ラブ×2~クルリとドレインのリアルタイム~
僕は異世界ホルメンの魔法使いである。初めて来たのは何年前だったかな、学生時代に人と上手くいかず引きこもっていた。あるテレビで見た子がいた。
「…すごい。」
僕より年下の子がキラキラ輝いている姿を見たんだ。
「僕と歳がそんな変わらないのに…あんなに輝いて。」
その子を観ていたら何故だか僕は勇気を貰った。芸能界に僕は疎くて誰かわからなかったけどまた頑張ろうと奮い立たせてくれた。
「こんなところで蹲ってたら、ダメなんだよね。分かってたんだけどさ。」
3年間あまり部屋出てこなかったのに、ご飯以外の目的で部屋からリビングに降りて行くと両親が驚いた顔をしていた。
「どうしたの?」
テーブルを拭いていた母さんが僕の方に駆け寄り。
「母さん、父さん。僕もう一度頑張りろうと思うんだ。」
「何かあったの?」
「うん。僕勇気貰ったんだ!だからまた頑張りたいんだ!」
「無理しなくていいんだぞ?お前は何も悪くないんだから。」
父さんも。僕が学校で虐められていた事を知っている。知っているというかバレたんだけどね。虐められたきっかけは、虐められてた人を助けたら、まぁ漫画みたいになって。その人がまさか虐められていたグループに混ざるなんてのは想像してなかったけどな。
「僕がこのままでいたくないんだ。確かに。まだ怖いけど…僕、このままじゃダメなんだって教えてもらったんだ!」
「そうか。なら、がんばれ!」
「えぇ!でも頑張りすぎちゃダメよ!」
こうして僕は決意して両親に背中を押されたんだ。その日たまたまつけてたラジオにもテレビでも大人たちに夢ちゃんと呼ばれてて。
「夢ちゃんって言うのか。なにか君にお礼が言えたらいいのに。」
踏み出そうと思える勇気をくれた事を。
『ラジオではお便りと、事務所ではファンレターを送ることができます!』
「ファンレター!?」
これなら夢ちゃんにお礼が言えるのでは!?と思い至り、母さんから花柄の便箋をもらって、ファンレターを書いたんだ。
「夢ちゃんのおかげで頑張る勇気を貰いました。ありがとう。」と来栖 咲夜と名前を書いてこの日を忘れないように、土砂降りの雨だったけど郵便ポストに便箋を入れて。人生で初めてファンレターというものを送った。
そう誓ったはいいものの、現実はなかなか上手くいかない。虐められはなくなったけど、気持ちがついて行かなくて、トイレで吐き出してしまったり、開けるドアは手が震えたりして。
「はぁ…なさけな。」
公園のベンチで俯いていたらチロリンとスマホに通知が鳴って見ると。
「異世界ホルメンへ行きますか?なんだこれ?」
メッセージがあってよく分からず、YesかNoと書かれていた。自然と指がYesを押してしまった。
「あ、もしかしてやばかった?」
そう思ったのも束の間。気付けばレトロな電車の中だった。すると突然『ホルメンへようこそ!ログインIDを決めて入力してください。』と僕の目の前に現れた。
「ログインIDなんて。まるでアニメかゲームみたいだ。」
僕はログインIDを入力する。スマホの通知が鳴り『次からこのようにするとホルメンへ自分からいけるようになります。』と電車が止まってドアが開いた。
「ちょっとメルヘンチックだけど見慣れない光景に少しわくわくするな!」到着した駅にはホームがなにもなく、ただホルメンと書かれた看板に備えてあるのと下の矢印だけしかない。
「もしかして、飛び込めということかな?」
僕は少し躊躇はするものの降りて、ふわっとした雲を潜ると外側が黒で内側がオレンジのローブと黒の帽子を被った魔法使いの格好だった。『こちらでアバターは決めさせて貰いました!プレイヤーの名前を決めて入力してください!』と表示された。
「名前か。来栖だからクルリで、好きなゲームのキャラクターのなまえをもらって。クルリ・ロウバンだ!」
さっきの入力もこのシステムがまるでゲームの世界みたいだし。それに魔法使いというワードにわくわくした。
「火魔法スキル、水魔法スキル、風スキルetc」
ゲームの世界で言うとステータスが目の前に表示されいて、ここに来て初めて魔法というものに触れた。練習したらみるみる上達して楽しくて楽しくて、
「ファイヤーカット!」
魔法の杖に魔力を込めると、魔法が発動して炎の刃で岩が真っ二つに割れ、割れた部分は焦げている。
「ウォーターボール!!」
気付けば魔法レベルは高くなっててせっかくなら誰かの役に立ちたいと思いポーションを作って、怪我しているエルフ族にあげたり。
「クルリさんのおかげで、助かりました。ありがとう。」
