表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

超人

作者: 古数母守

 テクノロジーの発展と格差の拡大は留まるところを知らなかった。世界がネットワークでつながり、様々なコンテンツに溢れ、オンラインであらゆる商品が販売され、世の中が便利になればなるほど、富裕層と貧困層の格差は拡大して行く一方だった。やがて国家予算に匹敵する資産を持つ個人が出現するようになった。そうした莫大な資産を保有する個人は、かつてヨーロッパやアジアに君臨した皇帝たちよりもずっと強大な権力を持つようになった。そしてもうこれ以上、強大な権力を望みようがなくなった時、現代の超富裕層の発想は古代の皇帝たちと同じものを志向した。それは自分がずっと存在を続け、この権力が永遠に維持されること、つまり不老不死だった。それはかつては老いと死に怯える権力者の夢想にすぎなかったが、無尽蔵とも言える資本がバイオテクノロジーと最先端医療技術に振り向けられた結果、遂に現実のものとなった。彼らはもはや超人あるいは神であった。そして政治経済を裏で操っていた。建前としてはずっと民主主義が続いていたが、それは何事に対しても不満を抱きがちな大衆のガス抜きをするのに都合の良いシステムとして維持されたにすぎなかった。彼らの存在は絶対的であり、政治的にも経済的にも脅かされるものではなかった。


 そんな超人にも悩みはあった。もしも核戦争が勃発したら生き延びていけるだろうか? 人々が日常の生活を楽しむ中、超人はそんな心配事に悩まされていた。地下シェルターで農場を営み、外界と隔離された環境でも生命の維持が可能なものなのか、何度も実験が繰り返された。だが、結果は芳しいものではなかった。それは放射能に汚染された地上を逃れて地下にこもったとしても、食料が尽きた時点で死を迎えることを意味していた。不老不死とは言っても食べ物がなくては生きていけなかった。

 世界は不穏な時代を迎えていた。賃金が下がるとか、犯罪が頻繁に起こるといった理由で移民に対する憎しみが増大し、ナショナリズムが台頭していた。政府は経済失政による不満の矛先が自分たちに向けられないように、生活が苦しいのは外国の自分勝手な政策によるものだと盛んに喧伝していた。右翼がどの国家でも支持されていた。侵略者の手から国を守ろう。人々はそんな言葉を信じていた。そのようにして蓄積された外国への不満が開戦のきっかけとなり、やがて核戦争へとエスカレートする事態を超人は恐れていた。

「核戦争になったら、不老不死が台無しになってしまう」

超人はそう考えて、潤沢な資金で独自の諜報機関を設立し、各国にスパイを派遣していた。各国の要人にも息のかかった者たちを増やしていた。国家間の駆け引きを有利に進めるために過激な言動を行いがちな国家元首には特に注意して監視の目を張り巡らせていた。民衆を熱狂させるために自国ファーストの政策を語る国家元首というものは、やたらと国家間の対立を招いてしまうことを彼は知っていた。それと共に対外的に強硬路線を取る指導者を選ぼうとする市民も牽制しておく必要があった。そのためには、庶民があまり貧しくならないよう配慮しなければならなかった。利便性の追及で地域の産業を破壊して回る巨大IT企業の動きも封じる必要があった。自分たちの収入を増やすため、あるいは天下りの確保のために常に増税を仕掛ける省庁の力も削ぐ必要があった。そして世界は少しずつ良い方向へと向かって行った。長い年月をかけて世界は平和になった。人々は平和に暮らし、安らかに死んで行った。その間、不老不死の超人は生き続けた。そして絶え間なく世界を良くするために働いていた。

「これで核戦争になることはないだろう」

すっかり平和になった世界を眺めて、超人は安堵した。


 平和が何世紀か続いた後、超人の不老不死を脅かす新たな脅威が出現した。

「なんてことだ?」

我が目が信じられないといった様子で超人はスクリーンをじっと眺めていた。不測の事態に備えるための宇宙望遠鏡による全方位的な監視網が構築されていたが、そのシステムが差し迫る脅威を検出したのだった。それは明るい恒星の合い間を移動する小さな点に過ぎなかったが、実体は直径三十キロ程の小惑星であり、地球との衝突コースに入ったことが発覚したのだった。

「小惑星が衝突したら、不老不死が台無しになってしまう」

超人はそう考えて、直ちに潤沢な資金を惜しみなく投入し、対策プロジェクトを立ち上げた。世界有数の頭脳が集められ、衝突を回避するための方策が議論された。核ミサイルにより小惑星を破壊する。破壊には至らなくてもその軌道を変えるといったことが検討された。だが、現在の射程では地球近傍で迎撃するしかなく、そうした場合には小惑星の破片が地球に降り注ぐことになり、壊滅的な被害を被ることがシミュレーションにより明らかになった。そして地球より十分遠方で小惑星を迎撃するため、新造戦艦の建造が決定された。あらゆる先端技術を結集し、可能な限りの労働力を注ぎ、瞬く間に戦艦は建造された。そして選りすぐりの搭乗員を乗せて、船は地球を旅立った。小惑星と戦艦は火星軌道付近で遭遇した。戦艦は小惑星に十分近付いた上で数発の核ミサイルを放ち、小惑星は粉砕された。

「これで小惑星による脅威は取り除かれた」

超人は安堵した。


 だが、超人の不老不死を脅かす新たな脅威が出現した。

「なんてことだ?」

我が目が信じられないといった様子で超人はスクリーンをじっと眺めていた。宇宙望遠鏡がまた新たな脅威を捉えたのだった。そこにはおびただしい数の船影が映っていた。悪意があるか今の段階ではわからない。だがこれほどの艦隊に襲われたら、地球はひとたまりもないと超人は考えた。

「宇宙人に侵略されたら、不老不死が台無しになってしまう」

そう考えた超人は地球防衛軍の設立を決心した。小惑星の粉砕に使った戦艦を量産して、この大船団に立ち向かう必要があると考えたのだった。超人の持つ財力、政治力、経済力を駆使してこの危機を乗り越えなければならなかった。超人の憂いはこの先もずっと続きそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