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落語【声劇台本書き起こし】

落語声劇「金明竹」

作者: 霧夜シオン
掲載日:2025/10/07


落語声劇「金明竹(きんめいちく)」


台本化:霧夜(きりや)シオン@吟囁亭喃咄(ぎんじょうていなんとつ)


所要時間:約30分


必要演者数:最低4名

      (0:0:4)

      (4:0:0)

      (3:1:0)【性別準拠人数比率】

      (2:2:0)

      (1:3:0)

      (0:4:0)



※当台本は落語を声劇台本として書き起こしたものです。

よって性別は全て不問とさせていただきます。

(創作落語や合作などの落語声劇台本はその限りではありません。)


※当台本は元となった落語を声劇として成立させるために大筋は元の作品

 に沿っていますが、セリフの追加及び改変が随所にあります。

 それでも良い方は演じてみていただければ幸いです。



●登場人物


叔父(おじ):道具の鑑定の仕事で生計を立てている。

   何らかの事情で甥(おい)っ子である松公(まつこう)を預(あず)かっているが、

   松公(まつこう)があまりにも仕事ができない為、日々苦労しているが憎んで

   いるわけではない。


松公(まつこう):この噺(はなし)における与太郎役(よたろうやく)。与太郎(よたろう)とは落語の世界で愚か者の役回り

   を持つ。各師匠の口演(こうえん)を聞いた限り、自閉症のように見受けられる

   。与太郎枠(よたろうわく)ではあるが、傘(かさ)の話を猫の話と入れ替える事ができると

   こから見ても、頭そのものが悪いわけではない。


女房(にょうぼう):叔父(おじ)の女房(にょうぼう)。叔父(おじ)と同じく、松公(まつこう)に手を焼いている。

   しかし、憎んでいるわけではない。


男:通りすがりの人。

  雨に降られて叔父(おじ)の店先で雨宿りしていたら、松公(まつこう)が傘(かさ)を貸してくれ

  たおかげで、あとは濡(ぬ)れずに出先(でさき)へ出かけれた。

  雨すぐやんだけど。


大宮(おおみや):お向かいの家の人。

   ネズミを退治したくて猫を借りに松公(まつこう)の所へ来るが、松公(まつこう)が傘(かさ)の

   断り文句を猫の断り文句とすり替(か)えて話した為、猫を焚(た)き付けに

   使っているもんだと勘違いして帰ってしまう。


相模屋(さがみや):隣町から来た人。演者によっては番頭(ばんとう)さんになる事も。

    叔父(おじ)の店に仕事の話を持って来るが、松公(まつこう)があべこべな断り文句

    を言って返してしまう。


使い:中橋(なかばし)の加賀屋佐吉(かがやさきち)からの使いらしいが、上方(かみがた)の訛(なま)りがきついせいで

   松公(まつこう)や女房(にょうぼう)に全(まった)く理解を得られず、4回も話す羽目(はめ)になる、ある意

   味かわいそうな役どころ。

   というか加賀屋(かがや)さんよ、人は選んだ方がいい。

   …まあそれをやるとこの噺(はなし)は壊れてしまうわけですが。




●配役例


松公:

叔父:

女房:

男・大宮・相模屋・使い:



※枕は誰かが適宜(てきぎ)兼(か)ねてください。



枕:落語の世界には与太郎(よたろう)てのがよく登場します。

  この噺(はなし)にも与太郎枠(よたろうわく)が存在してますが、ちょっと頭の回転が遅かった

  り、愚(おろ)かしかったりする言動(げんどう)でお聞きになられている皆様を笑わせよ

  うていう役どころなわけです。

  笑わせ方の一つに言葉の聞き方を曲解(きょっかい)するてのがありますが、

  落語だのお笑いだのに関係なくとも、昔は今ほど交通の便が発達して

  おりませんでしたから、ご当地の方言の訛(なま)りがきつくて、ちょっと何

  を言ってるか分からない現象がよく発生していたものです。

  これにかかると、与太郎枠(よたろうわく)の役柄でない者であっても理解が追い付か

  ず疑問符(ぎもんふ)の山に埋もれてしまうことにもなりかねないわけでございま

  して。


叔父:松公(まつこう)、松公(まつこう)松公(まつこう)、おい松公(まつこう)!

   何してんだお前。

   そんなとこで猫のヒゲを抜くんじゃないよ。

   ネズミを捕(と)らなくなっちゃうだろ。


松公:おじさんがいつも言ってるじゃないか。

   綺麗事(きれいごと)にしろって。


叔父:綺麗事(きれいごと)にしろって、お前な…。

   お前はヒゲ伸ばそうが爪(つめ)伸ばそうが構(かま)わないけどもな、

   猫のヒゲを抜いちゃダメだってんだよ。

   猫はそれでネズミを捕(と)るんだからな。


松公:え、猫ってヒゲでネズミを捕(と)ってんの?


叔父:そうだよお前。ヒゲ抜いちまう奴があるか。

   それと、猫の爪も切っちゃダメだぞ。

   このごろ見ろ、その猫が屋根の上を滑(すべ)って歩いてるんだぞ。


松公:だってさ、おじさんが爪を伸ばしちゃいけねえって言ってたじゃな

   いか。


叔父:お前の爪を伸ばしちゃいけないってんだよ。

   まぁ、お前の事なんかホントはどうでもいいんだけどな。

   けれど甥(おい)っ子だと思うから、口酸(くちす)っぱく言うんだ。

   ほら、ぼーっとしてねえで表(おもて)の掃除(そうじ)をしろってんだよ。


松公:へぇい。


叔父:おいおい、いきなり箒(ほうき)を持ってきてパッパパッパ掃(は)きだすんじゃな

   い!

   土埃(つちぼこり)が立つじゃないか。

   先に水を撒(ま)くんだよ。

   そうすりゃご近所に迷惑が掛からないんだ。

   そのぐらいの事は分からなくちゃいけないよ。


松公:へぇい。


叔父:そうそう、桶(おけ)に水を汲(く)んで、ひしゃくでもって水を撒(ま)いてーー

   っておいおい!それじゃただ水をこぼしてるだけじゃないか。

   目の前でじゃーってやって…ちゃんと首を振るんだよ。


松公:え、首?

