【必殺技図鑑】ミニスカ魔法怪盗ワザ"明け抜けなさいな扉開け"(『ミニスカ巫女怪盗タテハ・カンナギ』ep18より)
「あたしの魔宝物──っ!」
当然ながら、ビル風と魔法に巻き上げられて、地獄を描いた魔宝物キュビレウス終絵画は摩天楼の夜空高くに舞い上がった。
頭頂で結わえた真紅の長い髪を振り乱し、ミニスカ天狗服を着た巫女怪盗カンナギの泣き叫びが屋上庭園に木霊する。
そうしてキュビレウスは風に煽られ、誰の手にも渡らず街へと降りて逝き、メチャクチャに破れてゴミになる──
と、思われた。
「……ん? イヤ~な予感……」
驚くべきことにキュビレウスは中空のある一点に留まり、風に晒されながらも昏い鼓動を打ち始める。
そうして絵画は次第にクシャクシャに潰れ、中から突き出るように代わりのものが現れた。
「ぎゃあ~っ! やっぱりィイイイ~!」
空高くに突き出された、肥大したカモノハシ竜の頭。モデル体型カンナギの背丈ほどある巨大な直径の血走った目。顔から生え立ち、頭の後ろまで伸びる管状の一本トサカ。
太い首が繋げる、更に膨れた扁平な胴体。太く長く、折り畳まれた強靭な二本足。そして尻から立ち上がる鋭い尾。
魔宝物の怪妖──ヤトゥルムバヴラは、バランスの崩れた醜くおぞましい姿を晒し、ドロドロに腐敗したようなおぞましい産声を解き放った。
「バァ────バ──ラ──ァ!! ホゥ、ホゥ、ホゥ、ホゥ……」
「あぐっ!?」
ぎゃあ、とカンナギが耳を塞いで身をよじらせた。それまで余裕を保っていたミニスカ魔法怪盗ギャーナも、この不快な声には耳を塞いで顔をしかめる。
「バ──バ──ァラッ、バラハッハッハ、ホゥ……」
構わず空中から身を投げ出した化けパラサウロロフス・ヤトゥルムバヴラは庭園へと胴体を擦り付け、足を突き出し跳ね上がり、辺りを滅茶苦茶に蹴散らしながら、摩天楼都市へ飛び下りた。
気持ち悪い咆哮が巻き散らされ、その度に発射される音爆弾が、立ち並ぶビル壁をあちこち、あちこち砕きまくる。
「バァ────バァッ、ハッハッハッ……バラハッハッハ……」
これに慌てるのはカンナギだ。屋上の警護フェンスまで掴みかかり、防護壁越しにお宝ちゃんの成れの果てを無力に見送り、泣き声を出した。
「あぁ~~っ! どーしてくれんのよっ、あたしの魔宝物がぁ……」
「元々、アナタのものでもないでしょう。おどきなさい」
「ぎゃっ」
泣き崩れるカンナギの服を掴み、ギャーナは彼女を後ろへ投げる。
毛先をたわませた、澄んだ色の長髪。可憐で美しい容姿、それに見合った長い手足に高い背丈。夜風にはためくマントに小型の肩鎧、肘まで覆うタイトな黒手甲に、ベルトで締めた騎士服のサーコート。その裾から見え隠れするミニスカート。細長い足を包む、細い足鎧。
ミニスカ魔法怪盗ギャーナ・ギャソー。
その気品溢れる姿にあって、カンナギを投げる所作さえ嫌味なほどに美しかった。
「何すんだ!」
「いけないわ。このままアレの好きにさせたら、私を崇める世のゴミ共が無意味に命を散らしてしまう……」
「!? そうだ! あたしのまだ見ぬ魔宝物ちゃん逹が巻き添えに!」
二人の怪盗人間は口々に好きなことを言いながら、それぞれ化け竜バヴラに対するコメントを口から吐く。
そうしてカンナギは要塞円盤を呼び出そうとするが、それより早くギャーナは鍵型の片手杖を掲げた。
「おいでなさい! 鎧馬骨!」
すると、どこからともなく向かいのビル壁に膨らんだ巨影ボールが落下した。
ビル壁を崩しながら着地した球状の巨体は身を包む鎧を展開し、少しずつ体を伸ばしていく。
兜の下から小さな二本角を覗かせた、膨張した肉食恐竜の頭蓋骨格。太く短い首に、縦に長く膨らんだ胴体。肩の位置からも生やした、腕代わりの長い二本角。太く長く折り畳まれた二本足。そして尻から立てた、異様に短く太い、鋭い尾。
