時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編「蒼い炎」
※継続して「時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編」を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。そして先日、番外編「やり方が分からない」と「じゃないわよ」に評価ポイントを下さった方へ。心から感謝申し上げます。他に、ポイントやリアクションを見逃していたら申し訳ありません。
これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本編の第12話「神の子宮を潰せ」で、球体の目的が明らかになるシーンを、アミカナの視点から再描写したものになります。未来から来た女性タイムトラベラーであるアミカナは、自身がアンドロイドであることを隠して、大学生の志音と行動を共にしています。本編では描き切れなかった、互いに惹かれていく二人の心の触れ合いやすれ違いを描いています。本編未読でも、少しは楽しんで頂ける……ことを願っています。
<土曜日>
「……髑髏はしゃべれない……」
志音は呟いた。
「どういうこと?」
アミカナは眉を顰めた。彼は彼女へと向き直った。
「例えば、例えばさ、未来人が過去人に会って、未来で起きる出来事を伝えたら、その過去人は預言者になれるよね?」
「まあ、そうだけど、5分では伝えられることに限度があるわ。例えば、本の形にして渡したとしても、あっという間に消えてしまうし……」
彼女は肩をすくめた。そう、例え未来人を時間転送できたとしても、未来人と過去人との接触には、必ず厳しい制限時間が付きまとう。
「……あの球体は、この世界に一週間位は存在できるんだよね?」
志音は言葉を続けていた。
「まあ、そうね」
「それだけあれば、いろんなことを教えられるよね?」
「え……」
未来人が過去人に未来のことを教える。教える時間が足りないなら、偽時間を引き伸ばせばいい……大質量を時間転送すれば、延長は可能だ……
「まさか……」
彼女は瞳を見開いた。
「あの球体が、この世界の人間に、未来のことを教えたら、教えられた人は……預言者になれるってことはない?」
確かに、別に奇蹟を起こす必要はない。ただ、未来のことを知っているだけでも、その過去人は預言者と呼べる……
「あの歌は、預言者の再来を讃えていた。ということは……」
志音の言葉に、思わず彼女は立ち上がっていた。
「事前にスローンをばら撒いて、過去人を球体の座標におびき寄せ、捕獲して洗脳する!」
彼女は叫んだ。何てこと! 球体が巨大なのは、大火力を搭載するためじゃない。ただただ重いことで、奴らの計画を成功に導く!
「僕と同じように導かれた人が、あの中にいるのかも……」
「……じゃあ、あの球体は!……」
「……預言者製造装置なんじゃ……歌の言う、神の子宮さ……」
「……もし……もしそうだとすると……」
彼女は血の気の失せた顔で、ゆっくりと彼に歩み寄る。
過去人に未来のことを教えるのに、どれだけの時間がかかる? 5分は少なすぎる。でも、一時間なら? 一日なら?
「預言者は、既に産み落とされているかも知れない! もう六日経ってるわ!」
どうするの?! メシアは一体誰なの?! ここ数日、観察どころか、球体の傍にすらいなかった! もう、何の糸口も……ない!
アミカナは両耳を掻きむしるように両手で覆った。
「どうしよう! このままじゃメタクニームの思い通りだわ! 必ずやり遂げるって言ったのに……何もできてない!……どうやってその人を見分ければ?!」
足元がどこまでも抜けていく気がする。光が失われていく。暗闇に、ミカの顔が浮かぶ。彼女は、私のために、と言ってくれたけど…… 私のためって何? 私の人生は、歴史改変を阻止するからこそ意味があるのに! このまま、何もできずに消えるのは絶対に嫌!……そうだ、いっそ、アトロポスで志音の街を丸ごと消滅させれば! そうすれば、きっとメシアも倒せる! そうよ! そうすれば、私が生きた意味は! きっと!