   ……おじさんやりにくいよ、これ。


叔父:あのな、お前の首を振るんじゃないんだ。

   ひしゃくの首を振るんだよ、勢いよく!


松公:へえ、こうかいおじさん?


叔父:あ、ちょっおまっ、そんなに勢いよくやったらああっ、すみません!

   お召(め)し物は大丈夫ですか!?

   濡れてない?良かった…。

   相(あい)すいませんでございます。よく気を付けさせますから。


   ……お前は表(おもて)の空気に当たるような人じゃないよ。

   もういいから、中へ入れ。


松公:え、もういいんですか?

   へぇい。


叔父:…本当に困った奴だな。

   表(おもて)にいるってえと人様(ひとさま)に迷惑がかかる。

   それじゃマズいんだよ…。

   あ、そうだ、二階だ。二階の掃除(そうじ)でもしてなさい!


   おおい、あいつに少し小言(こごと)を言ってくれなきゃ困るよ!

   どうしてあたしにばっかり押しつけるんだ。


女房:【遠くから】

   しょうがないじゃないか、あたしだって家の事色々やってるんだか

   らさ。


叔父:あいつが家(うち)に来てからこっち、朝から晩まで仕事が手に付きゃしな

   いよ!

   なんだってあたしがあいつの目付(めつけ)ーーあれ?

   なんだこれ?天井から水が垂(た)れてきたぞ。


   おおい、二階で花瓶(かびん)でもひっくり返したんじゃないのか!?


松公:いま掃除(そうじ)する前だから、水撒(みずま)いてーー


叔父:【↑の語尾に喰い気味に】

   ッバカ野郎!降りてこいッ!

   何してんだ、座敷(ざしき)に水を撒(ま)く奴があるか!


   おおいおっかあ!二階が水浸(みずびた)しになったぞ!


女房:え、水浸(みすびた)しって、一体何があったんだい?


叔父:松公(まつこう)だよ!

   掃除(そうじ)するってんで水撒(みずま)きやがった!

   すまないけど、あと拭(ふ)いといてくれ!


女房:はいはい、ほんとにしょうがないね、仕事増やして…。


叔父:こっち来い松公(まつこう)!

   もういいやお前、もう何もしないでいい。

   だからここ、表(おもて)の空気と家(うち)の中の空気がぶつかって澱(よど)んだとこ、

   ここでボーっと座ってろ。


松公:え、ここ、番台(ばんだい)だよ。

   …店番(みせばん)かな?


叔父:店番(みせばん)?お前に店番(みせばん)なんか務(つと)まるわけないだろ。

   ここ座ってて、誰か来たらすぐあたしに知らせるんだ。

   わかったな?


松公:うんうん、わかったよ。

   …うるさいねぇあの叔父(おじ)さん。

   朝から晩まで小言(こごと)ばっかりだよ。

   小言(こごと)なんてのはさ、時々なんか言われるからそうかなと思うんだよ

   ね…。

   いま言われた小言(こごと)なんだっけなと思って考えて、思い出さないうち

   にまた次の小言(こごと)が飛んでくるから、それまたなんだっけなと思って

   るうちに、ごちゃごちゃになってわかんなくなっちゃうんだよ。

   ぅ~~~…。

   あ。

   雨降って来たよ。

   だからわざわざ水なんか撒(ま)くことないんだよ。

   待ってりゃ自然に空が撒(ま)いてくれるんだからさ。

   あ~、急な雨だからみんな駆け出してくよ。

   はは、困ってやがら。おもしれえなこれ。

   駆け出したってずっと向こうまで降ってんだからさ。

   そういうことがわからないんだなあ。

   このへん歩いてる人もあんまり利口(りこう)じゃないな…。

   うわあ、ずいぶん振って来ちゃったな…あれ?

   誰かそんなとこにいらあ。

   誰だい?何してんの?


男:あ、すいません。

  急に雨が降って来たもんですから、ちょっと軒先(のきさき)をお借りしたいと

  思いまして。


松公:軒先(のきさき)をお借りする?

   ダメだよ。そんなとこ外(はず)して持ってっちゃ。


男:いやいや、外(はず)して持って行ったりはしませんよ。

  ちょっと雨宿(あまやど)りをさせていただきたいと思いまして。


松公:ああ、雨宿(あまやど)りかあ。

   傘(かさ)ァ貸してやろうか?


男:あ、お貸しいただけるんですか?ありがとうございます。

  実はちょいと急ぐ用がありますんで。

  お借りできたらありがたいです。


松公:んじゃこっちおいでよ。

   そこにあんだろ。そこにあるの持ってっていいよ。


男:えっ、こんなよろしい傘(かさ)、いいんでございますか?

  ありがとうございます。

  明日の朝早く、お返しにあがりますから。


松公:あ、ダメ、それダメ。

   ダメだよそんなの。

   明日の朝早くになんて返しに来られたら、早く起きて待ってなくち

   ゃいけないじゃないか。そういうの嫌いなんだ。

   いいよ、それ貸しっぱなしにする。

   もう借りっぱなしでいいから。


男:ぁ、そうですか…じゃあ、まあ、どうもありがとうございます。


松公:どういたしましてー。


   【二拍】


叔父:おい松公(まつこう)、いま誰か来たか?


松公:ああ叔父(おじ)さん。

   いやね、表(おもて)を通りがかった人がいてね、軒先(のきさき)を貸してくれって言う

   んだ。

   そんなもん外(はず)されて持ってかれちゃ困ると思ってさ。


叔父:軒先(のきさき)を外(はず)して持ってけるわけないじゃないか。

   ただの雨宿(あまやど)りだろ。


松公:でね、傘(かさ)貸してくれって言ったんだ。


叔父:傘(かさ)?店に貸し傘(がさ)出してたっけか?


松公:ううん、出してないよ。


叔父:じゃあどの傘(かさ)を貸したんだ?