これらホネホネの隙間体を薄く覆った、豪奢な縁取りの白い鎧。これが怪盗ギャーナの足、鎧馬骨だ。
「……恐竜じゃねーか!」
「ミニスカ魔法怪盗ワザ! "明け抜けなさいな扉開け"! フッ!」
ギャーナはマントを翻し、移動魔法で飛び上がる。そうして待ち受ける鎧馬骨まで山なりに飛来して、その背中の鞍に滑り降り、立ち乗り上げた。
「さあ追いなさい、鎧馬骨! あの下郎へと死の予告を告げよ!」
「ブヒヒヒヒヒ……!!」
鎧馬骨が骨身をよじっていななき、崩れたビル壁を蹴ってバヴラを追う。
カンナギは身を起こして、再びフェンスに飛びついた。
「鳴き声は馬なんかい! じゃなくて、違う! あたしの魔宝物、弁償しろ~っ!」
夜の摩天楼。ビル谷合いを跳ね回り、何度も交差し合い、飛び回りながら二体の化け竜は狙い、戦い、殺し合う。
「バ~ァラ! バラ、ハッハッハ……」
「ヒヒィ~ン! ブヒヒヒヒ……!」
何度も何度もビルのガラス壁を音爆弾が破砕し、何度も何度も肉食竜の肩に生えた角から放つ雷がビルのガラス壁を粉砕する。
クッッソ迷惑な空中乱闘の最中、高貴なギャーナも鍵型杖の頭を脇に挟み、化け竜バヴラに向けた鍵先端から移動魔法を放つ。
「ミニスカ魔法怪盗ワザ! "明け抜けなさいな扉開け"!」
「バォ──バヒィイイン! バラハッハッハ……」
ねじ曲げられた移動の渦が化け竜の体に達すると、大気を巻き込み、肉の部位が捩れ曲がるように"移動"する。当然その部位は捩れて千切れて破損する。
ギャーナの発砲は撒き散らされる雷よりも攻撃頻度が少ないが、代わりに百発百中でバヴラの巨体にのみブチ当てていた。
「バォ──ン! バラハッハッハ、ホゥ、ホゥ、ホゥ……」
何度目かの着地に手間取り、バヴラの跳躍のキレが落ちる。その隙を見逃すギャーナではなかった。
「バホ──バホゥッ!」
「今よ! より高く跳び上がりなさい鎧馬骨ッ!」
「ヒヒィ────ン!」
今までより酷く広くガラス壁を粉砕し、鎧馬骨が跳躍する。本当に怪盗人間は一刻も早く、この世から滅ぼした方がいい。
ともあれ狙い通りバヴラの頭上を飛び越え、鎧馬骨と背に立つギャーナは化け竜を見下ろす形で空に舞った。
「アビラゥゾルザート!」
呪文と共にギャーナの背から眩い無形の翼が伸び立ち上がり、白んだ虹色の羽毛が辺りに散る。
弱ったバヴラが音爆弾を放つ前に、ギャーナは撒き散らした羽毛を移動魔法の渦に巻き込み、バヴラへと放った。
「爆雷乱羽!」
「バラ──バラバババラバッ! バハァ~ッ!」
バヴラの巨体が複数の爆炎に飲まれ、爆発によって何度も折り畳まれる。炎と煙とを引きながら、煤にまみれた巨体が墜ちた。
「ブヒィ──ン!! ヒィッ!!」
直後、さらに向かい壁を蹴って高速で着地した鎧馬骨が、太い尾を瞬時に伸ばして、体ごと振るって叩きつける。
「バ──バラア~ッ!!」
急に鉄の柱がぶつかったようなもので、バヴラは巨体を折り曲げて、アスファルト肌を何度も抉り散らしながら、遠く遠くへブッ飛んでいく。
「バァッ──バラ! バラッ、ハッ、ハッ! ハ──ホゥ、ホゥ、ホゥ……」
やがて自然公園の草っ原を抉り、土を散らしながら化け竜は停止。すぐさま跳ね起きて、頭を振るって辺りの生命を探知する。
バヴラは頭を持ち上げ、さらなる音爆弾を放つべく雄叫びを、
「たぁ──っ!」
「バラ──ハアッ!」
ダーツのように繰り出された横からのギャーナの飛び蹴りに邪魔された。移動魔法ゆえギャーナは重力を無視して空中で反転、さらに回し蹴りをバヴラに決める。
「バ──ハバア~ッ!!」
「安心してお死になさいな、魔宝物の怪物。あなたの観客をも、この私が引き取るから」
