1. 歩みを合わせて
優しい人という印象、あるいは肩書きをぶら下げて生きている人間はどのくらいいるのだろう。
愛想の良い優しい人なんて腐るほどいるはずなのに、周りを見渡しても幸せそうな、未来に希望を抱いている顔なんて1つも見つけることは・・・・・・2つも見つけることはできない。
じ~~っ
『次は~渋谷~渋谷~お出口は・・・』
自分もいくつかのコミュニティでは“優しい人”だった。
生きていく上で俺たちは、いろいろなコミュニティに身を委ねる。
家、学校、会社・・・人とは不思議なもので、意思とは関係なく参加させられたコミュニティであったり、何の思い入れもなく字面通りに“居た”だけであっても帰属意識はあるらしい。
町中で母校の制服を無意識に目で追ってしまったり、なんとはなしに歩いていたつもりが家路をたどっていたり…。
嫌なものほど記憶に残るらしいが、好きでも帰来でもなかったものは全て、きれいさっぱり忘れてしまうのだろうか?
ドアが開き、ぎゅうぎゅうに押し込まれていた車内から溢れるように、どばっと人の流れが生まれる。
流れに身を任せるように、電車内からずっと視線を飛ばしてきていたある人物から逃れるように、自答改札機を目指す…いつもより足早に。
これだけ沢山の人がいれば数え切れないくらいの足音がして、どの音が誰のものであるかなんてわかるわけがない。
パタパタパタ。
コツコツコツ。
パタパタと情けない音の源は、最近新しくした黒いスニーカー。
そして、コツコツという小気味よい音の発生源は、少し後方。
びったりとくっついてきているわけではないが、それほど離れているわけでもない。
降車した人々の殆どが歩き出すので、おかしなことと言われればそうではない…が。
パタパタパタパタ。
コツコツコツコツ。
パタパ・・・タパタタ。
コツコ・・・ツコツツ。
こいつ・・・!
ドンッ
「チッ…」
歩調を乱したせいで、スマホ片手のサラリーマンから舌打ちを頂戴した。
「あははっ!」
笑い声の方向・・・察しの通り後方を見やれば、見覚えのある明るいオレンジのセミロングヘアに、らんらんと輝くオレンジの瞳を持つ、整った顔立ちの女子高生の姿があった。
目をきらきらと輝せ、ふんすっ、と聞こえてきそうな自信たっぷりの表情。
まさに、“未来に希望を抱いている”顔。
「気をつけて歩かなきゃ、危ないですよ?・・・センパイっ♪」
そう言いながら女子高生・・・愛瀬 陽は、俺の顔を覗き込みながら、微笑んだ。
こんにちは。
これからよろしくお願いします。
以後、ここには話の中で出てきた用語の注釈を記そうと思っています。