「アミ! アミ! 落ち着いて!」
彼女の肩を揺すりながら、志音が必死に顔を覗き込んでいた。
「奴らは、メシアを劇的に登場させるつもりだ! もしかしたら、時間が球体を迂回して、自然消滅した時に、それをメシアの仕業にしたいんじゃ? 『全ての災厄の元凶を光に変えながら』ってあるけど、これって球体のことだろ?」
……何?……意味が分からない……
「……だとしたら、まだ手遅れじゃない。メシアは子宮である球体の中だ」
彼が微笑んでいる。まだ……手遅れじゃないの?……
「子宮をぶっ潰そう!」
彼が力強く言った『ぶっ潰す』という言葉の攻撃的な響きに、錯乱していた思考がゆっくりと焦点を結んでいく。
……まだ、終わってない?……まだ、終わってない……まだ、私には意味がある……それでいいの?
急に力が抜けて崩れ落ちそうになるのを、志音が支えた。抱き留められ、彼としっかりと触れ合う。
その時、何かが迸ったような気がした。
圧倒的な流れに巻き込まれる。
それは、暗い水の底から、光り輝く水面へ押し上げられる感覚。
もう息を止めなくていい。
好きなだけ、息をしていい。
背を反らし、肺の底が伸び切って軋むまで、息を吸い込む。
酸素が四肢の先まで巡っていくのを感じる。
窒息から解放された全身の細胞が打ち震えているようだった……
膝が畳の目を感じていた。彼が背中を擦っている。
あ……
すとんと落ちる感覚があった。
ゆっくりと羞恥が沸き上がる。ただ、心が痺れたようで、もう隠そうという気力が湧かない。もういいか、という気持ちになっていた。
「ごめんなさい、取り乱して……。この数日、凄く不安で……。私、カッコ悪いね……」
彼の肩に顎を載せたまま、呟くように言う。
「大丈夫。僕らはもうバディだろ? 僕だけカッコ悪いのはフェアじゃない」
……バディ……バディか……
彼女はゆっくりと彼の腕を掴むと、誘惑に抗って、彼の胸の中から体を起こした。
自分を引き戻した志音の顔を思い出す。あの時の彼は……本気だった。
ありがとう。私を引き留めてくれて……。恐怖のあまり、道を踏み外しかけた自分に苦味を感じながら、それでも、踏み止まれたことに安堵する。彼のおかげで……
……彼、アミって呼んだ?……
心地よさと気まずさの同居する微笑みで、彼の顔を見つめる。
「……勝手に愛称つけないで……」
「ああ、ごめん! つい……」
狼狽する彼が、愛おしくて堪らなかった。彼の胸に再び右の頬を埋める。
「……まあ、別にいいけど……」
背中に両手を回して抱き締める。彼の熱が伝わる。次第に溶け合うように、自分の輪郭がぼやけていく。しかし、彼女は溺れなかった。
……もういいわ、これで十分……
メシアが生まれていないなら、私の人生にはまだ意味がある! 胸の中に、蒼い炎が灯る。
「今から作戦会議ね」
彼女は呟いた。
お読み頂きましてありがとうございます。
ここで、二つお知らせがあります。一つ目です。ミカ三部作「私と私」「私にできること」「どうか」を書き上げて、番外編「彼の世界」の内容に違和感を感じるようになりました。一度書いた内容はあまり変更したくないのですが、強くなると決意したミカのために、若干改変しています。よろしければ見てあげて下さい。
そして二つ目です。ここまで、アミカナとミカ、ああ、それから志音(笑)の物語を書いてきましたが、私の頭の中の彼女達の声も、大分小さくなってきました。ここで終わりにするという訳ではありませんが、ひとまず、今後は不定期に更新することにさせて頂きたいと思います。彼女達が語り掛けてくることがあれば、その声はまた披露したいと思います。お時間のある時にのぞいて頂けると幸いです。
一旦ご挨拶させて下さい。ここまで、彼女達の物語にお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。