巨体が倒れ、ギャーナが着地する。また再び起き上がるなり、バヴラは尾先をコブ状に膨らませた。
アンキロサウルスの特徴である、鋼鉄変・鉄槌尾だ。ヤトゥルムバヴラの血走ったクソデカ目玉が、ぐるりと回った。
「バラアッ!!」
「遅い」
瞬間、巨体が跳躍して宙返り。鉄槌を振り下ろすようにバヴラは尾先を叩きつける。
土肌がめくれ上がり、草が千切れて飛び散り、それらをひらりと反転しただけで避けたギャーナはマントを掴み翻し、跳ね汚れから服を守った。
ギャーナは華麗にターンを繰り返してバヴラに向き直ると、なおも尾を振るおうと踏み込む化け竜へ鍵杖の先端を向ける。
「ミニスカ魔法怪盗ワザ"痺れておしまい眩み縄"」
「バ──ラ、バラババババ……!! バラア~ッ、ハッハッハッ……」
伸び飛んだ雷のワイヤーが突き刺さり、バヴラは痺れて、たたらを踏み後退する。
ギャーナは鍵杖をあっさりと後ろ手に投げ捨て、雷を帯びた手をバキバキ鳴らして、つかつかと寄る。
「バァー……! ハラァ~ッ!!」
肉体を持った動物に見えるが、バヴラも命を持たない魔宝物の怪物。痛みや恐れを知らず、殺傷のため突進を繰り返す。
「バラァーッ!! バババババ……!! バラァ~ッ!! バラババババ……!!」
そんなだから、ギャーナの雷を帯びた殴打に学習も恐れもなしに、ひたすら突っ込んでは痺れ、後退りをしては突撃爆進を繰り返した。
「ほら、ほら、ほら……ほら!」
「バラバ、バラババ、バラバハァ~ッ!!」
殴打、殴打、裏拳、前蹴り。その全てを雷を伴って受け、バヴラは盛んにヘドバンを決めて実に楽しそうに跳び上がった。
着地に失敗して草原を蹴散らしながら化け竜は転がるが、怪盗人間は欲に負けて犯罪に走ったクズが普通なので、この修繕費は確実に弁償されないだろう。
バヴラは立ち上がるのに苦労し、その間にギャーナは身を翻してターン。マントを摘まみ上げ、怪盗力を急激に練り上げる。
遅れて草原にカンナギがやって来た。
「ミニスカ魔法怪盗ワザ。"明け抜けなさいな扉開け"」
「待てぇ~っ……! ハァ、ハァ……あたしの、魔ホウッ、物……弁しょ……げほっ、ごほゲホガッホ、ゲホッ!」
急に身をよじって膝をつくカンナギを無視して、ギャーナは素早く離陸した。
「ゲホゴホげぇ~ほっ! ゴホゴホゴホオエッ! ホォーウ! ホォーウ! ホォーウ!」
四つん這いで凄い咳き込むカンナギを眼下に、ギャーナは夜空をアクロバット飛行で飛び回り距離を稼ぐ。
充分に加速する頃には化け竜も元気に回復し、跳ね起きてトサカを振動させた。
「アァ──ッ……!」
「バ~ラハハハハ!! バーラッ!!」
「──たぁ~っ!!」
即座に弾かれたようにバヴラへ滑り落ち、飛び蹴りの体勢に入るギャーナ。バヴラは性懲りもなく踏ん張り、音爆弾を乱射した。
だが、音爆弾は飛び蹴り体勢のギャーナの周りを渦巻く移動魔法に巻き取られ、遥か彼方まで受け流されて空先で意味なく爆発する。
しかし化け竜は驚愕も恐怖もしない。殺害のためだけに動く怪物なので、この行動が失敗したと感知するまでは同じ殺害法を繰り返すためだ。
結果、ギャーナの蹴りが突き刺さった。渦巻く移動は肉を抉り、変形させ、穴が開くまで捩られる。
「バ~ァラハッハッハッハ!! ホゥホゥホゥ……」
「アァアアア……っ、タぁ!!」
バヴラの頭から胴体までがプリンのように抉れ立ち、草原を散らしてギャーナが膝立ちに着地する。
虹色の泡を傷口に塗れさせ、化け竜はよろりとフラつき、ギャーナは背後をちら見。つと目を伏せて背後からの通り路を魔法で閉ざす。
「ホォウ、ホォウホォウ……バ──バラバ、アワァッ!!」
「うげぇ~っ! げほげほゲ~ホゲホッ、オゲェ~ッ……!」
様々なノイズ音をバックに、ギャーナの背後で大爆炎が立ち上がった。