街を歩いて、子供が泣いていたところに手品みたいにして魔法を使ったりすると
「すごい!すごい!お兄ちゃんもっかいやって!!」
こうして笑ってくれる街の人たちが僕は嬉しかった。今まで頑張って来たことは報われず、ホルメンに来てから報われたことで僕は変わることも、努力無駄では無いと知ったんだ。
こうしている内に現実で嫌だったことを忘れていつの間にか「僕は変わりたい」と思いながら
。学校の現実とホルメンの異世界を行き来していた時に、ふと現実世界でも人を助けたり喜ばせたいなと思った時、テレビで見た子の事を思い出した。
「そうだ!芸能人のマネージャーになろう!」と夢を描き、ハレンプロダクション芸能事務所に入社した。
最初は大変で大変で目まぐるしい毎日だったけど、誰かに頼られるのは嫌いじゃなかった。芸能活動をしている子のサポートできるのはいいなと思ったんだ。
ーーーピピピピ…
「ん?朝か…」
僕は枕元で鳴っているアラームを止めた。どうやらホルメンから現実世界へ帰ってきたらしい。
「ドレインも。プレイヤーだったりするのだろうか。」
「わん!」
寝惚けた頭を起こしてくれた、ポメラニアンのクランだ。 ホルメンにはクランという小動物が暮らすがあるんだ。めちゃそこの犬が可愛い意味でクランみたいなんだ。
「おはよう、クラン!」
ふわふわな毛並みを撫でて、クランのご飯をやり。自分の身支度をして。
「じゃ、クラン!行ってきます!」
クランを実家に預けて、車を走らせた。こうして現実世界で僕はハレンプロダクション芸能事務所で芸能活動をしている人を支える仕事、つまりマネージャーをやってるんだが。
「んー!はぁ小休憩しよ。」
コーヒーが飲みたいと思い、コーヒーサーバーへ行こうとしたんだが。
「はー…困ったな。」
この会社の社長であるハレン社長がいつもはポジティブな人なのに珍しく今はどんよりと俯いていた。
「どうしたんですか、ハレン社長?」
僕はコーヒーを2つ用意して、ハレン社長の横に置き、社長の様子が気になり声をかけた。
「あぁ、来栖か。コーヒーありがとな!いやな、小鳥遊 夢唯のマネージャーだった男がストーカー罪で逮捕されたんだ。」
「え!?」
まさかのビックニュース過ぎて驚きを通り過ぎた、たまたまついてたテレビが知らせる。
『今日未明、警察に匿名のメールが送られたと調べたところ。小鳥遊 夢唯のマネージャーが逮捕されました。更に余罪があるか警察は調べています。』
「弱ったな。小鳥遊 夢唯のマネージャーを急遽探さないといけない。」
今小鳥遊 夢唯は特に忙しく、マネージャーをするのは大変だ。それに彼女のマネージャーになるとその人が急に辞めたり、何かしら発展するというトラブルが起きることもしばしばあるらしい。
「今回ばかりは私の監督不足だな。小鳥遊には怖い思いをさせてしまったな。彼女には悪いことをした。」
「悪いのはストーカーした人であって。これに関してはハレン社長も小鳥遊さんは何も悪くないです。」
「しかし今回も小鳥遊のマネージャー長く続かなかったな。」
小鳥遊のマネージャーが長く続かない理由は、いろいろ複雑そうだ。コーヒーの味がいつもより苦く感じた。
「そうだ。来栖…今、そこそこ手空いているだろ。」
「えぇ、まぁ。」
最近僕が担当していた芸能活動の人が辞めたり、異動になったりとしたタイミングが続いたのだ。
「ハレン社長、まさか!?」
「頼んだぞ!来栖 咲夜!!」
「えー!いいですけど、もっと早く言ってくださいよ!」
わお、まさかの展開だ。とのことで僕は急いで前マネージャーの仕事の引き継ぎを確認する。
「は?なんだよ、この鬼スケジュール!?」
朝から晩までスケジュールが入っている。今日は歌番組の出演とファッション雑誌の撮影。
「次の仕事の打ち合わせ!?まだ増えんの!?」
夕方のラジオで終わりだが。明日は朝からニュース番組の出演と僕が目眩しそうになるが、のんびりしていられず急いで仕事相手への連絡や挨拶回り、スケジュールを見直した。
「これは…すげー。確かにマネージャー側もきついかもな。」
だけどマネージャー側がくよくよしてたらダメだ、ビシッと行かなくてはと僕は愛車のアクセルペダルを踏んだ。
私は家を出てから10分程電車に揺れて、2駅先の駅のホームに着いた。住んでいる街より少し賑わっている都会よりの街で、仕事まで時間があるからネイルサロンとジムに行くのだ。
「いらっしゃいませ!」
駅から5分歩いて少し路地裏を入った所にアパートがあり、角部屋のドアに205号室と書かれている部屋のインターホンを押す。
ーーーピンポン!
