。それがストーカーに狙われ、その女が『能力者』で、それを解決してくれたやつもとんでもない力を持っていて今事件の真相を俺に話している。頭では理解しようとしても、心がついていかない。そんな感じだった。それでも聞かなくてはならない。自分の身の上に起きたことをしっかりと受け止めなくてはならない。そうしなければ先には進めない。駿はお茶を一気に飲み干し、「続けてくれ。」と真っ直ぐ陵人を見つめた。

「やつの最終目的は、お前の恋人になることだった」「はぁー!?」またも思わず口に出してしまった。「いったいどういう神経してればそんなことして俺の恋人になれると思ったわけ!?」陵人はケタケタ笑っている。「やつのシナリオはこうだ」半分笑いながら話しだした。「お前を心身共に完全に疲弊させたところに偶然を装い現れる。そしてお前にかけた念を解き、お近づきになるつもりだったそうだ。落ちた体重を戻すために料理の勉強もしてたみたいだぞ。手料理で落とすつもりだったんだろう。もてる男はつらいねー」陵人は楽しそうに喋っている。「じょ、冗談じゃねーぞ・・」駿は完全に顔が引きつっている。「で、あの女はどうなったんだ?」「阿頼耶式(あらやしき)の連中に預けてきた。」「阿頼耶式?」「あぁ。MAINDS(マインズ)特務部隊 阿頼耶式。違法『能力者』の取り締まりをしているやつらだ。そっちに身柄を拘束してもらった。」