松公:あすこに立てかけてあった蛇(じゃ)の目(め)の傘(かさ)。


叔父:ハァ!?おいおいおい、ありゃあたしの差料(さしりょう)だぞ!?

   こないだやっとのことで思い切って買ったんだぞ!

   安くなかったんだぞ!

   気に入ってたんだぞ!

   しかもまだ一度も差してないんだぞ!

   それで、どちらの方(かた)に貸したんだい?


松公:うん、あちらの方(かた)。


叔父:いやそうじゃないよ。どんな方(かた)だって聞いてるんだ。


松公:どんな方(かた)だって、あれだよ。

   着物を着てね、帯(おび)を締(し)めてねーー


叔父:当たり前だよ。

   着物を着てりゃ、誰だって帯(おび)を締(し)めるんだ。

   知ってる人か?


松公:ううん、知らない人。


叔父:知らなきゃダメだろ。

   知らない人にうっかり貸しちまったら、返しに来やしないだろ。


松公:ううん、明日の朝早く返しに来るって言ってた。

   けどそんなことされると早く起きなくちゃいけなくなって面倒だか

   ら、貸しっぱなしにする、借りっぱなしになっちゃってもいいよ、

   って爽(さわ)やかに言ったんだ。

   そしたら礼儀正しい人だね。一言ありがとうなんて言い残して、

   さらっと行っちゃったよ。


叔父:バカ、お前そりゃ絶対返しに来ないだろ!

   なんでわざわざくれてやるようなこと言うんだ。

   しかもお前のいち了見(りょうけん)であたしの物を勝手に取り扱って

   るんじゃないよ。   

   いいか、傘(かさ)はちゃんと傘(かさ)の断りようがあるんだよ。


松公:ふ~ん…、かーさなーいよっ、て?


叔父:【ぐっとこらえて】

   …うちにも貸し傘(がさ)が何本かございましたが、この間からの長雨(ながあめ)で

   骨は骨、紙は紙でバラバラになりまして使い物になりません。

   焚(た)き付けにでもしようと思って、束(たば)ねて物置(ものおき)へ放り込んであります

   。

   て、これが傘(かさ)の断りようだよ。


松公:じゃあ今度来たらちゃんと言うから。


叔父:ちゃんと言うじゃないよ。何でもいいからすぐあたしに言うんだ。

   お前は何の役にも立たないんだから。


松公:わかったよ…。


   うるさいねえ、どうしてああいう風(ふう)にガミガミーって何か言うのか

   ね…?


大宮:こんちわー松(ま)っちゃん。はは、驚いたねぇさっきの雨。

   けどあがったねえ。

   あのさ、ちょいと頼み事(ごと)があって来たんだけどね。


松公:なんだい?


大宮:あのさ、うちの押し入れでもってネズミをゴトゴトゴトゴト追い込

   んでね、逃げ出さないようにしてんだ。

   だけどさ、だれも怖がって手を突っ込んだりなんかできねえんだ。

   それでほら、松(ま)っちゃんのとこに猫いただろ。

   あれちょっと貸してくんねえか?


松公:あ、猫か…。

   うちにも貸し猫が何匹かいました。


大宮:え?貸し猫ぉ??


松公:この間からの長雨(ながあめ)でね、骨は骨……、

   骨は骨、皮は皮、バラバラになっちゃったんだ。

   焚(た)き付けにしようと思って物置(ものおき)にほうり込んである。


大宮:え…松(ま)っちゃんとこは何かい?猫を焚(た)き付けに使うのかい?

   ずいぶんおっかないな…。

   ま、まあいいや、他へ行って聞いてみるよ。


松公:あそう、それじゃ~。


叔父:おい、誰か来たらすぐあたしに言えって、そう言っただろ!

   誰が来たんだ?


松公:あ、ああ今のあれね。

   お向かいの大宮(おおみや)。


叔父:呼び捨てにする奴があるか。

   大宮(おおみや)さんだろ。


松公:あ、あぁうん。大宮(おおみや)さん。

   押し入れの奥にネズミを追い込んだから、猫貸してって。


叔父:ああ、お前がさっき虐(いじ)めてた猫いただろ。


松公:そんなことしないもの。

   うん、それでだからね、ちゃんと断ったから。


叔父:なんて言って断ったんだ?


松公:うちにも貸し猫が何匹かおりました。


叔父:貸し猫ォ!?

   なんだその貸し猫ってのは?


松公:こないだっからの長雨(ながあめ)で、骨は骨、紙は紙って言おうかなと思っ

   たんだ。

   だけどさ、そこはほら、猫だからって頭をくるくるって働かして、

   皮は皮、バラバラになっちゃった。

   焚(た)き付けにしようと思って物置にほうり込んである、って。


叔父:それは傘(かさ)の断りようだよ!

   猫なら猫で、ちゃんと他に断り方ってのがあるんだよ!

   「うちにも猫が一匹おりましたが、こないだからすっかり盛(さか)りが

   付きまして、とんと家(うち)へ寄り付きません。

   先日久しぶりに家(うち)に帰ってきたと思ったら、どっかで海老(えび)の尻尾で

   も食べたんでしょう。すっかりお腹をくだしておりまして、

   座敷へ粗相(そそう)をするといけませんから、納屋(なや)でまたたびを舐(な)めさして

   寝かしてあります。」

   これが猫の断りようじゃないか。

   そのぐらいの事、頭を働かせるんだよ!


松公:ぅわかったよ…今度ちゃんと言うから。


叔父:ちゃんと言うからじゃないんだよ!

   誰でもいいからすぐあたしに言えって、そう言ってるじゃないか!


松公:っわかったよぅ…。

   猫の断りからなんてのは初めて聞いたよ…。


   【二拍】


相模屋:ごめんくださいましー。

    あたくし、隣町の相模町(さがみちょう)から参った者でございますが…。


松公:はぁん?なにぃ?


相模屋:実は、手前(てまえ)どもの主人にはちょっと目の届きかねる所がございま

    して、こちらの旦那(だんな)様の顔をちょっとお借りしたいとうかがった

    んでございます。


松公:うちの叔父(おじ)さんの?顔を?