「はーい!」と女性の声が聞こえ、ガチャと玄関が開いた。
「こんにちは、彩芽さん!」
「あら、小鳥遊さんじゃないですか!ご予約ありがとうございます!どうぞ、こちらの席へ!」
玄関で靴と帽子を脱ぎ、廊下を通ってリビングに向かうと。
「おや、いらっしゃい!」
「こんにちは、彰史さん!」
ここのネイルサロンは彩芽さんと彰史さんご夫婦で営んでいて、いろんなネイルサロンを探したけど、ここはアットホームな感じで落ち着く。
「さ、どうぞ!」
「ありがとうございます!」
彩芽さんが指定した席の椅子に座る。
「今日はどんなデザインになさいますか?」
彩芽さんも座ったのを見て、伝える。
「もうすぐサンダルの時期なので、フットもお願いしたいです。」
「最近温かくなって来ましたもんね!」
スマホを操作して気に入ったデザインの画像を彩芽さんに見せる。
「そうですね、日焼け止めの出番が早いです!あとデザインはこんな感じがいいです!」
今回のデザインはカラーが薄ピンクと薄紫のアシンメトリーで、5月なのもあって雫みたいなデザインに決めた。
「かしこまりました!では施術して行きますね!」
彩芽さんの綺麗な手が私の手を優しく取り、手の爪を整えて、ネイルの液を爪に塗っていく。足も同じようにして行くこと、1時間半には綺麗に色付いたデザイン通りの爪に変身した。
「わぁ!とても綺麗です!ありがとうございます!!」
この瞬間って何事にも変えられない嬉しさがあるのよね!
「ふふ、嬉しいわ!」
彩芽さんにお金を払い、靴を履いて帽子を被る。
「本日はありがとうございました!」
「いえ、私の方こそ素敵なネイルをありがとうございます!」
「それでは次回の予約時間のお越しをお待ちしています!」
彩芽さんの優しい笑顔に見送られて、私は会員制のジムに向かった。ムキムキを目指しはしないけどやっぱりダンスやステージに上がる者として身体のコンディションやある程度の筋肉量は大事だ。
始める前の柔軟や準備運動を念入りに行う。怪我するなんて以ての外。
「お!小鳥来たわね!」
私のことを小鳥遊ではなく小鳥と呼ぶのは、このジムのオーナー藩さんだけ。
「こんにちは!藩さん、今日もよろしくお願いします!」
藩さんはボディービルダーをやっている女性で筋肉付いているのに綺麗なボディーラインは保たれている。あそこまで筋肉が付かなくてもいいけど、同性としては実に理想だ。
「ああ、よろしく!今日はランニングマシーンとスクワットとプッシュアップとデットハグだったかしら?」
「はい、それでお願いします!」
「了解!まずはスクワットからね、こっちよ!」
藩さんに案内されて、筋トレが始まる。スクワット3セットで15回をやる。汗をかく行為はとても好きだ、外のランニングとかいいなと思うけど、顔出さずにやるランニングは少し現実的じゃないから、ジムが一番最適だ。
「はい!今日はここまでね!」
「はぁ。ありがとうございます!藩さん!」
「いいえ!私も小鳥の頑張りを見ると自然と気合いが入るのよ!いい感じに仕上がっているから、これからも継続して頑張りましょう!」
「はい!!」
筋トレやダンス、歌は努力すればする分だけ反映される。
『ColoRuNeAの小鳥遊 夢唯、ダンス上手いよな!』
『夢ちゃんダンスだけじゃなくて、歌もやばい!』
ライブ後ではSNS内がほぼ呟かれる。ふふ、私色に染まるのは当たり前のこと…廊下を通ったり、楽屋に戻る度にただ悔しがって、私の嫉妬している目をしている人たちとは違うのよ。
「小鳥、何かいるものあるかしら?」
更衣室で着替え終わり、藩さんが既にレジいたから私もレジに向かう。
「そういえば。藩さん、プロテインの替えが欲しいです!」
「お、了解!すぐ倉庫から持ってくるわね!」
パタパタと急いで奥へ行く音が聞こえる。急かさせて申し訳ないなーと思いつつ。
「お願いしまーす!」
5分後、藩さんがお店の奥から戻ってきた。
「おまたせ!プレーンと味バナナ味のプロテインで良かったかしら?」
「はい!ありがとうございます!」
プロテイン2袋分と施設代を藩さんに払って、商品が入った袋をを受け取った。
「またね、小鳥!良い一日を!」
「ありがとうございました!」
ジムを後にして、これから仕事なので新マネージャーと待ち合わせしている駅前に向かった。
「今回の新しいマネージャーさんとはどうなる事やら」
駅前に着いたので、でかでかと電光掲示板にある私の化粧品の広告前にマネージャーが来るまで、今日の歌番組のセトリの曲を薄紫色のハート型イヤホンにスマホの再生ボタンを押した。
……To be continued
こんにちは、『国民的アイドルが現実世界も異世界でもILoveYou!』のラブ×2~ホルメンのカタチ~を読んで頂き、誠にありがとうございます。
ドレインとクルリが異世界・ホルメンで過ごす時間を見て頂きました。この2人はこれからどうなって行く展開になるのかお楽しみに!
次回の9月22日月曜日の夜20時投稿です!
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