「MAINDSってのは!?」「『能力者』を統括、育成している機関だ。」

「そんなところがあるのか!?」「もちろん世の中には知られていない。政府やいくつかの業界以外はまず出くわすことはないだろう。芸能界とはつながりがあってな。それで俺が派遣されたというわけだ。」「お前もそのMAINDSに属してるのか?」「まぁな。めんどくせーからめったに顔出さねーけど。ただ師匠のつながりが深くてな。俺も仕方なく動いてる。」陵人はそう話すと面倒くさそーな顔を浮かべながらお茶をすすっている。「これが今回の真相だ。お疲れさん。」そう言って駿の肩をポンっと叩く。「まったくだ。」どっと疲れが出たように大きなため息をつく。「そういえば、あの女は素人だとか言ってなかったか?」「あぁ。やつはきちんと修行したわけじゃない。」「それでもそんな力を使うことができるのか?」「不可能ではない。能力を使うには『核』が必要なんだ。いわゆる能力を使うことができる素質だな。やつにはそれがあった。だが、いくら素質があってもなんの知識もなく能力を開花させることはまず不可能だ。」「どういうことだ?」「つまり、やつに知識ときっかけを植え付けたやつがいるということだ。そして間違いなくそいつも『能力者』だ。一応阿頼耶式の連中にそのことも報告してあるから、探索しているとは思うが。恐らく見つからないだろう。」「ちょ、ちょっと待て!!じゃあ何か!?俺をストーカーに襲わせた張本人はまだどっかにいるってことか!?」「まぁそういうことになるな」「全然終わってねーじゃねーか!!」「安心しろ。やつらの目的はお前じゃない。」「どういうことだよ!?」「やつらの狙いは陰湿な心を持った『核』の持ち主。今回はあの女だな。やつらはそういう『核』を見つけては言葉巧みにそそのかし、闇に落としていく。今回お前が標的になったのはまぁ一言でいうと運が悪かったってとこだな。」と肩をすくめてみせる。「やつらって!?」「『(あかつき)』といわれる『能力者』の集団だ。まだ開花していない『核』を闇に引きずり込み、自分たちの力に変えている下種野郎どもだ。」いままで見たことのない明らかに嫌悪感むき出しの陵人に駿は寒気と恐怖を覚えた。「ちなみに『核』はお前にもあるぞ。駿。」「えぇー!?俺にもあるのか!?」「あぁ。この前お前に『快來』を使った時に気付いた。あ!そうだ、そうだ!一つ大事なことを言うのを忘れてた!」「な、なんだよ!?まだなんかあるのか・・?」物凄く駿の顔が不安になる。「お前にはこれから先いろいろと変な物が寄ってくことになる。」「はーーー!?」今までで一番の大声を上げ、おもわず立ち上がってしまった。「どういうことだよ!?」陵人の両肩を掴んで激しく揺さぶる。「だーー!落ち着け!いいから落ち着け!!」ぶるんぶるんに揺らされた陵人はピヨピヨしていた。フラフラになりながらも、「まったく。いいか。お前はこの短時間の間に二人の『能力者』と接触をもってしまった。しかもお前にはもともと『核』が存在する。俺たちの力の影響を受けて『核』が反応してきちまったんだ。『核』が放つ気は怪異を引き寄せることが多々ある。分かりやすくいうと、霊感の強いやつにはいろいろと寄ってくるっていうだろ?幽霊とか妖怪とか。それが『核』に怪異が反応しているという状態だ。理解できたか?」理解はできた。だが完全に戸惑っていた。顔は引きつり、変な汗がジワーと身体全体を包み込むように流れた。不気味な女の一件を陵人が解決してくれた時、全てが終わったんだと思った。これで普通の生活に戻ることができる。そう心の底から喜んだ。しかしそうではなかった。始まりに過ぎなかったのだ。駿の表情を見て、「わかりやすいリアクションだな。教科書通りだ。」と陵人は妙に納得している。「俺はこれからどうなるんだ?どうしたらいい?」今にも泣き出しそうな表情でうつむく駿に陵人は「顔を上げろ駿。お前には俺がついていてやる」真っ直ぐに駿の顔を見つめ、力強く肩を掴んでくれた。「え・・?」「お前の『核』が反応してしまったことは少なからず俺にも責任がある。お前が怪異にイタズラされるのを黙ってみているわけにはいかないからな」「守ってくれるのか?俺を?」「まぁーそういうことだ。つっても四六時中付きっ切りでお前を守ってやれるほど俺も暇じゃないんでな。何かあったらすぐに呼べ。駆けつけてやる。」そう言って笑顔で親指を立てる陵人を見て、駿は今までの不安が吹き飛んだ。大丈夫だ。そう心の底から思うことができた。「ありがとう。陵人」初めて陵人と名前で呼んだことに少し照れくさい感じがして、おもわず笑ってしまった。陵人も笑っている。落ち着きを取り戻した駿は気になっていた陵人自身のことを聞いてみることにした。「なぁ。お前はどうゆう能力をもってるんだ?こないだは三つくらい使ってたろ?」「俺の能力名は『(ことわり)』だ。」「能力名??」「きちんと修行をした能力者は、能力に応じた名を持つんだ。その名に沿った能力を発動することができる。さっきもいったが、能力を発動するためには『核』が必要になる。その『核』を磨き上げることによって能力が開花するわけだ。俺の能力は自ら理を生み出すことによって、あらゆる術を操ることができる能力だ」「無敵じゃねーか!そんな凄い能力なのか!」「まぁな。だが万能なわけじゃない。いくつかの制約が伴う。つってもそれを差し引いても最強なことに変わりないけどな!」陵人は自身満々に高笑いしてる。「制約ってのは?」「まぁおいおい話してやるよ」そういって今度は不敵な笑みを浮かべた。「さぁ、他に質問がなければ俺はそろそろ帰るぞ。」「もう帰るのか。もう少しゆっくりしていけばいいのに。話したいこともたくさんある。」「次の機会にな。これ、俺の番号とアドレスだ。何かあったらいつでも連絡してこい」そういって小さな紙切れを手渡した。「必ず連絡する。いろいろありがとう。陵人」二人は固い握手を交わした。これ以降、二人の関係は途切れることなく、10年間の歳月を共にし、真の友人となった。


現在執筆中の作品ですが、一足先に公開したいと思い投稿させていただきました。実は初めての作品です。今後更新を続け、また、新たな作品にも挑戦していきたいと思っています。どうかあたたかい目ので見守ってください。

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