   …アレ取り外し利(き)くのかな…?

   まぁいいや、断っちゃえ。


   あ~、うちにも旦那(だんな)さんが一匹おりました。


相模屋:…はい?


松公:こないだからすっかり盛(さか)りが付きまして、とんと家(うち)へ寄り付かない

   。

   久し振りで帰って来たと思ったら、どっかでえびの尻尾でも食べた

   んですかね、すっかりお腹くだしちゃってね。

   座敷へ粗相(そそう)するといけませんから、またたび舐(な)めさして、

   納屋(なや)に寝かしてあります。


相模屋:【だいぶ驚いている】

    ェェェええ……!?

    それはちっとも存じませんで…。

    帰りまして、主人ともども改めてお見舞いにうかがいますので、

    よろしくお伝えをお願い致します。

    では…。


松公:ぁいよ~~。


叔父:おいッ!

   誰か来たらすぐあたし言えって、そういってるじゃないか!!

   で、今度は誰が来たんだ?


松公:え?ぁ、ぁ~と、あのね、その、隣町だからね、

   相模屋(さがみや)………さん。


叔父:…変なとこへ「さん」付けたな。

   それで、どうしたんだ?


松公:あのね、なんかね、目が届かねえていう事があるんだってさ。

   目が届かねえって言うくらいだからさ、よっぽど遠い所なのかな?

   それで、叔父(おじ)さんの顔貸してくれって言うんだ。

   叔父(おじ)さんの顔を外(はず)されて持ってかれちゃいけないと思ったからさ、

   ちゃんと断っといたよ。


叔父:っバカ野郎、そりゃ道具の目利(めき)きかなんかであたしの目を貸してくれっ

   てことだろ!

   そんな商売向きの話を勝手に断る奴があるか!

   …ちなみになんて断った?


松公:ぇ~、家(うち)にも………、旦那(だんな)が一匹おります。


叔父:…なんだとこの野郎。

   まさか…非常に嫌~な予感がするんだが…。


松公:近ごろ盛(さか)りが付きましてーー


叔父:【↑の語尾に喰い気味に】

   よせよおい、言うにこと欠(か)いて何てこと言うんだ!


松公:【気にせずに】

   どっかで海老(えび)の尻尾でも食べてきたみたいで、すっかりお腹を下し

   ちゃって座敷へ粗相(そそう)すると困るから、またたび舐(な)めさして

   奥に寝かしてあります。


叔父:おまっ、それ、みんなやっちゃったのか!?

   冗談じゃないよおい…!


   おぉい、ちょっと!羽織(はおり)出してくれ!


女房:え、お前さん、一体どうしたんだい?そんなに慌てて。


叔父:ちょいと相模屋(さがみや)さんに行ってくるから。


女房:あらそう、わかった。

   気をつけてね。


叔父:あぁそれから!こいつ一人に店番(みせばん)させといちゃダメだからな!

   何の役にも立たないんだから。


   おい松公(まつこう)、誰か来たらすぐに叔母(おば)さんを呼ぶんだ。

   いいな、お前のいち了見(りょうけん)で断ったり何かしたりしちゃいけない。

   分かったか?


松公:わかったよ、うるさいなぁ…。


   …行っちゃったよ。

   あ~よかった。帰ってこなくていいよ。

   朝から晩まで小言(こごと)ばっかりだよ。

   爪切れ爪切れって言うから猫の爪切って、やすりまでかけといた。

   何でも掃除(そうじ)しろよって言うから、お庭の石灯籠(いしどうろう)磨(みが)いて綺麗(きれい)にしとい

   たら、せっかく苔(こけ)がついたのにとか言うんだ。

   …苔(こけ)だかゴミだか知らねえよこっちは…。

   

   …。

   ……あ。

   【半笑いで】

   誰か来ちゃった…。

   ……なんだい?


使い:ごめんやす。

   【ごめんください】


松公:…え?


使い:ごめんやす。

   【ごめんください】


松公:ぅん…?

   なんか悪いことでもしたんかな?

   ごめんごめんって謝(あやま)ってら。

   …なんだい?


使い:旦(だん)はん、いだりまっか?

   【旦那さんはいますか?】


松公:……え?


使い:旦(だん)はん、おられまっか?

   【旦那さんはおられますか?】


松公:【奥へ向かって】

   ……炭団屋(たどんや)さんだよー。


使い:わて炭団屋(たどんや)さんおまへん。

   【わたしは炭団屋さんじゃありません】


松公:あそう…じゃ、なんだい?


使い:わては中橋(なかばし)の加賀屋佐吉方(かがやさきちかた)から使いに参じまして、

   先度(せんど)、仲買(なかがい)の弥市(やいち)が取り次ぎました道具七品(どうぐななしな)でございますが、

   佑乗(ゆうじょ)・光乗(こうじょ)・宗乗(そうじょ)、三作(さんさく)の三所物(みところもん)、備前長船(びぜんおさふね)の住則光(じゅうのりみつ)、

   横谷宗珉(よこやそうみん)四分一拵(しぶいちこしら)え小柄付(こつかづ)きの脇差(わきざし)、脇差(わきざし)の柄前(つかまえ)が鉄刀木(たがやさん)

   言うとりましたが、埋もれ木(ぎ)やそうで木(き)ィが違(ちご)ておりましたさかい、

   ちゃんとお断り申し上げま。

   次材(じざい)は「黄檗山(おうばくさん)金明竹(きんめいちく)寸胴切(ずんどうぎり)の花活(はない)け」には遠州宗甫(えんしゅうそうほ)の銘(めい)がござい

   ます。「織部(おりべ)の香合(こうごう)」「のんこの茶碗(ちゃわん)」、「古池(ふるいけ)や蛙(かわず)飛び込む水の

   音」言います風羅坊芭蕉(ふうらぼうばしょう)正筆(しょうひつ)の掛物(かけもの)。沢庵(たくあん)、木庵(もくあん)、隠元禅師(いんげんぜんじ)

   張り混(ま)ぜの小屏風(こびょうぶ)、この屏風(びょうぶ)が、わての旦那(だんな)の檀那寺(だんなでら)が兵庫(ひょうご)に

   おましてなぁ、兵庫(ひょうご)の坊(ぼん)さんえろう好みます屏風(びょうぶ)によって兵庫(ひょうご)へや

   って、兵庫(ひょうご)の坊主(ぼうず)の屏風(びょうぶ)にいたしますると、

   こないお言付(ことづ)け願いとうおます。


松公:……うふっ。こっちが何にも言わねえのに一人でべらべらべらべら

   喋(しゃべ)ってて面白(おもしれ)えや。

   よう、三銭(さんせん)やるからもういっぺん喋(しゃべ)れ。


使い:わて物乞(ものご)いとちゃいまっせ。

   よう聞いとくんなはれや。よろしいでっか?


   わては中橋(なかばし)の加賀屋佐吉方(かがやさきちかた)から使いに参じまして、

   先度(せんど)、仲買(なかがい)の弥市(やいち)が取り次ぎました道具七品(どうぐななしな)でございますが、

   佑乗(ゆうじょ)・光乗(こうじょ)・宗乗(そうじょ)、三作(さんさく)の三所物(みところもん)、備前長船(びぜんおさふね)の住則光(じゅうのりみつ)、

   横谷宗珉(よこやそうみん)四分一拵(しぶいちこしら)え小柄付(こつかづ)きの脇差(わきざし)、脇差(わきざし)の柄前(つかまえ)が鉄刀木(たがやさん)

   言うとりましたが、埋もれ木(ぎ)やそうで木(き)ィが違(ちご)ておりましたさかい、

   ちゃんとお断り申し上げま。

   次材(じざい)は「黄檗山(おうばくさん)金明竹(きんめいちく)寸胴切(ずんどうぎり)の花活(はない)け」には遠州宗甫(えんしゅうそうほ)の銘(めい)がござい

   ます。「織部(おりべ)の香合(こうごう)」「のんこの茶碗(ちゃわん)」、「古池(ふるいけ)や蛙(かわず)飛び込む水の

   音」言います風羅坊芭蕉(ふうらぼうばしょう)正筆(しょうひつ)の掛物(かけもの)。沢庵(たくあん)、木庵(もくあん)、隠元禅師(いんげんぜんじ)

   張り混(ま)ぜの小屏風(こびょうぶ)、この屏風(びょうぶ)が、わての旦那(だんな)の檀那寺(だんなでら)が兵庫(ひょうご)に

   おましてなぁ、兵庫(ひょうご)の坊(ぼん)さんえろう好みます屏風(びょうぶ)によって兵庫(ひょうご)へや

   って、兵庫(ひょうご)の坊主(ぼうず)の屏風(びょうぶ)にいたしますると、

   こないお言付(ことづ)けをなぁ。


松公:おかみさぁーーーん!

   おかみさぁーーーーーーん!!

   表(おもて)に兵庫(ひょうご)の標語(ひょうご)の…変な人が来たぁ!


女房:お前の方が変じゃないか!

   

   あ、いらっしゃいませ!

   どちら様でしょう?


使い:あ、あの、お家(いえ)はんでっか?


女房:……はい?


使い:お家(いえ)はんでっしゃろ?


女房:………お湯屋(ゆや)さんですか?

   お湯屋(ゆや)さんはもう二丁(にちょう)ばかり手前(てまえ)でございますよ。


使い:いやあの、おかみはんでんな?


女房:ぁ、ああはい、家内(かない)でございます。


使い:あ~さよかぁ。さっきまでえろう難儀しとりました。

   わてなぁ中橋(なかばし)の加賀屋佐吉方(かがやさきちかた)から使いに参じまして、

   先度(せんど)、仲買(なかがい)の弥市(やいち)が取り次ぎました道具七品(どうぐななしな)でございますが、

   佑乗(ゆうじょ)・光乗(こうじょ)・宗乗(そうじょ)、三作(さんさく)の三所物(みところもん)、備前長船(びぜんおさふね)の住則光(じゅうのりみつ)、

   横谷宗珉(よこやそうみん)四分一拵(しぶいちこしら)え小柄付(こつかづ)きの脇差(わきざし)、脇差(わきざし)の柄前(つかまえ)が鉄刀木(たがやさん)

   言うとりましたが、埋もれ木(ぎ)やそうで木(き)ィが違(ちご)ておりましたさかい、

   ちゃんとお断り申し上げま。

   次材(じざい)は「黄檗山(おうばくさん)金明竹(きんめいちく)寸胴切(ずんどうぎり)の花活(はない)け」には遠州宗甫(えんしゅうそうほ)の銘(めい)がござい

   ます。「織部(おりべ)の香合(こうごう)」「のんこの茶碗(ちゃわん)」、「古池(ふるいけ)や蛙(かわず)飛び込む水の

   音」言います風羅坊芭蕉(ふうらぼうばしょう)正筆(しょうひつ)の掛物(かけもの)。沢庵(たくあん)、木庵(もくあん)、隠元禅師(いんげんぜんじ)

   張り混(ま)ぜの小屏風(こびょうぶ)、この屏風(びょうぶ)が、わての旦那(だんな)の檀那寺(だんなでら)が兵庫(ひょうご)に

   おましてなぁ、兵庫(ひょうご)の坊(ぼん)さんえろう好みます屏風(びょうぶ)によって兵庫(ひょうご)へや

   って、兵庫(ひょうご)の坊主(ぼうず)の屏風(びょうぶ)にいたしますると、

   こないにお言付(ことづ)けを願いたいんでんねん。


女房:【まくしたてられてポカーン】

   …。

   ……ちょっと。

   ………ちょっと、松公(まつこう)。

   お茶持ってらっしゃい。


松公:うひひひ、ははははっ……!


女房:お茶を、持ってらっしゃいっての!

   お客様の顔を指さしてゲラゲラ笑うんじゃないの。


松公:うふふへへへ、へぇい。


女房:早く持ってらっしゃいーーってどうして猫を蹴飛(けと)ばすの!


   …相(あい)すみません…今ちょっとこれに小言(こごと)を言っていて、聞きそこ

   なったところがございまして。

   恐れ入ります、もう一度お願いいたします。


使い:またでっか…!?無茶(むちゃ)言いなはんなぁ。

   今な、この丁稚(でっち)はんに二度やってまんねんでわて。

   なんやもう顎(あご)がガクガクしてな。


松公:へへ、俺なんか耳がガンガンしてる。


女房:【声を落として】

   バカッ、余計なこと言うんじゃないよ…!


   あの、お願いしますから。


使い:もうこれっきりだっせ?よう聞いとくなはれや!

   よろしか!?

   わてなぁ、中橋(なかばし)の加賀屋佐吉(かがやさきち)、ご存知(ぞんじ)でっしゃろ?

   加賀屋佐吉方(かがやさきちかた)から、使いに参じまして、

   先度(せんど)、仲買(なかがい)の弥市(やいち)が取り次ぎました道具七品(どうぐななしな)でございますが、

   佑乗(ゆうじょ)・光乗(こうじょ)・宗乗(そうじょ)、三作(さんさく)の三所物(みところもん)、備前長船(びぜんおさふね)の住則光(じゅうのりみつ)、

   横谷宗珉(よこやそうみん)四分一拵(しぶいちこしら)え小柄付(こつかづ)きの脇差(わきざし)、脇差(わきざし)の柄前(つかまえ)が鉄刀木(たがやさん)

   言うとりましたが、埋もれ木(ぎ)やそうで木(き)ィが違(ちご)ておりましたさかい、

   ちゃんとお断り申し上げま。

   次材(じざい)は「黄檗山(おうばくさん)金明竹(きんめいちく)寸胴切(ずんどうぎり)の花活(はない)け」には遠州宗甫(えんしゅうそうほ)の銘(めい)がござい

   ます。「織部(おりべ)の香合(こうごう)」「のんこの茶碗(ちゃわん)」、「古池(ふるいけ)や蛙(かわず)飛び込む水の

   音」言います風羅坊正筆(ふうらぼうしょうひつ)の掛物(かけもの)。沢庵(たくあん)、木庵(もくあん)、隠元禅師(いんげんぜんじ)張り混(ま)ぜの

   小屏風(こびょうぶ)、この屏風(びょうぶ)が、わての旦那(だんな)の檀那寺(だんなでら)が兵庫(ひょうご)に

   おましてなぁ、兵庫(ひょうご)の坊(ぼん)さんえろう好みます屏風(びょうぶ)によって兵庫(ひょうご)へや

   って、兵庫(ひょうご)の坊主(ぼうず)の屏風(びょうぶ)にいたしますると、

   こないにお言付(ことづ)けを願います!

   ほな急(せ)きますさかい、ごめんやす!!


女房:あ!ちょっともしあなた!お待ちになって!

   あらぁ~~~……!


   お茶持ってらっしゃいって言ってるじゃないか!

   お茶持ってくれば、あといっぺんぐらいやってもらえたかもしれな

   いんだよ?

   あんまり上方(かみがた)の訛(なま)りが強く、なに言ってたかさっぱり分からなかっ

   たよ。

   お前はもう何度も聞いてんだから、ちゃんと覚えてるだろ?

   初めのほうとか覚えてるかい?初めのほうは。


松公:ぇ~、初めのほうなんかねぇ、なんかもやもやっとしちゃってる。


女房:じゃ真ん中は!


松公:ぼーーーっとしてる。


女房:お終(しま)いは!?


松公:…正午(しょうご)の省吾(しょうご)のーー


女房:【↑の語尾に喰い気味に】

   まるっきり分かってないんじゃないか!

   どうすんの、あの人が帰ってきたらなんて言うつもりだい!


松公:【反省してない】

   知らないよォ。

   おばさん言ってたんだからね、あたいなんか知らないよぅ。

   【ふざけて】

   しょうごのォ、しょうごのォ。


女房:っな、なに言ってんだい!ったく…あ。


   お帰(かえ)んなさい。


叔父:お帰(かえ)んなさいじゃないよ。大きな声で女が店先で小言(こごと)を言ってたん

   じゃお前、その横町(よこちょう)曲がったとたんに丸聞(まるぎ)こえだよ?

   どうしたんだ?


女房:あ、あの、今ね、ちょっとアレなのよ。

   あの、お客さんがお見えになったもんだからさ。


叔父:ああ、お客さんか。

   で、どちらからお見えになったんだい?


女房:どちら……あちらからいらっしゃいました。


叔父:そうじゃない、どんな方(かた)なんだい?


女房:どんな方(かた)…って…、あの、着物を着てまして…、

   帯を締(し)めて…。


叔父:…お前、バカがうつったんじゃないか…?

   どちらから?あちらから。

   どんな方(かた)?こんな方(かた)。

   ってそんな話があるかよ!

   どっからどういう御用(ごよう)の方が見えたんだ?


女房:どういう御用(ごよう)…ってアレなんですえぇっと…。

   …。

   【ぶつぶつ言うように】

   ……なか…なかばしの、かがやさきちさんの…


叔父:え?中橋(なかばし)の加賀谷佐吉(かがやさきち)っつぁんがわざわざ見えたのかい?


女房:ぁ、いえ…そこのお使いの方(かた)がね…。

   お使いの方(かた)が……


   風車(かざぐるま)の、弥七(やしち)さん…。


叔父:えええ!?

   会いたかったなァ!それは会いたかったよ!?

   って、いったい何しに来たんだ?


女房:いや違う、違うの。

   ……仲買(なかがい)の弥市(やいち)さんっていうーー


叔父:ぁあなんだ、弥市(やいち)か。

   「や」しか合ってないじゃないか。

   なァんだ、弥市(やいち)か。

   弥市(やいち)ならしょっちゅう家(うち)に来てんだ。

   お前だって知ってるだろ?


女房:っそ、そうですね…。

   ですから、あの方(かた)はね、弥市(やいち)さんじゃない方(かた)なんです。

   なんですか、この、弥市(やいち)さんて方(かた)がですね……

   気が違っちゃったんですって。


叔父:おいおいおい、とんでもない事を平気で言うもんじゃないよ。

   五、六日前に会った時は元気だったよ?

   気が違ったって、それは穏やかじゃないよ。

   詳しく聞かせておくれ。


女房:その、弥市さん?…遊女(ゆうじょ)を買ったんですって。


叔父:…いきなりの話だねそれは。

   遊女(ゆうじょ)を買ったと。

   で、どうしたんだ?


女房:~…そしたら…これが、孝女(こうじょ)だったんだって。

   で、掃除(そうじ)が好きなんだって。


叔父:ふぅ~~んん……まあ、女だから掃除(そうじ)が好きな遊女(ゆうじょ)もあっても

   いいかもしれないな。

   それがどうしたんだ?


女房:それで、一緒に先祖やまんぞって遊んでたらしいんだけど、

   何かにカチンと来たのか、その遊女(ゆうじょ)をね、


   寸胴斬(ずんどうぎ)りにしちゃったんですって。


叔父:真っ二つかい!?

   ずいぶん乱暴な事をしたもんだね…!

   それで?


女房:~……お腹が空いたんでしょうね…たくあんと、いんげん豆で、

   お茶漬(ちゃづ)けが食べたいって。


叔父:??妙なもんでお茶漬(ちゃづ)けが食べたいんだな…。


女房:食べ合わせ悪かったのかしら。

   いくら食べても、のんこのしゃ~なのね。


叔父:汚いなおい!

   しかしだらしないな。


女房:えらい事をしたと思ったんでしょうね。

   自分なりに高跳(たかと)びしようと思ったのか、御座船(ござぶね)に乗って、備前(びぜん)行こ

   うと思ったんですって。

   そしたらお前さん、兵庫(ひょうご)に行っちゃったんですって。

   兵庫(ひょうご)にお寺がありましてね、お坊さんがいるんですって。


叔父:寺に坊さんがいたってちっとも不思議(ふしぎ)じゃないだろ。

   それで、どうしたんだ?


女房:そのお坊さんと…なんですか、屏風(びょうぶ)立て回して、その陰で一緒に

   寝てみたいと。


叔父:色気違(いろきちが)いじゃないか…!それは大変な事だよ…!


女房:そしたらそのむこうにまたお坊さんがいるんですよ。

   向こうにまた屏風(びょうぶ)がありましてね、その向こうにまた坊さんがいて

   屏風(びょうぶ)があって坊さんがいて、屏風(びょうぶ)があって坊さんがいて、

   屏風(びょうぶ)があって坊さんがいて、屛風(びょうぶ)があって坊さんがいて、

   屏風(びょうぶ)があって………なんでしょう?


叔父:お前は何を言ってるんだよ…!

   あのね、話てものはたいがい五つ聞くてえと、後の五つは察すると

   いうことがあるよ?

   お前の話は察しようがないじゃないか。そうだろ?

   弥市(やいち)が遊女(ゆうじょ)買ったら孝女(こうじょ)で掃除(そうじ)が好きで、たくあんといんげん豆

   でお茶漬(ちゃづ)けが食べたい、いくら食べてものんこのしゃ~、

   御座船(ござぶね)に乗って備前(びぜん)に行こうと思ったら兵庫(ひょうご)行って、

   坊さんと屏風(びょうぶ)の陰で寝てみたい、

   坊さんがいて屏風(びょうぶ)があって、坊さんがいて屏風(びょうぶ)があって、

   坊さんがいて屏風(びょうぶ)があって、坊さんがいて屏風(びょうぶ)があって、

   これなあに?ーーってなんなんだい!?

   ちっとも話が分からないじゃないか。

   少しははっきりしてる所は無いのかい!


女房:はっきりしてるとこ……あっ…!

   思い出しました。

   古池(ふるいけ)へ飛び込んだんです。


叔父:何ィ!?

   弥市(やいち)が古池(ふるいけ)へ飛び込んだ!?

   そうか、あいつには道具七品(どうぐななしな)を買うように手金(てきん)が打ってあったん

   だがそれを買ってかい?


女房:いいえぇ、買わず(蛙(かわず))。




終劇




参考にした落語口演の噺家演者様等(敬称略)


柳家小三治(十代目)

三遊亭圓生(六代目)

三遊亭小遊三

柳家喬太郎



※用語解説


・差料(さしりょう)

本来は武士が自分の腰に差す為の刀、特に打刀や脇差を指す言葉なの

だが、なぜか小三治師匠は傘に使った。

小生が勉強不足なのか、それとも小三治師匠がうっかり間違ったのか

、はたまたこの蛇の目傘は柄に刃が仕込んである仕込み杖だったのか

は不明。


・焚(た)き付け

① 主となる燃料に火をつけるために燃えやすい物(落ち葉、小枝、新聞

紙、着火剤など)

② 人の感情を刺激して特定の行動を促すこと

という2つの意味があるが、今回は①で正解。


・相模町(さがみちょう)

埼玉県越谷市にある町名。

江戸の町の中にあったという記録はないそうである。


・炭団屋(たどんや)

炭団は、木炭の粉末に布海苔などの結着剤を混ぜて球状に固めて乾燥させ

た伝統的な燃料で、火鉢や囲炉裏で使われていた。


・中橋(なかばし)

日本橋と京橋との中間にあった堀割に架かっていた橋。


・先度(せんど)

さきごろ。せんだって。先日。


・仲買(なかがい)

問屋と小売商との、または生産者・荷主と問屋との間に立って、売買の

仲立ちをして営利をはかること。それを業とする人。ブローカー。


・佑乗(ゆうじょ)

後藤祐乗(ごとうゆうじょう)のこと。

装剣金工の後藤四郎兵衛家の祖。

美濃国の生まれ。

金や赤銅の地金に龍・獅子などの文様を絵師狩野元信の下絵により

高肉彫で表したものが多い。


・光乗(こうじょ)

後藤光乗(ごとうこうじょう)のこと。

後藤四郎兵衛家の四代目。


・宗乗(そうじょ)

後藤宗乗(ごとうそうじょう)のこと。

後藤四郎兵衛家の二代目。


・三作(さんさく)

上の三人の事を指している。


・三所物(みところもん)

刀剣の付属品である目貫(めぬき)・笄(こうがい)・小柄(こづか)の総称。

江戸時代においては同じ意匠の揃いが尊重され、後藤家彫は有名。


・備前長船(びぜんおさふね)

岡山県南東部にあった町。中世は名刀の産地で知られ、備前の政治・経済

の中心地であった。


・住則光(じゅうのりみつ)

おそらく上の備前長船と合わせて、

「備前長船に住んでいた則光」という表現でいいのではと。

鎌倉後期に初代刀匠が登場。以降則光は、天正「則光」まで9代を数える

。室町末期の大洪水の為、後継が絶たれている。


・横谷宗珉(よこやそうみん)

江戸中期の装剣金工家。晩年に遯庵(とんあん)と号し、後藤家の下職から転じて

町彫りを創始する。

片切り彫りの彫法を大成し、絵画風の自由な意匠を表現した人物。


・四分一拵(しぶいちこしら)え

銅3、銀1の割合で作った日本固有の合金。

装飾用で、朧銀(おぼろぎん)とも呼ぶ。


・小柄付(こつかづ)き

小柄とは日本刀の鞘に付属する細工用の小刀のこと。

本来は木を削ったり紙を切ったりする実用品だったが、江戸時代には

装飾性が重視され、芸術性の高い美術工芸品となる。


・脇差(わきざし)

刃渡り1尺(30センチ)以上2尺(60センチ)未満の日本刀で、

江戸時代には武士が打刀と合わせて「大小二本差し」として腰に差すのが

一般的だった。

脇差は打刀の故障時などの予備武器としての役割も持ち、武士階級以外の

帯刀も認められたことから、町民、特に侠客が鍔なし白木の柄と鞘でもっ

て携帯した。

その際は「ドス」と呼ばれている。


・柄前(つかまえ)

日本刀の「柄」の装飾や、柄を巻く「柄巻」の、その装飾の技法を指す

言葉。


・鉄刀木(たがやさん)

マメ科の高木。高さ約15メートル。葉は羽状複葉。

花は黄色で材は黒色で堅く、板目の模様が美しい。

インド・東南アジアに分布しており、細工用材として用いられる。


・埋もれ木(ぎ)

地層中に埋まった樹木が年月をかけて炭化し、化石のようになったもの。

亜炭の一種で木目が残っており、質は緻密。

仙台地方に多く産出し、細工物の材料として用いられる。


・次材(じざい)

次にくる素材、または主な素材(主材)の次の素材を指す言葉で、

特定の分野で使われる用語ではないが、材料が主、副と序列を持つ場合に

副材や補助材とほぼ同義で使われることがある。


・黄檗山(おうばくさん)

中国、万福寺の山号。

また、その住持の隠元が来日の際、宇治市に建立した万福寺の山号でもあ

る。


・金明竹(きんめいちく)

マダケの栽培品種。

全体に黄金色で、葉は初め黄色だが後に白く変わる縦線がある。

主に観賞用として用いられる。


・寸胴切(ずんどうぎり)

寸切り、髄切り、または直切りの音変化とも言われる。

茶入れ・花器で頭部を真横に切った形のものを指す。


・遠州宗甫(えんしゅうそうほ)

江戸時代初期の大名で茶人、作事奉行であった小堀遠州の別号。

遠州流茶道の祖として知られ、茶の湯に「綺麗さび」の美意識を取り入れ

たことや、桂離宮、二条城などの建築・造園にも携わったことで有名。


・織部(おりべ)

この言葉に来るまでに著名人の名が出まくっているので、

恐らく戦国時代から江戸初期にかけての茶人・芸術家・武将であった

古田織部(重然)の事だと思われる。


・香合(こうごう)

香を収納する蓋付きの小さな容器。

茶道具の一種であり、また仏具の一種でもある。

香蓋とも書かれるが当て字。また合子ともいう。


・のんこの茶碗(ちゃわん)

のんこうの茶碗。

京都の楽焼本家三代目道入(どうにゅう)が焼いた楽焼。

また、道入の俗称ともされた。


・風羅坊芭蕉(ふうらぼうばしょう)

風羅坊芭蕉は松尾芭蕉の雅号のひとつである。


・正筆(しょうひつ)

その人が本当に書いた筆跡。


・掛物(かけもの)

掛け軸のこと。


・沢庵(たくあん)

沢庵宗彭。

江戸初期の臨済宗の僧で但馬出身。

一凍紹滴の法を継ぎ、大徳寺の住持となる。

後に紫衣事件で出羽に流罪となるものちに赦免され、徳川家光建立の

東海寺の開山となる。


・木庵(もくあん)

木庵性トウ(トウの字は変換できませんでした)

中国、明の黄檗宗の僧で泉州出身。

師の隠元に続いて来日し、宇治の黄檗山万福寺の二世を継いだ。

多くの寺を創建し、勅号は慧明国師。

黄檗三筆の一人に数えられる。


・隠元禅師(いんげんぜんじ)

隠元隆琦。

江戸前期に明から渡来した僧。福建省出身。

日本の黄檗宗の開祖で宇治に黄檗山万福寺を開創。

書もよくし、黄檗三筆の一人に数えられる。


・張り混(ま)ぜ

いろいろな書画などを取り交ぜて貼ること。


・小屏風(こびょうぶ)

小型の屏風。


・檀那寺(だんなでら)

その寺院の檀家となり、日頃から御布施などにより経済的に支えている

寺院を指す。


・孝女(こうじょ)

孝行な娘。


・のんこのしゃ~

呑気でしゃあしゃあしていること。

平気で図々しいことや人。


・御座船(ござぶね)

天皇・公家・将軍・大名などの貴人が乗るための豪華な船のこと。


・備前(びぜん)

現在の岡山県東南部、香川県小豆郡・直島諸島、兵庫県赤穂市の一部

を指す。


・手金(てきん)を打つ

報酬を支払う事。





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